すすり泣く声
前回、遂に怪奇現象を起こす犯人を見つけ出したガミーヌ達。これで無事に依頼も達成で、めでたしめでたし。
「やっと認めたわね」
遂に怪奇現象の正体を暴いたガミーヌ達。相手が子供だと分かり、ガミーヌは強気に前へと歩み出る。子供達は恐怖から身を守るかの様に、三人で体を寄せ合う。
「フッフッフ……よくもこのガミーヌ様を散々コケにしてくれたじゃないの……いったいどうしてやろうかしらねぇ……」
そんな子供達に不適な笑みを浮かべ、両手の指をワキワキとやらしく動かして見せるガミーヌ。
「おい、それはさすがのワシでも引くぞ」
あまりに非道なガミーヌの行為に、さっきまで結婚だなんだと言っていたルムでさえ、彼女に冷ややかな目線を向ける。
「な、何よ!? 冗談に決まってるでしょ!! 子供相手に目くじらを立てる程、落ちてないわよ!!」
「だがお主、村でこやつらに尻の穴を刺されて、大人げなくキレていたじゃないか」
「ど、どうしてそれ知ってるのよ!!? あんたあの場にいなかったじゃない!!?」
ルムの話では人間の姿で向かう途中、偶々屋敷に入るガミーヌ達を見掛け、後を追い掛けたとの事。つまり、それ以前の知る筈のない情報に、ガミーヌは顔を真っ赤にしながら、大きな声を張り上げる。
「ワシには“真なる眼”という能力が備わっている。“条件”さえ揃えば、相手に触れる事でその者の過去や心の内を知る事だって出来るぞ」
「触れる事で……まさか“あの時”に!?」
それは二人が書庫で再会した際、ルムがガミーヌを抱き締めて結婚を迫った“あの時”である。
ガミーヌの予想に対して、首を縦に振って正解と頷くルム。
「それで、村での出来事を知ったのって……あなた、いったい何処まで私の過去を覗き見たの!!?」
わざわざ覗き見たと言って、恥ずかしそうに両手をクロスさせて、胸を隠す素振りを見せる。そんなガミーヌをルムはいたずらっ子っぽく、クスクスと笑いながら見つめ、落ち着いた口調で喋り始める。
「安心しろ、見たのはここ最近の記憶。それより過去に遡る為には、更に長く相手と触れ合う必要がある」
「それを聞いて安心したわ……」
ホッと胸を撫で下ろすガミーヌ。一方で、一瞬だけ子供達の存在を忘れていた事に、ハッと気が付き辺りを見回すと、コソコソと部屋から出ようとしているのを見つける。
「あっ、ヤベっ!!」
「待ちなさい!!」
ガミーヌに見つかり、慌てて逃げようとする三人だったが、その直前で最後尾にいたティミドをエクスが取り押さえた。
「ティミド!!」
「み、みんな……僕の事はいいから、早く逃げて……」
「仲間を置いて行ける訳がないだろう!! そうだろ、フェズリ!!?」
「はぁ……私的にはこのまま逃げても構わないけど……まぁ、夢見が悪いのは確かね」
自分を犠牲に二人を逃がそうとするティミド。そんな彼を決して見捨てまいとするシェルム。そして、冷たい態度を取りながらも、結局は仲間の為に戻るフェズリ。
これではまるで、こちら側が悪い様に見えてしまう。複雑な心境になりながらも、ガミーヌは三人を改めて尋問する事にした。
「それで? どうしてこんな真似をしたのかしら?」
「「「…………」」」
「私だって鬼じゃないわ。今なら特別に許してあげなくもないわよ……」
「「「…………」」」
「ちょっと、子供だからって甘く見られると思ったら大間違いよ。早く言わないと、それはそれは恐ろしい目に遭わせるわよ」
「「「…………」」」
あくまでも黙秘を貫く所存らしい。自分達が犯人である事は認めたが、その動機までは話すつもりはないらしい。そんな生意気な子供達の態度に、額の血管がピクピクと浮き出るガミーヌだが、ここで諦める訳にもいかないので思い切って攻め方を変える。
「そうねぇ、三人の内で一番に話してくれたら、お姉さんがその子だけにご褒美をあげちゃおうかしらね」
「ふっ……」
大人のお姉さんらしく、人差し指を顎に添えた上で少し顔を傾け、ポーズを決めながら提案するガミーヌに対して鼻で笑ったのは、同じ女でありまだ子供のフェズリだった。
「い、今の笑いは何かしら……フェズリ……ちゃん?」
「別に? 只、随分と“貧相な体”をしたお姉さんがいるんだなって、思っただけ……」
ガミーヌとフェズリ。両者の年齢はかなり離れている。にも関わらず、その体付きはどっこいどっこい。何なら、性格も相まってフェズリの方が大人にすら見える。
この言葉のナイフは、ガミーヌの心を傷付け深く抉った。次第に顔が真っ赤になり始め、フェズリに激昂する。
「なっ、何ですって!!! このクソガキ!! 人が下手に出てりゃ、付け上がりやがって!!」
今にも襲い掛かりそうなガミーヌを、ルムが慌てて後ろから羽交い締めで止める。
「落ち着け、子供相手にそうカッカする物ではないぞ」
「止めないで、こういう聞き分けの悪い子供には愛の拳が必要なのよ!!」
「今の問題ある発言は聞かなかった事にして、一旦冷静になれ。そしてここはワシに任せてくれないか?」
「……分かったわよ」
渋々ながらも、大人しくなるガミーヌ。もう無闇に襲い掛かりそうにないのを確かめると、ルムは羽交い締めを解いた。
