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ライン・フォン・ロイヤリティー・アリス

今回は少しガミーヌの過去に触れる事となります。

 クリーエはコロシアムを中心に、形も大きさもバラバラな建物が立ち並ぶ国。そこに法則性や芸術性は一切無く、空いているスペースに次々と無理矢理建てた印象だ。


 結果、建物と建物の間に人が通れる程の隙間が幾つも生まれ、迷路の様に入り組んだ道が多い地形と化してしまっていた。


 その為、初めてこの国に来た者はまず、この迷路を抜けてからコロシアムへと向かう事となる。土地勘が無かったり、方向音痴だった場合、辿り着くのは困難だ。


 そんな中、エクスとルムの二人と喧嘩別れしたガミーヌが、入り組んだ道を駆け回る。まるで道順を知っているかの様に、立ち止まる事無くスイスイと奥へ奥へと突き進んで行く。


 「何なのよ、せっかくこの私が丁寧に説明してあげたって言うのに……」


 ぶつくさ文句を垂れながら歩いていると、やがて小さな一画に辿り着く。そこは建物同士が密集する中で、奇跡的に生まれたと言ってもいい区画。ここの住民は基本的にコロシアムで顔を合わせ、世間話を交わす。


 しかし、それでも様々な事情から、コロシアムに足を運べなくなる事が、少なからず発生する。そうした時の措置として、外で尚且つ人目も付きにくく立ち話が出来るのがこの一画。申し訳程度にベンチと小さな噴水が置いてあり、噴水を眺めながら腰を下ろして、ゆっくりと話す事も可能だ。


 ガミーヌは思い詰めた表情を浮かべながら、ベンチに腰を下ろす。両肘をそれぞれ両膝に乗せ、更に両手の上に顔を乗っける。


 「はぁー……」


 深い溜め息を漏らし、ボーッと地面を見下ろす。


 「お姉ちゃん……」


 ボソッと呟くガミーヌの脳裏には、過去の思い出と共に一人の女性の姿が過る。




***




 きらびやかなドレスを身に着けた、今よりも少し幼い見た目をしたガミーヌが、同じ様にきらびやかなドレスを身に着けた、今のガミーヌよりも大人びた見た目をした優しそうな女性に連れられる。


 「ほら、ガミーヌ。ここがお姉ちゃん、おすすめの場所よ」


 「えー、こんな所が?」


 目の前に広がるベンチと小さな噴水の光景を紹介するお姉ちゃんに、ガミーヌは不満と疑問の声を上げる。


 「確かに薄暗くて、景色も良くないけど……座ってみて」


 「えー、ドレスが汚れちゃうよ」


 お姉ちゃんはベンチに腰を下ろして、ガミーヌにも座る様に促す。しかし、ガミーヌはドレスの両端を掴みながら、汚したくないと、この誘いを断る。


 「騙されたと思って……ね?」


 「もー、しょうがないなー」


 それでも食い下がるお姉ちゃんに、ガミーヌは渋々隣に腰を下ろした。すると、ある事実に気が付いた。


 「あれ? 音がしないよー?」


 それまで確かに聞こえていた建物からの騒音や、コロシアムから聞こえて来る歓声が、まるで嘘の様に聞こえなくなり、静寂に包まれる。


 慌ててベンチから立ち上がるガミーヌ。すると次の瞬間、建物からの騒音とコロシアムからの歓声が、一斉に聞こえ始める。


 もう一度、ベンチに腰を下ろす。すると再び、騒音と歓声は聞こえなくなり、辺りは静寂に包まれる。


 不思議そうな表情を浮かべるガミーヌを見ながらお姉ちゃんは、ふふっと笑みを溢す。


 「あれー? あれあれ? ねぇ、ねぇねぇ、どうして? どうしてなの?」


 「それはね、実はお姉ちゃんも知らないの」


 「えー?」


 自分から振っておいて答えを知らないという事に、納得がいかないガミーヌ。一方、お姉ちゃんは辺りを見回す様な素振りを見せる。


 「この国は立場に関係無く色んな人達が手を取り合って生まれたから、もしかしたら私達には想像も付かない、それこそ奇跡みたいな理由なのかもしれないね」


 「奇跡か……何だか適当」


 「えぇ? そんな事、無いと思うけどな」


 「適当だよ。お姉ちゃん、適当。適当お姉ちゃん」


 ガミーヌはふざけ半分で、お姉ちゃんをバカにした態度を取る。するとお姉ちゃんは、いたずらっ子の様な笑みを浮かべる。


 「そんな口の悪い妹は……こうしてやる!!」


 そう言いながら、両手をガミーヌの両脇に入れて、指先を細かく動かし、こちょこちょとくすぐる。


 「きゃあ!! きゃははは!!!」


 両脇を閉じて、必死に抵抗するガミーヌだが、その顔は何処か楽しそうにも感じられる。お姉ちゃんもそれを理解した上で、適度にくすぐり続ける。そんな微笑ましい光景の中、二人に近付いて来る影があった。


