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コロシアムの闇

今回はシヴァハの過去が明らかとなります!!

何故、彼はコロシアム史上最弱の戦士と呼ばれる事となったのか。その秘密が明らかとなる!!

 23年前、当時5歳だった俺は、妹の“パチェ”と二人、ここクーリエで暮らしていた。


 父はそれなりに腕の立つ戦士だった。だが、あくまでもそれなりの腕。天才と呼ばれる者達相手には、到底太刀打ち出来ない。そしてある日、というよりいつかそうなるであろうと思った通り、父は対戦相手に殺された。


 クーリエではよくある事だ。まだ赤ん坊で自我の無いパチェは勿論、俺もそれ程悲しくはならなかった。しかし、母は違った。


 長年、父と寄り添い愛し合っていた母は、父の死の知らせに絶望し、自室に塞ぎ込んでしまった。


 俺はしばらくそっとしておいてやろうと、その日の食料とパチェの離乳食を買いに出掛けた。そして再び家に帰った時には……。


 「ママ?」


 母は自室で首を吊って亡くなっていた。


 その時、俺は心に誓った。残ったパチェを守れる位、強くなってやると。


 それから10年の月日が流れ、俺は15歳、パチェは10歳になった。肉体的にも精神的にも強くなった俺は、仕事に明け暮れる毎日。一方、パチェは若干10歳にも関わらず、この国一の可愛さを持っていた。言い寄って来るハエがいないか、仕事中も気が気でならなかった。


 クーリエでは仕事探しには困らない。何故なら、皆馬鹿みたいに戦士の道を目指すからだ。その他の職業は常に人手不足だった。


 当時こそ俺は幾つもの仕事を掛け持ちしながら、自分とパチェを養えていたが、両親を亡くした直後は出来る事も少なく、今よりも生活は厳しかった。


 それでも生き延びられたのは、両親が溜め込んでいた貯金があったからだ。それを少しずつ切り崩しながら、俺達兄妹は何とか生活を送れていた。


 パチェも協力的で、俺が仕事で忙しい間、学校が終わると寄り道せず真っ直ぐ帰宅して家事を手伝ってくれる。両親がいなくて寂しい筈なのに、本当に出来た妹だ。俺にはもったいない。


 だが、今度は別の問題が発生した。


 「おい、“親無し”。何処に行くつもりだ?」


 帰り道、パチェの通り道をクソガキどもが遮り、取り囲む。“親無し”。それは俺とパチェに付けられたあだ名。俺達兄妹の事を快く思わない連中がそう呼び、定期的に虐めるのだ。それも、俺が仕事で離れて、パチェが一人になった所を狙って。


 「い、家に帰る所……」


 「『い、家に帰る所……』だってよ。親がいないお前に、帰る所なんてねぇんだよ」


 パチェのクラスメイト。事ある毎にパチェにちょっかいを出す奴らだ。特にリーダー格。丸刈りで10歳にしてはガタイの良いそいつは、執拗にパチェを虐めていた。


 「うっ……うぅ……」


 「おーおー、可愛らしく泣いちゃって。けどな、お前の親は弱いから死んだんだ。この国では弱い奴は死ぬ。常識だ。お前もその内死ぬ事になるぞ」


 「確かにこの国では弱い奴は死ぬ。だが、俺の妹は死なない。何故か……」


 「おまっ……!!?」


 「俺がいるからだ!!」


 俺はそのリーダー格を殴り飛ばした。すると、周りの取り巻きは蜘蛛の子を散らす様に、あっという間にその場からいなくなった。


 「くそっ!! 必ずお前ら兄妹を泣かしてやる!!」


 「へぇ、それなら今すぐ泣かしてもらおうじゃないか」


 「ヒィ!!」


 リーダー格はガタイに似合わず、女々しい声を上げて、へっぴり腰になりながら逃げ出した。


 「ふん、臆病者が」


 「お兄ちゃん……」


 「パチェ、大丈夫だったか? 怪我とかしてないか?」


 「うん……私は大丈夫……うっ、うぅ……」


 言葉とは裏腹に、すがり付いて泣きじゃくるパチェ。そんな妹を強く抱き締めて、俺は更なる力を望んだ。妹に手を出させない程、強くなる。


 それから更に10年の月日が流れ、俺は25歳にパチェは20歳になった。俺は更に強く、そして妹は可愛さに更に磨きが掛かった。そして勿論、パチェに男が言い寄る隙は一切与えていない。


 「お兄ちゃん。大切にしてくれるのは嬉しいけど、あんまり過保護にならないで。私はもう立派な大人なんだから、自分の事位、自分で何とか出来る」


 だが、それがいい迷惑だったらしく、パチェに注意されてしまった。


 「しかしだな……」


 「それにお兄ちゃん、本当は戦士になりたいんでしょ?」


 「なっ!? ど、どうしてそれを……!?」


 「だってお兄ちゃん、暇な時はいつもコロシアムの方を見てるんだもん。誰だって気付くよ」


 「…………」


 クーリエに生まれた男として、例外無く俺も戦士になりたいと思っていた。だが、父の一件もあってか、俺は戦士になる事を避けていた。しかし、心の何処かではやはり諦めきれずにいたのかもしれない。


