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居場所

連れ去られた妹。

いったい彼女は何処にいるのだろうか!?

 「それじゃあ……あなたはっ……」


 「…………」


 シヴァハから語られた衝撃の過去。そして意外なグレルとの関係に、ガミーヌは絶句してしまう。


 「……今までずっと妹さんの為に?」


 「……親を亡くした俺にとって、唯一残された家族のパチェは、これからの人生を生きる意味の全てだった。だから、絶対に失いたく無かった。あの日以来、俺は忠実にグレルとの約束を守っている」


 「それで……妹さんとは会えたの?」


 「……何度かグレルに交渉を持ち掛けた……が、奴は聞く耳を持たなかった。パチェとは、この三年間一度も会えていない」


 「自宅には戻っていなかったの?」


 ガミーヌの問い掛けに首を横に振るシヴァハ。目線を正面から下ろし、力無く項垂れる。


 「グレルは用心深い奴だ。目撃情報は勿論、連れ去った痕跡すら一切残していない」


 「っ!!? どうしてそんな悪党を野放しにしているのよ!! あなたが本気を出せば、あんな奴簡単に倒せるでしょ!!?」


 「さっきも話しただろう。奴に手を出せば、パチェに被害が及ぶ。何度か暗殺も考えたが、仮に上手く殺せたとしてもそこまで。居場所が分からなければ助け出す事も出来ない。それどころか、グレルの手下にバレて、パチェが殺されてしまうかもしれない」


 「八方塞がり……って事なのね」


 「あぁ……」


 ガミーヌは怒りとやるせなさから、両手の拳に力が入る。掌に爪が食い込み、血が流れる。


 「だからって……」


 「?」


 「だからって、このままで本当に良い訳!!? 妹さんを奪われて、グレルなんかに良い様に利用されて、死ぬまで会えないかもしれないのよ!!? シヴァハ、あなたはそれでも良いの!!?」


 「……良い訳が無いだろう」


 「だったら、何か行動を起こしなさいよ!!」


 「行動ならもう既に起こしている」


 「え?」


 シヴァハの予想外の言葉に、ガミーヌは一瞬表情が固まる。


 「この三年間……俺はずっとパチェが監禁されている場所をグレルにバレない様、慎重に捜索していた」


 「そ、それで見つかったの?」


 ガミーヌの期待とは裏腹に、シヴァハは首を横に振る。


 「建物の中や近くの洞窟、クーリエ中を隈無く捜索したが、パチェはおろかパチェに関する痕跡すら見つからなかった」


 「そんな……ま、まさか妹さんは既に「いや、それはあり得ない」……で、でも!!」」


 国中探しても見つからない。そうなれば、残された可能性は少ない。そしてガミーヌは最悪の可能性が頭を過った。しかし、それをシヴァハは真っ向から否定する。


 「俺も、一度はその考えに至った。だが、もし本当にパチェが死んでいたとしたら、グレルはその死体を処理しなければならない。そうなればその行動に見合っただけの情報が流れる。しかし、ここ三年で上がった死体の中に、パチェの物は無かった」


 「そ、そう……良かった……」


 取り敢えず、最悪の可能性は避けられた事にホッと胸を撫で下ろすガミーヌ。しかしそうなると、疑問はますます増える。パチェは何処にいるのか。


 「ねぇ、もしかしてもうこの国にはいないんじゃないの?」


 この国にはいない。それが最も高い可能性であった。クーリエ中を隈無く捜索して見つからないのなら、最早この国では無い何処かに運び込まれてしまったと考えるのが妥当であろう。


 「……いや、それもまず無いだろうな」


 しかし、シヴァハはこれも否定する。


 「ど、どうしてよ?」


 当然、ガミーヌは理由を問い質す。


 「国境を越えた移動は、死体処理よりも情報を残す。例え夜中にこっそり運ぼうとしてもな。ここ三年で上がった国境越えの情報は全部で13件。その中にパチェの姿は確認出来なかった。それに……」


 「それに……?」


 「グレルは用心深い上に、他人を全くと言っていい程信用していない。コロシアムでの試合の手配や、今回のトーナメントの準備でさえも、全てグレルが一人で用意したんだ」


 「えっ、そうなの!!? で、でもあのスタッフの人達は!!?」


 「あいつらはグレルが試合中、実況と解説で手が離せない時だけ働く。所謂、ヘルプの様な存在だ」


 「そ、そこまで徹底するなんて最早病的ね……」


 「全くだ。だが、だからこそ奴の行動を読む事が出来る。グレルの様な人間不信が大事な人質を他人に預け、ましてや他国に運ぶなんてリスクの高い事は、絶対に選ばないだろう」


 「確かにその通りね」


 シヴァハの説明に妙な納得感を覚える。だが、それならますます疑問は増える。


 「それならいったい妹さんは、何処に監禁されているって言うのよ?」


 「……俺はさっき国中と言ったが、正確には全てじゃない。一ヶ所だけ、まだ探せていない場所があるんだ」


 「何だ……それならそうと早く言いなさいよ。きっと妹さんはそこにいるに違いないわ。いったい何処なのよ?」


 「ここだ」


 「……え? 今、何て……?」


 聞き間違いではと思い、もう一度聞き返す。


 「このコロシアムの何処かに、パチェは監禁されている」


 「う、嘘でしょ!!? こんな怪しい場所、まず真っ先に調べるわよ!!?」


 信じられないという表情を浮かべるガミーヌ。


 「コロシアムではずっと試合でわざと負け、その後グレルに休み無く追い出されるやり取りを繰り返していた。今に思えば、あれらは俺にこのコロシアムを探られたく無かった故の行動なのかもしれないな」


