出し抜き作戦
シヴァハとの協力を約束したガミーヌ。
いったいどうやってグレルから鍵を盗み出すつもりなのか!?
「……という訳で、グレルから鍵を奪うのを二人にも手伝って貰うわよ」
シヴァハと一度別れたガミーヌは、控え室へと戻り、そこで自身の番をじっと待っていたエクスとルムに、これまでの経緯を説明して協力を仰いだ。
エクスの方は相変わらずの無反応。フードを深く被っている為、表情さえも上手く読み取れない。その一方で、ルムはガミーヌの話に腕組みをし、眉間にシワを寄せ、難しい顔をする。
「大体の事情は分かった。じゃが、それを何故ワシらが手伝わなければならないのだ? 聞けばこれはシヴァハの問題。ワシらが手を貸す道理は無いと思うが?」
「確かにメリットは無いかもしれない。けど、だからってこのまま見てみぬ振りをするのは、私にとって目覚めが悪いのよ」
「それに万が一失敗すれば、只では済まないぞ。ワシはいざとなれば龍に戻れば良いが、お主らはそうもいくまい? それでも手を貸すというのか?」
シヴァハにも言われたが、失敗はそのまま死を意味する。敵はコロシアムのオーナー。つまりコロシアムに所属する全ての戦士が敵になる可能性を秘めている。
ルムはいざとなれば龍に戻り、住処に戻れば何も問題ないが、ガミーヌとエクスはそうはいかない。エクス程の実力があれば、四六時中襲われても撃退する事が出来るが、実力も経験も伴っていないガミーヌは真っ先に殺されてしまうだろう。しかし……。
「理屈がどうこうじゃないのよ。人間ってのはね、時々意味の無い行動を取りたがる生き物なのよ」
今更、ガミーヌの決意がルムの言葉で覆る事は無い。それどころか、人間という生き物について語り始めてしまう始末である。
「ふむ……人間とは難儀な生き物なんだな。まぁ、ワシも試合が終わってから暇を持て余していた。手伝うとしよう」
あくまで人間では無いルムは、ガミーヌの言葉をまともに捉え、人間という生き物に対して極大解釈してしまう。しかし、それとは別に暇を持て余しているという理由から、協力を得る事が出来た。
「ま、まぁ、理由は兎も角として……手伝ってくれるのね。それでエクスは? 勿論、手伝ってくれるわよね? だって唯一無二の相棒からの誘いだもんね?」
わざとらしいウィンクを何度も送るガミーヌ。そして勿論、エクスは無言を貫き通している。首を縦に振ったり、横に振ったりもせず、微動だにしない。
「無言は肯定と捉えるわ。さぁ、グレルから鍵を盗み出すわよ」
エクスが終始無言なのをいい事に、無理矢理手伝わせるガミーヌ。が、エクス本人も黙って従うつもりらしく、ルムと一緒にガミーヌの後に付いていく。
控え室を後にした三人。ガミーヌが意気揚々と先頭を歩く中、ルムが話し掛ける。
「それで? 具体的にどうやってグレルから鍵を奪うつもりなのだ?」
「そうね、最初は休憩中に襲って奪おうと思ったけど、実況者が何時間も現場を離れていたら、それなりの騒ぎになって動きづらくなっちゃうわ」
「そりゃあ……そうじゃな」
「だからね、こっそりと鍵だけ拝借するのよ」
「だが、そうなると問題なのはグレルが何処に鍵を隠しているのか。もし、肌身離さず持っていたら、盗みようが無いぞ」
「それなら大丈夫よ。鍵の在処は事前にシヴァハから聞いて来たわ」
そう言いながら、ガミーヌはシヴァハとの会話を振り返る。二人が協力し合う事になったその後の話を……。
***
「……いいか、グレルはいつも鍵をズボンの右ポケットに入れている」
「あら、随分と不用心なのね。うっかり落としちゃうんじゃないの?」
「いや、奴は非常に用心深い。自室の鍵とは別に、ダミーの鍵を束にして持っている。そして必ずそこに本物の鍵を紛れ込ませてから、ポケットに突っ込んでいる」
「成る程、それなら盗まれた瞬間、重さが無くなって気付かれる上、例え落としたとしても大量の鍵による落下音で、すぐに気が付けるっていう訳ね」
「その通りだ。最も理想なのは、鍵の束の中から本物の一本だけを盗み出す事だが、ポケットの中に手を突っ込みながら探せば、間違いなく見つかるだろう」
「だったら“色仕掛け”は?」
「色仕掛け?」
「そうよ。あいつ、スケベそうな顔してたじゃない? 私がちょっと大人の魅力を見せれば、コロッと騙されるんじゃない?」
「…………」
可哀想な物を見る目を向けるシヴァハ。それに気が付いたガミーヌは、ムスッとした様子で聞き返す。
「……何よ、何か文句あるの?」
「……いや、残念だがグレルはそういった誘惑は一切通じない」
「そ、そうなの?」
「以前、待遇を良くして貰おうとグレルに言い寄る女性スタッフがいた。だが、正面から突っぱねられていた。今でも諦めずチャレンジしているみたいたが、成果は上げられていない様だった」
