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探索×プロポーズ

 女の子の服なんて分からない……というか、それよりも、それ以前に……。


「あのな、初……俺、昨日の昼にの言ったことは覚えているよな」

「え、えっと……私のことが好きって話ですか?」


 初は恥ずかしそうにそう言い、俺は深く頷く。


「ああ、申し訳ないが俺はまだそういう感情を抑えられていない。だからな……一緒に服を選ぶなんてことをしたらドキドキしすぎて好意が高まる可能性がある」

「……あ、これとかどうですか?」

「可愛いと思う。って、そうじゃなくてな……」

「ん、それぐらいで好きになられるならどうしようもないですよ。手を繋いで寝るほうがよほどじゃないですか?」


 よほどだよ! ……よほどのことだよ! もうメロメロだよ! ふざけんな!

 そう思いながらも逃げ出すことは叶わず、仕方なく隣に座りなおす。


「別に、好きでいてくれてもいいですよ?」

「……慣れてそうだな」

「慣れてなんてないですよ。好きなんて男の人に言われたのは初めてです」


 嘘吐け……こんなに可愛いのに告白されたことがないわけないだろ。などと思ったが、こんな人のいない場所だったらあり得るのか。

 俺が元いたような高校だったら毎日一人はデートに誘ってそうだな……。


 初の横顔をじっと見ていると、初は気恥ずかしそうに「もー、なんですか?」と俺に尋ねる。

 ……大真面目に、都会に出たらナンパされまくりそうだし、初は人がいいので不安だ……。


「……初、気がついていないらしいがめちゃくちゃ可愛いからな。好みとかの話ではなく、一般論として」

「ど、どうしたんですか。突然」

「悪い男に引っかかりそうで不安になってる。自分の可愛さには自覚した方がいいし、それに寄ってくる男に警戒した方がいい」


 初は俺の方を見てこてりと首を傾げる。


「兄さんみたいな人ってことです?」

「俺を含めてだ」

「……ん、んん? なんかよく分からないですけど、兄さんに警戒した方がいいってことです?」

「俺を含めて男には警戒しろ。ということで、じゃあまたあとで」


 俺が逃げようとすると再びガッと捕まれる。


「そういうなら、兄さんが教えてくれたらいいじゃないですか。とりあえず、服選んでください」

「俺にはハードルが高すぎる……。服はそんなに急ぐものでもないし、明日にしよう、とりあえず、研究室に行こう」

「ん、あ、ちょっと待ってくださいね」


 初はパソコンを閉じてからパタパタと動いて懐中電灯を取り出す。


「それは?」

「研究室の四階以降は照明がないので、真っ暗なんです。研究室のメインで使っているところは情報量が多すぎて時間がかかるので、まずは何もないだろう場所から潰していこうかと」

「ああ……まぁそっちの方がいいか。親父も分かりやすいところに置いておこうとしてるかもしれないしな」


 初はこくりと頷く。


「じゃあ行きますか?」

「いや、外に出てから……。いや撒くのは無理か。仕方ないし、ここから行くか」

「……監視とかされていると思います?」

「今はない。というか、普通に考えてここまでやっている親父が盗聴器とか隠しカメラとか警戒していないはずがないから気にしなくてもいいだろ。初手で家に来たんじゃなくて帰り道を待ち伏せしていたのも何かありそうだしな」


 年頃の少女らしく不安なのかと思っていると初は気にした様子もなく頷く。

 監視されているかもしれないというのは相当気持ち悪いと思うが……。まだ死んでから一週間なのでそのようなものはないとは思うし、対策もされていると思うが。


 二人で再び【模倣の廃廊】に入り、初がカチリと点けた懐中電灯で廊下を照らす。


「……二回目だが、明らかにとんでもないな。じゃあ七階から……いや、四階からの方がいいか。一気に上がるのは初が辛いだろうしな」


 四階まで上がり、初が廊下を照らす。特に使われた形跡もない真っ暗な廊下は妙に不気味な雰囲気をかんじさせるが、初は慣れているのか気にした様子もなく歩いていく。


「……親父は大した人物だったんだな」

「んぅ、そうなんですか?」

「こんなの聞いたこともない技術だからな。値段を付けるとしたら、そりゃ一億ぐらいポンと出るだろう。というか、一般化出来るならあらゆる土地の問題が解決出来るんだから、値段の付けようがない」