 「私なら大丈夫。お兄ちゃんは、ずっと私の為に頑張って来たんだから、これからはもっと自分の為に頑張って」


 「だ、だが俺は……」


 「それともまさか、勝つ自信が無いの?」


 「馬鹿言うな!! 俺は絶対に負けない!!」


 「えー、心配だな。お兄ちゃん、変な所で優しいから相手に勝ちを譲っちゃったりして……」


 「分かった。そこまで言うなら、見せてやる。戦士になって、全戦全勝の姿を!!」


 「ふふっ、楽しみにしてるね」


 「全く……焚き付けるなら、もっと遠回しにしてくれないか?」


 「それじゃあいつまで経っても、前に進まないでしょ。お兄ちゃんも、そろそろ妹離れしないと」


 そう言いながら、パチェは俺の腕に抱き付いて来る。


 「お前こそ、兄離れするべきなんじゃないか?」


 「私はいいの!!」


 満面の笑みを浮かべ、自分の事を棚に上げるパチェ。そんな妹を見て、俺は自然と顔が綻んだ。


 せっかくパチェが与えてくれたこのチャンス。活かせなきゃ、兄として失格だ。その日、俺は必ずコロシアムの戦士になる事を誓った。




***




 「シヴァハ様ですね、承りました。戦士登録を済ませますので、こちらで少々お待ち下さい」


 コロシアムの戦士になる事は、そう難しくない。受付で戦士登録を済ませた後、コロシアムのオーナーと面接し、そして実際会場で新人戦士同士で戦わせる。勝ち負けは関係ない。あくまでも、コロシアムでの戦いの感触を味わって貰う為のデモンストレーションだ。勿論、勝ち負けは関係ないと言っても、負けるつもりは微塵も無いがな。


 「お待たせしました。戦士登録が完了しましたので、続いてオーナーとの面接となります。どうぞこちらへ」


 無事に戦士登録を済ませると、直ぐにオーナーがいる部屋まで案内された。オーナーの部屋はコロシアム内に存在している。他の戦士達とは異なり、完全個室。オーナー本人と、許可を得た者のみしか入る事が許されない特別な部屋。扉には大きな星の装飾品が付けられており、他の部屋と差別化されていた。錠前も三つ取り付けられており、その厳重さが伺えた。そんな事を考えている中、受付嬢がドアをノックする。


 「オーナー、連れて参りました」


 『ちょっと待ってろ』


 中から声がしたかと思えば、錠前をガチャガチャと外す音が聞こえて来る。やがて三つ全ての錠前が外されると、再び中から声が聞こえて来た。


 『よし、入っていいぞ』


 「失礼します」


 自分では開けず、わざわざ受付嬢に開けさせる徹底ぶり。さすがに警戒し過ぎじゃないか? しかし、どうやらこれはいつもの事らしく受付嬢は手慣れた様子で扉を開ける。


 「どうぞ、中へお入り下さい」


 「……あんたは入らないのか?」


 受付嬢は扉を開けると、自分では無く俺を先に中へ入れようとした。少し引っ掛かった俺は、それとなく確かめた。


 「はい、この部屋に入れるのはオーナーと面接に来た戦士のみですから」


 「……そうか」


 異常だった。いくらオーナーとはいえ、関係者すら一歩も部屋に通さないなど、徹底を通り越して最早病的。それ程、“他人”を信用していないという事なのだろうか。


 今に思えば、あの時から既に俺は奴の術中に嵌まっていたのかもしれない。俺は特に気にせず、部屋の中へと足を踏み入れた。




***




 部屋に入ると、後ろで受付嬢が扉を締めた。部屋の中を一言で表すとすれば、ごちゃごちゃしていた。


 机、本棚、クローゼットにタンス、サイドテーブル、ロッキングチェア、ソファ、観葉植物、壁掛け棚、観賞用の鎧、巨大な絵画と、テーマも何も無い。まるで欲しい物を片っ端から手に入れて、部屋の中にぶち込んだ。そんな感じの部屋だった。目のやり場に困っていると、最終的に部屋の真ん中に立つ男に目が行った。


