不穏な影
先週は更新出来ず、申し訳ありませんでした。
リアルの方が忙しく、書く時間がありませんでした。
今後もこうした事態になるかもしれませんが、どうかご了承下さい。
ルムとブルーメの戦いは、見事ルムの無血勝利となり、観客達が興奮で沸き立つ中、休息所の窓から戦いの様子を眺めていたガミーヌも、興奮が冷めずにいた。
「さすがはルム!! まぁ、私の仲間なんだから当然の結果よね!!」
そう言いながらも、嬉しそうに笑みを浮かべて小躍りするガミーヌ。そんなはしゃぐ彼女の様子を見て、ムスケルが鼻で笑いながら話し掛けて来る。
「ふっ、どうやらお仲間は勝ち上がった様だな」
「えっ……えぇ、ど、どうやらそうみたいね!? べ、別にどうでもいいけどね!!?」
先程とは打って変わって、興味無さそうな振りをするガミーヌ。素直になれない彼女に、ムスケルは自分を負かした奴だが、中身はまだまだ子供なのだと、何処かホッとしていた。
そして、負けた腹いせにそれを弄って辱しめる事も考えたが、ムスケルも一端の戦士。プライドがあった。敗者は只黙って事実を受け入れるしかない。
「そうか、それなら“大丈夫”そうだな」
「大丈夫そう? いったいどういう意味よ?」
先程のガミーヌの言葉に対して、ムスケルの返しは適切とは言えなかった。その事が妙に気になったガミーヌは、思わず聞き返す。そんな彼女にムスケルは、本気か?という驚きの表情を浮かべるも、直ぐに本気だという事が伝わり、同時に呆れた表情を浮かべる。
「あー、成る程な……それ以前の問題だったか……」
「いったい何なのよ。何か知っているのなら、まどろっこしい言い方しないで、今すぐ教えなさいよ!!」
自分だけ知らない。自分だけ除け者。それはガミーヌにとって、堪え難い物だった。苛立ちを隠せず、先程よりも強い口調で聞き返す。
「いいか、これはコロシアム“トーナメント”なんだぞ?」
「それが? 何だって言うのよ?」
意外にもアッサリと教えてくれたムスケル。しかし、ガミーヌの理解力が乏しく、これだけで察する事は出来なかった。すると今度は、言葉を選んで分かりやすく答えるムスケル。
「つまりだ、このままお前とお前の仲間が勝ち上がって行けば、必ず何処かでぶつかり合う時が来るって事だ。そうなった時、お前は仲間に剣を振るえるのか?」
「そ、それは……」
ムスケルに言われて、初めて気が付いた……という訳じゃ無い。度々、脳裏を過った事だ。しかし、ガミーヌは考えない様にした。現実から目を背けた。まだ時間はある。まだ大丈夫と物事を先送りにした。そして遂に、他人の口から告げられる事で、どうするべきかを無理矢理考えさせられる事となってしまった。
「お前が強いのは、この俺が保証する。だが、お前の仲間は別格だ。間違いなく、優勝に最も近い存在と言える。そして悪いが今のお前の実力じゃ、勝つのは不可能だ」
「っ……!!!」
「一方で、お前の仲間はお前の事をえらく慕っている。もし、お前とぶつかり合う事となれば、恐らく向こうはお前を思って棄権するだろう。だが、そんな情けを掛けて貰って優勝しても、お前は嬉しいか?」
「そんな訳無いじゃない!!」
嬉しい訳が無い。そんな事をされてしまっては、仮にそれで優勝出来たとしても、八百長という事で取り消されてしまう。何より、折角仲直りしたルムとの関係が、再び悪くなってしまう恐れがあった。ガミーヌが声を荒げて叫ぶ中、ムスケルが冷静な態度で、始めにした質問を聞き返す。
「じゃあ、戦えるのか?」
「…………」
押し黙ってしまうガミーヌ。たった一言、「戦える!!」と言えれば良かったのだが、そこまで割り切れる問題では無かった。
「……ちょっと……外の空気を吸って来るわ……ここはあまりに……むさ苦しいからね……」
数秒経って漸く出た言葉は、結局先送りにする物だった。苦しい言い訳までして、ここから一秒でも早く離れたかったのだろう。ムスケルは何も言わず、黙ってその背中を見送る。最早、仲間が勝ち上がって喜んでいた姿は、何処にも無かった。
