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コロシアム史上最弱の戦士

コロシアムに足を踏み入れたガミーヌ達。

そこで目にする赤髪の男が他の戦士達に絡まれる光景。

最弱呼ばわりされるその理由とは!?

 「最弱……?」


 屈強な戦士達が複数人で囲みながら、真ん中の赤髪の男を小バカにする光景に、ガミーヌは違和感を感じていた。


 それは先程、チンピラ達に絡まれた所を助けて貰ったからこその違和感だった。


 「(あの身のこなしと剣捌きは、並大抵の人間が出来る芸当じゃない。それも只の一人も怪我人を出さなかった。そういえば、ババアがよく言ってたな……)」


 赤髪の男の実力を振り返る中、ふと昔の思い出が甦る。




***



 

 大きな屋敷。花が咲き乱れる中庭で、今よりも幼いガミーヌと、白髪のポニーテールをしたシワの深い老婆が、木剣を構えながら向かい合っている。


 ガミーヌが険しい表情を浮かべる一方、老婆の方は余裕の笑みを浮かべている。あまりの緊張から額に汗を滲ませ、異様な喉の渇きから生唾を飲み込む。睨み合う時間が続く中、老婆から口を開く。


 「ほれほれ、どうした? さっさとかかって来たらどうだ? このままじゃ、日が暮れてしまうぞ?」


 「うっ……うわぁああああああああ!!!」


 老婆に挑発され、ガミーヌは雄叫びを上げながら、勢い良く走り出す。そして間合いに入った瞬間、持っていた木剣を下から上へと振り上げる。


 「きゃあ!!?」


 が、その攻撃を意図も簡単に弾き返し、逆にガミーヌの手元を狙い、武器を落とさせる老婆。


 「いつも言っているだろう。敵の体も良いが、まず狙うは持っている武器だ。戦力を削ぐのは戦いの基本だぞ」


 「だけど、それじゃあ敵を倒せないじゃない」


 「何も傷つけるだけが、戦い方じゃないぞ。無力化も立派な戦術だ。それに言わせて貰えば、無闇やたらに傷を負わせるのは二流、最小限の動きで傷を負わせずに勝つ方が一流の戦士なんじゃないか?」


 「それは確かに……そうかもね……」


 「まぁ、だとしてもお前さん程度の実力じゃ、天地がひっくり返っても負けはしないがな。あっはっはっはっは!!!」


 「ムッキー!!! このババア、今に見てなさい!! 絶対一泡ふかせてやるんだから!!」


 「おうおう、楽しみに待ってるぞ。あっはっはっはっはっはっは!!!」


 高笑いを浮かべる老婆相手に、悔しそうに歯を食い縛るガミーヌであった。




***




 「嫌な事まで思い出しちゃったわ……」


 「ん? 何か言ったか?」


 「何でも無いわ。それにしても、あいつが本当に最弱の戦士なの? にわかには信じられないわね」


 「ワシもそう思う」


 今も、他の戦士達に囲まれているが、その中の誰よりも強そうに見受けられる。それはルムも同じ意見だった。


 すると、偶々彼女達の会話を聞いていた、細身の男性が声を掛けて来る。


 「君達、もしかしてコロシアムに来るのは初めてかい?」


 「誰だ、お主?」


 「僕はこのコロシアムの運営職員だよ。コロシアムについてなら、何でも聞いて」


 「それで? その職員が私達にいったい何の様なの?」


 「“シヴァハ”の事が気になるんだろ?」


 「シヴァハって……あの赤髪の!? 何か知ってるの!?」


 漸く赤髪の男の名前が判明し、もっとシヴァハの事を教えて貰おうと職員に詰め寄るガミーヌ。


 「知ってるも何も、彼はこのコロシアムで唯一“無勝の男”として有名なのさ」


 「無勝の男……それ本当なの? だってそれが本当ならもう……」


 「死んでいる筈だ? 確かにコロシアムにおいて連敗を重ねる事は、死に直結するだろうね。だけどそうならないのは、彼の負け方に理由があるのさ」


 「負け方?」


 「シヴァハはね、相手の武器を叩き落としたり、粉々に砕く事で完全に無力化した上で、自ら敗北を宣言するんだ」


 「はぁ、何よそれ!? そんなの観客の目から見ても、誰が勝者か分かりきってるじゃない」


 「そうなんだけどね、コロシアムのルール上、どちらか一方の戦士が戦闘不能になるか、殺されるか、もしくは敗北を認めなければ戦いは終わらない。つまり彼が毎回敗北を認める以上、こちらとしても勝負を成立しない訳にはいかないのさ」


 「事情は大体分かったわ。だけど、それならどうして同じ戦士であるあの人達に最弱呼ばわりされないといけないの? シヴァハに手も足も出なかったんでしょ?」


 「所謂、負け惜しみって奴さ。倒す決定打を持っていないだの、小手先の技しか使えないだの、難癖を付ける事で勝ったのはあくまで自分だと言い張りたいんだ。実際、記録上は彼らの勝利になっているしね」


