赤髪の男
前回、突然現れた謎の男。
彼の意外な正体とは!?
突然、背後に現れた謎の男に驚きと困惑を隠せないチンピラ達とガミーヌ。
その男は口元を覆い隠すボロボロな赤いマフラーと、同じ色合いをした赤髪の長髪。それとは対称的に傷一つ付いていない綺麗な白い肌が特徴的な男であった。
やがて冷静さを取り戻したチンピラ達は、口出しして来たこの男に対して、ガンを飛ばしながら近付く。
「おいおいおい、何処の誰だか知らないが、早く帰った方が身の為だぞ」
「でないと、俺達が痛い目を遇わせるからな」
一人は得意気に武器を見せびらかし、もう一人は指をポキポキと鳴らして見せる。すると赤髪の男は、まるで風の様にチンピラ達の間をすり抜け、ガミーヌの前まで歩み寄る。そして、チンピラ達の言葉に返答する。
「そうか、それならさっさと去るとしよう。彼女を連れて」
「「「!!?」」」
この一瞬の出来事にチンピラ達は勿論、目の前で見ていたガミーヌでさえも、いったい何が起こったのか、理解する事が出来なかった。
「ほら、行くぞ」
「えっ、あっ、ちょっと!!?」
そうこうしている内に赤髪の男は、ガミーヌの手を取り、一緒にその場から離れようとする。あまりに唐突なやり取りの為、思わず足に力を込めてブレーキを掛けてしまう。その様子に赤髪の男は、フッと口元をマフラー越しに緩ませると、ガミーヌと同じ目線になる様に屈む。
「安心しろ、何があっても俺が守ってやるからな」
「え……?」
思わぬ言葉に、ガミーヌが呆然としていると、呆気に取られていたチンピラ達が、いつの間にかこちらを向いて武器を構え、今にも襲い掛かって来そうだった。
「てめぇ……調子乗ってんじゃねぇぞ!!!」
「俺達の恐ろしさ、たっぷり味わわせてやる!!」
堪忍袋の緒が切れたチンピラ達が武器を高く掲げ、背後から赤髪の男目掛けて勢い良く振り下ろそうとする。
「危ない!!!」
彼を守ろうと、ガミーヌは慌ててチンピラ達の前に回り、攻撃を受け止めようと剣で防御の構えを取る。
「心配には及ばない。もう既に終わっている」
そう言った次の瞬間、チンピラ達が持っていた武器の刀身部分が、根本から先の全体にヒビが入り、粉々に砕け散ってしまった。
「「「!!?」」」
これにはチンピラ達は勿論、ガミーヌも驚きを隠せなかった。そして見るみる内に顔が青ざめていくチンピラ達。遂には柄だけとなった武器を手放し、一目散に逃げ出す。
「ひっ、ひぃいいいいい!!?」
「お、お助けぇええええええ!!!」
「…………」
「ふぅ、何とかなったか。もう安全だ、怪我は無いか? 何だったら、俺が家まで送り届けよう」
二人だけになった後も、ガミーヌはしばらく唖然としていた。その一方で、赤髪の男が怪我の有無を確認して来た。
しかし、家まで送るという言葉にカチンと来たガミーヌは、助けて貰った相手に対して、食って掛かる。
「ちょっと、子供扱いしないでよね!! それと別に助けなんかいらなかった!! あんな連中位、私一人で簡単に対処出来たわよ!!」
「だろうな」
「え?」
てっきり更なる子供扱いを受けると思っていたが、予想と反して同意の反応を示した。これには沸き上がった怒りの感情も、一気に萎んでいく。
「お前の実力は、あの連中よりも遥かに上だと一目で分かる」
「だったら……「だが」……?」
「だが、その実力にお前自身がまだ気が付いていない。もし、あのまま戦えば、あの連中は大怪我していただろう。下手をすれば死んでいたかもしれないな」
「だけど、悪いのは卑しい目的で話し掛けて来た向こうじゃない!! 私は降り掛かった火の粉を振り払っただけよ!!」
そこまで言うと赤髪の男は、辺りを見回す。
「この辺は住宅街に囲まれた一画だ。もし、こんな所で激しい戦闘を行えば、中にいる住民達に被害が及ぶだろう。お前に周りを気にして戦う余裕が備わっているとは思えない」
「それは……!!」
備わっているとは言えなかった。事実、ガミーヌの戦闘は無駄な動きが多く、決してスマートとは呼べない。口ごもってしまったガミーヌを見て、赤髪の男が代わりに口を開く。
