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襲い掛かる怪奇現象(一階)

話を一階、二階の二つに分けました。

 結局、再びピアノが鳴り出す事は無かった。念の為、こちら側から鍵盤を押して音を鳴らしてみるが、普通に綺麗な音が鳴り響くだけだった。


 周りの楽器類も一通り調べるが、これといった怪奇は見られず、仕方なくガミーヌ達は音楽部屋を後にした。


 「でもこれで、この屋敷には本当に幽霊がいる事が分かったわね。こうなったら片っ端から部屋を探索して、目の前に引き摺り出して見せる!! さぁ、次の部屋に向かうわよ!!」


 そうして、俄然やる気になったガミーヌは、エクスを連れて二番目の部屋の扉を勢い良く開ける。


 「ここは……食堂ね」


 大人数で食べる為の長いテーブルが、部屋の中央に対して横向きに置かれており、その奥にはキッチンが設置されていた。


 冷蔵庫にガスコンロ--この世界におけるこうした調理家電は全て“魔力”を動力源としている。家電それぞれに専用の魔力タンクが備え付けられており、そこに魔力を注入して貯めておく事で必要時に消費し、稼働する事が出来る。


 が、それはガスコンロなどのオンオフが切り替えられるタイプに限る。冷蔵庫といった保存の為に常に魔力を消費するタイプは管理が大変となる。そして、知っての通りここに住んでいた使用人は、もう何年も前に出ていってしまっており、鍵を預かった村長も管理などしている訳が無い。つまり……


 「うっ……やっぱり中の食材は全滅してるか……」


 冷蔵庫の中に入っていた食材や飲み物は全滅。漏れ無く腐っていて、何処から入り込んだのか、ハエや蛆虫が集っていた。


 「それはそうよね。幽霊が食事なんか取る訳無いんだし……」


 顔をしかめ、冷蔵庫を閉じるガミーヌ。その時、ガスコンロの火が勝手に点いた。


 「!!!」


 ガミーヌは咄嗟に剣を構え、周囲を警戒する。


 「何処にいるの!? 隠れていないで出て来なさい!! この卑怯者!!」


 姿を見せない幽霊相手に挑発する。しかし、火が点く以外の反応は起こらなかった。


 「さっきからいったい何なのよ……驚かすだけで実害は与えないつもり?」


 拍子抜けと言わんばかりに構えを解き、ガスコンロの火を消した。


 「他に目ぼしい物も無いみたいだし、次の部屋に行きましょう」


 そう言うとガミーヌ達は食堂を後にする。誰もいなくなった部屋。少しすると、テーブルの下から人影がスッと動いた。




***




 「ここは物置みたいね」


 三番目の部屋に入ったガミーヌ達。そこは色んな物が押し込まれて、足の踏み場すら無い場所だった。それでも何とか奥へ奥へと歩みを進めると、一番奥には布を被せられた長方形の巨大な物が置かれていた。


