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エクスキューショナー

 ラフスへと真っ直ぐ歩いて行く邪龍モドキ。未だに精神と肉体が定着しておらず、あちこちの鱗と皮膚がまるで生き物の様にうねうねと動き、中の骨が見えたり隠れたりを繰り返していた。


 その後を追い掛けるガミーヌとエクスの二人。しかし、邪龍モドキの一歩が大きく、ガミーヌの走りではとても追い付きそうに無かった。エクスが本気で走ればギリギリ追い付けるのだが、ガミーヌを一人にしたくないのか、彼女の歩幅に合わせて走っていた。


 「エクス、まさかこの期に及んで、まだ私の身を守ろうとか考えてるんじゃないでしょうね?」


 「…………」


 ガミーヌもバカじゃない。エクスとの実力は天と地の差だ。それに対して、もう少しで追い付きそうなこの局面。当然、気付かない訳が無い。


 あまりにも過保護過ぎるエクスの行動。端から見れば、大切な仲間を失わない様に心掛ける何とも優しい男だと思うだろう。しかし、本当の理由がまさか復讐を成し遂げる為、必死に守っているなど、誰も想像もしない。


 「図星の様ね。全く……見かけに寄らず、愛情深いんだから。まぁ、相手がこの私だから仕方ないと言えば、仕方ないんだけどね。けど……」


 勿論、ガミーヌは知らない。それどころか、自分に対する愛情表現だと勘違いしている。頬を赤らめ、満更でも無い表情を浮かべるが、直ぐに真剣な表情に戻った。


 「このままじゃ、あのモドキにラフスが襲われちゃうわ。そうなったら、ギルドだって只じゃ済まない。最悪、パーティー解散する事になるかもしれない」


 「…………」


 「だからこそ、今ここであいつを倒さないといけないの。構わず、先に行きなさい。悔しいけど、エクスの方が圧倒的に強い。今回、私はサポートに回るから、トドメは任せたわよ」


 そこまで言われれば、さすがのエクスも動かない訳にはいかない。エクスはガミーヌを一人置いて、先へと走り出した。


 距離が徐々に縮まり、足下まで辿り着くと血管が浮かび上がる程、両足に力を込めると勢い良く真上に飛び上がった。そして最高点に到達した瞬間、持っていた切っ先の無い剣を腕力のみで邪龍モドキの体に突き刺し、それにぶら下がる事でその場に留まった。


 「やったわ!! エクスの剣がモドキに突き刺さった!! でも……」


 剣が体に突き刺さったにも関わらず、尚も動き続ける邪龍モドキ。エクスの存在にも気が付いていなかった。


 「やっぱりあの程度の傷じゃ、足止めにもならない。いったいどうしたら、あんな化け物を倒せるのよ……」


 痛みを感じないという事は、怯ませる事も注意を反らす事も出来ない。かと言って、チマチマと小規模な攻撃をしていては、倒すのに何日も掛かってしまう。ラフスまでそう遠くない距離。どうにか、辿り着く前に早期決着を付けなければならない。


 「私も攻撃したいけど、全然追い付ける気がしないし……せめて、あいつの弱点でも分かれば……」


 頭を悩ませるガミーヌ。その時、彼女の目にある物が飛び込んで来た。


 「あれって……?」


 それは初期にエクスの攻撃によって、切り落とされた邪龍モドキの尻尾の断面だった。未だ切られたままになっており、治ってはいなかった。


 「そうよ……ルムが言ってたじゃない。外的要因の傷は治るのに時間が掛かるって。それなら、生物としての機能が維持出来ない程のダメージを一気に与える事が出来れば……」


 と、言い掛けるガミーヌだったが、再び考え込んでしまった。



 「(尻尾じゃ効果が薄すぎた。それなら手足は? 物理的に動けなくさせれば……いや、それじゃあ問題解決にはならない。それにあいつはいざとなれば、体内から光線を放出して来る。あの時はギリギリ避けられたけど、奇跡が何度も続くとは限らない。でもだとしたら、いったい何処を狙えば……)」


 走りながら必死に思案を巡らせるガミーヌ。すると……。



           ガシャン!!!



