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家族

今回で幽霊騒動は決着となります。

 「この度は、誠に申し訳ありません!!」


 無事、屋敷での幽霊騒動を解決したガミーヌ一行。騒動に一枚噛んでいた子供達を取り逃がしてしまうものの、取り敢えず一度村へと戻り、依頼人である村長に報告する事にした。


 そして現在、ガミーヌ達の目の前で村長が両足を畳み、おでこを地面に擦り付ける。それは見事な“土下座”を披露していた。


 勿論、ガミーヌ達が強制させた訳ではない。ごく自然に屋敷の怪奇現象に子供達が関わっていた事を口にした瞬間、目にも止まらぬ速さで頭を地面に下げたのだ。


 村長のあまりに唐突な行動に動揺を隠せず、どうすれば良いのか戸惑ってしまう。やがて中々、頭を上げようとしない村長に業を煮やして、ガミーヌが頭を上げる様に声を掛ける。


 「あ、あの……そろそろ頭を上げてくれませんか?」


 「まさか……あの子達が原因だったとは……本当に何とお詫び申し上げれば良いか!!」


 「いや、ですから黒幕はデルングというモンスターでして……」


 「しかし、元はと言えばウチの子達が騒ぎを起こしたのが原因!! 誠に申し訳ありません!!」


 「…………」


 さっきからこの繰り返しである。ガミーヌ達は気にしていないというのに、頑なに頭を上げようとしない村長。その根性だけはある意味、評価に値する。どうするべきかとガミーヌが困り果てていると、見かねたルムが村長に話し掛ける。


 「村長よ、主の誠意は充分伝わった。だが、真に頭を下げるべきなのは原因を作った子供達なのではないか?」


 その言葉に、村長は初めて下げていた頭を上げる。擦り過ぎたおでこから、血が滲み出ている。


 「仰られる通りです。ですが、そもそもあの子達がこんなイタズラを行った原因は、幼くして両親を亡くしてしまった事による寂しさから来る物……そしてその寂しさを埋めてやれなかった私の責任……」


 「村長……」


 「だから、本当に責められるべき人間はこの私なのです!! あの子達は悪くありません!! どうかあの子達を許してやって下さい!! お願いします!!」


 再び頭を下げる村長。大人が子供の為に犠牲となる。こんな光景を目の当たりにして、許さないという方が難しい。既に子供達に対する怒りの溜飲は下がっていたガミーヌ。村長の肩にそっと手を乗せる。


 「分かりました。今回の一件、子供達は関わっていません。全てデルングというモンスターによる仕業だったとギルドには報告します」


 「あ、ありがとうございます!! ありがとうございます!!」


 「ですが、今後二度とこの様な事が無い様に……」


 「はい、あの子達には私の方からキツく言っておきますので。本当にありがとうございます」


 「それじゃあ私達はこの辺で……あっ……」


 村長との話し合いもぼちぼち終了し、村を去ろうとしたその時、ふと目線を正面に向けると、茂みからこっそりと村に入る子供達の姿が見え、思わず声を上げる。


 「どうしましたか……あっ、シェルム!! フェズリ!! ティミド!!」


 声に反応して、村長が視線の方向を向くと、ガミーヌ同様に子供達の存在に気が付き、慌てて立ち上がって三人を追い掛ける。


 バレない様、中腰で移動していた三人だったが、村長が大声を上げてこちらに近付いて来るのに気が付き、慌てて逃げようとするが、最後尾にいたティミドが出遅れた事で捕まってしまい、そのまま流れでフェズリとシェルムも逃げるのを諦めた。


 「お前達は……どれだけ人様に迷惑を掛ければ気が済むんだ!!?」


 「何だよ、俺達が何か悪い事したって言うのかよ!!?」


 「全部ガミーヌさん達から聞いたぞ!! 屋敷で怪奇現象を起こしてイタズラしてたってな!!」


 こちらに向かって来るガミーヌ達を睨み付け、不機嫌な態度を見せるシェルム。フェズリは我関せずと言わんばかりに、爪の手入れをしていた。ティミドは居心地が悪そうに、もじもじと動いている。