 「いったい何をしているの!!?」


 「「!!!」」


 突然の大声に体をビクッと震わせる二人。声のした方向に顔を向けると、そこにはガミーヌやお姉ちゃんよりも、更に派手できらびやかなドレスを身に付けた、非常に美しいが何処と無く冷たい雰囲気を漂わせる大人の女性が立っていた。両脇には護衛と思わしき、槍を持った兵士が控えている。


 その女性の顔を見た瞬間、お姉ちゃんは慌ててベンチから立ち上がり、目の前で膝まずくと恐る恐る口を開く。


 「お母様……」


 「聞こえなかったのかしら。“ライン・フォン・ロイヤリティー・アリス”。貴方はこんな所で何をしているのか、聞いているのよ」


 「少し……休息を取っていました……」


 「休息? ハッ!! 貴方の様なグズが休息なんて取って良いと思っているの?」


 「お姉ちゃんはグズなんかじゃない!!」


 「ガミーヌ、止めなさい!!」


 お姉ちゃんこと、ラインの悪口を言われ、ガミーヌが食って掛かるも、当の本人に制止されてしまう。


 「あら? 誰かと思えば出来損ないの第二王女じゃないの。地味過ぎて気付かなかったわ。ほんと親にそっくりだこと……」


 「っ!!!」


 今にも殴り掛かろうとするガミーヌに、ラインが目線を送って首を横に振る。それに対してガミーヌは必死に怒りを抑え込む。その様子にラインの母親は、ガミーヌに興味を無くし、再びラインの方を向く。


 「まぁ、そんな事はどうでも良いわ。それより、もう充分休息は取れたでしょう。さっさとコロシアムに向かいなさい。何の為にこんな辺鄙な場所まで足を運んだと思っているの? 全てあなたが無能なせいなんだからね」


 「はい……申し訳ございません。行きましょう、ガミーヌ……」


 「…………」


 そう言って、俯きながらラインはガミーヌを連れて、その場を離れる。その後ろ姿を見ながら、ラインの母親は鼻を鳴らす。


 「ふん、あんなのが私の娘で第一王女だなんて、信じられないわ」


 「……よろしいのでしょうか?」


 すると、控えていた兵士の一人が呟く。


 「何がよ?」


 「仮にもアリスクラット王国の第一王女。我々の様な護衛が一人もいないと、不貞な輩に襲われる可能性が……」


 「あら、護衛ならちゃんといるじゃない」


 ラインの母親は、顎でくいっとガミーヌを指し示す。


 「ガミーヌ様ですか? しかし、あの方は第二王女、武器はおろか戦闘経験もありません」


 「いざとなったら、体を張ってでも助けるでしょ。それに……」


 「?」


 「万が一死んでも、また新しい子供を産めば済む事でしょ」


 母親とは思えない発言。その不適な笑みを浮かべる存在に、兵士の背筋は凍り付いていた。




***




 目を開けるガミーヌ。どうやら眠ってしまっていた様だ。


 「(嫌な事……思い出しちゃったな……)」


 あれからどれ位の時間が経過しただろうか。まだ日が出ている所を見ると、そんなに経っていない事が伺える。


 「(早くコロシアムに向かわないと……)」


 ベンチから腰を上げようとすると……。


 「へっへっへっ……お嬢ちゃん、こんな所で何してるのぉ?」


 現れたのは複数人のチンピラだった。しかし、只のチンピラじゃない。ここクリーエで鍛え上げられた、実力のあるチンピラだ。


 「一人じゃ危ないぜ。俺達が護衛してやるからよ」


 「取り敢えず、護衛料として有り金全部出して貰おうか?」


 まるで定型文の様な台詞を発するチンピラ。ガミーヌは呆れた様子でベンチから立ち上がる。


 「悪いけど、あなた達に払う金は持ち合わせていないわ」


 「へっへっへっ……そうか、なら仕方ねぇ。払いたくなる様、少しばかり痛い目にあって貰うとしようか!!!」


 武器を抜いて襲い掛かるチンピラ集団。ガミーヌも武器を抜き、構える。そして次の瞬間!!


 「「「!!?」」」


 一瞬にして、チンピラ達が持っていた武器の刃部分が粉々に砕け散った。


 「え!!?」


 勿論、これをやったのはガミーヌではない。この突然の事態にチンピラ達だけでなく、ガミーヌも驚きを隠せなかった。


 「女の……それも子供相手に大人が大人数で襲うとは……随分と立派な戦士がいたものだな」


 そんな中、チンピラ達の後ろに見知らぬ男が、いつの間にか立っている事に気が付くのであった。

ガミーヌの前に現れた謎の男。

果たして何者なのか。

次回もお楽しみに!!

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