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ガミーヌVSデルング

前回、遂に姿を現した半透明な女性の幽霊。

果たして彼女の正体とは!?

 「この!! こいつめ!! こいつめ!!」


 突如、目の前に現れた半透明な女性の幽霊。あまりの恐怖と驚きに思わず悲鳴を上げてしまったガミーヌだが、そこは一端の冒険者。


 直ぐ様、腰に携えた剣を勢い良く引き抜き、幽霊目掛けて振り下ろす。しかし、それを嘲笑うかの様に剣が届かない距離まで浮かび上がり、ふわふわと上下に揺れて、当たりそうで当たらない演出を見せ付ける。


 ガミーヌも自棄になり、デタラメに剣を振り回すが、そんな信念なき剣捌きが当たる弾も無く、空振りを連発してしまう。更に幽霊は大雑把になったガミーヌの動きの隙を突き、その半透明な手で背中を下から上へとなぞる。


 「ひゃぁあ!!?」


 その瞬間、ガミーヌの全身を寒気が襲った。皮膚じゃない、中の骨や内臓が凍り付いてしまう、そんな嫌な寒気だった。それは同時にこのまま触られ続けたら、本当に中身が凍り付いて死んでしまうという、死の恐怖を感じさせた。


 それだけは何としてでも避けなければならない。剣を強く握り締め、幽霊に一太刀浴びせようと躍起になるが、全くと言っていい程当たらない。


 そんなガミーヌを見兼ね、ルムが肩に手を乗せて呼び掛ける。


 「落ち着け、冷静さを欠いたら勝てる戦いも勝てんぞ?」


 「そんな呑気な事を言ってる場合!? あれを見て、何で驚かないのよ!? ゆ、幽霊が目の前に現れたのよ!!?」


 ルムが落ち着く様に諭すも、興奮した様子で聞く耳を持たないガミーヌ。それを見て、ルムは溜め息を漏らす。


 「いいか? そもそも、この世に幽霊なんて存在しない。全ての生物は肉体という器に意識を宿らせる事で、その人生を証明している。その意識を保てなくなった瞬間、生物は無へと返る。だが、肝心の幽霊とやらには肉体など存在しない。存在しない物にどうやって意識を宿らせる? どうやってその人生を証明させるというのだ? つまり、肉体を持たぬ幽霊は存在する事すら出来ないのだ」


 「じゃあ、あれはいったい何だって言うのよ!!?」


 そう言いながら、ガミーヌは空中をふわふわと浮かび上がっている幽霊を指差す。ルムの考え方には一理ある。しかし、その考え方を真っ向から否定する存在が目の前にいる以上、何の説得力も感じられなかった。


 「半透明で壁も通り抜けられる!! こちらに干渉する事も出来る!! 空中だって自由に飛べる!! あれが幽霊じゃないって言うのなら何だって言うのよ!!?」


 「そう興奮するな。全部教えてやる。あれはな……そう、“幽霊であって幽霊ではない存在だ”」


 「…………は?」


 答えになっていない。自信満々な表情を浮かべるルムに対して、若干の怒りを覚えるガミーヌ。その雰囲気を察してか、咳払いをして一から説明し始める。


 「奴は“デルング”と呼ばれる存在。所謂、モンスターの類いだな」


 「モンスターって……ボアベアみたいな? だけど、それにしては随分と人間っぽいわよ?」


 「デルングは対象の生物が抱く恐怖像に変化するモンスターだ。切っ掛けは分からんが、この屋敷に幽霊の噂が流れ、それに皆が恐怖していた。それをデルングが感じ取り、それらしい姿に化けたという事だ」


 「その根拠は?」


 「デルングの変化は魔力に準ずる物。つまり、魔力を纏わせた攻撃なら……」


 するとルムは、掌を空中に浮かぶ半透明な幽霊に向ける。次の瞬間、掌から風の刃が幽霊目掛けて放たれ、壁をすり抜けた筈の体を見事に切り裂いた。


 『ウゲェエエエエエエエ!!?』


 途端に幽霊と思われていた女性の口から、似つかわしくない汚ならしいおっさんの叫び声が聞こえて来た。痛みに耐えかね、空中から地面に落下。そしてその姿は半透明な幽霊から、耳が長く鼻の曲がった、上半身裸で下半身は腰蓑一枚、ガリガリで全身真っ青のまるで悪魔の様な姿をしたモンスターに変わっていた。


