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活気の無い村

前回、幽霊屋敷に突入すると言ったな?

あれは嘘だ。

先にとある村に赴きます。

 朝。天気は快晴、一面に広がる青空はまるで青いキャンバスだ。頬をくすぐる様に吹き抜ける風は温かく、とても心地が良い。


 「さぁ、張り切って幽霊退治をするわよ!!」


 「…………」


 ラフスを出たガミーヌとエクスの二人。目的はとある屋敷で起こる怪奇現象の解明。


 「あっ、そうだ。する前に言っておくけど、今回の依頼は私が解決するから、エクスはサポートに徹しなさい」


 「…………」


 「(こうでもしないと、また美味しい所を持っていかれちゃうわ。今回こそ、私がバシッと活躍して、決してエクスのお飾りじゃない事を世間に証明して見せるわ!!)」


 街の人々に低く見られている事を、未だに引きずっているガミーヌ。そのイメージを払拭する為、エクスにでしゃばらない様、釘を刺した。


 「(ふふっ、目に浮かぶわ。華麗に依頼を解決し、周りが私のスゴさに平伏す様子が……)」




 “あっ、ガミーヌ様だ!!”


 “誰も解決出来なかった依頼を、意図も簡単に解決したガミーヌ様だ!!”


 “カッコいい!!”


 “私、ファンになっちゃった!!”


 “僕、将来はガミーヌ様の様な立派な冒険者になりたい!!”


 “ガミーヌ様!!”


 “ガミーヌ様!!”


 “ガミーヌ様!!”




 「うへっ、うへへへ……」


 頭の中で鳴り響くガミーヌ様コール。高揚感に酔いしれ、思わず声と笑みが溢れる。


 「よし、頑張るわよ!! 早速、詳しい話を聞きに行きましょ!! 確か、依頼者は屋敷近くの村に住む村長だったわね!!」


 依頼者を再確認し、ヤル気満々のガミーヌ。それは行動にも現れており無意識に歩幅が大きくなる。そんな彼女の後をエクスはいつもの様に、剣をひきずりながら付いて行く。




***




 「ここが依頼者の村長が管理する村ね……って、これは……」


 村に到着したガミーヌ達。そこには村人達が生活する様子が広がっていたが、皆何処かやる気が無く、村人同士が道端で会っても会釈するだけで、立ち止まって会話などしない。物を売り買いしている店主に至っては、カウンターで突っ伏して眠っている始末だった。


 「何だか……活気の無い村ね」


 そんな感想を述べるガミーヌの背後に、人影が忍び寄る。そして次の瞬間!!


 「……っ!! みぎゃああああああああああああ!!?」


 突如、肛門に激しい痛みが走る。そのあまりの痛さにガミーヌは叫び声を上げ、両目から涙が飛び出し、両手でお尻を抑えながら、あられもない姿を晒してしまう。これには流石に周囲の村人達も何事かと、様子を見に来る。


 「あいっ……い、いったい誰よ……こんなふざけた真似をしてくれたのは!!?」


 痛みに何とか耐えて振り向くと、そこにいたのは三人の子供だった。右にいる眼鏡を掛けた気弱そうな男の子は、申し訳なさそうな様子でこちらを見つめ、左にいる縮れ髪の女の子は、呆れた様子で興味無さそうに片手で毛先を弄っていた。そして真ん中にいる体のあちこちが擦り傷だらけの男の子は、両手を合わせて人差し指を突き出す所謂“カンチョー”の構えをしながら、満足げな笑みを浮かべていた。十中八九、主犯格はこの男の子だろう。


 「いっしっし、大成功だぜ!!」


 主犯格の男の子は、イタズラが成功したと嬉しそうに口を開いた。


 「あ、あの……本当にごめんなさい。怪我とかしてませんか?」


 続けて眼鏡の気弱そうな男の子は、主犯格の男の子の影に隠れながら、謝罪と怪我をしていないかの有無を聞いて来た。


 「はぁ……ほんと男ってバカなんだから……けど、あんなのに引っ掛かる方もどうかと思うけどね」


 縮れ髪の女の子は、一貫して興味無さそうに言うが、然り気無くイタズラされたガミーヌをバカにしていた。


 「このクソガキどもがぁああああ…………このガミーヌ様にこんな事して、只で済むと思うなよぉおおおおおおおおお!!!」


 「ヤベ!! 逃げろ!!」


 「ま、待ってよ!!」


 「ちょっと急に走らないでよね」


 怒りが爆発した事で痛みなど忘れ、鬼の形相を浮かべて三人の子供を追い掛け回す。子供達が速いのか、それともガミーヌが遅いのかは分からないが、一向に差は縮まらなかった。