 「かもしれないな……じゃないわよ。どう考えてもそうに決まっているでしょ。あなた、変な所で抜けている所があるわね」


 「…………」


 何も言い返せないシヴァハ。表情は一切変わっていないが、心なしか落ち込んでいる様にも見える。会話の途中で黙ってしまったシヴァハに対して、ガミーヌは溜め息を漏らしながら問い掛ける。


 「それで? いったいコロシアムの何処に監禁されているの? コロシアムといっても、人一人位なら何処にだって隠せるわよ?」


 「大体の検討は付いている。恐らくグレルの自室だ」


 「自室って……確か面接の時に通されたっていう部屋?」


 「あぁ、だがグレルの用心深さから考えても、やはり自分の手が届く所に置いておきたいだろう。あの部屋は面接の時以外、グレルしか入れないからな」


 「そういえば、コロシアムのスタッフすら入れなかったらしいわね。確かに可能性としては一番あり得るかもだけど……登録した戦士はその部屋に通されるのよね? それだったら一人位、妹さんを見ても可笑しくないと思うけど……」


 「そうだ。だから俺はあの部屋に秘密の入口があると睨んでいる」


 「秘密の入口ですって!!?」


 「コロシアムはここ三年で何度か改装している。それら全てにグレルの手が加えられている。勿論、あの自室にもな」


 「それじゃあやっぱり……」


 「そして、基本的にグレルは他人をあの部屋には通さない。仕事中以外は、ずっとあの部屋にこもりっぱなしになるんだ」


 「成る程ね。調べようにも隙が無いって事……いったいどうするつもりなの?」


 「実はグレルが長い間、自室から離れる瞬間がある。それがこのコロシアムトーナメントの時だ」


 「そうか!! グレルは実況・解説をしなければいけない立場。平常日に行われる一試合なら兎も角、連続で休み無く試合が行われるトーナメントでは、戻りたくても戻れないのね!!」


 「あぁ、トーナメントでは他国の貴族連中が観戦に来る。つまりグレルは私用で抜け出す事は出来ない。さすがのあいつも他国を敵に回すつもりはないからな」


 「なら、こんな所でぐずぐずしてないで、さっさと探しに行きましょう!!」


 「そう簡単にはいかない。あの部屋を調べるには、大きな問題があるんだ」


 「大きな問題?」


 「さっきも話したが、あの部屋には錠前が三つ付いている。鍵はグレル本人しか持っていない。つまり、何とかして奴から鍵を気付かれない様、奪わなければいけないんだ」


 「そんなの扉ごと破壊しちゃえば良いじゃない」


 「万が一扉を破壊して、周りのスタッフにバレれば直ぐ様グレルの耳に届く。あの部屋の何処かに秘密の入口があって、その先にパチェが監禁されている……これはあくまでも可能性の話なんだ。確証があるわけじゃない。もし、何処にもいなかった場合、パチェの身が危険に及んでしまう」


 「うっ……そ、そうね……軽率な考えだったわ……でも、それならどうするのよ。グレルから気付かれずに鍵を盗み出すなんて出来るの?」


 「それは…………」


 押し黙るシヴァハ。ここまで突き止める事が出来たが、肝心な所で手詰まりとなってしまった。しかし、ここで諦める訳にもいかない。いったいどうしたものかと頭を抱えていると……。


 「……はぁー、しょうがないわね。このガミーヌ様が手伝ってあげるわよ」


 「なっ!!? 何故だ!!?」


 「何故って……逆に今の話を聞いてほっとける訳が無いでしょ」


 「だが、もし失敗すればお前もタダじゃ済まないんだぞ!!?」


 「私は試合が終わって、次の試合までまだ余裕がある。逆にあなたはもうすぐ出番でしょ」


 「あ、あぁ……」


 「このコロシアムに長く居座るには、勝ち残るしか道は無い。だけどあなたはグレルに負ける様、強制されている。もし、居座る為に試合で勝とうものなら何か企んでいる事が、直ぐにバレてしまうわ」


 「それはそうだが……」


 「だからそれまでに何とかして、私がグレルから鍵を奪って見せる。そして部屋に行って秘密の入口を見つけ、妹さんを助け出して見せるわ」


 「そんなの無茶だ!! それにこれは俺の問題だ。俺がやるべきなんだ!!」


 「シヴァハは、グレルに感付かれない様、出来るだけ試合を長引かせて」


 「だから止めろと言っているんだ!! これは俺の……「自惚れるんじゃないわよ!!」……っ!!?」


 シヴァハの制止に怒鳴り声を上げるガミーヌ。


 「ここまで話を聞いて、大人しく引き下がる程、人間腐っちゃいないわよ。あなたも話したのなら、話した者の責任として素直に助けられなさい」


 「……本当に……良いんだな?」


 「えぇ」


 「後悔は……しないんだな」


 「勿論」


 「なら……頼む……力を……貸してくれ!!」


 「このガミーヌ様に、任せなさい!! グレルの奴を出し抜いて、妹さんを助け出すわよ!!」


 そして、ガミーヌ達はグレルから鍵を奪う為に行動を開始するのであった。

果たしてガミーヌ達は無事にグレルから鍵を奪えるのだろうか!?

次回もお楽しみに!!

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