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猛獣“ボアベア”

お待たせしました!!

今回はかなり気合いを入れた内容になっているので、どうぞお楽しみ下さい。

 ラフスから数十分歩いた先にある鬱蒼とした森。ここには数多くの野生動物とモンスターが生息している。また、森には希少な薬草なども自生している。


 その為、冒険者ギルドではよく薬草の採集や、特定モンスターの討伐を依頼される事が多く、まず初心者冒険者達は必ずこの森に足を踏み入れる。


 そして殆どが命を落とすか、生きて帰ってもその過酷さに絶望し、心が折れて冒険者としての道を諦める。


 “野獣の森”と呼ばれ、冒険者最初の関門として有名だ。そんな恐ろしい森に今日もまた無知な冒険者が足を踏み入れる。


 「もぉー、いったい何処に行ったのよ。この私を一度ならず二度までも置いて行くだなんて、今度会ったら後悔させてやるんだから」


 ウサギにオモチャにされたガミーヌ。先に向かってしまったエクスの後を追い掛け、ぶつくさ文句を垂れながら野獣の森へと入って行く。すると次の瞬間、側で鳥が“バサバサ”と、音を立てながら勢い良く飛び立つ。


 「きゃっ!!!」


 突然の出来事に思わず縮こまるガミーヌ。ぎゅっと瞑っていた目を恐る恐る開ける。


 「ふ、ふん!! べ、別に怖がっている訳じゃ無いわ。ちょっとびっくりしただけなんだからね!!」


 誰もいないのに一人で言い訳を始める。散々大口を叩くも、いざ歩き出そうとすると周囲の安全を何度も確認した後、やっと一歩を踏み出す。そしてまた周囲の安全を何度も確認した後、一歩前進する。確認、前進、確認、前進、確認、前進を交互に繰り返し、森の奥へ奥へと突き進んで行く。


 「そうよ……私が先にボアベアを倒しちゃえば、エクスだって認めざるを得ないわ」


 猛獣“ボアベア”。エクスが受けた討伐対象であり、この野獣の森の主である。本来、主を倒す事はそこら一帯の支配関係を崩し、結果他のモンスター達が縄張り争いを始めてしまう為、討伐依頼が出される事は無い。


 しかし、このボアベアだけは例外であり、ボアベアは見境無く目に付いた生き物を殺す狂暴性を備えており、そして何より空腹を満たす為では無く娯楽の一部として殺す為、このままでは生態系のバランスが崩れる恐れがあるという理由から、史上初となる主討伐依頼が出された。


