不肖の弟子
「お前はトーナメントを勝ち上がったんだ。勝ち上がった戦士は次の試合にも出なくちゃいけない。まさか、ここまで来て棄権するつもりなのか? あ?」
平静こそ保ってはいるが、その表情は怒りに満ちていた。額に血管が浮かび上がり、ピクピクと動いている。
「くそっ!! まさかこんなにも早く駆け付けて来るとは……しかも……」
シヴァハは咄嗟に妹のパチェを守ろうと、彼女を引き寄せて背後に隠す。そして視線をグレルから後ろにいる戦士達に向ける。
「大会に出場している戦士達のオマケ付きとはな……」
「ちょっとあなた達!!? どうしてグレルなんかに付いてるのよ!!? そいつはシヴァハの妹を何年も監禁していた極悪人なのよ!!?」
真っ先に苦言を呈したのはガミーヌだった。グレルの悪行を伝え、彼らが味方になれば最早グレルに勝ち目は無い。しかし……。
「ふざけるな!! 極悪人なのは、お前達の方だろうが!!」
「は?」
「グレルさんから全て聞いたぞ!! 逆恨みから彼女であるパチェさんを無理矢理誘拐しようとしているって事をな!!」
「はぁあああああああ!!?」
グレルは先手を打っていた。ここへ駆け付ける前に、戦士達に嘘の情報を与え、見事信じ込ませた。よって、彼らにとっての極悪人はシヴァハとガミーヌ達になってしまった。
「大人しく彼女を返せ!!」
「そうすれば、半殺し程度で済ませてやるぞ!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! どうしてそんな判断になる訳!!? 私達よりもそんな胡散臭い奴の言う事を信じるって言うの!!?」
ガミーヌは信じられなかった。端から見れば、悪なのは明らかにグレルの方だ。にも関わらず、この男を信じる戦士達の精神を疑った。
「何て事を言うんだこの女!! グレルさんは俺達戦士にとって、かけ替えの無い存在!!」
「そんな人が俺達に嘘なんか付く訳がねぇだろうが!!」
「大体、その話が本当なら。どうしてグレルさんが彼女を監禁する必要があるんだよ!!」
「だーかーらー!! 彼女はシヴァハの妹で!! 彼女を監禁する事で、それをダシにシヴァハを自由に操れる様にしたのよ!!」
「はぁ!!? 何寝ぼけた事を言ってるんだ!!? 何でコロシアム史上最弱の戦士を操る必要があるんだよ!!?」
「それはそいつが仕組んだ八百長よ!! シヴァハはずっとわざと負ける様に言われていたのよ!!」
「だから何でそんな事をする必要があるんだよ!!? 戦士なら勝たせてなんぼだろうが!! わざと負けさせる事に何のメリットがあるって言うんだよ!!?」
「そ、それは……わ、分からない……」
ここに来て、ガミーヌの言葉が失速してしまう。何とかグレルが悪である事を伝えようとするも、そもそも何故グレルはシヴァハを狙ったのか、何故負け続ける事を強要したのか。どれだけ考えても、それらしい答えは見つからなかった。
「ほら見ろ!! 適当な事を言って、俺達を騙そうとしたってそうはいかないぞ!!」
「あのね、私達は別に騙そうなんて……っ!!」
反論しようとするガミーヌだったが、シヴァハが腕をガミーヌの前に出して、制止させた。
「シヴァハ……?」
「もう……いい」
「もういいって、あなた分かってるの!!? ここで誤解を解かないと、ここの戦士達全員と相手する事になるのよ!!?」
「だからどうした?」
「どうしたって……」
ガミーヌはチラリとグレルの方に視線を向ける。グレルはニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべていた。そしてその背後にいる戦士達は正に圧巻の一言だった。しかし、それを見ても尚シヴァハは余裕の表情を浮かべていた。
「元より俺はこいつら全員と相手取るつもりだった。勿論、一人で勝てる程驕っていない」
「それなら何で……」
「お前達がいるからだ」
「!!!」
「お前達の実力は、トーナメントの試合で見させて貰った。その上で言っているんだ。それともまさか、お前達はこんな数だけの雑魚連中に負けるのか?」
「……全く……人が折角穏便に済ませようと思っていたのに……あなたのせいで火が付いちゃったじゃない!!」
シヴァハの言葉でやる気になったガミーヌは、剣を引き抜きグレル達に向ける。
「そう来なくちゃな!!」
ガミーヌに同調するかの様に、シヴァハも勢い良く剣を引き抜き、グレル達に向ける。するとシヴァハとパチェの下に、ルムが近寄って来る。
「妹はワシが預かろう」
そう、戦いとなれば非力なパチェを守る存在が必要となってくる。その役目をルムが立候補してくれたのだ。シヴァハはルムの顔を見て、笑みを浮かべる。
「あぁ、あんたなら安心だ。パチェ、少しの間この人と一緒にいてくれ」
「お兄ちゃんは?」
「心配するな、すぐ戻って来るよ。言っただろう、もう二度とお前を一人にしないって」