「迷宮核という特別な素材が必要なので二個目は難しいらしいです。子供のときねだったんですけど」


 迷宮核? という知らない単語に首を傾げながら扉を開く。何も物がない部屋がポツンとあるだけだったので閉じて次の部屋に戻る。


「その名の通り迷宮の核……だそうです。異世界とこちらの世界を繋げるための目印のようなものらしく、これを元にして異世界から色々と送られて迷宮が発生します」

「……詳しいことは」

「理論とかは分からないです。習っていませんし、まだ理解出来るほど賢くないので」


 どんどん扉を開けて何もないことを確認して閉じて、ということを繰り返していく。

 四階の探索が終わり、次の階に足を踏み入れる。


「世界中のどこからでも入れる高級百貨店、どこからでも泊まれるホテル、危険な研究をするための施設、離れた人とすぐに会える安全な場所……単に高速で配送するとか、いくらでも稼ぎようがあるな。売るところに売れれば……いくらで買い取って……」

「ダメですよ?」

「分かってるって。まぁでも、そりゃ一億ぐらいポンと出すよな。これですら研究の一端なわけだし」


 むしろ初が管理するよりも信頼できる人を見つけた方が……と思うが、信頼できる人を見つけるのが難しいか。


「……初は、今回の件が解決したら父親の研究を引き継ぐんだよな」

「そのつもりです」


 五階の探索を進める。相変わらず何もない廊下と部屋、妙に喉が渇いた気がするのは緊張のせいだろうか。


「……初、俺は強い」

「? あ、そうですね。有名な組合の探索者を一方的に倒してましたし」

「迷宮の研究をするなら、迷宮に入る必要は出るだろう」

「ん、そうですけど……あの、もしかして」

「俺に手伝わせてくれ。一年だけではなく、もっとここに残らせてくれ」


 初はパタンと扉を閉める。暗い中、廊下を照らしている懐中電灯の灯りの反射光だけでは初の表情が分からず、返事の遅さが怖くて心臓の音が鳴る。


「……その、それは……お金の為ですか? それとも、私が好きだからですか?」


 俺が返事を出来ずに黙っていると、初はゆっくりと言葉を続ける。


「お金は……あまり儲けに走るつもりはありません。遺産があるので、質素に暮らしていくつもりです」

「金はいい。迷宮に潜るついでに探索者として迷宮のものを拾ってくる」

「……私が好きだからですか? でも、私達は……兄妹です。実際には血の繋がりはありませんが、法律上は違います」

「ちゃんと諦めるつもりだ」


 初は六階に繋がる階段に脚を乗せる。


「……じゃあ、なんでですか?」

「…………俺にもよく分からない。おにぎりを握ってくれて、ビー玉をくれたから。……だから、俺は初を一人にしたくない」


 大学はもう諦めよう。

 初を一人にしたくない。初から離れたくない。


 一秒経つごとにその想いは強くなっていく。出会って三日だが、他の人生を捨てていいと思うほどにそう思っていた。


 俺の真剣な言葉を聞いた初は、トントンと俺の前を歩いて行ってしまう。


「……私は大した人物ではありません。父がすごかっただけです。なので……兄さんの気持ちは、私のような小物には勿体ないものです。元々一年の約束ですから、そのままでいいですよ。ちゃんと大学に行ってください」


 俺の発したプロポーズにも近い言葉は、呆気なく砕け散った。

 フラれた……今度は、ちゃんと告白をして、初にフラれた。


 そのまま上の空になりながら六階七階と探索したが、何も見つからなかった。

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