第6話 詐術と話術は紙一重
屋敷の通路は意外にも質素で、私が想像していた一面レットカーペットや豪華な絵画などは無く、まるで屋敷の形をした兵舎のようだった。それにすれ違う兵士達の数だって明らかに多い
私の話を聞き、馬鹿正直に街からかき集めたにしては早過ぎる。つまにこの兵士らは常備兵であると簡単に推測できる
では今度は、この常備兵達は何を守っているのか、という疑問が残る。領主、を守るにしては多すぎる。用心深い、慎重な領主であるという可能性もある為、絶対に有り得ないとは言い切れないが
街に何かがあるのか。であれば領主の屋敷に兵を固める必要は無い。つまり、この屋敷にはなんらかの守るべき物が存在するという事になる
っと、領主の部屋に到着したようだ。目の前にはいつの間にか、他の部屋よりも過度な装飾が成された扉が存在していた
「領主様、異邦人を連れて参りました」
「ありがとう、フィアン騎士団長にもここで話を聞いてもらいたい、異邦人のお二人もそれで良いだろう? 」
「あぁ「お、おっけーです! じゃなくて大丈夫です! 」....」
領主の容姿は推定70歳程、老いた老人だった、それと推定騎士団長はやはり騎士団長だったらしい
返事をしようとしてクリンに遮られてしまったが、こいつは私の話を聞いていなかったのだろうか。まぁ良い、私は黙って話に耳を傾ける
「まずは異邦人の二人....レイム殿とクリン殿に感謝を、お礼はたっぷりさせて頂きます。その前に....詳しい話をお伺いしたいのですが....」
領主の表情を見て、真っ先に感じたのは違和感だ。表面上は優しそうな顔を浮かべていたが、警戒心と怒りが隠し切れていない
しかし恐れがあまり見えないのは、まさか自分に脅威が迫っている可能性を正しく認識できていないからだろうか?
騙しやすそうな人間だ。こう言う人間は自身の知らない事、認識外から迫る災いに弱い。それでいて、力が足りない癖にすぐに怒りを撒き散らす。まぁ、私も人の事を言える程じゃないのだけど
「わかりました。ではまず、異邦人がこの街に現れたのはいつ頃からかご存じですか?」
「えぇ、3ヶ月ほど前からだったと思いますが....まさかもっと前から隠れていたのか!? 」
「...いえ、3ヶ月前からです。その時から異邦人達は領主様の暗殺を企んでいました。私は昨日、この街にやってきた異邦人なのですが、他の異邦人達に危険性を感じ、異邦人の集まりから逃げてきたのです。奴らは自身が強くなる為に平気で生物を殺します」
ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたが今は無視だ。ガタッガタに歪んだ話を、さも事実のように語り、相手の怒りを誘発する
「ですが奴らは死んでも1日で蘇ります。そして、我が物顔で街を荒らし、人の持ち物をまるで自分の物のように勝手に奪っていくのです。このままでは街中での犯罪もどんどん増加していく事でしょう。早急に奴らをこの街から閉め出さなければ、この街の治安は悪化し、この街の平和は失われる事になると思われます」
3ヶ月前から異邦人は現れているらしい
昨日から異邦人が現れた。と言うと思っていたので、私は内心驚きつつ、嘘がバレそうになった事に焦りながら、何故3ヶ月前から異邦人が現れた事になっているのかを考える
そしてベータテスターの事を思い出した、おそらく3ヶ月前からベータテストが行われてしたのだろう
そう、自分の中で納得すると、嘘に綻びが生じないように注意しつつ、異邦人の行為を、聞いた者が残虐だと感じるように表現した言葉を領主に聴かせる
領主は話の初めの頃は顔を青白くして怯えたようにして話を聞いていたのだが、話の後半に入ると、怒りを抑えきれずに顔を歪め、手を握りしめていた。どうやら相当頭にきているらしい
「なんと....私の半生をかけて築き上げてきたこの街の平和が....許せぬ....」
領主が異邦人に対する怒りを露わにし、感情的になっていたので、私はふと、気になった事を聞いてみる事にした
「領主様方は異邦人の事をどのような存在だと認識していたのですか? 」