「少し……意地悪が過ぎたか……」
天井を見上げ、ポツリと呟くムスケル。いずれ分かる事とはいえ、今のガミーヌに突き付けるのは、あまりにも酷である。敗者は只黙って事実を受け入れる……にも関わらず、大人げない行為に一人静かに反省するのであった。
***
休息所から逃げる様に出たガミーヌ。外の空気を吸うと言っていたが、実際は俯きながら、とぼとぼと重い足取りで当ても無く歩き続けていた。
「(考えもしていなかった……コロシアムに出て、軽く優勝して、またランクを上げるつもりだった……)」
ふと足を止め、ぼんやりと会場を眺めると、そこでは出場している二人の戦士達が、血だらけになりながら戦っていた。
そんな二人の姿を自身とルム、そしてエクスと重ね合わせる。その瞬間、心臓の鼓動が一段と速くなり、ガミーヌは逃げる様にその場を後にする。
「はぁ……はぁ……」
呼吸を整え、気持ちを必死に落ち着かせようとしている。しかし、どうしても余計な事を思い浮かべてしまう。
仲間同士で戦えるのか。八百長をして貰うのか。それともわざと負けるか。頭の中は戸惑いと緊張で、ごちゃごちゃになっている。
「もう……こんな事になるなら、私一人だけで出場するんだったわ……」
生まれて初めての冒険者、仲間、パーティー。皆で何か一つの物事に取り組むという楽しさ。そんな子供ながらのワクワクを抑えきれず、結果この様に思い悩む事になってしまった。
「……ん?」
そんな中、ガミーヌの目線の先に、見覚えのある人物が立っていた。
口元を覆い隠すボロボロな赤いマフラー、それと同じ色合いをした赤髪の長髪。そして傷一つ付いていない綺麗な白い肌。それは“シヴァハ”に間違いなかった。
「あいつ、こんな所で何やってるのよ?」
ガミーヌが歩いて来たこの場所は、戦士達の控え室からも、休息所からも、会場への出入り口からも遠い場所だ。ガミーヌの様に、ルムやエクスなど誰かと鉢合わせず済む様に、意図的に歩いて来なければ辿り着けない。
ましてや、シヴァハはまだ一回戦すら終えていない。もうすぐ自分の番だというのに、こんな所にいるのはあまりにも不自然であった。そして見た所、シヴァハは“誰かを待っている”雰囲気であった。
「ねぇ、シヴァ…………」
と、呼び掛けようとした所で、ガミーヌは咄嗟に曲がり角の壁に身を隠し、様子を伺う事にした。待っている相手は誰なのか気になるというのは、あくまでも建前。本当は目の前の現実から少しでも、目を背けられる出来事が欲しかった。
しばらく様子を伺っていると、ガミーヌとは反対の方角から、人影がこちらに向かって来るのが分かった。 やがて、シヴァハが待っていた相手の姿が明らかとなる。
『いやー、悪かったな。出番がもうすぐなのに、突然こんな所に呼び出したりして』
「別に間に合えば問題無い。それよりも、お前こそ途中で会場を抜けて来ても大丈夫なのか、“グレル”?」
意外も意外、そこに姿を現したのはコロシアムトーナメントの実況及び解説役の“グレル”だった。
しかも、話から察するに呼び付けたのはシヴァハでは無く、グレルの方らしい。大事な現場を離れてまで、シヴァハに会いに来た。
「心配するな。観客達には一時的なトイレ休憩と説明してある。序盤ならともかく、後半の今だからこそ使える手だ。だからこそ、お前の順番を後の方に根回ししておいたのさ」
「成る程、お前が実況を捨ててまで会いに来るだなんて、可笑しいと思った」
「当たり前だろ? 俺にとって、この仕事は命より価値がある。さて、時間もあまり無い事だし、早速本題に入らせて貰うが……」
そう言いながらグレルは、サングラスを外す。そして次の瞬間、グレルはサングラスを持ったまま、その腕でシヴァハの首を押さえ付け、壁に叩き付ける。シヴァハは下手に抵抗せず、されるがままだった。
「!!?」