 「ボアベア!! 出て来なさい!! このガミーヌが相手になってあげるわ!!」


 声を張り上げ、ボアベアを呼ぶガミーヌ。彼女の声が森中に響き渡る。しかし、返って来るのは風と揺れる木々のざわめきだけだった。


 「もう!! 獣でさえも私の事を無視するつもり!!? さっさと出て来なさいよ!!」


 業を煮やしたガミーヌは、懐の剣を引き抜き、そこらの草木を斬りまくった。すると彼女の背後にヌッと巨大な影が現れた。


 「現れたわね、ボアベ……あ?」


 『ぐぐぐぅ……』


 漸くボアベアが現れたと思い、意気揚々と振り返るガミーヌだっだが、そこにいたのは普通の“熊”だった。低い唸り声を上げながら、つぶらな瞳でこちらをじっと覗いていた。


 「く、熊!!? えっ、ちょ、ちょっと待って……」


 熊の予想外の登場に動揺が隠せないガミーヌ。熊はそんなのお構い無しにジリジリと近付いて来る。


 「こ、来ないでよ……」


 後退りするガミーヌ。しかし、背後で茶色い障害物か何かにぶつかってしまったらしく、これ以上下がる事が出来なくなってしまった。


 「そ、そんな……」


 『ぐぅうう……』


 「く、来るなら来なさい!! 私だってやる時はやる女なのよ!!」


 逃げ道を失った事で覚悟を固めるガミーヌ。構えを取って、剣を熊の方に向ける。


 『!!!』


 次の瞬間、熊は血相を変えて一目散にその場を逃げ出した。


 「えっ?」


 呆気ない幕切れに呆然とするが、直ぐ様顔から笑みが溢れる。


 「ふ、ふふふふ……やった……やったわ!! どんな物よ!! 私に掛かれば、熊の一匹や二匹睨みだけで一発よ!! この調子でボアベアも軽ーく捻ってやるわ!!」


 勝利の余韻に浸る中、彼女の頭頂部にポチャンと雫が落ちて来た。


 「あら、雨かしら?」


 ふと空を見上げると、そこから見えたのは生き物の巨大な“顎”だった。


 「…………」


 ガミーヌは息を呑んだ。背後の茶色い障害物。ずっと巨木か何かだと思っていた。恐る恐る手を伸ばし、後ろ向きで感触を確かめる。


 ごわごわとした触感に、一本一本が鋭利な刃物を彷彿とさせる程、鋭く尖った毛並み。


 熊はガミーヌから逃げたのでは無い。ガミーヌの背後にいた存在から逃げたのだ。


 その正体を確かめるべく、ガミーヌはゆっくりと距離を取りながら振り返る。


 体長三メートル強。横幅も広くパッと見、先程の熊と同じに見えるが前足が豚の蹄になっており、顔は熊に豚鼻と牙が付いた様な外見をしていた。


 「あ……ああ……」


 その姿を見て本能的に察した。目の前にいる生物こそ、討伐対象でありこの野獣の森における主。猛獣“ボアベア”だ。


 熊とは比較にならない程の威圧感。あまりの恐怖に筋肉が強張り、その場から動けなくなってしまった。


 『ごああああ……』


 「あ……あ……ああ……」


 ボアベアがこちらを見下ろす。一声漏らすと四つん這いになり、前足を掻き鳴らす。二足から四足になった事で気持ち小さく見える筈なのだが、寧ろ大きく感じてしまう。それ程までの圧倒的存在感にガミーヌは萎縮してしまう。


 「に、逃げなきゃ……」


 慌てて逃げようとするが、足が動かない。まるで鉛でも付けられてしまったかの様に、覚束ない足取りでボアベアから離れていく。


 『ごあああああ!!!』


 「!!?」


 その瞬間、前足を掻き鳴らしていたボアベアがガミーヌ目掛けて突進して来た。幸いにもガミーヌは覚束ない足を無理矢理動かした事で絡まり合い、大きく転んでしまった。それにより寸での所で回避する事が出来た。