そうした上で、今度はルムが子供達の前に立った。
「さて、ここからはワシが相手をしよう。ガミーヌには無理でも、ワシなら話せるんじゃないか?」
「「「……」」」
相変わらず黙秘を貫く子供達。そんな様子にルムは右手の人差し指で、頭をポリポリと掻く。
「……仕方ない。それなら一度村に戻って、“村長”に事情を話すしかないな」
「ひ、卑怯だぞ!!!」
“村長”というワードに反応し、初めてシェルムの表情に動揺の様子が浮かび上がる。それはフェズリとティミドも一緒であった。
「ジジィは関係無いだろ!!?」
「いや、ガミーヌの記憶を見る限りでは、あの村長はお主らの保護者的な立場にある。本人に話す気がないと言うのなら、可哀想だが報告しなければならないだろうな」
「うぐぐ……」
悔しそうに歯軋りするシェルム。すると、そんな中で人一倍冷や汗をかいているティミドが、震える唇をゆっくりと開いた。
「ぼ、僕が……誘ったんだ……二人を……ひ、秘密基地に……どうかなって……そ、それでっで……あのの……」
「ティミド……いいよ、後は全部俺が話すから……」
勇気を振り絞ったはいいが、肝心な所でどもってしまい、上手く言葉に出来ていなかった。それを見て観念し、シェルムが代わりに話し始めた。
「ここは俺達の秘密基地……唯一の遊び場なんだよ」
「遊び場って……ここは貴族が住むお屋敷よ。あなた達が勝手に入っていい場所じゃないわ」
「そんなの分かってるよ。けど、ずっとあんな陰気臭い村にいたら、俺達まで他の連中みたく活気がなくなっちまう」
「だからって……」
「俺達は生まれて間も無い頃、両親にゴミ同然に棄てられた。それをジジィが拾ってからずっと俺達は三人一緒だ。血は繋がってねぇけど、俺はこいつらを妹と弟の様に思ってる」
「妹っていうのは不服だけど……まぁ、私も思ってる」
「ぼ、僕も……頼れるお兄ちゃん、お姉ちゃんだと思ってるよ」
二人の意志も同じだと分かり、シェルムは思わず笑みが溢れる。そして改めてガミーヌ達と向き合う。
「だから、この場所を奪われる訳にはいかなかった。それで……」
「幽霊騒動を引き起こして、誰も近付けなくした訳ね……なんというか、発想が子供騙しね。実際、子供だった訳だけど……」
「何だよその言い方!? そういうお前だって、俺達の起こした怪奇現象にビビりまくってたじゃねぇかよ!!」
「だ、誰がビビってたですって!!?」
シェルムの煽りに、またも顔を真っ赤にして激昂するガミーヌ。呆れた様子でルムが止めに入る。
「いちいち反応しては、身が持たないぞ。だが、お主らどうやって怪奇現象を起こしたのだ?」
「そんなの簡単さ。何を隠そう俺達、魔力が使えるのさ!!」
そう言いながらシェルムが右手に力を込める。すると、掌に青白いモヤが現れる。
「成る程、それで食堂のコンロに火を付けたり、音楽室の楽器を鳴らせた訳じゃな」
「ふん、種さえ分かればあんなの怖くも何ともないわ!!」
子供相手に大人げなく強がりを見せるガミーヌ。そんな彼女に対して、渇いた笑いを浮かべる中、ある疑問がふと思い浮かぶ。
「食堂と音楽室の件は分かったが、あれはどうやったのだ?」
「あれ?」
「惚けるんじゃないわよ。二階の廊下で、半透明な女性の幽霊を出現させて壁を通り抜けさせたじゃない!!」
ガミーヌの言葉に子供達は、困った表情を浮かべながら互いに顔を見合わせ、首を横に振り合う。
「……いや、知らねぇよ。そんな幽霊……」
「はぁ? 知らない訳ないじゃない。あなた達の他に誰がいるのよ?」
「だって俺達、魔力で操作出来るだけで幽霊なんて出せねぇよ」
「……え、そうなの……?」
頷く子供達。嫌な汗が額から流れ、顎に溜まり、一滴となって床に落ちる。背筋に悪寒。得たいの知れぬ恐怖から、思わず固唾を飲み込む。その瞬間……!!
『うぅ……うっ……うぅ……うっうっ……うぅ……』
「「「「!!?」」」」
何処から途もなく、女性のすすり泣く声が聞こえて来た。突然の出来事に子供達は恐怖し、咄嗟にガミーヌの側へと駆け寄る。そして同時にガミーヌも、子供達を抱き寄せて咄嗟に守ろうとする。
『……を……ないで……』
「何か言っておるぞ?」
『……を……いかないで……私を……いかないで……私を……いて……行かないで……』
次第に声はハッキリと聞こえ始める。そして遂に、天井をすり抜けて青白い光を身に纏う白いワンピースの女性がガミーヌ達の前に姿を現した。しくしくと泣いている様子だが、その両目から流れる涙は何故か真っ赤に染まっていた。
『私を置いて行かないでぇえええええええええええええええ!!!』
「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」」」」
まさかまさかの二段階オチ!?
突如、姿を現した幽霊にガミーヌ達はどう立ち向かうのか!?
次回、ガミーヌVS嘆きの女幽霊!!
次回もお楽しみに!!
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