第7話 勇者は遅れてやってくる
ログアウト、時計は既に十一時五十分を示していた。普段であれば既に眠っている時間だ
私は軽めの食事を取り、明日に備え、今日は眠る事にした
◆◇◆◇◆◇
次の日、私は朝早く起きると朝ご飯すら食べずにFSOにログインした
「今日の12時、今から約2時間後、異邦人達を殺して殺して殺しまくる! 楽しみだ。私の悪事を止めてくれる勇者が現れてくれればさらに良いが......流石にそれは望み過ぎか。っと、そういえば運営からの配布アイテムでスキルが覚えられたような....お! あったあった、今やれることは全部やっておこう」
多数の異邦人達を相手にするのだから、少しでも強くなっていた方がいい。そう思い、私は運営から配布された任意のスキルを習得できる特別なアイテムを使用して、スキル一覧からスキルを習得する
一部の特殊なスキルは習得出来ないらしいが、それでも膨大なスキルの量だ、私は気になるスキルを3つ見つけたので、詳細を確認し、この中から選ぶ事にする
「んー....【害薬作成】、多分これが毒薬とか作れるスキルなんだろうけど....無くても作れてるしこれは要らない。【テイム】は魔物を捕まえて仲間に出来るのか。これは良い、魔物の軍団とか悪役っぽくて格好いいし! ......けどこの辺りの強い魔物と言えばスケルトンナイトぐらいしか居ないしなぁ。やっぱり【身体改造】かなぁ…なんか悪の科学者っぽくて格好いいし、これにしようかな」
私は即戦力になりそうなスキルを探して居たのだが、【身体改造】が悪の科学者っぽくて格好いいと思い、少し悩んだのだが、【身体改造】を習得した
だいたい大勢を相手をするのだ。スキルの一つや二つで不利が覆るとは思えない。やはりいきなり街を追い出され、状況を把握出来ず混乱している所を不意打ちし各個撃破が理想か。上手く行くといいけど
「よし、あとは....ステータスの確認をしておこうかな」
レイム Lv2 〈Lvが1上昇しました〉 SP0 総合Lv4
種族 人間 Lv1
職業 科学者 Lv1
ステータス
HP 200
MP 137
STR 100
ATK 100
VIT 100
DEF 100 (+4)
IMT 140
RES 100
DEX 340 (+340)
AGI 140
LUK 100
スキル
【鑑定】【薬品作成+1】〈薬品作成が薬品作成+1へと進化しました〉【体術+1】[スラッグ]【隠密】【身体強化魔法】【威圧+1】【竜化】【終末を翳す手】【身体改造】
称号
異邦人 騙す者 終末龍の因子(1)
装備品
長袖の白Tシャツ DEF+2 【不壊】
黒のジーンズ DEF+2 【不壊】
Lvは1しか上がっていないが、スキルが新しく4つも増えたのでなんとかやれる気がしなくもない
称号に関しては、騙す者が異邦人と同じく効果なしの記念称号
終末龍の因子(1)はステータスの一番高い数値を、2倍に補正するというものと、他の終末龍の因子の場所がなんとなくわかると言うものだった
( )の中の1と言うのは集めた終末龍の因子の数を表しているらしい
終末龍の因子をもっと集めれば称号が進化したり、新しいスキルが習得出来たりするかもしれない
それと装備を新しくしたいが、それは後で良いだろう
今新しく装備を買っても、すぐ壊れてしまえば金の無駄だからだ
そういえばスキルの詳細を確認せず、どんな効果があるのか、スキル名で判断して使用していたので、今のうちに確認しておく。効果を勘違いしてスキルを使い、その隙を突かれて敗北。そんなのはあまりにも馬鹿らしく、笑えない
【鑑定】はモノの情報を読み取り、表示するスキル。1回発動するとMPを1、消費する
【薬品作成+1】は名前の通り薬品を作成出来るスキル、作成する薬品によって、素材とMPを消費する。薬品のレシピを知っていると消費するMPが下がる。薬品を作成する方法は、オートとマニュアルが存在する
【体術+1】は自身の体を用いた行動を補正する効果と、[スラッグ]という1発、素手を使い、MPを10消費し、通常よりも強い力で相手を殴る技がある
【隠密】は、隠れるスキル。使い道が窃盗か隠れて待ち伏せからの強襲ぐらいしか思いつかない。発動する際にMPを10消費する
【身体強化魔法】はMPを10消費する事で、1時間、HP、MP以外のステータスを一つ、2倍にする事が出来る
【威圧+1】は私より弱い相手に恐怖などの異常状態を寄与する事が出来るらしい、MP消費は0、ただし相手のRESが高ければ、防がれる可能性もあるらしい
【竜化】は竜になれるスキルのようだが、今は背中から翼を生やすか、腕に竜の鱗と爪がくっついて竜の腕っぽくなったりしかならないようだ
