冒険者
レオさんから元気をもらったけど、ヘアサロン、スイート・スイートは相変わらず、小物売場だけが人気。
デルバールのみんなのヘアメイクは行っているけど、カットの腕を振るうことはない。
この世界では男性も長い髪だから、難しい。
「カットモデルが欲しいなあ」
思わずつぶやくと、アンディさんが食いついてきた。
「カットモデルというのは何ですか?」
「髪を切ってもらって、私の腕を宣伝してもらう人のこと。モデルになってもらう代わりに無料で似合う髪型にするんだけど。無料では無理だと思うから、モデル代はもちろん払うつもり」
「それでも、髪を切ってもいいという人を見つけるのは大変そうですね」
そう。毛先を切り揃えたりするだけではヘアモデルとは言えない。そこが難しい。
お客の女の子たちがヘアアクセサリーを幸せそうに選んでいる。この子たちがモデルになってくれたら、一番いいんだけど。
カランコロン。
また、新しいお客様だ。
「いらっしゃいませ」
アンディが急に身構えたから、何かと思えば、入ってきたのは大柄な男性だった。オレンジ色の髪が肩まで伸びているが、ボサボサだ。ただ、無精髭はない。
女の子たちが静かになる。
男性がキョロキョロしているので、声をかけた。
「何かお探しですか?」
男性がモジモジと赤くなった。
「悪い。俺が入るような店じゃなかったな」
「いえ、慣れていないなら、ご相談に乗りますよ」
男性はホッとしたようだった。
「妹が結婚するんで、プレゼントを買いたくて。ここが平民でも入れるし、人気だと聞いたんだけど」
「ご結婚ですか、おめでとうございます。当店の一番人気はかんざしになります。妹さんのお好きな色はなんでしょう? 髪色や目の色に合わせることもできますが」
さりげなく、女の子たちのいない方に案内した。
「好きな色は黄色かな。髪も目もオレンジ色だ」
「お客様と同じ色でしょうか?」
「ああ、そうだ」
小物売場から、かんざしを二つトレーに取って見せた。
「このオレンジと黄色で小花になっているのか、こちらのオレンジの玉がついているシンプルなものはいかがでしょう?」
男性は考え込んだ。
「これ、値段を教えてくれないか」
「こちらです」
スイート・スイートでは最初から商品に値段のカードをつけてある。かんざしには紐でカードをつけているのが表はアンディのイラスト、裏は値段なので、ひっくり返して見せる。
男性は額に皺を寄せ、ため息をついた。
「小花の方が喜んで貰えそうだが、ちょっとお金が足りないな。今から稼ぎに行っていたら、間に合わないし」
後払いでもいいと言いそうになって、慌てて止めた。
「あの、もし、カットモデルになっていただけたら、モデル代をお支払いしますが」
「カットモデル?」
「お客様に似合う髪型にさせてもらいます。そして、お客様はその髪型を隠さずにスイート・スイートでカットしたとまわりに言ってほしいんです」
「そんなことでいいのか?」
「はい、ただ、髪を切らせて頂くことになりますが」
「いや、構わない。貴族じゃあるまいし、短くても文句を言う奴はいない。頼む」
「それでは、モデル代はこの小花のかんざしと同じでもよろしいでしょうか?」
「そんなにたくさんくれるのか。助かる」
ということで、シャンプー台の方に案内した。なぜか、アンディが呆れたようにこちらを見ている。
「まずは髪を洗わさせて頂きます」
「そ、そんなことをさせていいのか?」
「もちろんです」
「ありがとう。俺は冒険者のダグだ」
やっぱり、異世界には冒険者というものがいるんだ。
「この店の店主、マリアです。それでは、今、髪でお困りのことはありませんか?」
「暑さかな。兜をかぶったりすると、暑くて。また、しばらくして、兜を脱ぐと、俺の髪はふくらんでしまうんだ」
洗髪していると、毛量が多いのがわかる。ただ、妹さんの結婚式があるなら、あまり、短くしないほうがいいかもしれない。
「あの、一ヶ月後にまた、ここに来ることは可能でしょうか? 今からやりたい髪型は一ヶ月後にはまた、手入れが必要な髪型なんです」
「ああ、大丈夫だ。あのかんざしが手に入るだけでありがたい。何でも好きなように髪を切ってくれ」
じゃあ、好きなように切っちゃうぞ。
私はダグさんにシャンプー台からカット台に移動してもらった。
タオルドライしたら、髪の毛をブロッキングしていく。
「少し、音がしますが、じっと動かないでいてくださいね」
バリカンの設定は9ミリ。スイッチを入れると、ダグさんはビクッとしたが、それ以上は動かなかった。
でも、ダグさんはガンガン落ちていく髪に気づいて、不安そうな顔になっていく。
「大丈夫ですよ」
バリカンが済んだら、次は上部の髪のカットだ。長さはできるだけそのままで、後ろでくくってもいいようにする。
「はい、また、シャンプー台に移動してください」
ダグさんは鏡を見て、首をかしげている。床にたくさんの髪が落ちているのに長さが変わらないように見えるから不思議なのだろう。
これぞ、ツーブロック!
表面の髪は残して、刈り上げているのだ。
切った髪を洗い流して、また、カット台に戻ってもらって、次はドライヤー。
「すごい魔法ですね」
髪の毛を乾かしているのは魔法じゃないのだが、説明が難しいので、ニコリと頷いておく。
後はオイルを少しつけて、艶を出して終わり。
「これで出来上がりです」
ダグさんは不思議そうな顔で鏡を見ている。
「お、俺、お洒落になってないか? 嘘だろ」
その驚き方に笑いそうになってしまう。
「お似合いですよ。下はこうなっています」
上の髪を持ち上げて、バリカンで刈った部分を見せる。
「この部分の髪の毛がないので、その分、涼しくなりますし、膨らみを抑えることができます。髪の長い部分はこうやって、後ろにまとめて頂くのもいいと思います」
男性スタイリストの人ってマンバンスタイルが多かったんだよね。と思いながら、後ろの部分をくくってお団子にして見せる。
「すごい。こんなことに」
ダグさんは嬉しそうに自分の髪を触っている。
「結婚式でもおしゃれな兄と言ってもらえそうです」
ダグさんは満面の笑みを浮かべた。




