鬼畜ババアと私の物語
今回はガミーヌの師匠とエクスに会うまでの話となります。
ししょ……“ババア”と出会ったのは、 まだ私があの忌々しい家にいた頃。父が私の教育係兼世話係として連れて来た。
この前のクーリエでの、ヴィス王妃による実の娘ラインお姉ちゃんへの酷い仕打ちに、ハラワタが煮え繰り返る想いを抱いていたこの頃の私は、身の回りの全ての人間が敵に見えていた。そんな中、まだ父に対してだけは希望が残っていた。
きっと父なら、ヴィス王妃の態度を正してくれる。そう信じていた。
「今日からこいつが、お前の身の回りの一切を取り仕切る」
「あ、あのお父様……実は……」
私が密告しようと口を開くも、途中で父が掌をこちらに向けて、話を強制的に遮ってしまった。
「悪いが話は全てこいつを通して貰う様にしてくれ。ヴィスからお前とは例え本人でなくとも、少しでも関わった人間とは間接的に話したくないと言われているのでな」
「…………」
私は絶望した。最早、父はあの女の操り人形と化していた。私が何を取り繕ったとしても、父の耳には届く事は決して無いだろう。
「それじゃあ、後は頼んだぞ」
「かしこまりました」
用が済むと、父はそそくさとその場から離れてしまった。一度も私の顔を見ずに。
「あたしは“フォール”。けど、これからはあんたの教育係になった訳だから、“先生”もしくは“師匠”と呼びなさい」
「…………」
こちらに何か話し掛けているみたいだったが、今はそれよりも父に見放された事によるショックの方が大きかった。
「……全く仕方がないお嬢様だ」
分かりやすく落ち込む私に、フォールと名乗る女性は腰に携えている剣を鞘から抜かず、そのままの状態で私の頭をポカリと殴った。
「痛っ!!?」
突然の痛みに私は、殴って来たフォールとかいう女を睨み付ける。パッと見、二、三十代のそれだが、何故だか直感的にそれ以上の年齢は行っていると感じた。
「いつまでもウジウジとしおって。見てるこっちまで落ち込んで来るぞ」
「あ、あなたには関係無いでしょう!!?」
「関係大有りだ、この馬鹿者」
そう言うと、フォールはまた私の頭を鞘入りの剣で殴った。
「痛いって!!!」
思わず殴られた箇所を両手で抑える。僅かに膨れ上がった、たんこぶの感触を確かめながら目の前の“ババア”を睨み付ける。
「あたしは、あんたの教育係兼世話係なんだよ。これから四六時中一緒にいる事になるんだ。おらっ、シャキッとしな」
「…………っ!!!」
バン!!っと背中を強く叩かれた。痛い。背中がジンジンしている。これが友達や身内からだったら、元気も出ただろう。だけど、このババアはつい数分前に出会ったばかりの存在。二回、頭を殴られた事もあって、元気でなく怒りを覚えた。
「……別に頼んで無いわよ……お父様が勝手にやっただけ……それも、私を想ってじゃなくてあの女に嫌われない為……」
「…………」
「あなたも、無理に仕えなくて良いわ。自分の世話位、自分で出来るから……今までだってそうして来たんだから……」
第二妃である母の子供である私は、第一妃であるヴィス王妃にとって目の上のこぶ。その為、執事やメイド達は極力私に関わらない様にしている。
私自身もそれを察して、出来る限り自分だけの力で生活して来た。そんな生活に慣れてしまった今頃、教育係兼世話係などいらないのだ。
半ば、父に相手にもされなかった怒りをぶつける形で、私はその場から離れようとする。が、そんな私の頭を三度、鞘に入った剣で殴って来た。
「痛い!!? ちょっと!!? 何するのよ!!?」
「あんたが勝手に何処か行こうとするからだ。教育係兼世話係であるあたしの許可無く行こうとするな」
「はぁ!!? 話聞いてた!!? 私にはそんなのいらないの!!」
「いるいらないはあたしが決める」
「意味が分からない!! もう付き合ってられない!!」
「……見返したくないのか?」
「っ!!?」
話にならないと足早にその場を去ろうとするが、ババアの一言に足を止めた。
「あんたの事情は大体理解している。だけど、このまま何もせずに泣き寝入りするつもりか?」
「そ、それは……」
「見返してやろうとは思わないのか? 一泡ふかせてやろうとは思わないのか?」
「……したい……したいに決まってるじゃない!! 私だけじゃない、ラインお姉ちゃんも見下すあいつらを見返してやりたいわよ!! でも……でも、私なんかじゃ……」
力も権力も人脈も無い私では、お姉ちゃんどころか、自分自身さえも守る事が出来ない。ましてや見返すなど、夢のまた夢。
