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幽霊屋敷の洗礼

今回から幽霊屋敷の調査となります。

 「着いたわね。ここが幽霊が出る屋敷……」


 ガミーヌとエクスの二人は、村長から依頼の詳しい話を聞き、言われた通り村を出て北に進むと目的の屋敷へと辿り着いた。


 まともな手入れを長い間されていなかったのか、所々壁や屋根の塗装は剥がれ、庭は雑草が伸び放題であった。


 「如何にもな廃墟ね。これは幽霊の一匹や二匹出ても可笑しくはないわ」


 そう言うとガミーヌは、ふと一階と二階の窓をそれぞれ眺める。二人のいる玄関方向は一階に二つ、二階に四つ取り付けられていた。どれもカーテンで遮られ、肝心の中は確認出来なかった。


 「まぁ、当然と言えばとうぜ……んっ!!?」


 その時、ガミーヌは目を疑う光景を目撃した。二階の窓を女性の人影が横切ったのだ。


 「ね、ねねね!!! み、見た!!? 今、見たわよね!!? あれが噂の霊なのかしら……?」


 「…………」


 怖さを少しでも和らげようとエクスに声を掛けるが、本人はこちらを一切見ようともせず、只じっと屋敷を眺め続けていた。


 「ちょっと!! 無視しないでよ!! 不安になるじゃない!!」


 この世ならざる者を見てしまい、情緒が不安定になるガミーヌ。が、すぐに頭を横に振って気持ちを立て直した


 「って、何弱気になってるのよ私は!! 相手が幽霊だろうが関係無い。全員まとめて退治してあげるわ。さぁ、さっさと中に入るわよ」


 自身を奮い立たせ、屋敷の中に入ろうとした次の瞬間、上から何かがガミーヌの顔面ギリギリを通り過ぎて落ちて来た。その直後、“びちゃ”っという液体が溢れた様な音が鳴り響く。


 「な、何?」


 落ちて来た物体を確かめると、全体的に白く濁っており、所々に黒い斑点模様。まるで、絵の具を垂らしたかの様な跡になっていた。それは誰がどう見ても、紛れもない鳥のフンだった。


 「ちょ、嫌だ!! 靴にまで跳ねてる!! 最悪なんだけど!!」


 直撃こそしなかったが、顔面ギリギリを通り過ぎた鳥のフンは、地面に着弾する際、ガミーヌの靴の先にまで飛び散っていた。


 「こんな真似して、只で済むと思ってるの!!? 焼き鳥にして食ってや……る……わ……」


 怒りに震え、落とし主である鳥を睨み付けようと顔を上げるガミーヌ。しかし、その勢いは途中で無くなってしまった。そこに広がる異様な光景を目の当たりにした事で……。


 結論から言えば、落とし主はカラスだった。しかし、問題なのはその数だった。十羽、二十羽どころじゃない。百羽以上のカラスが屋根を埋め尽くし、更にはその全てがこちらをじっと見つめていた。まるで、屋敷に足を踏み入れる事を警告するかの様に。


 「な、中々粋な演出をしてくれるじゃない……」


 などと呑気な事を口にしていると、カラス達が一斉にお尻をこちらに向けて来た。これから起こる事は、火を見るより明らかだった。


 「は、早く入るわよ!!」


 慌てて村長から貰った鍵で扉を開けて、中へと入るガミーヌとエクス。その様子を見届けたカラス達は、一斉に何処かへと飛び去ってしまった。




***




 「……思ったよりも綺麗ね」


 無事に屋敷内に入ったガミーヌとエクス。明かりがついていない為、全体的に暗めだが、それでも何となく部屋の構造は見て取れた。


 ここは玄関ホールの様だ。床は傷一つ無いフローリングに、玄関から続く赤い縦長の絨毯が敷かれている。中央には踊場まで続く大きな階段、更にそこから二階へと上がる左右に分かれた階段。踊場の壁には何か絵が飾られていたのか、日焼け跡が残っていた。


 そしてざっと見回した所、一階にはそれぞれの部屋と続く扉が四つ設置されていた。


 「問題の幽霊が出るのは二階らしいけど……取り敢えず、一階から調べて行きましょう」


 そう言ってガミーヌ達が歩き出したその瞬間!!