MP消費は0、多分ネタスキルだが、試しに翼を生やしてみると、濁って真っ黒な色の格好いい翼が生えてきたので、無茶苦茶良いスキルだと思う。理由? 格好いいから
【終末を翳す手】、これは右腕で触れた相手に任意の異常状態を3つ与えるスキルのようだ。これもMP消費は0だが、相手に右腕で直接触れなければならないと言うのは、やってみないとわからないが、かなり難しいと思う
【身体改造】は領主の家で貰ったモノとモノを一つにする石版の限定バージョン、生物とモノを一つにするスキルだ
合成するどちらか片方は生物でないとならないが、【身体改造】ってなんか悪の組織の下っ端戦闘員に似たのを魔物から作れたりしないかなーなんて思っていたりする。そのうち動物に魔物の死体でも合成してみようかな。MP消費は合成するモノによるらしい
スキル等のもろもろの確認を終え、私はベットに寝転がる。瞑想とまではいかないが、ある程度身体の状態を整えておきたい
「少し休憩したら先に街の外に出て、異邦人達を待ち伏せしておこうかな」
私は三十分ほど休憩すると、街の出入り口から少し離れた所でプレイヤー達が来るのを、【隠密】を発動して隠れて待つ事にした
◇◆◇◆◇◆
それから一時間後、昨日領主が異邦人達を追い出すと言っていた時間だ
私は木の上からスケルトンアーチャーからドロップした弓を構え、異邦人を待ち構える。勿論、接近戦になっても大丈夫なようにボーンソードを腰に括り付けている
異邦人を待ち構えていると、数分もしないうちに早速男3人組の異邦人達がやってきた、全員片手剣使いのようだ。ちなみにこの街の出入り口は四方にあるため、私はその中の一カ所、前に私がスケルトンナイトに遭遇した場所では無い、安全だと思われている初心者向けのゾーンで、私は待ち構えていた
「おっしゃ! まずはレベル上げしようぜ! そんで....俺つえー! とかしたい!」
「やっぱバッタバッタと敵をなぎ倒したいよなー!俺!無双!みたいな!」
「....まっすぐ外に出てきたけど大丈夫かな....やっぱり武器とか防具とか揃えてからの方が良いんじゃ....」
「大丈夫大丈夫! 掲示板で情報集めた所によると、ここは初心者向けのフィールドらしいから、モンスターも弱い奴しか出現しないらしいし!」
どうやらこの異邦人達は街から追い出されるよりも前に自分から出てきたらしい。ガヤガヤと騒ぎながら私の弓の射程圏内まで入ってきた、だがすぐには撃たず、必ず当たる距離まで待つ事にした
初めて弓を使うので、ちゃんと当たるか心配だったからである。私は弓が当たる必中距離まで異邦人達を引きつけ、矢を放った
「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! 痛い! 俺の足に矢が! 誰か矢を抜いてくれ! もの凄く痛いんだ! 」
「だ、大丈夫? 」
「お前ビビりかよ、そんな言うほど痛いか? 」
私の、地味っぽい異邦人の頭を狙って放った矢は、大きく外れ俺つえーをしたいとか言っていた異邦人の足に突き刺さった。狙いが外れたが仕方ない
私は弓を使うことを早々に諦めると、ボーンソードを構え、木から飛び降り、無双がしたいと言っていた異邦人の首を刎ねる
「あ、あなたは何者なんですか! 」
地味な異邦人に質問された、隠すような事でも無いので私は正直に正体を告げる
「私? 私は君達と同じ、異邦人に決まっているじゃないか」
「異邦人....? 確かプレイヤーの事だったような? でもあなたにはプレイヤーカーソルが無いし....」
どうやら私にカーソルが見えなくなっただけで無く、私自身のプレイヤーカーソルを消えてしまっていたらしい
もし、この地味な異邦人に私の正体を告げていなければ、現地人のフリをする事も出来たかもしれないが、もう名乗った後だ
私はこのまま二人を斬り殺そうと、二人に近づく。まずは足に矢を受けて動けなくなっている俺つえーをしたいと言っていた異邦人からだ
「な、なぁ、俺の今持ってるアイテムと金全部やるから見逃してくれ! 頼む! 」
開始直後の初心者の所持品なんて、割に合う訳ないだろうがと思いつつ、私は異邦人の戯れ言を無視し、一歩一歩、近づいていく
「なんでだよ......なんで見逃してくれないんだよ! これは遊びだろ!? なんで俺が嫌な思いをしなきゃなんないんだよ! おかしいだろうが! 」
あぁ、腹が立つ
何でも自分の思い通りになると思っている奴が
自分中心に世界が回っていると勘違いしている奴が
善でも悪でも中立ですら無い、どっちつかずな奴が
自分を物語の主人公かなにかと勘違いしている奴が!