「意外ね、あんな派手な見た目をしている癖に硬派な一面があるだなんて」
「というよりかは、人間不信って所だな」
「人間不信?」
「部屋に鍵を掛けるのもそうだが、面接時は戦士以外スタッフでさえ、部屋には一歩も入れず、更にコロシアムの運営も殆ど一人でこなしている。周りが手伝おうとしても、断るレベルだ。あいつは硬派なんかじゃなく、只単に誰も信用していないだけだ」
「そういう事ね。それなら色仕掛けは誰がやっても、効果は期待出来なさそうね」
「そうだな。特にお前がやってもな……」
「ん? 今、何か言ったかしら?」
「いや、別に何も」
***
「……という事で鍵はグレルの右ポケットに入っている筈よ」
「そ、そうか……」
鍵の在処よりも、色仕掛けの下りの方が気になってしまうルム。しかし、これ以上の追究は許さないという圧がガミーヌから伝わってくる。生まれて初めて悪寒というものを感じたルムは、大人しく引き下がる事にした。
「……だが、そうなるとますます鍵を盗むのは困難になるんじゃないのか?」
「ふっふっふ、私にはとっておきの作戦があるのよ」
「ほぅ、それは是非とも聞かせて貰おうじゃないか」
「この作戦の要となるのは、“ルム”あなたよ」
ビシッとルムに人差し指を向けるガミーヌ。そう言われたルムは、不思議そうに首を傾げる。
***
コロシアム内では熱気に包まれていた。戦士達の命を賭けた戦いに興奮の熱は冷めず、試合が続くにつれて観客達のボルテージが上がっていく。そんな中、グレルが大声を張り上げる。
「さぁ!! いよいよこのコロシアムトーナメントも大詰め!! 次が最後の組み合わせとなる!! 果たしてどちらが勝ち上がるのか!!? それでは発表します!! 最終戦、“ツヴィ&リング”VS“シヴァハ”!!」
グレルの言葉と共に舞台に上がって来る双子のツヴィとリング。その後に続いて舞台へと上がって来るシヴァハ。
「頑張ってツヴィ!! リング!!」
「応援してるぞ!!」
「あの双子、チョー可愛い!!」
「シヴァハ!! さっさと負けろ!!」
「早くお前の無様な姿を拝ませろ!!」
「ダッサイ見た目してウケル。キャハハハハ!!!」
天と地の扱い。本来、一対一の勝負に双子だからという理由で参加している、ツヴィとリングの方が責められるべき存在なのだが、逆にシヴァハの方が責められてしまっている。
異常とも言える観客達の様子に、ツヴィとリングがシヴァハに話し掛ける。
「アハハ、随分な嫌われようだね」
「けど、仕方ないよね。このコロシアムでは弱い奴は悪だ。つまり、最弱の君には当然の扱いな訳さ」
「ふん、どう思われようが知った事じゃない。それよりも、自分の身の心配をしたらどうだ?」
「へー、言うじゃない。この状況見ても、まだ分からないのか?」
「こっちは二人、そっちは一人。もう勝負は目に見えてると思うけど?」
「数だけの有利で勝敗は決まらない。戦士として生きる者なら、知ってて当たり前の知識だ。それすら忘れてしまっているのなら、お前達は戦士として失格という訳だな」
「カッチーン。へぇ、そういう事を言っちゃうんだ……ねぇ、リング?」
「そうだね、ツヴィ……」
「「ぶっ殺してやる!!」」
シヴァハの挑発に双子は完全にキレた。互いに戦闘態勢に入る。その様子を見ていたグレルが準備に入る。
案内スタッフの女性がグレルの横に小さめの銅鑼と、それを叩く為の銅鑼撥を手渡す。
「さぁ、両者供に準備が整った様です!! それでは最終戦……始めぇええええええええええええええ!!!」
そう言いながら、グレルは手渡された銅鑼撥で、銅鑼を叩き鳴らす。コロシアム中に響き渡る振動音。その瞬間、シヴァハの戦いが遂に始まるのであった。
「(どういうつもりか分からんが、シヴァハ。お前にはここで敗退して貰う。あの双子には事前に半殺し程度で済ませておくように伝えてある。お前にはまだまだ働いて貰うからな。“最弱”としてな……)」
『あの……グレル様、ちょっとよろしいでしょうか?』
すると、背後から声を掛けられるグレル。振り返るとそこには、先程銅鑼と銅鑼撥を手渡して来た女性スタッフが立っていた。
「……悪いけど今は実況中なんだ。話は試合が終わってから頼むよ。さぁ、さっさとここから出ていってくれ」
シッシッと女性スタッフを手で払い退除け、この場から追い出そうとするグレル。しかし……。
「お願いします……お話だけでも聞いて下さい」
「っ!!?」
突然、払い除けようとした腕に女性スタッフが抱き付いて来た。自身の胸を押し付け、そして上目遣いでグレルを見つめて来る。
「……お前、いったい何者だ?」
そう言うグレルの目は、完全に据わった冷めきった目をしていた。
この女性スタッフはいったい!?
次回もお楽しみに!!
評価・コメント・ブックマークお待ちしています。