     ガリガリ!! ガリリ!!


 「きゃあ!! な、何!!?」


 突如、何かを引っ掻く様な音が玄関ホール全体に鳴り響いた。その音に思わず驚き足を止めるガミーヌ。するとそれと連動して、音もピタリと鳴り止んだ。


 「…………」


 「…………」


 そこからしばらく様子を見る二人だったが、音が鳴る気配は感じられなかった。


 「……行きましょう」


 ホッと一安心し、再び歩み始める。するとまたしても、ガリリガリと何かを引っ掻く音が鳴り響いた。


 「いったい何なのよ!!?」


 正体不明の音に混乱するガミーヌ。何とか音の正体を探ろうと、注意深く耳を済ませて辺りを見回す。


 「……こっちね!! って……」


 「…………」


 音の正体は、エクスが常に引きずっている剣だった。重たい剣が歩く度に床を傷付け、その際にガリリという音が発生していたらしい。


 「もう!! びっくりさせないでよ!! 部屋にいる時位、背中に背負ったらどうなの!!?」


 「…………」


 剣を背負う様に要求するが、頑としてエクスは引きずるスタイルを貫き通したい様子だった。


 「……はぁ、ならせめて布か何かで覆ったらどうなの? それじゃあ、床もそうだけど剣自体も傷が付いちゃうわよ」


 「…………」


 するとエクスは懐から大きな布を取り出し、床に当たる剣の部分に巻き始めた。その様子を眺め、これでもう大丈夫と安心するガミーヌ。


 「さて、気を取り直して調べるわよ」


 そう言ってガミーヌ達は、右側にある一つ目の扉を開けた。


 「ここは……」


 そこは音楽室とも言える程、楽器が置かれていた。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ハープ、そして最も目を引くのが、窓際に置かれているピアノカバーの掛かった巨大なピアノだった。


 「ふーん、ここにいた貴族の人、音楽が好きだったみたいね」


 時間が経っている関係から、埃を被ってしまっているが、そのどれもが新品同様なのが一目で分かった。


 ガミーヌは何気無くピアノの方へと歩み寄り、ピアノカバーを外した。が、真っ白に輝く鍵盤を目にした途端、表情が曇った。


 「……逆か……」


 そう言いながら鍵盤に触れようとすると、突然鍵盤が勝手に押されて音を鳴らし始めた。


 「え!!? な、何!!?」


 静かにゆっくりと鳴り響くピアノ。それはまるで亡くなった貴族がこの世の未練から、すすり泣いている様だった。


 「で、出たわね幽霊!! 隠れていないで出て来なさい!! このガミーヌ様が相手になってあげるわ!!」


 ピアノに向けて剣を構えて啖呵を切るガミーヌ。すると、その声に応えるかの様に音がピタリと鳴り止んだ。


 と、油断した次の瞬間、鍵盤が激しくデタラメに鳴り響く。


 「!!!」


 まるで無断で入って来た二人に対して、怒りを覚えているみたいだった。


 咄嗟にエクスはガミーヌの前に立ち、庇う姿勢を取る。


 「エクス……って、こんなんじゃいつもと同じじゃない。今回は私が活躍するんだから、退いて!!」


 守られてばかりではいけない。ガミーヌはエクスを押し退け、積極的に前へ歩み出る。


 「さぁ、何処からでも掛かって来なさい!!」


 勇猛果敢に剣を構えるガミーヌ。だが、その瞬間またしても音がピタリと鳴り止んだ。そして二度と鳴り響く事は無かった。


 「…………」


 呆気に取られるガミーヌ。そして拍子抜けの展開に怒りを覚え、次第にプルプルと全身を震わせる。


 「いったい何なのよ!! もう!!」


 ガミーヌの怒号が屋敷内に響き渡る。まだ、幽霊屋敷の探索は始まったばかりである。

次々と発生する怪奇現象。

果たして、ガミーヌ達は無事にこの幽霊騒動を解決する事が出来るのだろうか。

次回もお楽しみに!!

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