師弟対決(後編)
中々、書く暇が見つかりませんが、ゆっくりでも更新を続けて行きます。
気長に待って頂けると幸いです。
激しくぶつかり合う金属音。ガミーヌの剣とフォールの剣が接触する度、両者の周囲に火花が飛び散る。
実力は互角……とは言い難く、それどころか一方的とさえ言える。攻めるのは勿論フォール。彼女の激しい剣捌きにガミーヌは防戦一方だった。
「ほらほら、どうした? 防いでばかりじゃ、一生勝てないよ?」
「そんなの分かってるわよ!! 私だって攻撃したい……したいのに……」
何とかフォールの隙を突いて、攻撃を仕掛けたいガミーヌ。しかし、いざ攻撃に転じようとすれば、それより速く向こうが攻撃を仕掛けて来る。それ故に、ガミーヌは防ぐ事しか出来ずにいた。
「全く……相変わらず消極的な戦い方だね」
「それは、そっちの戦い方が激し過ぎるからでしょ!!」
フォールの言葉に食い下がるガミーヌ。極度のストレスと緊張から、思わず歯ぎしりする中、フォールは呆れた様子で深い鼻息を漏らすと、これ見よがしに隙だらけの大振りを繰り出そうとする。
「っ……なめんじゃないわよ!!」
「ほぅ、さすがに引っ掛からないか」
誰の目から見ても分かる誘い。当然、ガミーヌも引っ掛からず、逆に距離を取る時間を稼いだ。
「はぁ……はぁ……」
だが、既に肩で息をする程までに体力を消耗させてしまっている。
「ほらほら、どうした? 打ち込まないと稽古にならないぞ?」
両手を大きく広げ、完全な無防備状態でガミーヌを煽るフォール。
「だ、大体、どうしてこの私が稽古なんかに付き合わなければいけないの!!?」
先程から激しい戦闘を繰り広げているが、そもそもこれはフォールによるガミーヌへの稽古に過ぎない。そして、何故それに付き合わされているのか、未だに理解出来ていなかった。
「全く……ちゃんと話を聞かないのは相変わらずの様だな」
「あなたが説明不足なんでしょ!!?」
「仕方ないな。いいか、さっきも言ったけど、あたしはあんたに稽古を付ける。それはあんたが試合中、大勢が見ている前で奥義を使ったからだ。ここまではいいかい?」
「え、えぇ……まぁ……」
「最早、あんたの奥義は使い物にならないと言っていい。だから、奥義に頼らなくてもいい様に、鍛えてやろうという訳よ」
「あぁ、それで稽古……って、そうならそうと早く言いなさいよ!!」
「あんたの理解力が足りないだけだ。稽古と言われれば、誰だって鍛えてくれるんだと分かるだろ」
「いや、全然分かんないわよ!!」
「さて、無駄話もこの辺にして、さっさと稽古の続きを始めるとしようか」
「ちょっ、ちょっと待っ……!!?」
ガミーヌの制止を聞かず、距離を縮めるフォール。振り下ろされる剣をギリギリ肌を掠めるも何とか避ける。
「このっ!!」
「!!?」
頬から血を流しながらも、漸く生まれたチャンスを逃す訳にはいかない。ガミーヌは全てを掛ける想いで、フォール目掛けて剣を突き出した。
「…………」
「…………」
剣先からガミーヌの手元へ、血が流れて来る。手応えあり。そう確信したガミーヌは、口元がニヤける。
「私の勝ちね。致命傷は避けてるから、直ぐに治療を受ける事をおすすめするわ。まぁ、これに懲りて大人しくする事ね。それと、今後私に会ったらまず挨拶しなさい。勿論、敬語ね。それから私の命令は絶対よ。手始めに明日までにパンを買って来なさい。種類は焼きそばパンとクリームパン、それから……」
勝ち誇るガミーヌ。これから師匠をパシリとして顎で使う事を考えながら、剣を引き抜こうとする。
「……あ、あれ……?」
が、剣はびくともしなかった。何度か引っ張った後、試しに押してみたり、上下左右に動かしてみるも、まるで大木に突き刺さってしまったか、逆にこちらの体制が崩されそうになる固さであった。
「やれやれ……」
「!!?」
溜め息混じりの言葉に、全身が身震いする。寒気ではない。これは恐怖。胸が苦しい。恋ではない。これは死への警告。心臓を鷲掴みにされ、そのまま握り潰される程の痛みを感じた。
「弟子だからと手を抜いてはいけない……頭では理解していたんだけどね」
「そんなっ!!? いったいどうしっ……手応えは確かにあった筈……!!」
