依頼人
今回から第二章が始まります。
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急募:墓荒らしの集団を討伐。
聖地たる“龍の墓場”にて、卑しい墓荒らしの集団が現れた。これを討伐して欲しい。謝礼は弾む。詳しい情報は直接会って話す。他言は一切無用。
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以上の内容から、今依頼書の危険度数を最大の10と設定し、ギルドマスターの許可無しに受注する事は勿論、持ち出す事も禁じる。
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「……って、書いてあるわ」
時は明け方。日が昇り、暖かな日差しがエクスとガミーヌを包み込む。ガミーヌは、ギルドマスターの部屋から“勝手に”持ち出した危険度数10の依頼書を読みながら、同封されていた地図を頼りに依頼人のいる場所へと向かっていた。
「危険度数10の依頼だから、どんな恐ろしい内容が書かれているのかドキドキしながら読んだけど、墓荒らしの討伐って……思った以上に普通の依頼で拍子抜けね」
「…………」
「でも場所が厄介ね。まさか龍の墓場だなんて……あっ、そう言えばエクスは龍についてどれくらい知ってるの?」
「…………」
沈黙。パーティーを組んでから数日は経過しているが、未だにエクスの声を聞いた事が無い。
「もう、相変わらず無口なんだから……少しは喋る努力をしたらどうなの? 私達はパーティーなのよ。これから先、背中を預けて戦う事が多くなる。そうなった時の為にも、会話で少しでもチームワークを鍛えるべきじゃない?」
「…………」
しかし、必死の説得も虚しく、エクスは無言を貫く。さすがのガミーヌもこれ以上は時間の無駄だと判断したのか、咳払いを一つした後、話を続けた。
「えっと、知らないかもだから教えてあげる。龍って言うのはこの世界における伝説的な生物よ。“龍の鱗は鉄よりも硬く、龍の爪はあらゆる物を切り裂き、そして龍のブレスはこの世の全てを溶かす”。昔から言い伝えられて来た龍の文献よ。でね、その文献には龍の墓場に関する記述が載ってるのよ」
「…………」
「龍は伝説的な生物だけど、不老不死じゃない。龍達は永遠とも呼べる時間を過ごした後、ある日ふと何の前触れも無く、何処かへと旅立つの。それも皆同じ場所に!! そこが龍の墓場って訳」
そう言うとガミーヌは、地図の目的地である場所を指で指し示しながら、エクスに見せる。
「いい? 私達がこれから向かうのはこの湖よ。そして、その隣にあるこここそが、龍の墓場なのよ」
「…………」
「それにしても、この依頼人も変わってるわよね。わざわざ直接会って話すだなんて。それに龍の墓場を聖地だなんて……もしかして、依頼人の正体は龍だったりして……そして実は依頼と称して私達を食べる罠だったりして……」
「…………」
「や、やぁね、冗談よ冗談!! そんな訳が無いじゃない!! 第一、どうして龍がわざわざ依頼書を作成して、ギルドに申請するのよ!? 人間を食べたかったら、直接食べに来ればいい話よね!! あは、あはははは!!」
「…………」
「あはは……あは、ははは…………ね、だからこういう気まずい時、一緒に笑ってくれると仲もグッと深まると思うのよ」
という雑談を繰り広げながら、一同は依頼人が待っているという湖へと足を運ぶのであった。
***
「わぁー、凄い綺麗ね。水が透き通って、湖の底まで見れるわ」
目的の湖に到着した二人。そんな中、ガミーヌが逸早く湖の美しさに目を奪われ、近くの岩山を登ると、真上からじっと見つめる。
「だけど……魚が一匹もいないなんて不思議ね。こんなに綺麗なのに……」
ガミーヌの言う通り、透き通るほど綺麗なのとは裏腹に、湖を隅から隅まで探しても魚の一匹も見つけられなかった。