「……うん」
シヴァハの言葉を信じ、パチェは兄の側を離れるとルムに連れられ、その場を離れていく。それを見たグレルが叫ぶ。
「おい、待て!!」
「おっと、ここから先へは行かせないぞ」
追い掛けようとするグレル達を止めるシヴァハとガミーヌ、そしてエクスの三人。
「あなた達の相手は私達よ」
「……ぐふふ……ふふっ……がははははははははははははははははは!!!」
そんな三人の様子を見たグレルが突然笑い始める。それに釣られて、戦士達も笑い始める。
「この人数相手にまさか本気で勝てると思っているのか?」
「さぁね、やってみなきゃ分からないだろう」
「そうか……なら、無駄話は終わりだ。おい、この誘拐犯どもを叩きのめせ!!」
「「「「「「おぉ!!!」」」」」」
グレルの掛け声と共に、一斉に武器を構えて襲い掛かる戦士達。
「さぁさぁ、どっからでも掛かって来なさっ……!!!」
意気揚々と相手を挑発しようとするガミーヌ。すると次の瞬間、グレルや戦士達を通り抜け、目にも止まらぬ速さでガミーヌの目の前に戦士が現れた。
「なっ!!?」
「ガミーヌ!!!」
それは顔中包帯でぐるぐる巻きにして、素性を隠しているあのイレギュラーだった。あまりの速さにガミーヌは反応が遅れてしまった。シヴァハもガミーヌの名前を叫ぶのが精一杯であった。エクスは動きが無いのか、武器すら抜いていない。
そして、イレギュラーは現れると同時に手に持っていた“青い玉”を彼女の前に差し出すと、そのまま凄まじい握力で目の前で割って見せる。
「え!!?」
すると突然、割れた青い玉から眩い光が放たれ、気が付いた時にはガミーヌとイレギュラーの二人は忽然と姿を消してしまっていた。
「ガミーヌ!!? おい、何処に行ったんだ!!?」
「……何だかよく分からねぇが……邪魔物が一人減ったんだ!! 今がチャンスだ!!」
状況が理解出来ない一同だったが、これ幸いとグレルが再び戦士達にシヴァハ達を襲わせる。あまりに突然の出来事に混乱するシヴァハだが、それでも何とか戦士達と渡り歩こうとする。
「ガミーヌ……きっとお前は戻って来る……信じてるからな!!」
そんな中、その場を去っていたルムだけが横目でイレギュラーが割った青い玉に注目していた。
「(まさかあれは……“転移石”か?)」
彼女はあの青い玉の正体を知っていた。
魔法自体が珍しいこの世界において、一般人でも魔法を扱う方法が存在する。それがマジックアイテム。魔法の力が込められたそれらのアイテムは、誰でも気軽に扱う事が出来る為、非常に役立っている。安い物から高い物まで種類も豊富だが、その中でも“転移石”は、最上級のマジックアイテムと知られ、市場に出回る事はまず無い。
「(あれ一つで小さな町が一つ買えると聞く。本来なら貴族や王族なんかの金持ちが手に入れる代物。それを一介の戦士が持っているなどまずあり得ない……いったい何者なのだ?)」
ガミーヌの事も心配だが、今は託された役目を果たさなければならない。ルムは、余計な事を考えずにパチェを守るのであった。
***
「……こ、ここは……?」
気が付くと、ガミーヌはコロシアムの外に転移していた。
「いけない!! 急いでコロシアムに戻らないと!!」
「おっと、悪いがこの先には行かせないよ」
「!!!」
急いでシヴァハ達の下へと戻ろうとするガミーヌの行く手を遮るイレギュラー。
「ここでなら余計な邪魔も入らない」
「まさかあなた……私と差しで勝負する為にわざわざ転移石まで使ったって言うの?」
「あぁ、トーナメントでお前があまりに不甲斐ない戦い方をしていたから、ちょっと説教してやろうと思ってな」
「説教ですって? ちょっとちょっと、何で赤の他人のあなたに説教なんかされないといけないのよ?」
「……はぁー、まさかとは思っていたがまだ気が付いていないとはな」
「な、何よ……」
深い溜め息を漏らすイレギュラー。すると、顔中を巻いている包帯を取り始める。
「いくら顔を隠しているとはいえ、この“声”を聞き忘れたとは言わせないよ」
「“声”……って、まさか嘘でしょ……!!?」
イレギュラーの声を聞いたガミーヌは、一瞬で顔が青ざめる。それは聞き覚えのある声だったからだ。忌まわしい記憶が掘り返される。
顔の包帯が解かれ、そこに現れたのは、銀髪のショートヘアーに、顔は三十代……否、二十代と言っても過言では無い程の整った美しさをしている、所謂“美魔女”と呼ばれる女性が立っていた。
「なぁ? 不肖の弟子よ」
「クソバ……師匠!!?」
何とイレギュラーの正体は、ガミーヌの剣の師匠であった。
まさかまさかのガミーヌの師匠が登場!!
大波乱のコロシアム。
果たしてシヴァハ達はグレルからパチェを守れるのだろうか!?
次回もお楽しみに!!
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