突然の出来事に声を上げそうになるガミーヌだが、何とか両手で口を抑えて、声が出るのを防ぐ。
サングラスを外したグレルの目は、一切眉毛が生えておらず、更に眉間にシワが寄っており、そしてとても堅気とは言えない程、鋭い眼光をしていた。そんな恐ろしい見た目をしているグレルに怯む事無く、睨み返すシヴァハ。すると、グレルがもう片方の手でモヒカンの髪を掻き上げ、話し掛ける。
「お前さ、いったいどういうつもりな訳?」
それは先程までの陽気な声とは裏腹に、低めで脅す様な凄みが含まれる声をしていた。
「何の話だ?」
グレルの質問にシヴァハは、瞬きすらせずに答える。
「惚けんじゃねぇ。何でお前がこのコロシアムトーナメントに出てるのか、聞いてんだよ」
「決まっている。勿論、優勝する為だ」
「優勝だぁ? おいおい、俺の聞き間違いか? 優勝……優勝するか……ふざけんじゃねぇぞ!!」
「ぐぅっ!!!」
そう言うとグレルは、シヴァハの首を押さえ付けている腕の力を強める。一層苦しさが増し、思わず声が漏れるシヴァハ。
「なぁ、シヴァハよ。お前、忘れてねぇよな。お前はこれから先ずっと、“負け続ける”んだ。じゃないと、お前の“妹”がどうなっても良いのかなぁ!!?」
「……“妹”?」
グレルの言葉から聞こえた“妹”という言葉に反応するガミーヌ。
「誰だ!!?」
「!!!」
次の瞬間、グレルが大声を上げる。。ガミーヌはビクッと体を震わせ、咄嗟に壁を背にして隠れる。そんな中、慌てて辺りを見回し、近くに誰かいないか探そうとするグレル。その内、誰もいない事を確認すると単なる空耳と判断し、シヴァハへの問い詰めに戻る。
「それで? どうなんだ?」
「あぁ、勿論覚えている」
「じゃあ、さっきの言葉は悪ふざけって事だよな? 次の試合でお前は勿論棄権するつもりなんだよな?」
怒り狂った表情から打って変わって、薄気味悪い笑みを浮かべるグレル。その質問にシヴァハは、数度呼吸を繰り返した後……。
「……あぁ、そのつもりだ」
その言葉を聞いたグレルは、シヴァハの目を真っ直ぐと見つめた後、持っていたサングラスを再び掛け直す。
「いやー、良かった良かった。その言葉を聞けて安心したよ。俺はてっきり、お前が妹を見捨てて反抗しようとして来ているんじゃないかって、ヒヤヒヤしたんだ。だってそうだろう? お前が反抗して来たら俺は……お前の妹を殺さなくちゃならなくなる」
グレルは笑いながら、両手でシヴァハの両肩をポンポンと叩いて答える。
「でも、冗談だと分かって一安心だ。それじゃあ、俺はそろそろ会場に戻るよ。お前も、早く控え室に戻った方が良いぞ。もうすぐ試合だからな」
そう言って、グレルは片手を振りながら、元来た道を戻ろうとする。
「あっ、そうだシヴァハ。最後にもう一つ……」
すると、途中で立ち止まるグレル。振っていた手を止めて、人差し指を立てる。
「変な気は起こすなよ」
その言葉を最後に、グレルはその場を後にするのであった。
残されたシヴァハ。そして、隠れて話を盗み聞きしていたガミーヌ。二人はしばらくその場を動けなかった。そんな中、シヴァハはガミーヌがいる方向に向かって話し掛ける。
「もういなくなった。出て来ても大丈夫だ」
「……気が付いていたのね」
隠れている事がバレていたガミーヌ。誤魔化しも通じないと察し、大人しく出る事にした。
「寧ろ、あんな声を出してバレなかった事の方が奇跡だ。グレルが戦士じゃなくて良かったな」
「当然、話してくれるのよね?」
グレルとの関係。妹の話。聞きたい事は山程あった。ガミーヌの問い掛けに頷くシヴァハ。
「あぁ、全て話そう。俺の事……グレルという男の事……俺とグレルの関係……そして……コロシアムの“闇”について……」
次回、遂に明かされるシヴァハの過去!!
そして、このコロシアムに隠された闇とは!?
次回もお楽しみに!!
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