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モンスター

更新が遅れて申し訳ありません。

リアルが忙しかったのと、ここ数日体調を崩して寝込んでいました。まだ体はダルいですが、取り敢えず第四話を投稿します。

 冒険者ギルドを出て、一切の寄り道をせずに真っ直ぐラフスから外へと向かうエクス。


 通常、冒険者達は依頼を受注した後、目的地の地形や気候、そこに生息する生き物等を考慮し、装備や道具を充分に整えてから向かう。


 勿論、中には準備をせずに向かう者も一定数存在する。しかし、それはあくまで事前に準備が済んでいたり、そもそも準備の必要が無い簡単な依頼等、例外的な枠組みに限る。


 準備を怠る事は即ち死に直結する。にも関わらず、冒険者達の死亡が後を絶たない。特に新人と呼ばれる者達の数が近年増加し始めている。


 全て原因はこの男、エクスに関係している。


 エクスは冒険者ギルドの看板とも呼べる存在。冒険者を目指す者であれば、その殆どがエクスの名を知っている。中には憧れを抱く者もいる。その為、逸早く有名になりたいがあまり、エクスの真似をし始め、結果準備不足と実力不足で命を落としてしまう。


 「はぁ……ちょ……ちょっと……はぁ……ま、待ちなさいよ……」


 そしてここにも一人、死に急ぐ若者が。外に出たエクスの後を慌てて追い掛けて来たガミーヌ。肩で息をしながら、何とか追い付く事が出来た。


 「はぁ……はぁ……あなたね、この私を走らせるだなんて良い度胸ね。けど、私は心の広い持ち主だから許してあげるわ。感謝しなさい」


 と、得意気に話すガミーヌだったが、エクスはそんなことお構い無しに、ズンズンと先へと進んで行く。


 「ちょっと待ちなさいよ!! ちゃんと私の話を聞きなさ……」


 慌ててエクスの後を追い掛けようとしたその時、ガミーヌの目に外の景色が飛び込んで来た。


 何処までも続く広大な大地。澄み渡る青い空。吹き抜ける風が遠くの花々の香りを届ける。


 「わぁ……」


 まるで初めて外の世界を見たかの様な、目を爛々と輝かせる新鮮な反応を見せる。


 「……って、ちょっと待ちなさいよ!!」


 感動に浸っているガミーヌ。ふと気が付けば、エクスは遥か彼方を歩いていた。ガミーヌは慌てて後を追い掛け、二度と置いて行かれない様に並走の形を取りながら、喋り続ける。


 「いい? もう一度最初から話すわね。私はあなたの事が気に入った。だから私とパーティーを組みなさい。私達が手を取り合えば、あっという間に最高位の冒険者になれるわ。この私と組めるなんて、あなたは世界一幸運ね。嬉しいでしょ?」


 そう問い掛けるガミーヌに対して、エクスは終始無言。顔がフードで隠れている為、無視しているのか、それとも本当に聞こえていないのか、上手く読み取れなかった。


 そんな素っ気ない態度のエクスに、ガミーヌは思わず立ち止まり、膨れっ面を浮かべる。


 「もう!! 喋らないのなら、せめて首を縦か横に振りなさい!! ほら、やって見せて!!」


 そう言いながら、正面から回り込もうとするガミーヌだったが、何故か途中で歩みを止めた。


 「おっと、そうだったわ。あなたの行動を阻害しちゃいけないんだったわね」


 思い出したかの様に、ガミーヌは再びエクスの真横を歩き始める。そしてドヤ顔を浮かべる。


 「ふふん、驚いた? ちゃんと知ってるのよ、エクスルール。この私のパーティーに入るんだから、それ位把握して当然よね。ちょっとは見直したかしら?」


 しかし、エクスは相も変わらずガミーヌをフルシカト。先へ先へと突き進んで行く。その様子にガミーヌが溜め息を漏らす。


 「あなたって、本当に愛想が無いわね。そんなんじゃ、友達が出来ないわよ。でも、そんな友達作りが下手なあなたに朗報よ。私のパーティーに入れば、私という友達が出来るわ」


 何とかパーティーを組もうと、自身を売り込みまくるガミーヌ。だが、それでも一切の反応を示さないエクス。するとガミーヌは、何かを察した様な表情を浮かべる。


 「ははーん、そういう事……全くしょうがないわねー」


 頬を少し赤らめながら、ニヤニヤと笑みを浮かべるガミーヌ。防具を脱ぎ捨て、中の下着をチラチラと見せ付ける。


 「ほらほら、これが欲しかったんでしょー? エクスも男なのねー」


 “うふーん”という効果音が付きそうなポーズを取りながら、色っぽい声で誘惑するガミーヌだったが、当のエクスは一度も振り返る事無く、そのまま素通りした。


 「…………」


 人という立場だけで無く、女性という立場でも侮辱され、ガミーヌは恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤に染めた。


 「ふざけるんじゃないわよ!! あなたね、女性にこんな事までさせておいて、それでも無視するなんて人間として……いえ、生物として最低よ!! 男なら少しは女性を敬ったらどうなの!!?」