 「こ、こいつが……!?」


 「デルング。小賢しい最下級モンスターだ。此奴自体の戦闘力は大した事無い。所詮、他人の恐怖像を利用しなければ、まともに戦う事すら出来ない」


 『ウゴギギ……コロス……オマエラ……コロス……』


 遂に正体を現したデルング。片言ながら、コミュニケーションが取れるらしい。しかし、それでも知性の欠片すらも感じられない語彙力。最早、勝ち目の無いこの状況においても、両手を構えて今にも襲いかかろうとしていた。


 当然、ルムがそのまま片付けようとするが、それをガミーヌが止める。


 「待ってルム。ここは私に任せてくれない?」


 「……構わん」


 「エクス、あなたもよ」


 背後ではエクスが代わりに戦おうと剣を抜いていたが、それらの行動を予め先読みしていたガミーヌが振り返らず、正面を向いたまま制止の言葉を掛けていた。


 「…………」


 ガミーヌの言葉を汲み取り、エクスは相変わらず無言で剣を収める。


 対峙するはガミーヌとデルングの二人。お互い睨み合い、一歩も動かない。相手がモンスターだと分かり、静かに落ち着いて剣を構えるガミーヌに対して、正体がバレてもう後が無い事に酷く焦り、呼吸を荒くして額から汗を流すデルング。


 その場に緊張が走る中、相対する二人は一斉に走り出し、お互いが交差する瞬間に攻撃がぶつかり合う。


 『グゲボゲガフッ!!!』


 攻撃が通ったのはガミーヌの方だった。デルングは胸をバッサリと切られ、大量に出血し始め、断末魔を上げて前のめりに倒れるのであった。


 「見事な剣捌きだったぞ」


 端から戦いの行く末を見守っていたルムが、労いの言葉を投げ掛ける。その隣ではエクスもいたが、いつも通り無言で表情もフードで見えない為、喜んでいるのか怒っているのか、よく分からなかった。


 だが、それでも誉められた事は嬉しいので、照れながらも素直に喜びの表情を浮かべるガミーヌ。


 「それにしても、まさかモンスターが幽霊騒ぎの原因だったとはね」


 「その性質上、デルングは人を騙しやすい森や山奥に生息している筈だ。ましてや、こんな家の中にいるなど本来ならあり得ない」


 「じゃあどうして?」


 「ここ数年、モンスター達の活動が急激に活発化し始め、その勢力図が変わりそうなのだ。こいつも恐らく、すみかを追われたのだろう」


 「そうだったの……」


 「言っておくが、悪い事したなんて考えるんじゃないぞ。殺らなければ、こちらが殺られていたんだからな」


 「別に思ってないわよ。只、何でモンスター達の活動が急激に活発化し始めたんだろうって……」


 「それは正直、わしにも分からない。だが、何かが起きているのは確かだ。とてつもない大きな何か……生態系を揺るがす様な何かが……」


 ルムの言葉に一抹の不安が過るガミーヌだが、今その事を心配しても時間の無駄だ。頭を横に振って、気持ちを切り替えるガミーヌ。


 「まぁ、とにかくこれで依頼達成という事よね。幽霊騒ぎの正体はモンスター、そしてこの屋敷で様々な怪奇現象を起こしていた犯人は……この子供達……って、あれ?」


 目を向けると、さっきまでそこにいた筈の子供達三人組がいなくなってしまっていた。デルングとの戦いに夢中になり過ぎたせいで、途中でいない事に誰一人気付かなかった。


 「あ、あの子達は!!?」


 慌てて辺りを捜索するが、一向に見つからなかった。すると、窓の外で三人が一生懸命に走っている事に気が付く。


 「あ、あいつら……」


 「ふっふっふっ、どうやらまんまと逃げられたらしいな」


 「うっ……うがぁああああああ!!!」


 何とか幽霊騒ぎの方は解決したのに、肝心の怪奇現象の犯人を取り逃がしてしまうとは、何とも情けない結果であった。


 そして、ガミーヌの叫び声が屋敷中に響き渡るのであった。

無事、依頼を達成したガミーヌ達一同。

次回、村に戻ります。


次回もお楽しみに!!

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