「お前は強い。なら、その強さに見合うだけの礼節を弁えろ。お前が持っているその剣は、意図も簡単に人を傷付けられる事を忘れるな」
「…………」
何も言い返せなかった。自覚が無かった訳じゃない。エクスとの出会い、ルムとの出会いを経て、ガミーヌは確実に強くなっていた。しかし、その二人が圧倒的な強さ故に、強くなったという実感が湧かなかったのだ。
押し黙ってしまうガミーヌに、赤髪の男はゆっくりと目を閉じると、後ろを振り向いてその場を立ち去ろうとする。その途中で立ち止まり、ガミーヌに語り掛ける。
「ごちゃごちゃと御託を並べて、すまなかった。それじゃあな」
それだけ言うと、今度こそ赤髪の男はその場を立ち去っていった。一人残ったガミーヌは、一歩も動けず立ち尽くすしかなかった。
***
コロシアム前。既に何万という観客達が、入口を目指して雪崩れ込んでいる。そこに現れた人影が一つ、それはルムであった。
「ほほぅ、ここがコロシアムか。中々に賑わっているではないか」
晴れやかな表情を浮かべ、無事に目的地まで辿り着けた事を喜んでいる様子だった。
そんな中、彼女の背後から声を掛ける人物がいた。
「あ、あのー、言われた通り、コロシアムまでご案内したので、我々はそろそろ……」
ルムが振り返ると、そこにはガミーヌ達とケンカ別れした後にナンパして来た、茶髪で襟足長めのチャラそうな男と、ハゲで頭に深い傷痕が付いている男が顔をパンパンに腫らし、怯えた様子で立っていた。
「おぉ、そうじゃな。ご苦労だった、助かったぞ」
「「し、失礼します!!」」
お許しを頂いた二人は、一目散にその場から逃げ出す。一方、ルムはコロシアムを見上げながら中に入ろうと、入口に近付いていく。
すると、入口付近の壁に見覚えのある人物が寄りかかっているのを見つける。
「エクス、どうやらお主も無事に辿り着けた様じゃの」
「…………」
相変わらずエクスは無言を貫き通す。だが、ルムの存在には気が付いているらしく、僅かに体を揺らして反応を示す。そんなエクスを気にも留めず、ルムは別の事を考えていた。
「後はガミーヌだけじゃが、果たして来るのか。それとも既に来ているのか……」
と、辺りを見回す様な素振りをしていると、中に入ろうとする人物とぶつかってしまった。
「おおっと、すまんな。前を見ていなかった」
「いや、こちらこそすまなかった」
そう言うと、“赤髪の男”は軽く会釈をして、コロシアムの中へと入って行く。その後ろ姿を見ながら、ルムは首を捻る。
「今の男……」
そこまで言い掛けた時、ルムはすぐ近くで気配を感じ、そちらの方に顔を向ける。そこには、ガミーヌがこちらに向かって歩いて来ていた。
「良かった、来てくれたか。さっきはすまなかった、野暮な事を聞いてしまって……」
「……良いのよ。私もムキになっちゃって、ごめんなさい」
「そうか……?」
意気消沈しているガミーヌの様子に、違和感を覚えるも、深く追求する事はせず、そのまま一緒にコロシアムに足を踏み入れる。
「取り敢えず、先に受付でエントリーを済ませましょう……って、あれは?」
そう言って、ガミーヌ達が受付へと足を運ぼうとする中、受付付近で騒ぎが起こっている事に気が付く。
どうやら、コロシアムに出場するであろう戦士達が、同じく出場する一人の戦士に絡んでいる様だった。
「おいおい、こんな所で何してるんだ?」
「まさかコロシアムに出るだなんて言わないよな?」
「止めとけよ。コロシアム史上“最弱”の戦士の癖に」
コロシアム史上最弱の戦士。そんな不名誉な肩書きを付けられる不遇な戦士。いったいどんな奴なのかと、ガミーヌ達が覗き込むと……。
「えっ!!?」
ガミーヌは驚きを隠せなかった。何とそこにいたのは、先程自分を助けてくれたあの赤髪の男だったのだ。
“最強”ではなく“最弱”の戦士。
果たして彼は何者なのか、謎が深まっていく。
次回もお楽しみに!!
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