 ガミーヌは脱ぎ捨てた防具を拾い、光の速さで追い掛けて怒鳴り散らすが、エクスは頑として無視を決め込んでいる。


 「むぎぎ……!!!」


 平然とした態度のエクスに対して、こちらは全身に力を込め、声を張り上げている為、疲れていく一方。


 「どうやら私の事を嘗めている様ね……私を怒らせたらどうなるか、見せてあげましょうか!!?」


 遂に堪忍袋の緒が切れたガミーヌは、懐の剣を引き抜いた。しかし、何故かエクスには向けず周囲を見回し始める。


 「えっと……あっ、丁度良い所に“モンスター”がいるわ!!」


 ガミーヌの目線の先には、一匹のウサギがいた。しかし、普通のウサギと異なり、前歯と両耳が地面に擦れる程、異様に長かった。


 モンスター。それはこの世界に生息する動物が突然変異を起こし、姿形が変化した存在。基本的にモンスターは動物と比べ、非常に狂暴で一般人では対処する事は出来ない。その為、よく冒険者ギルドに討伐対象として依頼される事がある。


 このウサギもモンスターの類いだ。ガミーヌは意気揚々と抜いた剣を構える。


 「見てなさい。この私が、あの雑魚モンスターを軽く捻ってやるわ!!」


 そう言うとガミーヌはウサギの背後に回り込み、ある程度距離を縮める。


 「やぁああああああああ!!!」


 そして一気に走り出し、剣を思い切り振り上げ、勢い良く振り下ろそうとした。しかし……。


 「ぎゃふん!!?」


 大声を発した事で存在が気付かれ、前歯を地面に突き刺すと体全体を持ち上げ、後ろ足によるカウンターを顔面に叩き付けた。情けない声を上げながら、仰向けに倒れるガミーヌ。倒れた衝撃で剣を落としてしまう。


 「いたた……えっ?」


 すると、倒れたガミーヌの胸元にウサギが乗って来た。ウサギは真っ赤な目でこちらをじっと覗いてくる。


 「こ、こんにちは……ウサギって可愛いわよね。わ、私ウサギが大好きなの……」


 ガミーヌが倒そうとしたウサギ。正式名を“ウサギッド”と呼ぶ。異様に伸びた前歯と両耳でトリッキーな戦いをする。戦闘能力は他のモンスターと比較しても低く、少し訓練した一般人でも倒せるレベル。しかし、自分より弱い相手にはとことん“嫌がらせ”をしてくる。


 ガミーヌが何とか助かろうとご機嫌を取っていると、突如としてウサギッドが踵を返し、尻尾をくいっと上に持ち上げた。


 「ま、まさか……!!?」


 ガミーヌの目の前で、ウサギッドの菊の門がひくひくと動き始める。そして次の瞬間、コロコロと大量の焦げ茶色の玉が顔面に降り注いだ。


 「うきゃああああああ!!?」


 慌てて立ち上がるガミーヌ。両手で顔を払い、ぺっぺっと唾を吐き出す。そんな必死に汚れを落とすガミーヌを観察していたウサギッドは、まるでカートゥーンアニメの様に口元が歪み、歯茎を剥き出しにしながら、キシシシという笑いを発する。


 「ムキー!!! よくもやってくれたわね!! 絶対に許さないんだから!!」


 そう言って剣を拾い、ウサギッド目掛けて振り下ろすも、意図も簡単に避けられてしまう。


 「ちょこまかと……避けるんじゃ無いわよ!!」


 何度も剣を振り払うも、ウサギッドにはかすり傷さえも与えられない。


 「はぁ……はぁ……はぁ……」


 やがてガミーヌは肩で息をし始め、剣が杖代わりになってしまう。そんな哀れな様子にウサギッドはあくびをして、堂々と昼寝をし始める。


 「この糞ウサギが……もう頭に来た!! エクス!! この生意気な性悪ウサギを討伐してちょうだい!!」


 自分では倒せないと悟ると、躊躇無くエクスを頼るガミーヌ。しかし、いつまで経ってもエクスの助けは来なかった。


 「ちょっとエクス!! 何をしているの……って!!?」


 先程までいた場所に目を向けると、既にエクスの姿は無かった。辺りを見回すと、地平線の先にエクスの姿があった。


 「ちょ、ちょっと!!? 仲間が助けを求めているのに、見捨てるつもり!!?」


 それでも止まる気配の無いエクス。地団駄を踏みながら、エクスとウサギッドを交互に見つめる。


 「うぅ……もう!!」


 そしてガミーヌはウサギッド討伐を諦め、エクスの後を追い掛ける事にした。


 「覚えてなさいよ!! 絶対いつかリベンジしてやるんだからー!!」


 ウサギッドに再戦を誓いながら……。

前回、ガミーヌにはアリスを名乗らせていましたが、よくよく考えれば家柄を隠したい人が、ファミリーネームを名乗るのは可笑しいと気が付き、急遽下の名前であるガミーヌの方を名乗らせました。どうかご了承下さい。

では次回もお楽しみに!!

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