 「!!?」


 突然、金属音が鳴り響き、音のした方向に顔を向ける。どうやらエクスが、ぶら下がっていた剣を足場にして乗っかったらしい。落ちた訳では無い事にホッと一安心するガミーヌ。


 「(良かった。まぁ、エクスの並外れた体力と筋力なら早々落ちる事も……あっ)」


 その瞬間、ガミーヌの脳内に電流が走る。


 「(そうだった。尻尾だの、手足だの、そんなまどろっこしい所を狙わなくて良いじゃない。だってこっちには、最高の“専門家”がいるんだから!!)」


 考えがまとまったガミーヌは息を整え、大声でエクスに指示を送る。


 「エクス!! 今こそ、エクスキューショナーの出番よ!! そいつの首をぶったぎっちゃって!!」


 「…………」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、エクスは再び両足に力を込め、真上に飛び上がると同時に突き刺していた剣を引き抜いた。この跳躍により、何とか邪龍モドキの頭に飛び乗る事が出来た。


 そしてそのまま流れる様に、首目掛けて剣を振り下ろそうとするが、ゆらゆらと頭が常に揺れ動いている為、上手く狙いが定められなかった。何度も剣を振り上げるも足場が安定せず、決定的な攻撃を繰り出す事は出来ない。


 「あのままじゃ、モドキに一撃与えられない。サポートに回るなんて大口を叩いたんだから、ここは私が何とかしないと……でも、いったいどうやって?」


 『……アキレス腱を狙え』


 「今の声は!!?」


 聞き覚えのある声。ガミーヌは慌てて周囲を見渡すが、誰もいなかった。


 「き、気のせい……? アキレス腱って……」


 声が言っていたアキレス腱。それはガミーヌがダメージを与えていた箇所。そこに目を向けると、尻尾同様に切れたままとなっており、未だ治ってはいなかった。


 「あそこを完全に切れば、動きが止まるかもしれない。やってみる価値はあるわ」


 そうして何とかして、邪龍モドキのアキレス腱を切ろうと走るガミーヌだったが、やはり足が遅く距離は一向に縮まらない。


 「はぁ……はぁ……はぁ……!!!」


 やがて息も切れ始め、少しずつ距離が開いていく。


 「はぁ……はぁ……あき……諦める……諦めるもんかぁああああああああ!!!」


 するとガミーヌは、付けていた胸当てを外し、ブーツを脱ぎ捨て、出来る限り身軽になると無我夢中で走り出した。


 苦しい。鼓動が早くなり過ぎて心臓が痛い。顔は汗と涙でぐちゃぐちゃ。それでも数分掛けて、何とか剣がアキレス腱に届く範囲まで辿り着いた。


 「わぁあああああああああ!!!」


 最早、彼女にスタミナという概念は残っていなかった。それでも走れているのは、今も仲間が必死に戦っているからである。疲労から視界がボヤける。ガミーヌは剣をデタラメに振り回す。一発でも多くダメージを与えようとする。


 そして遂にその時が訪れた。


 プツンという片足のアキレス腱が切れる音が聞こえ、邪龍モドキは突如バランスを崩し、片膝を付いてその場に制止した。


 「や、やった……」


 痛みは無くとも、体の機能は生きている。移動に必要不可欠なアキレス腱を切られ、邪龍モドキは動けなくなった。


 「エクス!!!!」


 このチャンスを逃す訳にはいかない。揺れが収まった事を確認したエクスは、両足を開いて確りと頭を押さえ付け、剣を振り上げ、上半身を限界まで反らす。そして次の瞬間、思い切り強く剣を邪龍モドキの首目掛けて振り下ろした。











 「…………」


 「…………」


 誰もが目を疑う光景が広がっている。呆然と眺める少女。首を切り落とされた龍。そしてその首の上に佇む一人の死刑執行人の姿があった。


 やがてその光景が現実の物だと実感し始めると、ガミーヌの口元が緩み、笑顔になり始めた。


 「や……やった……やった……やったぁああああああああ!!!」


 あまりの嬉しさに両手を何度も上げ下げし、喜びを表現するガミーヌ。エクスは一仕事終えた大工の様に、その場に足を伸ばして座り込む。


 二人は遂に邪龍モドキを倒したのであった。


 安心と達成感に包まれた事で気が緩んだのだろう。首を切り落とされた胴体が、密かに青白い光を溜め込んでいる事に二人は気付かなかった。次第に光が強まり、辺りを照らし始める。


 「えっ……?」


 気が付いた時にはもう遅かった。胴体から青白い光線が発射されようとしていた。エクスが慌ててガミーヌを庇おうと駆け出す。しかし、間に合わない。


 光線がガミーヌ達目掛けて発射される……。


         クボシャア!!!


 ……よりも早く、邪龍モドキの胴体は巨大な爪によって引き裂かれた。


 「嘘……」


 ガミーヌ達がそこで目にしたのは、首を切り落とした時よりも信じられない光景だった。


 『油断大敵だぞ、小娘』


 「ル、ルム!!?」


 そこにいたのは、死んだと思われていたルムの姿であった。

遂に邪龍モドキとの戦いに決着!!

まさかの生きていたルム。

次回、第二章 完結!!

次回もお楽しみに!!

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