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新手×最後のチャンス

 鎖を撃たれていない方の腕と両足を使って鎖をよじ登り、鎖によって吊り下がっている岩に乗る。案外しっかりと固定されていて安定感がある。

 問題は三人で乗ると非常に狭苦しいということだ。


「おい、ヨク、狭いからもうちょっとそっち寄れ」

「あ、あんまり引っ付かないでよ、ヨクくんのえっち」


 両側からグイグイと押されるのは傷が痛むからやめてほしい。おそらくツツの胸が腕にくっついているのだろうが、肩が痛すぎて腕の感覚が鈍くて分からない。


 えっち呼ばわりされるなら、せめていい目に遭わせてくれよ……痛みしかねえよ。


 そう考えているうちに二人も静かになっていき、岩の隙間から外を覗いて探索者のふたりが来るのを待つ。


 緊張が続く中、ずりずりと何かを引きずる音が聞こえる。


「……いねえな。もっと奥に逃げたんじゃないか?」

「随分と頭のキレる男がいた。地図も持っていた。安易に奥には向かわないだろう。それに……ほら、これを見ろ」

「…….足跡? めちゃくちゃあるな」

「他の場所にはなかった。わざわざここに長い間留まっているってことは、道を見つけた可能性があるな」

「はあ? いや、そんなわけねえだろ。そうそう見つからねえから初心者向けダンジョンって扱いなんだ」

「だが、実際ピンポイントでここを探り回ってきた。特に……」


 試験官は数歩進んで俺たちが見つけていた地面に目を向ける。


「特に、入り口の周りを探った様子が多い。どうやったかは分からないが見つけたと思って間違いなさそうだな」

「マジか……」


 もう一人の男は手で先程のおっさんを引きずってため息を吐く。


「追うか? というか、もう殺しちゃってるから行くのは確定だが」

「一応、奥に隠れている可能性がある。だが……しらみ潰しだと真っ直ぐに逃げられたときに逃げ切られるだろう」

「あー、いや、もうほっといていいんじゃないか? 地図持ってたけど、隠し扉の奥が書かれてるわけもねえし、あれぐらいの連中なら死ぬだろ」

「……だが、俺達は出し抜かれたぞ。油断してたらやられるのはこちらかもしれない」


 引きずられているおっさんはどう見ても死んでいる。ツツが隣で「ひゅっ」と息を吸い込むが、声を出さずに耐える。


 俺も人の死体を見たのは初めてのことで動揺してはいるがそれを外に出すことなく様子を伺う。上にいることはバレていない。


 このまま上手くやれば見つからずにやり過ごすことが出来るだろう。逸る感情を抑え、ジッと身を潜め続けていると、突然試験官の男達が立っていた地面が盛り上がる。


 星野の視線が一瞬こちらに向かう。

 あいつらは奥に進むつもりなのか……いや、違う。試験官達は微かに身構える仕草を見せていた。


 そして地面の隠し扉が開いたかと思うと、一瞬で張り詰めていた空気が霧散する。


「お、いた。お前ら随分と遅いけど何やってんだ? 女は仕留めたか?」


 地面の下からガラが悪い女が顔を出して試験官の二人に対して親しげな様子で話しかける。


 ……こちら側から隠し扉を開かれたのではなかった。その逆、奥側から扉が開けられた。


「ッ」とツツの口から息が漏れる。状況が考えていたよりも遥かに悪いものだった。

 試験官のふたりだけが敵と考えていたのに……実際はそれに加えて、逃げる手引きをするための奴もいたのだ。


 今はひとりしか見えていないが、ダンジョンの奥に進めばもっと多くいた可能性もある。入り方を見つけてしまっていたら、挟み撃ちになっていた。


 ……状況は酷い。奥から敵が現れたということは俺たちが奥に進んでおらず、まだこの迷宮に留まっていることがバレてしまっているだろう。


 一時的に見つからないことなら出来るが……長時間というのは無理だ。俺たちがいくら息を潜めようと生理現象というものは止められない。

 特に排泄などはどうしようもないだろう。すぐにというわけではないだろうが……他の試験官が異変に気がつくのと、アイツらが俺達を見つけるのとどちらの方が早いか……。


 分がいいとは言えない。だが、ここで動かなければ詰みだ。息を思いっきり吐き出して、二人に目配せをして呟く。


「ここが最大で最後の好機だ。ふたりの乗っている部分以外を全て落とす。俺が死んだらそのまま隠れてろ。勝ったら降ろす」

「へ……? ちょっと、ヨクく──」


 驚くツツの声を掻き消すためにスキルの大半を解いて岩と共に飛び降りる。

 轟音が響き試験官達は目を見開くが的確に重い岩を回避して視界を確保しながら顔に当たる小石を手で防ぐ。


 思ったよりも反応がいい……が、近くにいた銃を持った試験官の男の手首を蹴り上げて銃を弾き飛ばす。


「なッ!?」


 吸い込んだ空気に土埃が混じるが無視してもう二人を見る。


 奥から出てきた女が俺に銃口を向け、連続して発砲する。


「銃弾を避けたッ!?」


 避けたのは銃弾ではなく、銃弾が通るであろう射線から事前に避けていただけだが、避けられた方からしたら同じことだろう。


 連続して発砲されるがその全てを避けて近寄り、手で女の頭を掴む。


 その瞬間女の頭……いや、全身から炎が吹き出して、掴んだ手から俺の身体を燃やしていく。

 スキルか……! 手を引くべきか考え、今なら押すのも引くのも同じだと思って燃える女を掴んだまま地面に叩きつける。


 衝撃と鎖による拘束で動けなくなっている女の手を蹴って銃を弾き飛ばす。


 両腕がほとんど使い物にならなくなった。まだ少しは動く撃たれた方の手で。ポケットに突っ込んでいた新子の血が滲みついた紙を取り出してそのまま口に入れて飲み込む。


 口の中に血の鉄臭い味が広がっていく。


「ッ……治らずに死んだら恨むぞ。新子」


 大鉈を持っている方の試験官が俺に近寄って大鉈を払い、俺は地面を転がってそれを避ける。

 何度も振われる大鉈をなんとか回避しているうちに腕から痛みがなくなっていき、弛緩していた力が戻ってくる。


 大鉈が振われるのと同時にその腕を掴み、一歩脚を踏み込ませて内股に引っ掛けて鉈を振るう勢いを利用してぶん投げた。


 ぶん投げた男がもう一人の男にぶつかって二人まとめて地面に拘束される。


 土埃が入るのも厭わずに荒い息を繰り返して三人を見る。


「ッ……嘘だろ!?」


 抜け出そうともがいているが、その顔には驚愕と怯えが見て取れる。

 スキルによる遠距離攻撃がないことを確認してから、ツツと星野の二人を乗せていた鎖を解除して天井から下ろす。


 一応ツツは落ちてくるところを抱き止めてから下ろし、星野は落ちたダメージがスキルによって拘束に変換され、それを解除することで怪我なく二人を着地させる。


「よし、急いで逃げるぞ」


 俺が最後尾に立って二人を走らせてから後ろを走る。


「ああ。……なぁ、ヨク。文句を言うわけじゃないんだが……月と扱い違くね?」

「いや、流石に俺も良心があるから女子を落下させるのは……」

「その良心、俺には働かなかったんだな。いや、痛みも何もなかったけど」


 いや……まぁ、星野ならいいかなって。スキルの影響で怪我はしないわけだし。

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