舌足らず
実質的第一話
国道と鉄道に程近い場所に造られた巨大ショッピングモール。
それは復興と平和の象徴として、周辺住民に生活インフラと憩いの場を提供していた。
そして今日も三人が集まる。
「昨日さぁ、うっちンがさぁ、コロッケ握りぃ? 食べてたじゃん?」
先導するように歩く女の子。普通に歩いているのに太いツインテールと体の一部が跳ねてしまい、すれ違う人の目を引いてしまう。
「はい、まあまあでした」
答えたのは成熟した体を無理矢理ブレザーに押し込んだ、しっとりした黒髪を束ねた少女。コロッケ握りってなんだろう?
「いっくんもぉ、なんかぁ飲んでたじゃん?」
カラフルなツインテールをもっふもっふさせながら、舌足らずに続ける。
《OILな、人目のあるところで服捲って直接注入はマナー違反だろ》
最後尾の目付きの悪い少女が、極短距離通信用電波にのせて応える。
「いっくんさん、電通っていつものデバイスはどうしたんですか?」
《歩きスマホ良くない》
「それは確かに」
タバコにも見える小型デバイスを咥え、それをピコピコしながらうっちンに応えるいっくん。
一見、ヤンキー女子高生が真面目委員長に絡んでるように見えてるが、とても仲が良い二人である。
「それでわたしはぁ、こう思ったのぉ!」
そんな二人を気にせずあーちゃんが、少し短めの腕を振り上げる。釣られて体の一部がぽよんと揺れる。
「私もぉ! 何かぁ! 食べてぇ! みたぁい!」
《喰えるなら喰えよ》
「そんな機能ありましたっけ?」
スタッカートな発言に冷静な反応、これで仲が良い。
「ふっふっふ、これを見よぉ!」
そう言ってあーちゃんは、舌を長くつき出した。
赤く、少し大きめで長い舌は、少しの湿り気がありとても生物的だった。
《帰ってから、味蕾センサーありの舌を仕込んだの》
つき出した舌を左右上下に動かしながら、極短距離通信用電波で話す。今日のあーちゃんは音声スピーカーでなく、声帯と舌を使って発音していたらしい。
「だから、今日は舌足らずな発音だったんですね」
うっちンは無表情ながら、なるほど、と頷く。
《今日はこれのテストするの!》
ぬるりぬるりと動く舌から多目的ジェルがこぼれ落ちそうになるのを、うっちンがハンカチであーちゃん口元を拭う。どっちが年上かわからない。
《それはいいけどさ》
いっくんが、咥えデバイスをピコっと上にして続ける。
《消化器官も設置した?》
「ああ確かに。必要ですよね、容れたら出さなきゃ」
歯もある、舌もある。噛み砕けるだけの力が、顎のアクチュエーターに備わってる。センサーの数値を正しく読み取るアプリもインストール済みだ。
で、だ。
食べた食物は口から次は何処に行くのだろうか?
これがうっちンなら、そのまま胃ブロック(ナノマシンプール)に収納→消化→吸収され、各種生体部品の補修に使われるが。
機械式ボディのあーちゃんにそんなものはない。出す機構も備わっていない。アイドルはトイレに行かないのだ。
「はぁい、撤収ぅ!」
《忘れてたな》
「忘れてましたね」
ツインテールを振り回しながら回れ右するあーちゃん、心なしか動きが荒い。
いっくん苦笑しながら、うっちンが無表情によしよしと頭を撫でる。
「なぐさめんなし!」
これは、こんなJK型アンドロイド三人のゆる~い物語です。
巨大ショッピングモール
国道と鉄道のそばにあるショッピングモール
小川を挟んで専門店街とスーパーに分かれている
スーパーの上には飲食店街と複数のイートインがある
国道を挟んで大型立体駐車場もあり
休日には多くの人出でごった返す
警備員は専属の訓練された者が配置され
屋上には対空兵器も完備され、来客者に安心と安全を提供している。