 「…………えい!!」


 何となく気になったガミーヌは、その布を剥ぎ取り、中身を確かめた。


 それは絵画であった。身なりの良い金髪の青年がこちらに向かって微笑んでいる人物画。額縁の日焼け具合から、恐らく玄関ホールに飾られていた物はこれだったのであろう。


 「これは……肖像画かしら? もしかしてここに住んでいた貴族の? へぇー、女のすすり泣く声が聞こえるって言うから、てっきり女性かと思ってたわ」


 「…………」


 「あれっ、そうなると女のすすり泣く声の主って、いったい誰の事なの?」


 「…………」


 貴族の性別が明らかになった事で、また新たな謎が生まれてしまった。ガミーヌがそうした疑問に首を捻る中、エクスは一人じっと肖像画を眺めていた。


 「うーん、他にこれといった物も無いし、次の部屋に向かいましょうか」


 そう言うとガミーヌは、部屋を後にしようとする。しかし……


 「エクス? 何してるの? 早く行きましょう」


 「…………」


 いつも小判鮫の如く、ガミーヌの側を離れないエクスが、その場から動こうとしなかった。まるで肖像画に心を奪われてしまっているみたいだった。


 「ちょ、ちょっと……まさかその貴族に魂奪われちゃった訳じゃないわよね!!? エクス!! ねぇ、エクスったら!!」


 「…………」


 心配になったガミーヌは、エクスの体を揺さぶり、必死に呼び掛けた。すると我に帰ったエクスは、ガミーヌの方に顔を向ける。


 「だ、大丈夫なの……?」


 「…………」


 コクリと小さく頷くエクス。


 「大丈夫なら良いんだけど……急いでこの部屋から出ましょう」


 また魂が取られてしまうのではないかと、ガミーヌはエクスの腕を引っ張り、無理矢理部屋から出た。その間、エクスは名残惜しそうに肖像画を眺めるのであった。




***




 「この屋敷に入ってから、不可解な事ばかり起こるわね……まぁ、幽霊屋敷なんだから当然と言えば当然なんだけどね……」


 四番目の部屋へと行く途中、ガミーヌはこれまで起きた怪奇現象について考え込んでいた。


 「だけど、それにしてはショボいのばかりなのよね。ピアノが独りでになったり、ガスコンロの火が勝手に点いたり……」


 そこまで言い掛けた所で、エクスの方をチラリと見る。


 「……ま、まぁ、さっきのは例外として……もっとこう……物が宙に浮いたり、それこそ幽霊が目の前を横切ったりなんかしないと、何かどれもイマイチなのよね。子供の浅知恵というかなんというか……いや、無理に求める物じゃ無いってのは分かってるんだけど、盛り上がりに欠けるのよね……」


 ぶつくさと不満を口にしている内に、四番目の部屋の前に辿り着いた。


 「さてと、ここが一階最後の部屋になるわね。さっさと終わらせて、二階に向かうわよ」


 ガミーヌが意気揚々と部屋の扉を開けた瞬間、彼女の顔面スレスレに物が勢い良く横切った。


 「え?」


 いったい何が起こったのか、まるで分からなかった。只、物が横切り頬から血が流れた事で、命の危機だけは実感する事が出来た。


 どうやらここは温室の様だ。多種多様な植物が植えられていたのだろう。しかし、今となっては見る影も無い。何故なら、その全てが空中を飛び交っているのだから。


 「早く閉めっ……!!?」


 そこまで口にした瞬間、見えない何かに引っ張られ、ガミーヌ達は無理矢理中へと引き摺り込まれてしまい、そして部屋の扉が勝手に閉じてしまった。


 「えっ!!? 嘘でしょ!!? あ、開かない!!!」


 慌ててドアノブを回して開けようとするが、扉はびくともしなかった。


 「こうなったらエクス、扉を破壊して……!!!」


 しかし、エクスは手が離せなかった。飛び交う物が二人目掛けて襲い掛かっていたのだ。草や花ならまだ良いが、この温室には小さな木や植木鉢なんかも置かれている為、当たれば怪我では済まない。


 「それなら私が壊すわ!!」


 ガミーヌは剣を構え、扉に斬り掛かる。だが、非力なガミーヌでは、良くて扉の表面を傷付けるだけであった。


 「どうして!! どうしてよ!! これじゃあ……何の為に冒険者になったって言うの……やっぱり才能なの……」


 何度も何度も剣を振り回し、扉の破壊を試みるがまるで効果無し。そんな自分自身の弱さと情けなさに嫌気が差すガミーヌ。


 “才能無いね。けど、強くなるよ”


 「……!!!」


 それは記憶だった。脳裏に思い浮かぶ女性の姿にガミーヌは鼻で笑った。


 「そうよ、才能が無くったって強くなれるって、あの“ババア”だって言ってたじゃない。私ならやれる……強くなって、家族を見返してやるんだからね!!」


 するとガミーヌは斬るのを止め、剣を扉に思い切り突き刺した。そこから力の限り動かして、見事扉を破壊した。


 「開いたわ!!」


 その言葉と共にエクスはガミーヌを小脇に抱え、部屋を飛び出した。その後、大量の木々や植木鉢が扉に激突し、部屋は完全に塞がれてしまった。


 「あ、危なかった……」


 無事に脱出する事が出来たガミーヌ達は、ホッと一安心した。


 「いよいよ怪奇現象も本腰入れて来たって感じね。これで一階は全部調べ終わった。残るは二階のみね!! ほら、早く行きましょう!!」


 テンションが上がるガミーヌ。エクスを急かしながら、二階へと向かうのであった。そんな二人の様子を伺う謎の人影に気が付く事無く……。

遂に怪奇現象がガミーヌ達に牙を向けた!!

次回、恐怖の二階の調査が始まる……。

次回もお楽しみに!!

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