 「だから何だよ? 別にジジィには関係ないだろう?」


 「関係大有りだ!! 私はお前達の“親”としての責任があるんだ!!」


 「またそれだよ。いい加減、聞き飽きたよ。あんたは俺達の本当の親じゃないんだ。あんまりでしゃばるんじゃねぇよ」


 「っ……!!」


 その話を持ち出されてしまっては、何も言えなくなってしまう。口をつぐむ村長に対して、シェルムは鼻息で一蹴してフェズリとティミドの二人を連れて、その場を離れようとする。


 「ちょっと待ちなさい。その言い方は無いんじゃないの?」


 「あぁ?」


 そんな三人を引き止めるガミーヌ。途中で逃げられない様、ルムが向かい側へと回り込む。その様子にシェルムが舌打ちをして、歩みを止める。


 「村長さんは、あなた達の事を心配して怒っているのよ」


 「ふーん」


 興味無さそうに明後日の方向を向くシェルム。不遜な態度に下がっていた怒りのボルテージが急上昇する。


 「……今回は無事だったけど、下手をしたら死んでたかもしれない」


 「はっ、別に死んだって構わねぇよ。どうせ、誰も悲しまないんだからな!!」


 「まぁ、所詮は捨て子だしね」


 「ふ、二人と一緒に死ねるなら、べ、別に良いかな」


 遂には己の命までも軽んじる三人。この瞬間、ガミーヌの堪忍袋の緒が切れる。ひっぱたこうと掌を大きく振り上げる。


 「この……『バカ野郎がぁあああああああああ!!!』……え?」


 それよりも早く村長の拳骨が、三人それぞれの頭頂部に振り下ろされた。怒鳴るだけで、決して手を出さなかった村長から殴られた事に、三人は動揺を隠せなかった。


 やがて襲って来る痛みに正気を取り戻し、殴った村長に文句を言おうとする。


 「ジジィ!! 何しやが……る……?」


 が、顔を見た途端に端切れが悪くなった。村長は眉間にシワを寄せ、威嚇のつもりなのか歯を剥き出しにしながら、両目に“大粒の涙”を浮かべているのだ。


 「ジジィ……?」


 「誰も悲しまないだって……? そんな事はない。お前達が亡くなったら、私が悲しむ。確かに私達は本当の親子じゃない。だが、血の繋がりなど無くたって、お前達の事を心の底から愛しているんだ」


 「……」


 「私の事はいくら嫌っても構わないが、自分自身だけはぞんざいに扱わないでくれ」


 そう言うと村長は三人を寄せ合い、強く抱き締める。


 「どうか……この寂しがりやの老人の家族でいてくれないか……」


 「ジジィ……うっ、ぁああああああああああ……」


 殴られた痛みなのか、それとももっと別の所から来る痛みなのか、村長が強く抱き締める中、シェルムは泣いた。ほぼ同時にフェズリとティミドも泣いた。村長も涙を流していた。


 お互いに抱き締め合うその光景は、何処からどう見ても、“家族”その物であった。


 そんな彼らの姿を見て、物思いに耽るガミーヌ。

 