 「よう、お前がシヴァハか!! 俺がここのオーナー兼実況・解説を勤めている“グレル”だ。これから長い付き合いになると思うから、覚悟しとけ。へっへっへ」


 掛けていたサングラスを片手で持ち上げ、挨拶を交わすチャラい男。それが俺とグレルの初めての会合だった。


 年齢は俺より若い。どちらかといえば、パチェと近いかもしれない。そんな若造がコロシアムのオーナーを勤めているなど、とても信じられなかった。



 「んじゃまぁ、ぱぱっと面接を終わらせちゃおうか」


 そう言うとグレルは、一枚の紙切れを俺に手渡した。そこには絵が掛かれていた。人の姿が描かれていた。


 「これはっ!!?」


 俺の大切な妹。パチェが縛られている絵だった。


 「な、何だこの絵は!!? 冗談にしても、悪趣味過ぎるぞ!!」


 「勿論、冗談じゃないさ。可愛い妹は俺が捕らえた」


 「何だとっ!!!」


 俺はグレルの胸ぐらを掴み、殴り掛かろうとした。嘘かどうかなど、どうでもよかった。こいつをぶっ飛ばし、妹を助ける。俺の頭にはそれしか無かった。だが……。


 「おい、俺にちょっとでも怪我を負わせてみろ。お前が次に妹と会う時、彼女は既に死体になってる」


 「貴様!!」


 「俺はずっと待っていた、この瞬間を!! お前がくだらない夢に走って、妹の側から離れるこの瞬間を!!」


 「お前はいったい何者なんだ!!?」


 「聞いてなかったのか? 耳の遠い奴め。俺はグレル!! このコロシアムのオーナーにして、実況・解説を勤めている!! そしてこのクーリエでは、コロシアムこそが全て!! コロシアム無くしてクーリエは存在しない!! つまり、そのコロシアムを支配するこの俺こそ、クーリエの絶対的な支配者なのさ!!」


 「っ!!!」


 こんな奴がコロシアムのオーナー。クーリエの支配者。悪い夢なら覚めて欲しかった。だが、悪い夢は当分の間、覚めそうにはなかった。


 「ほら、さっさとその手を離せ。じゃないと、妹の命がどうなっても知らないぞ」


 「……ぐっ!!」


 俺は言われるがまま、グレルの胸ぐらを離すしかなかった。


 「そうだ、利口だぞ。そうして俺の言う事に素直に従っていれば、妹の命も安全って訳だ」


 「いったい……俺に何をさせようと言うんだ……」


 その言葉を待っていましたと言わんばかりに、グレルは邪悪な笑みを浮かべ、俺と肩を組み、顔を近付けて来る。


 「何も難しい話じゃない。他の戦士達同様、お前には戦士としてコロシアムで戦って貰いたい」


 「それだけ……「ただし!!」っ!!?」


 「その全ての対戦にお前は負けなければいけない」


 「何だと!!? 俺に八百長しろと言っているのか!!?」


 「おいおい、人聞きの悪い事を言うな。八百長は対戦相手との合意の下、成り立っている。だが、この事は相手は一切知らない。つまりお前は相手に悟られず、わざと負けるんだ。勿論、バレたら妹は殺す」


 「この外道が!!」


 「何とでも言え。さぁ、どうする? 妹を助ける為、話に乗るか? それとも勝って妹を殺すか? 選ぶのはお前だ」


 「…………」


 “私なら大丈夫。お兄ちゃんは、ずっと私の為に頑張って来たんだから、これからはもっと自分の為に頑張って”


 “分かった。そこまで言うなら、見せてやる。戦士になって、全戦全勝の姿を!!”


 俺に残された選択肢は無かった……。



 

***



 「勝負あり!! 勝者は“デボレ”!! 何と呆気ない戦いでしょうか!! シヴァハ、デボレに手も足も出せず敗北だぁあああああ!!!」


 「…………」


 負けた。全戦全勝の夢よりも、妹の命の方が大切だ。


 「へっ、弱過ぎて歯応えが無かったぜ。お前、本当に戦士なのか? 今すぐ辞めた方が身の為だぜ」


 「…………」


 「シヴァハ、何も言い返せない!! コロシアムの歴史上、ここまで弱い戦士がいたでしょうか!!? 正にコロシアム史上最弱の戦士だぁあああああ!!!」


 「……っ!!!」


 グレルの悪意ある実況が耳にこびりつく。こうして俺はコロシアム史上最弱の戦士として、その名を未来永劫刻み込む事となった。だが、そんな事はどうでもよかった。妹を……パチェを救う為だったら、全てを犠牲してやる。


 その帰り道、グレルが俺の前に現れた。ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。


 「いやー、お疲れちゃん。どうだった、初の“敗北”は?」


 「そんな事はどうでもいい。それより、約束は守れよ。お前の言う通り負け続けてやる。その代わり……!!」


 「はいはい、妹の身は保証してやる。それどころか、豪華な食事と服で豪遊三昧の生活を送らせてやるよ」


 「もし、約束を破ったりしたら、お前を殺してやるからな」


 「それはこっちの台詞だ。お前こそ、約束を破ったりしたら、妹の命は無いと思え。いいな?」


 「くっ……」


 「あっ、それと言い忘れてたが、普通の試合の他に毎年行われるコロシアムトーナメント。あれにはお前は出るなよ、戦士が夢見る大舞台、お前が出てもどうせ意味ないんだからな」


 「そんなのこっちから願い下げだ」


 「それじゃあ、今後ともよろしく頼むぜ。コロシアム史上最弱の戦士さんよ。へっへっへ」


 「…………」


 俺は必ずパチェを救うと心に誓った。

全ては妹を助ける為。

次回、シヴァハの為にガミーヌが立ち上がる!!

次回もお楽しみに!!

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