「鍛えてやる」
「え……?」
ババアの言葉に私は、思わず呆けた声が出る。聞き間違えじゃないかと、聞き返そうとすると……。
「このあたしが鍛えてやるよ」
もう一度、今度はハッキリと答えてくれた。しかし、一つどうしても分からない疑問があった。
「ど、どうして……? どうして手を貸してくれるの?」
「うん? まぁ、あれだよ……あんたを見てると昔を思い出すというか……只の気まぐれだよ」
「よく分からないけど……手伝ってくれるのなら心強いわ。それでまずは何……を?」
父によって閉ざされた希望に、再び光が差し込み始めた。ここから、あいつらを見返す私の物語が始まる。そう思った矢先、ババアから一本の木刀を投げ渡される。
「これは?」
「見返したいんだろう? ならまずはあたしの剣術を叩き込んでやるよ」
「ちょ、ちょっとそんないきなり!!? まだ心の準備もまだ……」
「そら、行くぞ!!」
「いやぁああああああああああ!!!」
その日から、鬼畜ババアによる地獄の特訓がスタートした。最初の内は一度も触れた事の無い剣を無理矢理持たされ、一方的に痛め付けられた。数日間、青アザが絶えなかった。だが、これはまだ可愛い方だった。
「ちょ、ちょっと冗談でしょ!!?」
「いや、本気だ。今からあんたには、この崖から飛び降りて貰う」
断崖絶壁。下は荒れ狂う海。落ちれば間違いなく死ぬ。死体すら見つからないだろう。
「そして、この崖を登ってここまで這い上がって来い」
「無理無理無理無理!!! そんなの出来る訳が無いでしょ!!? ここから飛び降りるだけでも無理なのに、更に這い上がって来いですって!!?」
「よく言うだろう。“獅子は我が子を千尋の谷から突き落とし、登って来た者だけを育てる”と……」
「いや、それ“谷”の話でしょ!!? ここは“崖”なのよ!!?」
「谷も崖も大して変わらない」
「変わるわよ!! いくら獅子だってこんな所から我が子を突き落としはしないわ!!」
「おぉ、それからな……」
「ちゃんと聞きなさいよ!!」
私の訴えを無視して、鬼畜ババアは思い出したかの様に巨大な黒い鉄球が付いた足枷を二つ取り出した。
「飛び降りる際には、この二つの足枷を嵌めて貰うぞ」
「いや、それ只の処刑方法!!!」
私がツッコミを入れたその一瞬の隙を突き、鬼畜ババアは私の両足に足枷を嵌めた。
「ちょ、ちょっと!!?」
「心配するな。危なそうだったら、あたしが助けてやるよ。間に合わなかったら、その時までだがな」
「ふざけっ……!!?」
そう口にした時には、私は空中を飛んでいた。最後に映った光景は、鬼畜ババアがこちらにキックを食らわしている姿だった。
「いやぁああああああああああ!!!」
鉄なみに硬くなっている海面に叩き付けられ、激しい渦潮に体が引き裂かれそうになり、重い足枷のせいでどんどんと沈み行く中、何とか這い上がろうと必死にもがくが、焼け石に水。私は早々に意識を手放した。
……その後、鬼畜ババアに救助され何とか一命こそ取り留めるものの、結局あの崖を這い上がるまで何度も突き落とされる事となった。
私は何とかしてこの地獄の日々をやり過ごそうと、毎日試行錯誤した。その結果、行き着いた答えが冒険者稼業だ。
冒険者となり、ランクを上げれば有名になりあいつらも見返す事が出来る。何より、この地獄から抜け出せるのなら何でも良い。私は直接話すのを避け、置き手紙だけを残して、鬼畜ババアから逃げる様に飛び出した。
「ここが冒険者ギルドのある“ラフス”ね。ここから、私の伝説が幕を開けるのよ!! そうなるとまず必要なのは仲間よね、このガミーヌ様と組むのだから、それなりに優秀な奴が欲しいわね」
“おい、聞いたか? またエクスが活躍したらしいぞ”
そんな時、噂話をしている住民達を見掛ける。
「エクス……?」
“またエクスか……このままマスターランクまで上り詰めるかもしれないな”
「マスターランク!!」
冒険者ランクの最高峰。そんな称号に上り詰めるかもと噂される人物がいる。これは是が非でも仲間にしなくては。私は、そのエクスに会う為に無我夢中で走り出した。そして……。
「あの見事な剣捌き。あなたがあのエクスね?」
私は“彼”と出会った。
「気に入ったわ。あなた、私のパーティーに入りなさい!!」
そうして、私の物語は始まった。
次回から本格的に戦闘がスタート!!
次回もお楽しみに!!
評価・コメント・ブックマークお待ちしています。