『それはな“小娘”。この湖には栄養源となるプランクトンが全くいないのだ。だから、それらを主食とする魚も生息する事が出来ないという訳だ』
「へぇー、意外に博識なのねエクス…………って、え!? 今、エクス!? えっ、喋った!!?」
突然、自分ではない別の誰かの声が聞こえて来た。この場にはガミーヌとエクスの二人しかいない。ガミーヌではないとなると、残すはエクスしかいない。
慌ててエクスのいる方向に顔を向けると、エクスは少し離れた場所で佇んでいた。しかし、その場所は声を掛けるには適していない為、エクスが声を掛けたとは考えにくかった。
「あ、あれ? おかしいわね……てっきりエクスだと思ったんだけど……それじゃあ今の声は……私の空耳? あ、あははは……もう私ったら、幻聴だなんて疲れてる証拠ね。この依頼が無事に終わったら、しばらく休暇を取りましょう」
『幻聴では無いぞ小娘』
「え!!?」
やれやれといった表情で語るガミーヌに対して、またしても自分ではない別の誰かの声。最早、幻聴の類いでは説明付かない程、ハッキリと聞こえた。
「ど、何処よ!!? 何処に隠れているの!!? こそこそしてないで早く姿を見せなさい!! この臆病者!! それとも私達が怖くて出られないのかしら!!?」
『クハハハハ!!! 言うではないか!! どうやら口だけは達者の様だな。しかし、勇敢と無謀を履き違えるなよ』
「いったい何処から……ま、まさか!!?」
必死に声の出所を探すガミーヌ。遠くない。寧ろかなり近い。声量から、まるで隣にいるかの様に感じる。そして遂に気が付いた。声の発生源は真下。つまりガミーヌが登った岩山から聞こえていたのだ。
『全く近頃の小娘は礼儀を知らぬ様だな』
「きゃあ!!?」
突如、ゴゴゴ……と動き始める岩山。その衝撃でガミーヌは岩山から落とされてしまう。地面に激突すると思われたが、その直前にエクスが下でキャッチしてくれた。
「…………」
「あ、ありがとう……」
『クハハハハ!!! 昼間から見せ付けてくれるではないか!! ワシへの当て付けのつもりか?』
「そ、そんな訳無いでしょ!! ほ、ほら!! さっさと下ろしなさい!!」
一瞬、助けられた事に口元が緩むも、岩山から聞こえる声に茶化され、ガミーヌは顔を真っ赤にしながら慌てて否定し、エクスに命令口調で地面に下ろさせた。
「それであなたは何者なの!!? まさか岩男だなんて、言うつもりじゃないでしょうね!?」
『岩男だと……ワシをあんなキテレツな連中と一緒にするな小娘』
岩男という存在はいるのかと、内心気になりながらも、未だに姿を現さない事に腹を立て、ガミーヌはより攻撃的な態度で噛み付いた。
「その小娘って呼び方止めてくれる!!? 私にはちゃんとガミーヌっていう名前があるの!!! ましてや、姿も見せない臆病な奴にそんな呼ばれ方されたくないわ!!」
『そうか、それは失礼した。だがしかし、姿も見せないとは聞き捨てならない。もう既に貴様らの目の前にいるではないか』
「何を言って…………っ!!?」
それは、今の今まで岩山だと思っていた存在。岩肌だと思っていた外側は、よく見れば無数の“鱗”だった。岩のトゲだと思っていたのは、鋭く尖った“爪”だった。そして先程までガミーヌが立っていた崖。あれは巨大な生き物の“鼻”だった。
『それにワシからすれば、お前ら全員性別が異なるだけで、小僧か小娘に過ぎない』
「あ……あ……そ、そんな……ほんの冗談のつもりだったのに……」
「…………」
見上げる二人。その圧倒的な存在感と威圧感から、一目でその生き物が伝説と語り継がれるべき存在であると再認識する。
『それで? 貴様ら、何用でここに参ったのかな?』
「り、“龍”だわ……」
危険度数10の依頼人。それは紛れもない伝説的な生物。龍その物であった。
まさかの依頼人は“龍”だった!?
果たしてガミーヌとエクスの運命は如何に!?
次回もお楽しみに!!
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