 「待ちなさい!! 絶対に逃がさないわよ!!」


 「へへーんだ。そう簡単につかまるかってんだ」


 「で、でもこれからどうするの? あの人、許してくれなさそうだよ?」


 「そんなの知るかよ。どうせ今捕まんなくたって、後でしこたま怒られるんだ。だったら俺は少しでも長く逃げ続けてやる」


 「そ、そんな……僕……もう限界……走れないよ」


 「なら、あんただけでも捕まれば? ついでに私達の分まで怒られてくれる?」


 「僕だけ怒られるなんて、そんなのやだよ!! 最後まで皆一緒にいたいよ!!」


 「心配するな、いざとなったら隠れ家に逃げ込めば!!?」


 「うわぁ!!?」


 「ちょっと!!?」


 その時、先頭を走っていた主犯格の男の子の動きが突然止まった。それにより、彼の後ろを走っていた子達も強制的に足が止まってしまった。


 「いった……何だよ急に……って、げっ!!?」


 その原因は直ぐに理解した。主犯格の男の子の前に一人の大人が通せんぼしたからである。白髪混じりの黒髪で、強面な顔をした男性だった。


 「はぁ……はぁ……やっと……追い付いたわよ……さぁ、覚悟は出来てるかしらって……あら?」


 遅れて追い付いたガミーヌ。そこで漸く、目の前の男性の存在に気が付いた。


 「誰?」


 「あわわわ……」


 「やっぱりこうなるのね」


 「よ、よう……ジジイ……」


 「……バカモォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」


 「「「「!!!」」」」


 ジジイと呼ばれた男性の口から発せられた怒号は、村中に響き渡った。





***




 「お前達はいつもいつも……いったい何度叱れば気が済むんだ!!!」


 ここは怒号を上げた男性の家。彼の目の前では、先程の子供達が正座をさせられていた。


 「あ、あの“村長”さん……もうその辺で……私はもう気にしてませんので……」


 男性の正体、それはこの村の村長だった。子供達が叱られる様子を側で見ていたガミーヌとエクスの二人。その容赦無い叱りに、ガミーヌの怒りはすっかり鎮火していた。それどころか、子供達を庇う余裕すら出ていた。