剣で刺されている筈なのに、痛がる素振りは愚か青ざめた様子も見られない。冷静に己の未熟さを噛み締めるだけ。そんな異常な光景にガミーヌは動揺を隠せなかった。
「まさかこんな“手傷”を負わされるとはね。あぁ、嫌だ嫌だ。年は取りたくないね」
「っ!!?」
その時、ガミーヌは漸く気が付いた。何故、突き刺した筈の剣が抜けないのか。何故、刺された筈のフォールが余裕そうなのか。
カタカタと剣先が震える。ガミーヌの突き出した剣はフォールの体にでは無く、掌に突き刺さっていた。
ガミーヌが隙を突いて攻撃する瞬間、フォールは振り下ろした剣を途中で手放し、体に剣が刺さる前に間へと差し込んだのだ。
その結果、手の甲まで確りと貫通したが、残念ながらそこまで。体には届いておらず、抜けない様に五本の指で掴まれていた。
「“手傷”って、物理的な意味!!? というか、片手を犠牲にするなんて正気!!?」
「何を言ってる。片手なんかより、命の方が大事だろ。片手を犠牲にして生き延びられるのなら、安いものだ」
「それはそうかもしれないけど……だからって、そんな躊躇なく出来る!!?」
「あんたはまだまだ子供だね」
「何ですって!?」
「戦いに次なんてのは無いんだ。負ける事はそのまま死に直結する。なら、身を削ってでも勝利を勝ち取らなければいけないんだ」
「…………」
フォールの言う通りだ。しかし、それでもガミーヌは納得出来なかった。これはあくまでも稽古。命まで取る訳が無い。それなのに勝つ為に何かを犠牲にするなど、とてもじゃないが考えられなかった。
「……ガミーヌ、あんたそんなんだから、いつまで経っても強くなれないんだよ」
「はぁ!? どう言う意味よ!!」
「修行時代の時も、ついさっきのコロシアムの時も、そして今回の稽古でも、あんたの戦いはどれも“その場しのぎ”なんだよ」
「“その場しのぎ”……ですって?」
「もっと言えば、考え無しに突っ込み過ぎだね。『このガミーヌ様にかかれば』とか、よく自意識過剰な発言をしたね。それ自体は何の問題も無い、寧ろ自信は戦いにおいて重要だ。気持ちで負けてたら、何も上手くいかないからね。だけど……」
「…………」
「それはあくまでも、相手を威圧させる為の物であって、自分自身を甘やかす為の物じゃないんだよ」
「わ、私は別に自分を甘やかしてなんか……」
「どうだか。修行を途中で放り投げたあんたの事だ。大方、普段は胡座をかいて、いざ戦う時だけ真面目になって、その度に死にかける程の怪我を負っているんじゃない?」
「うっ……!!」
図星だった。ボアベアや邪龍モドキ、そして今回のコロシアムと毎度死にかけていた。
「あんたが毎回死にかけるのは、相手の力量を測りきれていないんだよ。ちゃんと修行していれば、戦う前に格上かそうじゃないか分かるって言うのに……あぁ、情けなくて泣けてきたよ」
「むぐぐ……!! そ、そんな偉そうな事を言っているけど、この状況じゃ説得力が無いわよ!!」
「は?」
「見て分からない? 私は剣を持っていて、あなたは丸腰。更に片手は怪我を負っている。生殺与奪の権を握られている時点で、あなたの言葉はどれも言い訳にしか聞こえないのよ!!」
「…………」
「(ふふっ、言ってやったわ。一時、師匠だったからって調子に乗った罰よ)」
このまま言われっぱなしでは、腹の虫が治まらない。負けじと言い返すガミーヌ。それに対して、フォールは何も言い返さなかった。その様子に、少し気持ちがスッとした。
「……いやはや、まさかここまで深刻だとは……こんなんじゃ、稽古なんてしても無駄かもしれないな」
「ちょっ、まだそんな強がりを……!!」
「おいおい、本当に忘れたのか? あたし本来の戦闘スタイルを?」
「本来の戦闘スタイル?」
しばらく無言で見つめ合う二人。いまいちピンと来ていない様子のガミーヌに、フォールは呆れた様子で左手の指を人差し指から順番に折り曲げ、最後に親指を添えて出来た拳を見せ付ける。
「あ……あぁ……!!!」
その瞬間、ガミーヌの脳裏に過去の記憶がフラッシュバックする。
“今回は手元に剣が無かった場合を想定した修行を行う”
“剣が手元に無いって、そんな時が本当にあるの?”