 「家族か……お姉ちゃん……」


 「…………」


 その一方でエクスの脳裏には、過去の思い出がフラッシュバックしていた。




***




 広大な草原。そこに現れたのは、屋敷の物置に置いてあった自画像の少年だった。こちらに近付いて来て、両手を握り、何処かに連れて行こうと引っ張る。


 「ほら“……”、こっちだよ!!」


 名前を呼んでいるのだろう。しかし、ノイズが走って上手く聞き取れない。呆気なく笑う少年。


 場面は切り替わり、二人は草の上で寝転がって空を見上げている。ふいに少年がこちらに顔を向ける。


 「“……”は、最高の親友だよ。いや、最早“家族”と言っても過言じゃない」


 「…………」


 「え? どっちが兄かって? それはやっぱり……僕の方じゃないかな?」


 「…………」


 「あはは、分かったよ。“……”の方が兄でいいよ。どっちにしたって、僕達は最高の家族なんだから」


 その言葉を最後に全体にノイズが走り、やがて全てが真っ暗な世界へと変わった。




***




 「……ス……クス……エクス!!」


 ガミーヌに呼び掛けられ、エクスはふと我に変える。気が付けば、既に村長と子供達のやり取りを終え、村から出る所だった。


 「大丈夫? 何だかボーッとしてたみたいだけど?」


 「…………」


 心配するガミーヌに対して、エクスは相変わらず無言だった。


 「……まぁ、大した事無いなら別に良いけど……」


 「皆様、この度は本当にありがとうございます」


 見送りに来てくれた村長が、ガミーヌ達に改めてお礼を述べる。側には子供達もいる。


 「いえ、冒険者として当然の事をしたまでです(くぅー、この台詞一度言ってみたかったのよね!!)」


 心の中で興奮していると、シェルムがガミーヌの前に歩み出る。


 「何かその……色々迷惑掛けて悪かったな」


 「そうね、随分と苦労させられたわね」


 ばつが悪そうに話すシェルムに対して、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら皮肉めいた返答をするガミーヌ。


 「ぐっ……だから何だ……将来、俺達も冒険者になる事にしたよ」


 「え?」


 予想外の返しに驚くガミーヌ。すると後ろに控えていたフェズリとティミドの二人も前に歩み出て来た。


 「そんで有名になって、今回の借りを返してやるからさ。楽しみに待ってろよな」


 「……ふっ、気長に待っててやるわよ」


 そうして四人は再会を約束し、ガミーヌ達は村を後にするのであった。


 「さーてと、無事に依頼も達成出来た訳だし、それに今回はエクスの手を一切借りなかったわ。ガミーヌ様の大活躍劇よ!!」


 「ワシの助言があったお陰じゃがな」


 「うぐっ、それは言わないのがお約束でしょ。だけど、確かに今回はルムも役に立ってくれたわ。ありがとう」


 「ふむ、ならワシと結婚……「しない」……そうか」


 しょんぼりと落ち込むルムに対して、ガミーヌはわざとらしく咳払いをする。


 「おほん。あー、だけどその代わり……私達のパーティーに入れてあげても良いわよ?」


 「ほ、本当か!!?」


 ルムが小さくガッツポーズを取るのを微笑ましく思うガミーヌ。


 「早速、明日ギルドで手続きしちゃいましょう……って、あれエクスは?」


 ふと、周囲を見回してエクスがいなくなっている事に気が付いた。


 「あぁ、奴ならふらっと一人で何処かに行ってしまったぞ?」


 「えぇ、何よそれ。エクスが私に黙ってどっかに行くなんて、こんなの初めてよ。もしかして、これには何かとんでもない秘密が隠されているんじゃ……」


 「…………」


 「……なーんて、そんな訳無いか。どうせ、先に帰っただけよね。さっ、私達もラフスに帰りましょう」


 「あぁ、そうだな……」


 意気揚々と歩くガミーヌを他所に、ルムはエクスが歩いて行った方向に顔を向ける。


 「(あっちには確か先程の屋敷があった筈……何か忘れ物か? それとも……)」


 「ちょっと? 何してるのよ? 置いてっちゃうわよ」


 「あ、あぁ、今行く!!」


 疑問に感じながらも明確な答えは出ず、ガミーヌ同様深く考えない様にした。














 


 ガミーヌ達がいた幽霊屋敷。確りと施錠された筈の玄関は、無理矢理こじ開けられていた。当然犯人はエクス。剣を引きずりながら、物置部屋へと一直線に歩いて行く。


 中に入ると真っ先に向かったのが、あの自画像だった。真正面に立ち、しばらく眺めるエクス。


 すると、剣に巻き付けていた布を取り外し、剣をゆっくりと真上に持ち上げる。そして次の瞬間!!


 「……うぅ……うっ……うがぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 初めて声を発したエクス。しかし、それは言葉にならない叫び声だった。更にそのまま持ち上げた剣を自画像目掛けて振り下ろし、真っ二つに切り裂いた。


 「……はぁ……はぁ……ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 しかし、それで終わりでは無かった。真っ二つにした自画像を更に細かく切り刻み始めた。


 「ふぅ……ふぅ……」


 やがて、原型が分からない程まで切り刻んだエクスは、人知れずその場を後にするのだった。

次回もお楽しみに!!

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