表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/48

プロローグ

「エスメラルダ・アルバ。お前との婚約は破棄させてもらう」


 こ、これは噂に聞く婚約破棄!

 私は思わず、見やすい位置に移動した。

 貴族が通うエリアード学園の卒業パーティー。卒業生の一人、第二王子のブライアンが宣言したのだ。紺色の髪の美女に向かって指を突きつける、いかにも王子様という金髪、碧眼の美青年。彼のかたわらに寄り添っているのはストロベリーブロンドの髪をした愛らしい女性。

 うわあ、絵に描いたような婚約破棄だ。えっちゃんが見たら喜ぶだろうなあ。


「私は真実の愛を見つけた。このシャーロットだ。彼女と知り合って私は初めて安らぎというものを知ることができた。男勝りで私のことを辺境伯の後を継がせるための駒としか見ないお前とはまるで違う」


 その言葉にシャーロットはブライアン王子の腕にぎゅっとしがみつく。うわ、あざとい。


「破棄とのこと、国王陛下はご存じなのでしょうか? 父は」


 エスメラルダは顔色を変えながらも冷静に尋ねている。


「はっ。二言目には父のことばかり。そんなにお前の父は王家と縁づきたいのか」


 ブライアン王子が鼻で笑う。


「王命によって決まった婚約で、辺境伯様には断ることなんてできなかったのに」


 フランチェスカさんが事情を知らない私のために教えてくれた。


「わざわざ、知らせるまでもない。この場で言ったのは、お前の罪を明らかにするためだ。お前はシャーロットに嫉妬し、いじめを繰り返していたな」

「私はそんなことしておりません」

「シラを切るのか。証言は取れているぞ」


 王子の取り巻きの貴族が分厚い書類をエスメラルダに向かって叩きつけた。エスメラルダはあっけなく床に倒れる。ありえない。顔に当たったんじゃない?


「ブライアン殿下、おやめください」


 そう声をかける貴族も護衛騎士に睨まれると、黙り込む。


「本来なら、投獄、あるいは追放してもいいところだが、ここで謝罪するなら許してやろう」

「私は何もしておりません」


 立ち上がろうとするエスメラルダの頭を騎士が押さえつけた。美しく結い上げられた紺色の髪が重苦しく見える。碧色の宝石がはまった髪飾りが光って見えた。


「ねえ、ブライ。謝るつもりがないようだから、もういいわ。離してあげて」

「シャーロット、お前はなんて優しいのだ」

「ただ、あの髪飾りは私にちょうだい。ブライの瞳の色の宝石をつけているなんて、許せない」

「わかった」


 ブライアン王子がうなずくと、騎士は髪飾りを力ずくで取ろうとした。しかし、結い上げられた髪にしっかりとつけられ、なかなか外れない。

 髪を引っ張られる痛みにエスメラルダは声は出さなかったが、顔を歪めた。


「面倒だ。風の刃」


 ブライアン王子が手を前に突き出す。その手から白い波紋が飛び出し、次の瞬間、バサバサとエスメラルダの髪が落ちた。カランと髪飾りも床に落ちる。


「その頭を隠すことは許さん。あとは好きにしろ」


 ブライアン王子はそう言い放つと、騎士が拾った髪飾りを受け取った。もう、エスメラルダのことを忘れたかのように髪飾りをシャーロットの髪に当ててみたりする。

 なんだ、こいつら。

 ゆっくりとエスメラルダが起きだすが、誰も手を貸そうとしない。ほとんどの人は同情的だが、ブライアン王子の不興を買うのが怖いのだ。エスメラルダが立つと、その無残に斬られた髪が痛々しい。それでも背を伸ばし、部屋から出ていく。


「お気の毒に」

「あの髪では」

 貴族たちがヒソヒソと話す。


 私は思わず、後を追った。

 こんなの許せない。

 部屋の外で追いつくと、侍女がエスメラルダに寄り添っていた。


「待ってください。私にその髪を整えさせてください」


 侍女が鬼の形相になった。


「お嬢様をさらに貶めるつもり?」


「失礼いたしました。私はデルバールの髪結師です」

「デルバール。……では、あなたが噂の髪結師?」


 噂って、何だろう。気になるけど、それどころじゃない。


「はい、そうです。短い髪でも、いえ、短い髪の方がエスメラルダ様の魅力が引き出せます。このままでは納得できません。エスメラルダ様の美しさは髪の長さとは関係ないことを見せつけませんか? 任せてもらえませんか?」


 エスメラルダの瞳に光が戻った。


「あなたならできるというの?」

「はい」


 私は力強く答えた。

 この世界でできるのはたぶん、私だけ。ショートカットの魅力を知っているのは異世界転移してきた美容師の私だけだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