“当たり前だ。落としてしまった時や、敵に奪われた時や、壊れてしまった時など、例を上げたらキリが無い”
“それで? 剣が無かった場合どうするの? やっぱり他の武器で代用するとか?”
“何を寝惚けた事を言ってる。もう既にあたし達の両手に備わっているじゃないか”
“備わっているって、まさか……”
“その通り、拳だ。結局最後は己の身だけが頼りという事だ”
“剣士なのに拳の修行って……何だか邪道じゃない?”
“戦うのに邪道とか考えている暇は無い。それに私は別に自分を剣士だとは思っていない。寧ろこの拳での戦い方が得意だ”
“拳の方が得意って、いよいよ人間じゃなくてゴリ……“ふん!!”……痛い!!?”
“減らず口を叩くな。今日はその性根の腐った根性も叩き直してやる”
“この……ガミーヌ様の頭を……絶対にあなたよりも強くなって後悔させてやるんだからね!!”
“ほぅ、それは楽しみだ。あっはっはっはっはっは!!!”
「あ……あぁ……あ……」
「どうやら、思い出した様だね。それじゃあもう一度、あの時の痛みを味わって貰おうかね!!」
「い、いやぁあああああああああああああああああああああ!!!」
***
「うっ、うぅ……うぅ……」
「ちょっと小突いただけで、いつまでもメソメソと泣くんじゃないよ」
まるでギャクマンガの様に、ガミーヌの頭には大きなたんこぶが出来上がっており、そこから湯気が立ち上っていた。
先程まで強気だった少女から一変、目から滝の様に涙を流していた。それを見ながらバツが悪そうに、注意するフォール。
「だって……だって……」
「そんなに殴られたく無いなら、またあたしの下で修行するんだね」
「だ、誰があなたの所で!! もう二度と、関わりたくないわ!!」
「それは残念だ。けど、気が変わったらいつでも連絡をよこしな。その時は、みっちりと体に教え込んでやるよ」
「結構です!! 今のままでも充分強いわ!! それに私には心強い仲間であるエクスが……そうよ!! こんな所で油を売ってる場合じゃないわ!!」
ハッと何かを思い出したガミーヌは、慌ててその場から立ち去ろうとする。
「おいおい、血相変えていったい何処に行くつもりだい?」
「エクスとシヴァハを助けに行くのよ!! あなたが余計な事をしてくれたお陰で、あの二人だけでコロシアムの戦士達全員を相手にしてるのよ!! 急いで助けに行かないと!!」
「何を言っているんだ? あの時、あたしはあんたを助けたんだよ」
「助けたですって、デタラメ言わないで!!」
「デタラメなんかじゃない。あそこにいたのは全員、あんたよりも実力のある奴らだった。あのまま三人で戦っていたら、二人の足を引っ張る事になっていたんだよ」
「えっ、そ、そうなの!!? た、例えそうだったとしても、だからといって二人を見捨てる事なんて出来ない!!」
「いや、見捨てるも何も、あの二人に加勢など必要無いだろう。圧倒的なんだからな」
「でも今、実力のある奴らだって……」
「それはあんたよりって話。あの二人に比べれば鼻くそ以下だよ」
「じゃあもしかして向こうは……」
「あぁ、もうとっくに終わってるだろうね」
***
一方、エクス達の方はというと……。
「……あ、ありえねぇ……」
グレルは目の前の光景に絶句し、思わず腰を抜かしてしまう。
そこには、腕利きと呼ばれるコロシアムの戦士達がすっかり伸されてしまい、山積み状態になっていた。
まともに立っているのは、エクスとシヴァハの二人だけだった。フォールの予想通り、彼らは無傷でコロシアムの戦士達を倒してしまったのであった。
あっさりと終わった師弟対決。
更にはエクス達の戦いは見所無しの為、大幅カット!!
次回、コロシアム編のラストとなります。
次回もお楽しみに!!
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