本当に、反吐が出るほど大嫌いだ
多少の自己嫌悪が混じっている事は自覚しているが、それは意図的に思考の外へ追い出しておく
私は恐怖を感じさせるために剣を軽くふるい、地面に突き刺して引きずるようにして、異邦人にゆっくりと近づく
地味な方の異邦人は腰を抜かして動けなくなっているようなので好都合だ
「辞めろ....来るな! 来るな! クソッ、初心者嬲ってそんなに楽しいかよ! 絶対復讐してやる! 」
「お前さぁ、いい加減黙ってくれる? 私は今、非常に、腹が立ってるんだよねぇ! 」
まずは弓が刺さっていない方の足、左足を根元から切断する
心地の良い悲鳴が聞こえた。これだこれ。肉を切断する感覚、耳に響き渡る心地の良い悲鳴。なんだか楽しい気持ちになる
私が続けて左腕も切断しようと思い、剣を振るおうとしたその瞬間、大人数の異邦人達がこちらへ走ってきた。目視で大雑把に確認してみた所、人員は30人弱と言った所か。かなり多い
私は思わず動きを止めてしまった。慣れている筈の事なのに、楽しさと恐怖心が共存している。もしかしたら隠しパラメータに恐怖や、感情に関する項目でも存在しているのかもしれないが、今、そんな事を考える余裕は無い
私が一瞬動きを止めてしまったその時、私は異邦人達の中の一人が放った【土属性魔法】[岩球]により後方へと吹き飛ばされてしまった
人の頭ぐらいの大きさを持った岩石が与える衝撃は、予想より小さな物で、右腕が上手く動かない程度の物だった。それも、少し無理をすれば動かせる。全く動かない訳ではない。別に千切れた訳じゃ無いのだ。別に問題は無い
「ほ、本当に来てくれた....みなさん! ありがとうございます! 」
「よく耐えてくれた、あんたらは街に....いや今は戻れないんだったか、ひとまず俺達の後ろで待機しておいてくれ、後で一つ先の街まで送るから」
「おう! 困った時はお互い様だぜ! で? お前が初心者にPK仕掛けたプレイヤーか? しっかし本当にプレイヤーカーソルがないんだな、俺はてっきり何かの見間違いだと思ってたぜ!」
「それでも、私たちが倒す相手に変わりはありません。急いで倒して先ほどの方を手当てしなければ....」
眼前では、こそばゆい茶番劇が執り行われていた。どうやらあの地味な異邦人が助けを呼んでいたらしい、それにしてもなかなかに愉快な相手が来た
先頭の3人、剣使いに、拳使い、最後が魔法使い、この3人は私の見立てでは、英雄とまではいかないが、十分勇者には入ると思う。あくまでも、力量的な話であるが
それ以外はまぁ、モブとしてはいいと思えなくも無い
「おおっと、団体さんのお出ましですかぁ~? 申し訳ないのですがぁ~ 異邦人解剖ショーの席は完全予約制なのであいてませぇ~ん! わかったらとっとと帰ってくださぁーい!」
イメージするのは道化のピエロ。今回は試運転だ。詳しい役回りは必要ない
「クソプレイヤーが! 」
「ぶっ殺してやる! 」
私は高笑いをしながら、異邦人達を煽る
異邦人達は私に鋭い怒気を放ち、襲いかかってきたので私はさっそく【威圧+1】を試してみる
すると先頭の3人以外の異邦人は動きを止め、何かに怯えるようにしてその場にうずくまった。どうやらあの三人以外の力量はそこまでじゃないらしい
「あるぇー? 『クソプレイヤーが! ぶっ殺してやる! 』って言ってたのはどちら様でしたっけぇ~? ま、さ、かぁ~?今更ビビって地面に這い蹲るとかぁ~、正直、ダサい! アハハハハ!」
