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作戦×就寝

 ああ、嬉しい。理由はよく分からないけどとにかく嬉しい。初と交代で風呂に入り、そろそろ眠るような時間になる。


「兄さん、そんなに嬉しかったんですか?」


 俺がビー玉を眺めていると、初が「にへら」と緩い笑みを浮かべて俺を見る。少し恥ずかしく思いながらも頷く。


「よく分からないけど、思ったよりな」

「……もう寝た方がいいですよ? 疲れたでしょうし」

「ああ。もしも、物音とかが聞こえたらすぐに起こせよ? 多分、状況的に家に来ることはないと思うが……来るとしても、多分ちゃんと呼び鈴を押すと思う」

「普通に訪ねてくるってことですか?」


 ビー玉を袋に片付けて机の上に置きながら頷く。


「ああ、可能性としてはあるな。相手にとっての「最悪」は単に情報が得られないことじゃなくて他の有望な探索者に情報が渡ることだ。迷宮の数には限りがあるからな」

「現在発見されている大迷宮は8個で、そのうち一つが、攻略されていますね」

「つまり、願いを叶えられる人は新しく迷宮が出てきたりしない限り現段階では7人と、まぁうかうかしていられる数ではない。手に入らないならいっそのこと無くしてしまいたいと考えるだろうが」


 初は表情を歪める。


「そ、それは、危なくないですか? 私達」

「逆だ。俺の存在を知った桜川は、俺を初の護衛だと思っていた。スキルも使ったことだし俺が探索者の仲間のように見えているだろう。桜川達、九魔三頭って連中の視点では既に最悪の事態に片脚を突っ込んでいるんだ。初を殺したら「全員損する」という状況だったところが「既に情報を得た集団が一人勝ち」と勘違いしている可能性が高い」

「えっと……」

「つまり、初を殺すような理由はないわけだ。むしろ死なれたら困る立場にいる……と勘違いしてるだろう」


 初は少し考えたあと「危険はないということですか?」と尋ねながらふわふわとしたパジャマの裾を握る。


「危険はある、だから俺が全力で守る。まぁそれはそれとして……そういう状況である以上、取れる手立ては限られているだろ、未確認の迷宮が多いこの周辺に監禁出来るような場所を見つけるのは難しいし、他のところに連れて行くのは見つかるリスクが高いから誘拐は多分ない。そうなると交渉とかだろうからな」

「……もう、兄さんが危ない目に遭うことはないってことですか?」

「俺は産まれて一度も危ない目に遭ったことはないぞ?」


 初は「ええ……」という表情を俺に向ける。流石に虚勢がすぎたか。

 お互いのベッドの上で見つめ合う状況。多分、初は真面目な空気を発しているのだろうが、俺は好きな女の子のパジャマ姿に気が気でない。


 あまり薄着というわけでもないけれど、寝巻きであり柔らかそうな質感のパジャマは体の線が見えていてどうにも目に毒だ。


 誤魔化すように真面目ぶって口を開く。


「まぁ、多分三人ぐらいで手土産でも持って押し掛けてくると思う」

「……大丈夫なんですか?」

「どうだろうな。……まぁ、多分時間はあるし、明日は初を学校に送ったあとにでも一人で書斎や研究室を漁ってみるよ」

「……私も休みます」

「いや……あんまり長いこと休むと学業に響くぞ? もう一週間は休んでるんだろ?」


 俺が尋ねると初は首を横に振る。


「命の危機の方が優先です。先生も納得するでしょうし、それに高校に行くつもりもないので」

「……今、受験生とかじゃないのか? ここなら簡単だと思うし、高校を出ておくに越したことはないと思うが……」

「まだ二年生ですよ? それに、勉強しなくてもそのまま入れますから、入る必要が出たらそうします」

「えっ、二年なのか……」


 俺が少し驚くと、初は不思議そうにコテリと首を傾げる。


「どうかしたんですか?」

「いや……好きだと言った相手が四歳も歳下なことにちょっと落ち込んでる。俺はな、別に歳下が好きというわけじゃないんだ」

「……三歳差も四歳差もさして変わらないと思いますよ?」


 違うんだ……なんか、こう、筆舌しがたい違いがあるんだ。


「まぁ、もう寝ましょう」

「……ああ。ないとは思うがもし襲われたらすぐに逃げ出せるようにURLを用意して、電池が切れないようにちゃんと充電しておこう」

「はい。……あの、兄さん……怖いので、手を……繋いでいてもいいですか?」

「……ああ。先に電気を消すな」


 パチリと灯りを消してからベッドに戻る。俺の方に伸ばされた手を握って「おやすみなさい」という言葉を聞く。


「……兄さん、嫌いって言って、八つ当たりして、ごめんなさい」


 暗い中、初がそんなことを言う。

 弱々しい手を握って「平気だ」と口にする。


「……家族になるんだから、それぐらい気にするな。俺もちゃんといいお兄ちゃんになれるように頑張るよ」


 初は顔をこちらに向けて、いたずらっ子な笑みを浮かべて「にひひ」と笑う。


「妹に「好きだ」って言ってしまうのにですか?」

「……それはだな」

「妹のことを好きになっちゃうお兄ちゃんなんていませんよー? えへへ」


 ……あまり意地悪を言わないでくれよ。初の目の端に浮かんでいた涙を指先で拭う。


「まぁ、うん。ちゃんと他の女の子を好きになれるように努力する」

「え……あ……はい」

「おやすみ。初」

「あ、えっと、はい。おやすみ……なさい」


 夜に何もなければ明日は朝から晩まで研究室で色々探すことになるのか……少し面倒だな。

 妹のためなので頑張るが。


 妹の寝顔を見ながらそう決意し直す。

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[一言] 九魔三頭の読み方はくまさんズですか?
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