意外な再会
一階での怪奇現象を、何とか凌いだガミーヌとエクスの二人。そして一番の問題だと予想される二階へと足を運ぶ。
階段を昇る中、踊り場に差し掛かった所で壁の日焼け跡が目に映る。
「これって、恐らく物置で見つけた肖像画が飾ってあったのね。どうして外してしまったのかしら?」
「…………」
ガミーヌがわざわざ足を止めて考える中、エクスは無視してさっさと二階へと向かってしまう。
「あっ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! もしかして、さっき魂を取られかけた事で怖くなっちゃった?」
普段、腰巾着の如く側を離れないエクスが、今日は珍しく積極的に動くのを見て、ガミーヌはニマニマと笑みを浮かべながら、エクスをからかい始める。
「…………」
するとエクスは、二階へと完全に昇りきった途端、壁に寄り掛かってガミーヌが昇って来るのを待つ姿勢を見せた。
「ふふっ……(意外だったわ。普段は頼りになるエクスだけど、まさかこんな臆病な一面があるだなんて、ちょっと可愛く感じるわ)」
夜中、トイレに行けない息子に付き添う母親の気分を味わいながら、ガミーヌはエクスの待つ二階に足を運ぶ。
二階は一階と同じく左右それぞれに、二つの扉が設置されていた。エクスが上がったのは右側の階段だった為、必然的に右側の部屋から調べる形となった。
さっそく、一つ目の扉へ向かおうとすると……。
ピシャン!!!
「きゃあ!!?」
突然、窓の外で閃光が走り、その直後に大きな音が鳴り響いた。それに思わず両耳を塞いで悲鳴を上げてしまうガミーヌ。
「な、何……?」
窓の方を見ると、外では激しい雷雨が降り注いでいた。まるで滝が流れているかの様に、雨と風が窓ガラスを打ち付ける。
「雷……ふ、ふん!! べ、別にビビった訳じゃ無いわよ。只ちょっと急に大きな音がして、ビックリしただけなんだからね!!」
別に誰も聞いていないのだが、必死に弁解するガミーヌ。その時、窓の横を何かが素早く通り過ぎる。
「い、今のは!?」
正体不明の存在に怯えながら、窓をじっと見つめるガミーヌ。しかし、それからしばらくしても、何も起こらなかった。気のせいかと思った、次の瞬間!!
『うぅ……うぅ……ううっ……』
「「!!?」」
何処から途もなく、女性のすすり泣く声が聞こえて来た。二人とも剣を構え、周囲を警戒する。
「女性のすすり泣く声……姿を見せなさい!! このガミーヌ様が直々に相手をしてあげるわ!!」
幽霊相手に啖呵を切るガミーヌ。すると廊下の奥の方で、青白い光を身に纏う白いワンピースの女性が姿を現した。これまた白い長髪で非常に美しい容姿を持つが、両足が無く空中を浮いている事から、人ならざる存在なのは明らかだった。
「遂に現れたわね。さぁ、覚悟しなさい!! はぁあああああああ!!!」
討伐対象と思われる幽霊を発見すると、ガミーヌは剣を両手に握り締め、我先にと勢い良く突っ込んだ。
『……ふふっ……』
が、幽霊はそんなガミーヌを鼻で嘲笑って見せると、壁を通り抜けて姿を消してしまった。
「あっ、待ちなさい!!」
幽霊が通り抜けた壁は、ガミーヌ達が入る予定の部屋の壁だった。二人は幽霊の後を追い掛け、扉を開けて部屋の中へと飛び込んだ。
「逃がさないわよ……って、ここは寝室かしら?」
そこは屋敷の主である貴族が使っていた寝室だった。しかし、その広い造りに対して家具はベッド一つだけという、何とも物寂しい殺風景な部屋に思えた。
「今はそんな事より、隠れて無いで出て来なさい!! ここにいる事は分かってるんだからね!!」
だが、そんな事は今のガミーヌには全く関係無い。この部屋に逃げ込んだ筈の幽霊を探し回る。しかし、ベッド以外何も無い為、一目で誰もいない事が分かる。
「はっ、もしかして幽霊だから透明になっているのかもしれないわ!! エクス、その辺を手探りで探して!! 私はこっちを探して見るわ!!」
そう言うとガミーヌは、虚空に手を伸ばし始めた。エクスも渋々ながら、片手でその辺の虚空に手を伸ばすが、当然手応えなど感じる筈も無かった。
「あっ、今何か触れたかも!!? いや、気のせいかも……あっ、今度こそ本当に何か触れたかも!!? でも、違う気もして来た……」
と、何となくという感覚を頼りに永遠とも思える作業を繰り返すのであった。