モブ異邦人達の、声真似を、意図的に似ていない声を出して煽りに煽る。私のテンションは最高潮に達しつつある
私は【威圧+1】が通じた異邦人を煽りながら、異邦人達の攻撃を避ける
拳使いが一番触れやすそうだったので、拳使いの攻撃をそらし右手で拳使いに触れ【終末を翳す手】を発動する
寄与する異常状態は行動速度低下に防御力低下。それと毒の異常状態を寄与した
私はボーンソードを動きが体感、半減した拳使いの、心臓辺りに深く突き刺す
拳使いは何やらとても驚いた表情で苦しがっていたが、すぐに死んでいった
「くっ......よくも! よくもローストをキルしやがったな! 覚悟しやがれ! ぶっ潰してやる! 」
「ローストさんの敵![火球]! [岩球]! [光球]! 」
異邦人達は仲間を殺されたからか、怒りを露にしながら攻撃を仕掛けてきた
剣使いの方はなんとかなるのだが、魔法使いの方は飛んでくる魔法を下手に弾いたり逸らしたりすると、爆発する可能性があり、とても厄介だ。優先して殺すべきは魔法使いか
剣使いの攻撃を、後方に移動し回避するのではなく、体勢を低くし前方に飛び込む
剣使いの懐に入り込むと、私は【体術】、[スラッグ]を使用してさらに【終末を翳す手】を発動させながら、右手で思いっきり殴った
「えっ、軽っる! まるでスポンジでも触ってるみたいだ! あいや、それ以上に柔くて軽いかも! はははっ、新素材かな? 」
剣使いは思ったよりも軽く飛んでいったので、煽る。なかなかに良い言葉が出て来ないが、それでも煽行動自体に意味があるのだ
状態異常は麻痺、移動速度低下、毒、を寄与した
「おやおやぁ~?『ぶっ潰してやる! 』とか言ってませんでしたっけぇ~? ま、無理か......じゃ、私は今からぁー、魔法使いの女の子を殺しにいきまぁーす! イェーイ! 男の子見てるぅ~? 誰か魔法使いちゃんを救う勇者くんは居ないのかなぁー?....そうだよねぇ! 居ないよねぇ! って事で、魔法使いちゃんは死んでもらいまぁーす! 」
手中の魔法使いは怯え、剣使いは異常状態により動けない
他の着いてきた異邦人についても同じだ。邪魔する者は誰もいない
私は魔法使いに近づき、【体術】を用いて片手で器用に首を絞める
「粋がるんじゃねぇぞ! この白髪ジジイが! 」
「う゛......くっ..........助け......て」
「くそ野郎が! 死ね! 死ねよ!」
「クソッ、何でだよ! 何で動けねぇんだ! 」
魔法使いは呼吸が出来なくなっているためか、苦しそうに喚く声が聞こえるが、それよりも異邦人達の私を罵倒する声の方が大きかった
私は魔法使いの首を絞めていない方の手、左手で【体術】、[スラッグ]を発動し、魔法使いを殴る殴る殴る。 魔法使いのHPはみるみる減っていき、あと一撃で倒せると思ったその時
私は、剣で腹部を斬りつけられた
誰も動ける筈が無いのに。いや、私がここに居る異邦人達全員の動きを止めることに成功したと、勘違いしていただけか
私は魔法使いをその辺に放り投げ、解放し、勇敢に私に攻撃を仕掛けた、勇者の相手をする
「まさかあの3人の中で一番特徴の無い君が、私に傷をつけるとは、いやぁ、予想外だったよ」
私を剣で斬りつけたのは、大勢の異邦人達を呼んだ、あの、ひ弱な異邦人だった
以外補足説明
主人公が低レベル低ステータスにも関わらず、複数の敵を前に優勢に立てている理由は、現実性による痛みのフィールドバック、感度が通常よりも上昇しているため、痛みに慣れていない異邦人の皆さんは、動きが悪くなっています