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初仕事

 ボンキュッボン。ボンキュッボン。素晴らしいスタイルの裸体が並ぶ中で貧相な体をさらしながら、私は叫ぶ。


「昨日から髪結いと化粧のために雇われましたマリアです。よろしくお願いします。みなさんの髪の毛を洗わせてください」


 女性たちはチラリと私を見ると、また、おしゃべりに戻る。まあ、こんなところで自己紹介する奴って怪しすぎるよね。フランチェスカさんは後で紹介するって言ってたけど、私はもう仕事がしたい。まずはシャンプーからだ。


「髪の毛を洗わせてください。お手入れします。きれいにしますよ」


 キョロキョロしながら、色とりどりの髪を眺める。結う前の髪を覚えたい。


「試してみませんか? どなたか……」


 声を上げていると、肩を叩かれた。


「イブさん」

「お願いするわ。昨日のように結ってもらうことなるんでしょう」

「はい、髪飾りも届きます」

「じゃあ、お願い」


 イブさんが小さな椅子に腰掛けるので、私はシャワーを手に取った。中世っぽいのにシャワーやシャンプーがあるのが不思議だ。リンスまである。お風呂好きの落ち人がいたのかもしれない。

 まずはシャンプーなしで洗い流す。それから、シャンプーを泡立てて、一回目。流して二回目。リンスをつけて、流したら次は。


「かゆいところはないですか?」

「ないけど」

「少し頭をマッサージします。髪にもお肌にもいいんですよ」


 頭皮マッサージには慣れていないだろうから、少し力は抑え目にする。


「変な感じ。でも、気持ちいい」


 イブさんの言葉に嬉しくなる。軽く肩を揉んで終了。


「あと、髪の毛を乾かすのも私がしますから、声をかけてください」


 イブさんが湯船に入ると、また、他の人に声をかける。私には声をかけずにイブさんに話しかける人はいる。うわっ、何を話しているか気になる。

 ウロウロしながら、次にシャンプーする相手を探したけど、誰も相手にはしてくれなかった。


「私の髪を乾かしてくれるんでしょ。もうすぐ、上がるから、あなたもきれいにしなさいよ」


 イブさんには言われ、私は慌てて自分を洗うと、お風呂を出た。

 さて、ドライヤーがない。いや、ワゴンの中にあるけど、コンセントなんかないよね。でも、くせで手に持つとすぐにスイッチを入れてしまった。ブォー。いきなり、暖かい風が出る。え、コンセントを繋いでないのに動くの? すごい。さすが、魔法の国。


「何」


 大きな音にイブさんがおびえてしまった。


「私の国の魔法道具です。髪の毛を乾かす道具です。風が出るので少しうるさいですが、我慢してください」


 まさか、チートな能力を得たのがドライヤーだったとは。でも助かる。トリートメントオイルをなじませてから、ブラシで少し引っ張るようにして、髪の毛を乾かしていく。最後は冷たい風で仕上げ。うん、きれい。染めたりしていないせいか、つやつやの髪には天使の輪ができている。


「イブさん、仕上げは着替えてからになります。その時に化粧もさせてもらいますからね」


 さてと。私はお風呂に戻って、声を張り上げた。


「髪の毛を洗わせてください」


 叫んでも、フランチェスカさんに呼ばれるまで、誰も私にシャンプーを頼む人はいなかった。


「間に合ったよ」


 フランチェスカさんはテーブルの上のかんざしを指し示した。全部で十本。銀が四本、残りは金。すべて一本足のかんざしだけど、ゴージャスすぎる。繊細なチェーンで小さな石が藤の花のようにぶら下がっているもの。大きな石が一つ、存在感を放っているものがあれば、花の型に彫刻された石が付いているものもある。


「きれい」

「四人の子にこちらの銀のかんざしをつけてもらいたいんだ」

「あの、銀の方が少し地味というか、安そうというか」

「ああ、金の方はお客さんに買わすつもりだから」

「そんな、うまくいくんですか」

「うまくいくようにきれいに飾ってやってくれ」


 フランチェスカさんに選ばれた四人がやってきた。ドレスを身につけた姿はタイプがそれぞれ違うけど、みんな綺麗。

 もちろん、最初はイブさんだ。髪をねじって、かんざしで留めて。


「イブさん、他の人に外し方を見せてください」


 頼むと、イブさんは三人の前に背を向けて立ち、手をしなやかに上げると、かんざしを抜いた。パラリ。頭を振ると、髪がサラリと落ちる。シャンプーのコマーシャルみたいだ。丁寧に仕上げたから、サラサラだ。


 イブさんの髪をもう一度、夜会巻きにして、それから、化粧をする。選んだかんざしは赤い宝石一つにしたので、化粧もそれに合わせる。ベースは丁寧に。アイライナーは長めに赤。まつげはまっすぐのままで、マスカラで長さを出す。口紅も赤にするとエキゾチック美人だ。


「きれいにしてくれてありがとう」


 言われるとドキドキするほど、色っぽい。

 その姿を見て、乗り気でない感じだった四人がやる気になった。こうなってくると私も楽しい。黒髪じゃない髪の毛に合わせる色を考えるのも楽しい。


 サラサさん。ふわふわレモンイエローの髪。夜会巻きは小花のかんざしで、ところどころ、髪の毛をゆるめる。目は丸さを強調して可愛く仕上げる。


 シルヴィアさん。ウェーブした明るい金髪に薔薇のかんざし。お姫様をイメージしよう。おくれ毛は抜き出して、カールアイロンで巻く。チートなのはドライヤーだけでなかった。アイロンも動く。ぱっちりなおめめはあまり、手をかけず、ビューラーでまつ毛をカールさせる。


 ジュリーさん、栗色のストレート。両脇を少し編み込みにしてから夜会巻き。色とりどりの宝石がついたかんざし。宝石の中の赤に似た色をリップに青に似た色をアイシャドウに。


「完成です」


 全員のヘアメイクが出来上がるまで、誰も出ていかずに見ていたことに気づいた。


「ありがとう」「こんなの初めて」「これからもお願いね」


 かけられる言葉が嬉しい。


「さ、みんながんばって、売り込むんだよ」


 フランチェスカさんの言葉にみんな、うなずいて、支度部屋を出て行った。


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