 「何じゃそれ、小さい連中じゃの」


 「全くそう思うよ。という訳で、シヴァハはこのコロシアム内では、史上最弱の戦士と呼ばれているんだ」


 「……取り敢えずは理解した。納得はしていないけど……あっ……」


 ガミーヌ達が職員と話している間に、受付を無事に済ませたシヴァハが、他の戦士達に睨まれながら、コロシアムの外へと出ようとこちらに向かって歩いて来た。


 じっと見つめるガミーヌの存在に気が付き、互いに向かい合う形でじっと見つめる。


 「参加するつもりなのか?」


 「えぇ、悪い?」


 「……いや、楽しみにしている」


 それだけ告げると、シヴァハはガミーヌとルムの横を通り過ぎる。そして、エクスの横を通り過ぎようとした時、横目でチラリとその姿を確認した瞬間……。


 「っ!!?」


 「…………」


 思わず腰の剣を掴み、身構えてしまうシヴァハ。何を考えているのか、エクスの方は只じっとシヴァハを見下ろすだけだった。


 「……まさかお前は……」


 「…………」


 「……いや、人違いか。すまなかった、これで失礼する」


 そう言うとシヴァハは、構えを解いて何事も無かったかの様に、コロシアムの外へと出ていく。


 「エクス、お主の知り合いか?」


 「そうは見えなかったけど……どうなのよ?」


 「…………」


 「……って、聞いても仕方ないわよね」


 相変わらずの無言。しかし、今回は単に答えないのでは無く、答えるつもりが無い様に感じられた。


 「さてと、それじゃあ私達もさっさと受付を済ませちゃいましょう」


 気を取り直して、ガミーヌ達はコロシアムの受付へと歩いていく。シヴァハに絡んで屯していた戦士達の姿は既に無く、ガミーヌ達と同じ様な初めての者達が受付を済ませている。


 ガミーヌ達が受付カウンターの前に立つと、先程解説してくれた職員が顔を出す。


 「あっ、さっきの職員。いつの間に……」


 「やぁ、早速登録しに来たね。それじゃあまずはコロシアムについて、簡単な説明から始めるよ」


 そう言うと職員は足下に用意していたであろう、一枚のボードを取り出し、ガミーヌ達に見せる。そこにはコロシアムの全体図とそれぞれの手順について、描かれていた。


 「コロシアムでは、登録した戦士達同士で毎日戦いが繰り広げられている。内容は様々、武器を限定した戦いから相手を殺すまで終われないデスマッチ方式。中でも何でもアリの無差別方式は、手に汗を握る熱い戦いが期待出来る」


 「ふーん、コロシアムって言っても色々あるのね。いつも観客席で見るだけだったから分からなかったわ」


 「そして、今回は四年に一度行われる大イベント。トーナメントコロシアムの日なんだ」


 「トーナメント?」


 「通常、コロシアムでは二人の戦士同士で勝者を決めるけど、今回のトーナメントでは多人数からたった一人の勝者を決めるんだ。勝負は通常の時と同じで1対1。それを何十回も繰り返して、最後に残った一人が勝者となる」


 「成る程、つまりは勝ちまくれという訳じゃな」


 「ざっくり言うとそんな感じだね。そして優勝者には、豪華商品として一生涯の大金が貰えるよ。更にコロシアムは冒険者ギルドの支援を受けているから、好成績を残した冒険者は、ランクアップが約束されている」


 「それよそれ!! ぱぱっと実力を示して、ランクを上げてやるわ!!」


 「そう上手く行くと良いけどね。このコロシアムには、世界各地から指折りの実力者が集まる。精々、井の中の蛙にならない事を期待しているよ」


 「ふん、それは他の連中に言うのね。私達はそんじょそこらの奴らとは一味もふた味も違うわ」


 「そうかい、だけどこれだけは言わせて貰うよ。例えコロシアムで死にそうになっても、僕達は一切手助けするつもりは無いから、そのつもりでね。それでも覚悟があるというのなら、この登録者リストに名前を記入してくれ」


 差し出されるのは一枚の紙。そこには既に登録したであろう戦士達の名前が大量に記入されていた。ガミーヌ達は迷う事無く、それぞれ空欄に名前を記入していく。その少し上にシヴァハの名前があるのも確認した。


 「ガミーヌ様、ルム様、エクス様ですね。承りました、トーナメント開催は明日ですので、今日は宿屋で確りお休み下さい。それと宿屋の代金についてご安心を。全てこちら側が負担しております」


 「それは嬉しいわね。じゃあ、また明日」


 その言葉を最後に、ガミーヌ達はコロシアムを後にした。その後、職員が登録者リストの整理をしていると、一人の人物がやって来る。その存在に気が付く職員。


 「コロシアムへようこそ……あなたは……」


 職員の驚く表情を見ながら、その人物はフッと口角を上げるのであった。

次回、波乱のトーナメントコロシアム開催!!

次回もお楽しみに!!

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