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戦闘×スキルの特性

 緊張で微かに息が荒くなるのを感じる。落ち着けと自分に言い聞かすほどに鼓動が早くなり体が強張る。

 どうする。どうする。と考えていると、初が俺の腕の中で震えていることに気がつき……息と鼓動が少しずつ収まっていく。


「……大丈夫だ。お兄ちゃんに任せとけ。実はこの兄、ヒーローさんなんだ」

「へ……?」


 初が不思議そうな表情を俺に向ける。

 流石にミナと同じような言葉では励ますことは出来ないのだろう。細い黒髪を梳くように撫でてからゆっくりと前に出る。


 丁度、桜川も特殊警棒を拘束する鎖を剥がし終えたところらしい。


「っ! に、兄さんっ! ダメですっ! 九魔三頭は日本有数のっ!」


 初の静止の声と、俺の頭上に迫る特殊警棒。当たればただでは済まない……というか「殺す気」としか思えないような容赦のない一撃。


 なるほど。一億という数字が容易に動くということは、その金額と人の命や法による罰則が比較されるということだ。


 言ってしまえば「一億やるから人を殺せ」という指示を受ければ人を殺すやつぐらいは発生するのは不思議ではない。

 そしてその一億すらもが安いのが「願いを叶える」という迷宮の報酬か。


 さっきは横からだったから平気だが、警棒を足で受ければ簡単に骨が粉々になるだろう。

 潜り込むように突進し、手を上へと挙げて警棒ではなくそれを持つ手を掴み、突進の勢い任せに桜川の身体を押し倒して地面にぶん投げようとするが、桜川の脚が動いたのを見て寸前のところで引く。


 軽く手の先が桜川の靴に当たって痺れる。ほんの爪先が軽く触れたはずなのにジンジンとした痛みが走り、靴の先が異様に硬かったことに気がつく。


「……着物の癖に安全靴のブーツかよ」


 特殊警棒も着物の袖から出てきたし、ゆったりとしたサイズの大きい着物は武器を隠すためのようだ。


 軽く舌打ちをしつつ後ろに下がる。

 特殊警棒と素手ではかなりリーチに差があって厳しい。


 影人相手に使っていた鎖によって転ばすのも桜川には通用しようにない。

 おそらく技量というか純粋な力比べでは優っているだろうが、武器の差が大きい。


「……警棒相手に真正面とは、随分と肝が据わってるね」

「まぁ、女子中学生の帰り道を襲う小悪党と違ってヒーローなもんで」


 ……背後に初がいる以上、逃げたり変な搦め手は使えない。

 トントンとステップを踏みつつことの起こりを見据える。警棒のリーチを相手に先制は出来ない。振った後を捉えるか、あるいは先程のように勢いが付く前に当たっても大丈夫な場所を押さえるか。


 どちらにせよ難しいが……いや、なんとかなるか。

 まただ。理屈で難しいと分かっているのに……それが出来ないという気がしない。


 一歩、走るのでも飛ぶのでもなく前に進む。桜川は俺がゆっくりと歩いてくるとは思ってもいなかったのか一瞬だけ惚けた顔をしてすぐさま警棒を振り下ろす。

 半身横にズレた俺の体に当たることはなく横を通り過ぎる。


 反転するように振り上げられた警棒を再び躱し、連続して振られたそれを全て回避する。


「っ! ちょこまかと!」


 続けて桜川が警棒を振るおうとするがその手首を抑えて動きを止めたあと、足払いと共に手首を捻って地面に強く叩きつける。


 アスファルトに叩きつけられた桜川は、折れる勢いで捻った手首とちょうど地面に叩きつけられた腰に鎖が発生して動きが拘束されていた。


 ダメージこそないが投げつけられたことへの驚きからか目を白黒させて息を荒げる。


「……私が、転がされている?」


 桜川が落とした特殊警棒を拾い上げて、その先を桜川に向ける。


「どうするよ小悪党。まだやるか?」

「は、はは……対人戦で負けたのは……あー、初めてだね」

「……縛られている状態、もうどうしようもないだろう。警察に突き出させてもらうが……その前に聞きたいことが」


 鎖で拘束しているから大丈夫だ。そう思って質問をしようとしていると、桜川は言葉を続ける。


「仕方ないし……使おうかな、スキル」


 その言葉を聞いた俺は瞬時に特殊警棒を振り下ろす。どうせスキルの影響で怪我はしないのだから遠慮は必要ない。

 そう思っての攻撃が、衣服にぼすりと当たる音が聞こえただけで肉の感触がない。


 一瞬だけ鎖から何かが飛び出したのが見えてそちらに目を向けると、人間大の大型犬が「グルル」と唸ってこちらを睨んでいた。


 俺の鎖は虚しく桜川の着物だけを縛り付けて、桜川本体を捉えることが出来ずにジャラリと音を鳴らす。


「……グルル、雑魚が粘って……鬱陶しいっ!」


 大型犬から人の声が響く。

 後脚に引っかかったブーツを蹴り払った大型犬を見て理解する。


「……犬に変身するのがお前のスキルか。いや、狼か」


 形成逆転とはいかないらしい。が……狼相手だろうとも特殊警棒という長い武器が俺の手元にある以上多少有利だろう。

 握った感触を確かめながら、近くの小石を先端で叩く。


 小石は壊れることがなく鎖に繋がれる。警棒越しにもスキルが発動することを確認してからゆっくりと振るってリーチを確かめる。


 唸り声をあげてジリジリと距離を詰めてくる黒い狼。攻めてこないのはこちらのリーチを警戒してのことだろう。

 俺が一歩後ろに下がった瞬間、狼が大口を開けて突っ込んでくる。


 速い……が、それはリーチの差を覆すほどではない。俺の振るった警棒が狼の頭に当たりかけたその瞬間、狼の体がぐにゃりと歪み人の姿に変わる。


 衣服は前回の変身時に全て脱げており、武器を隠すということは出来ないはずだ。

 そのまま俺の振るった警棒が桜川に当たり、鎖によってぐるぐるに縛り付けられる。


 いったい……と思っていると再び狼の姿に変身し、鎖からすり抜け、その顎を俺に向ける。咄嗟に警棒を噛ませて噛みつかれるのを防ぐと、狼の顔がすぐに人間の女性のものに変わって人間の手が俺の首へと伸び、素足を俺の足に絡めてその場に組み伏せてくる。


 地面に押し倒された衝撃で肺から息が漏れてしまう。

 脚を振り上げて蹴ろうとした瞬間、桜川の口の中に妙な物が見えて首を捻ってそれを躱す。


「っ! 含み針っ!」


 変身により服が脱げて裸になり武装がなくなるが、口の中は別ということだろう。

 女は今ので仕留めるつもりだったのか目を見開いて俺を見る。その隙に思いっきり蹴り上げて退かすのと同時に鎖で拘束するが、やはり狼の姿に変わられて鎖がすり抜ける。


 ……縛るとしたら狼の時じゃないと無意味か。

 桜川も俺のスキルの特性を把握しているようで狼の姿に留まることはなく人間の姿に戻りながら俺から距離を置く。


 桜川は素肌の腹を触り「痛くないんだ」と口にする。


「……攻撃の代わりに拘束するってスキルかな。かなり珍しいね」

「……裸のまま、よく男と話せるな」


 と俺が言うと桜川はバッと手で胸と股を隠そうとし、俺はその一瞬を突いて地面を蹴って距離を詰める。

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