 「いえ、それではこいつらの為になりません。悪い事をしたと自覚させるには、徹底的に叱らねばならないのです」


 「は、はぁ……」


 「失礼。だからな、イタズラされた側がどんな気持ちになるのか、ちゃんと考えてだな……おい、人の話を聞いてるのか!!? “ティミド”!!!」


 子供達の不真面目な態度から、村長は確りと話を聞いているのか一人ずつ確かめようする。まず、眼鏡を掛けた気弱そうな男の子“ティミド”に声を掛けた。


 「あっ、えっと、その……せ、正座で足が痺れちゃって……」


 おどおどと怯えながら答えるティミド。


 「“フェズリ”!!!」


 次に、興味無さそうに毛先を弄る女の子“フェズリ”に声を掛けた。


 「えぇー、私別に何もしてないよ? 只見てただけだし」


 あくまでも自分は悪くないと主張するフェズリ。


 「“シェルム”!!!」


 最後に主犯格の男の子“シェルム”に声を掛けた。


 「あぁ、聞いてる聞いてますよ。けど、いつも同じ説教だから、聞き飽きちゃったよ」


 「な、何だと……!!!」


 一切悪びれる様子も無いシェルム。その様子に怒りから、顔を真っ赤に染め上げた。


 「どうせならさ、もっと面白い説教にしてくれなきゃ。聞かされる側がどんな気持ちになるのか、ちゃんと考えてくれなきゃ」


 「だ、誰のせいで同じ説教になると思っているんだぁああああああああああああああああ!!!!」


 更に煽られた事で遂に我慢の限界を超え、村長は再び怒号を子供達に浴びせた。が、これは来る事が予測されており、子供達は直前に耳栓をして防いだ。


 「はぁ……はぁ……うっ!!?」


 「村長さん!?」


 大声を張り上げ、息切れを起こす村長。すると次の瞬間、膝からガクリと崩れ落ちてしまった。


 「だ、大丈夫です。ちょっとクラっと来ただけですから……」


 「よっしゃ、今だ逃げるぞ!!」


 村長が倒れた事を良い事に、その場から逃げ出そうとする子供達。


 「ま、待つんだ!!」


 行かせない様に村長は慌てて、シェルムの手首を掴んだ。


 「まだ話は終わっていないぞ」


 「……離せよ」


 「あのな、私はお前達の“親”としてだな……」


 「“本当の親”でも無い癖に、親みたいな態度取るな!!!」


 「!!!」


 そう言うとシェルムは、村長の止める手を振り払い、他の二人を連れて家を飛び出してしまった。


 「シェルム……ティミド……フェズリ……」


 飛び出す子供達に対して、悲しそうに呟く村長。そんな一部始終を呆然と眺めるガミーヌとエクス。


 何と声を掛ければ良いものかと、中々第一声が決められずに困っていた。


 「あ、あの……何て言ったら良いか……」


 結局、決める事は出来ず、そのままの心境を村長に伝えた。


 「こ、これはお恥ずかしい所をお見せしてしまいましたな。本当に申し訳ありません」


 余程ショックだったのか、ガミーヌ達の存在をすっかり忘れていた村長。ガミーヌに声を掛けられた事で漸く思い出し、慌てて立ち上がると二人に向けて謝罪した。


 「そんな、村長さんが謝る事では……」


 「いえ、悪いのは私です。あの子達に寂しい想いをさせてしまっているばかりに……やはり本当の親じゃなければ、心の隙間を埋める事は出来ない」


 「さっきも言ってましたが、どういう意味なんですか?」


 「……この村を見て、どう感じましたか?」


 「えっ!? えっと、それは、その……」


 「活気が無いと感じたでしょう」


 「あっ、はい……」


 「私も常々そう思います。しかしそれも仕方の無い事なのです。ここにいる村人達は、皆過去に大切な人を亡くしてしまっているのです」


 「大切な人を?」


 「魔物に殺されたり、病で亡くしたりなど、何らかの事情によって生き別れてしまい、傷心して流れ流れ着いたのがこの村なのです」


 「この村にそんな秘密が……という事はあの子供達は……」


 話を聞き、察するガミーヌ。しかし、それに村長はゆっくりと首を横に振る。


 「いえ、あの子達……シェルム、ティミド、フェズリの三人はそれぞれ幼い頃に棄てられたのです」


 「そんな……」


 「私があの子達を保護したばかりの時、両親に棄てられたという精神的なショックから、感情という物が一切ありませんでした。それでも何とか笑顔を取り戻して上げようと、必死に努力しました。その結果、確かに笑顔は戻ったのですが……」


 「代わりにイタズラ好きになってしまったと……」


 「本来なら元気になったと喜ぶべきなのですが、如何せん他人に迷惑を掛けてしまっているので、叱る他ありません。そのせいでまた心を閉じてしまわないか、それだけが不安です」


 「村長さん……」


 「いやいや、何だか湿っぽい話になってしまいましたな。依頼の話をしましょう」


 「……分かりました」


 これ以上、話を広げてもガミーヌ達に何か出来る訳ではない。ここは大人しく依頼の話を聞く他無かった。


 「ここから少し北に向かった場所に、目的の屋敷があります。今までそんな話は聞いた事が無かったのですが、ここ最近になって急に聞く様になりました」


 「具体的にどんな?」


 「物が空中に浮いたり、物音がするのは序の口。中には女のすすり泣きが聞こえたとか、屋敷の窓を白いドレス姿の女が通り過ぎるのを見たなんていう話も聞きます」


 「屋敷に住む人間の可能性は?」


 「それはあり得ません。あそこはもう長い間、使われていません。昔とある貴族様の別荘だったのです」


 「貴族の別荘ね……」


 「しかし、どうやらその貴族様が亡くなられたらしく、それにより使用人達は皆一同に屋敷を去りました。その時、使用人の方からこれを頂きました」


 村長が取り出したのは、一本の古めかしい鍵だった。


 「屋敷の鍵です。もう使う事は無いから、後は私達の好きにして構わないと渡されました」


 「それじゃあ、村の誰かがその鍵を使って?」


 「いえ、鍵はこれ一本だけです。特注品らしく、スペアやマスターキーも無いとの事……」


 「話は大体理解したわ。けど、どうして依頼するの? 聞いた限りじゃ、実害が出ている訳じゃ無いし、村からは少し離れているんだから無視してしまえば良いんじゃない?」


 「私もそうしようかと考えました。しかし、その貴族様には返し切れない恩があるのです」


 「恩?」


 「見ての通り、この村は裕福とは言い難く、お腹を満たすのにも一苦労です。そんな時、貴族様はいつも私達に食べ物を恵んで下さりました。そのお陰で私達は何とか生き残れて来れたのです。そんな貴族様が住んでいた屋敷……好きにして構わないと言われましたが、どうもそんな気持ちになれず、そうしている内にいつの間にか今回の幽霊騒ぎが発生してしまったのです」


 「成る程、それで私達に解決して欲しいと依頼した訳ね」


 「はい、このままでは亡くなられた貴族様に顔向け出来ません。どうか、幽霊騒ぎの原因とその解決をお願いします」


 「いいわ、その依頼このガミーヌ様が引き受けるわ!!」


 「ありがとうございます!!」


 「幽霊なんて、ちょちょいのちょいで退治してやるわよ。はーはっはっはっは!!!」


 幽霊騒ぎの依頼解決を約束するガミーヌは、高笑いを浮かべる。その様子を窓の外から覗き込む人影に一切気づかずに……。

次回はちゃんと幽霊屋敷に突入します!!


次回もお楽しみに!!

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