 すると、避けた先でボアベアが巨大な石の塊に頭を直撃させていた。


 「は……あはははは……あははははは!!! やっ、やったわ!! 倒した!! あのボアベアを倒した!! 流石ね私!!」


 ボアベアの様子に勝利を確信するガミーヌ。喜びにうち震え、自分を褒め称える。


 「それにしても、猛獣という割には大した事無かったわね。まぁ、この私が相手だったのが運の月だったという事ね。おーほっほっほっほ!!!」


 高笑いしていると、巨大な石の塊が突如大きな音を立てて粉々に崩れた。


 「はえ?」


 見ればボアベアはピンピンしていた。直撃した頭部には、かすり傷一つ付いていなかった。


 「う、嘘……!!?」


 喜びが絶望に早変わりし、たじろぐガミーヌ。そんな中、ボアベアが再び前足を掻き鳴らす。


 「いけない!!」


 また突進が来ると考え、準備する。一度恐怖を味わったお陰か、さっきよりかは体も動く。


 『ごあああああ!!!』


 「……今だ!!」



 ボアベアが突進して来ると同時に、ガミーヌは真横に飛んで避けた。


 「そんな見え見えの突進なんて、簡単に避け……られる……わ?」


 猪突猛進。この言葉の通り、真っ直ぐしか進まない攻撃なら簡単に避けられる。しかし、それは相手が突進という手段しか持っていなかった場合。


 ボアベアは突進の途中で急ブレーキを掛け、何とガミーヌの目の前でとまって見せた。そして熊と同じ後ろ足を使い、二本足で立ち上がって見せた。


 「あぎゃっ……」


 そして次の瞬間、ガミーヌはボアベアから放たれた蹄の前足による薙ぎ払いによって、勢い良く吹き飛ばされ、巨木に叩き付けられる。


 「ぁ……あ……」


 痛い。身体中が痛い。どうやら肋骨が何本か折れたらしい。息が上手く出来ない。口から血が流れる。意識も朦朧とし始める。


 「(あぁ……私、ここで死ぬんだわ。出来もしない事をしようとした結果ね。実力も無いのに一人で倒そうだなんて……自業自得ね……)」


 ボアベアがゆっくりとこちらに近付いて来る。口からは涎がドバドバと流れ出ていた。


 「(食べられるのかしら。それならそれで役に立てて何よりだわ……)」


 食べられて死ぬ自分の姿を思い浮かべる中、死の瀬戸際に立たされた事で走馬灯が脳裏を横切る。




 “この役立たずが!! お前は本当に使えない娘だな!! 恥知らずが!!”


 “自分の立場を分かっているの? あなたなんかに価値は無いのよ。恨むのならあなたなんかを生んだ親を恨みなさい”


 “ガミーヌ……あなたは自由に生きて……”


 “もうあいつは使い物にならん。全くとんだ親不孝者だ。ん? おぉ、ガミーヌ。我が愛しの娘よ。お前だけが我が一族の誇りだ”


 “あら、ガミーヌじゃない。前々からあなたには目を付けていたのよ。私もあんな価値の無い娘より、あなたみたいな娘が欲しかったわ”




 「……っ!!!」


 その時、ガミーヌはカッと目を見開いた。小鹿の様に震える足を手で無理矢理押さえ付け、何とか立ち上がる。迫り来るボアベアに対して剣を構えた。


 「私は!! 私はガミーヌ!! “ガミーヌ・フォン・ロイヤリティー・アリス”!!! アリス家第二王女!!! 現当主“ブーゼ・フォン・ロイヤリティー・アリス”とその一族全てに復讐を誓った!!! その為に冒険者になったのよ!! そんな簡単に諦められる訳が無いじゃない!!!」


 ガミーヌは走り出した。限界などとっくに越えている。体を動かす度に激痛に襲われる。それでも動かし続ける。ボアベア目掛けて渾身の一撃を叩き込む為に。


 「はぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ボアベアは動かない。突然迫って来た事に驚いているのかもしれない。ガミーヌから放たれた一撃がボアベアの体を捉える。そして……。


 剣は真っ二つに折れてしまった。


 「…………」


 折れた剣を呆然と眺めるガミーヌ。猛獣“ボアベア”。こいつがこの森の主になれたのは、その圧倒的な耐久力にある。本来なら罠に嵌め、動けない所を数時間掛けて攻撃を続けて殺す。そんな文字通りの化け物をひ弱な、ましてや初心者冒険者が勝てる筈が万が一にもあり得ない。


 『ごああああ……』


 希望が無くなり、絶望するガミーヌに対してボアベアが前足を振り上げる。


 「ごめんなさい……お姉ちゃん……」


 振り下ろされる前足。ガミーヌの人生はここで幕を閉じるのであった。











 「………………え?」


 ガミーヌは生きていた。振り下ろされた筈のボアベアの前足が直前で止まっていた。よく見ると、その間に傷だらけの逞しい腕が割り込んでいた。


 「あ、あなたは!!?」


 ガミーヌが振り返ると、そこにはボアベアにも負けず劣らずの圧倒的な威圧感を放つエクスが立っていた。

ここでエクス登場!!

ヒロインのピンチに颯爽と助けに現れる主人公!!

ベタな展開ですが、自分は大好きです。

そして次回はエクスと野獣の森の主である猛獣“ボアベア”の激しい戦いとなります。

次回もお楽しみに!!

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