戦闘×乱入
柳下の背後にある街灯のせいで距離感を測りきれない。その上、影もどの程度操れるのか分からない。
やりにくい……可能であれば初を連れて逃げたいが、露骨にその狙いを見せたら今は何もしてきていない部下のふたりも参加してくるかもしれない。
基本的に柳下と戦いつつ、隙があれば初を連れて逃げる……と言ったところが正道だろうか。数秒撒けば初のスマホから人造迷宮に逃げ込めることも考えると悪い手ではないだろう。
「ん、あれ、お前格闘技とかの経験者じゃないのか。桜川のやつをぶっ倒したから使える方かと思ったが……」
「学校の授業で柔道を少し」
「それは経験者とは言わねえなぁ……まぁ、何でもいいが」
トントンとステップを踏んだ柳下、その影が何の前触れもなく動き出して俺の脚を掴もうとする。が、その瞬間に先程踏んづけたときの攻撃を拘束に変換する。
地面から伸びる影の手が、同じく地面から伸びた鎖に捕らわれて止まる。
こうなったら特殊警棒という得物を持っている俺の方が有利……と考えて駆け寄ろうとしたが、何かの違和感を覚えて脚が止まる。
「……お、なかなか勘がいいな」
「ああ、なるほど」
柳下の隣にある壁から別の影がぐにゃりと顔を出す。
影はひとつ……と考えていたが、よく考えてみると街灯はいくつもあり、その光源の反対側には影が出来るのだから当然だ。
わざわざ昼間ではなく夜に喧嘩を売ってきたという違和感があったが、その正体に合点がいって頷く。
「……影の数は増えるが、動かない街灯を壊すだけで対処出来るな。夜に来るのは失敗だったんじゃないか?」
「そうでもない。光源ぐらいこの時代にならいくらでも用意出来る、それに高いところにある街灯をぶっ壊そうとしている間にぶちのめせる」
それよりも影を複数用意出来る方が都合が良いということだろう。ポケットに片手を突っ込み、特殊警棒を持っている手をくいくいと動かして挑発する。
「……ハンデのつもりか?」
「いや、夜は寒くてな。冷え性なんだよ」
柳下は面白そうに笑みを浮かべて俺に影をけしかける。好戦的な割に本人は動かないのかと思いながら、特殊警棒で影の脚を払ってその場に縫いとめさせる。
ある程度の影の濃さが無ければ使えないのか、背後の街灯と横からの街灯、それにかなり薄いが斜めからの街灯。その三体である。
視認出来る濃さはそれだけだが……人間の目に見えなくとも光の濃淡はあるはずだ。しかし、それらしきものが、浮き出してくることはない。
一応それらを警戒しつつ数歩下がると立体化していた影は平面に戻り、縫いとめていた鎖がガシャリと落ちる。
「……なるほど、元の影の長さ以上の距離には来れないのか。お前自身が動かないのは街灯との位置関係で影が消えたり薄くなったりするからか」
種が割れてきたらやりやすい。
近くに寄ったら袋叩きにされるだろうが、柳下はあまり動き回りたくないだろうし、ある程度の距離を取ったらいいだけだ。
警棒の先を地面に付けて腕を休ませる。
「……どうする? 俺は無駄に動き回るつもりはないが」
「……あー、攻撃を当てた箇所を縛る能力か。なるほど」
おそらく動くだろうと思っていると、予想通り柳下は数歩前に進む。
「ひとつ言っておくと、多分お前は勘違いしている。能力に頼りきりってわけじゃなく、俺はあくまでも補助として使うつもりだ。分かりやすく使って見せたのはお前の能力を探るためだ」
柳下は腕に巻いていた時計を拳に握り込み、不敵な笑みを浮かべて俺へと突っ込んでくる。
消える影と伸びる影、新たに発生する影の位置を把握しながら、柳下に警棒を振るう。
柳下は荒々しいながらも的確な動きで警棒を避けて、影と共に殴りかかってくる。俺はポケットに突っ込んでいた手を引き抜いて、手に握られていたスマホのライトで影を消し、警棒の柄で柳下の拳を受け止める。
「上手いな。だが、その光でも別の影が……」
柳下の背後からにゅるっと影の手が伸びてきて、スマホのライトの方向を変えてその影を消しつつ、柳下の脚を蹴り付ける。
「うおっ!?」
柳下の脚がその場に縫いとめられ、その隙に再び距離を取って影の範囲外に出た。
「能力は大したことないが、頭は回るし戦闘能力は高いしで言うことないな」
柳下は力尽くで鎖を引きちぎりながらそう口にする。
押している……のは確かだが、多少鎖で縛っただけでは行動不能にはならないか。
影の方は立体化している間は縛れるが、影に戻ると拘束は解かれるし相性が悪い。
街灯の方をどうにかするか、もしくは……と考えていた瞬間、柳下が再び跳ねて向かってくる。足元からは影の手が俺を掴もうとし、目の前からは柳下の拳が迫る。
「何、ぼうっとしてるんだ! とりあえず一発食らっとけ!」
柳下の影が俺の脚を掴み、柳下はその間に拳を叩き込もうとするが、次の瞬間、俺の背後の道を曲がってやってきたバイクの灯りが俺達を照らす。
「っ!? こんな時間に通行人だと!?」
柳下は驚きの声を上げながらも攻撃してこようとするが、影がバイクのライトで掻き消されたことにより自由になった俺の脚が柳下の腹に突き刺さる。瞬時に鎖が伸びて柳下の身体を地面に縫いとめている間にやってきたバイクの荷台に飛び乗る。
「西郷! 無事か!」
「ああ、ウド、初を回収したらそのまま真っ直ぐに走らせてくれ」
俺達を助けにきたウドはすぐさまUターンをして、柳下の部下の男達の間を抜けて初の元にいき、俺がバイクに乗ったまま無理矢理初の身体を抱き上げる。
「ふえっ!? な、えっ、狩屋さんが何でここに!?」
「よし、初を回収した。加速してくれ」
驚いている初を他所にウドはアクセルを鳴らしてバイクを加速して無人の街を走らせる。
「ポケットに手を突っ込んでたときに、ポケットの中でスマホを弄ってSMSでミナに連絡したんだよ。それで、ウドにバイクで来てもらった。ほら、俺って器用だから。思ったより早くて助かった」
俺が初の疑問に答えると、ウドは三人乗りというバランスの悪さのため少ししたところでゆっくりと止まって俺達を降ろす。
「ウド、助かった。ありがとう」
「いや、まぁ……ミナの命の恩人だからそれはいいんだけど……アイツら何だ? なんか襲われてるっぽかったが……」
俺は柳下達が追ってきていないことを確認してからウドの方を見る。巻き込んだからには説明はしないとダメか……ダメだよな。