***
「……今度姿を見せたら、絶対に逃がさないわ……」
ぶつぶつと文句を言いながら、部屋から出て来るガミーヌ達。結局、幽霊を探し出す事は出来なかった。また、一階で起こった怪奇現象の類いも寝室では起きなかった。
「次の部屋に行くわよ。きっとそこにあの幽霊がいるに違いないわ!!」
別の部屋にいると信じて、意気揚々と二番目の部屋の扉を開けて、中へと足を踏み入れるガミーヌ。
「ここは書斎ね」
入り口以外、三方向の壁一面に敷き詰められた本の数々。上の本を取る為のスライド式の梯子や、ゆっくり読む為の机と椅子などが置かれていた。
「“魔力の基礎”に、“文明と進化の歴史”、“葬られた一族”、“少女と道化師の物語”と、“世界の創生と終焉に関する考察書”まで……」
徐に本棚の本を手に取り、パラパラと読んでは再び元の場所に戻す行為を繰り返す。
「ふーん、うちの書斎と比べたらまだまだだけど、結構良いのを取り揃えているのね。あらっ……?」
そんな中、ふと気になるタイトルの本を見つけた。
「“龍大図鑑”……」
それはガミーヌの体半分程の大きさで、表紙には荒々しい龍の絵が描かれていた。試しに一枚めくると、龍の種類と生体について詳しい情報が書き記されていた。
「一昔前の人間が残した龍に関する図鑑ね。本物を見た後じゃ、どうにも胡散臭い内容に思えちゃうわね」
「じゃが、これなんかは整合性が取れておるぞ」
「どれどれ? あっ、確かにそうねって……え?」
自然に答えてしまっていたが、自分やエクスでは無い第三者の声。ガミーヌが慌てて声のした方向に顔を向けると、そこには銀色の長髪に、長身で溢れんばかりの胸と尻を持ち、布面積が胸と腰回りしか無い大胆過ぎる衣服を身に付け、丸出しのお腹は綺麗なシックスパックに割れた屈強で美しい女性が、こちらを覗き込んでいた。
「だ、誰よあなた!!?」
ガミーヌは、突然現れた謎の女性に剣を構える。しかし、謎の女性は驚く素振りも見せず、寧ろ不思議そうな表情を浮かべていた。
「誰とは冷たいの。供に肩を並べた仲ではないか」
「肩を並べた? 寝ぼけた事を言ってるの。あなたと肩なんか並べた覚えは無いわよ」
「ふぅむ、確かに言われてみれば、ワシは終始寝ていたな」
「あっ、分かったわ。あなた、さっきの幽霊ね!! 何処に言ったのかと思ったら、こんな所に隠れていたのね!!」
「はぁ? 何の話をしておるのだ?」
「ここであったが百年目……いざ尋常に勝負よ!!」
そう言いながらガミーヌは、謎の女性目掛けて剣を振るうが、謎の女性は親指と人差し指で意図も簡単に掴んで見せる。
「ふぐぐっ!! う、動かない!!」
「一旦、落ち着け。誰かと勘違いしているぞ」
「私は落ち着いてるわよ!! いいから、手を離しなさい!!」
「……ほれっ」
「きゃあ!!!」
急に手を離した事で、勢い余って尻餅を付いてしまうガミーヌ。
「や、やったわね!! もう手加減しないわよ!!」
「いいから落ち着けガミーヌよ」
「気安く呼ぶんじゃないわよ!!」
「オヌシが呼べと言ったんだろうが……全く、よく見て見ろ。ワシは幽霊なんかじゃない。ちゃんと実態だってある」
「え……?」
そう言われて改めて全身を確認すると、ちゃんと両足がある事に気が付いた。
「あっ、本当だ……足もある」
「だからそう言っただろう。せっかくの再会だというのに、随分手荒い歓迎じゃの」
「いやいや、幽霊じゃないのなら、あなた本当に誰なのよ!!?」
「まだ分からないのか? 仕方の無い奴じゃ、ワシだワシ……“ルム”じゃよ」
「“ルム”?」
その名前にガミーヌはハッとする。そしてカッと目を見開き、驚きの表情を浮かべ始める。
「ま、まさか……う、嘘でしょ……? ルムってあの……」
「相変わらずだな、“小娘”」
「えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」
あまりにも意外な人物の再会に、ガミーヌは今日一番の叫び声を上げるのであった。
何とまさかのルムと再会!!
何故、あのルムがこんな所に!?
そして何故、人間の姿で!?
その理由が次回明らかとなる!!
次回もお楽しみに!!
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