「どのように....いや、私も詳しくは知らんのだよ。教会の守銭奴共が言うには、何度でも蘇る能力などの不思議な能力を持った、別の次元の私達の同族? と聞いているがね」
「そうですか......領主様、一つ、異邦人をこの街から追い出せるかもしれない方法があると言ったら、どうしますか? 」
私は真剣な表情を作りながら、領主を共犯者に仕立て上げるために、いざとなれば、領主に責任を擦り付けるために、領主に問いかける
「そ、そんな方法があるなら是非協力させてくれ! 頼む! 私が出来る事なら何でもやる! だから....」
領主は私の腕をがっしりと掴み、こっちが引くぐらいに、食い付いてきた。まだ私の考えている方法が使えるか分からないのに、この様子、本気で街を守りたいのだろう
いや、街を、と言うよりは自身の立場や、今の暮らしを守りたいのか、それか、自分が今まで築き上げてきた街が壊されるのが許せないのか....まぁどちらにせよ、私には都合がいい
「わかりました、では初めに一つ、領主様方にお聞きしてもよろしいでしょうか? 」
「長年この街を治めてきたのだぞ。それなりの知識はある。なんでも聞いてくれ」
私はまだこの世界の事をほぼ全く知らないと言っていいぐらいに無知なので、領主と騎士団長からある事について聞いてみる
もし私が想像しているものと領主達が想像している物がすれ違っていたら、悲惨な事になるからだ。事前調査を怠った結果、情報不足による失敗だなんて最悪だ。私は半ば空気となっているクリンをそのまま放置し、領主達に質問をする
「では質問です。この世界に、殺しても死なない生物、ゾンビ、ゴースト、スケルトンと言ったアンデットのような存在しますか? 」
「? アンデットが死なない? 奴らは確かに物理的な攻撃には強いが、魔法を使えば普通に殺せたはずだ。だが殺しても死なない奴なら心あたりがある。吸血鬼どもは、姿は人間そっくりな癖に、いくら斬り殺しても、焼き殺しても、一度は姿を消すものの、また少しして襲ってくる、恐ろしい奴らだ。昔この街に吸血鬼が現れた時は教会に高い金を支払い、高位の神官による儀式? で吸血鬼一人に数日かけて殺したほど。それぐらい厄介な相手だった」
私の質問に領主は不思議そうな顔をして、アンデットが死なないという事について、疑問を抱いているようだった
どうやらアンデット系のモンスター達も、他のモンスター達と同じく、殺すことが出来るらしい
だが吸血鬼という、殺しても復活する存在が居るらしいので、私のシナリオは、破綻する事なく完成する
頭の中でとりあえずの整合性が成り立つかを確認すると、私は領主を誑かす
「......では異邦人をこの街から追い出す方法をお教えします。なぁに、簡単な事です。異邦人は我々人間によく似た吸血鬼だと、そう言って堂々と異邦人を追い出せば良いのです。幸いにも異邦人が死んで蘇るには一日のクールタイム....時間を空けなければ蘇る事が出来ません。いくら異邦人だから死なないと言えど、何度も殺されるのは精神的に来るモノがあるでしょう。何度も繰り返し追い出して......私が少しずつ街の外で極秘裏に処刑すれば、領主様達は吸血鬼という危険な存在を街から追い出しただけ、つまり領主様達が損をする事は無く、この街の平和を取り戻せるのです。ですが私も数日前にここにやって来たばかりで、申し訳ないのですが、異邦人を複数人相手をするには力不足、そこで領主様から何か異邦人達を駆逐できる力を承りたいのですが....」
そもそもこの街の平和は脅かされてなどおらず、このシナリオには重大な欠陥がいくつも存在するのだが、現時点での、私の頭で思いつく最善策がコレなので仕方ない
それに領主は異邦人を追い出せてハッピー。私はPKの獲物が持続的に仕入れられてハッピー。珍しくウィンウィンの関係だ。勿論、こちらの旨みが無くなれば即刻裏切る前提だが
私は領主達に何か秘蔵の宝等のレアアイテムを要求する。私が予想するに、領主の屋敷で守られている物。それは宝物等の貴重な物品だと思う。もし、重要人物が屋敷に滞在中で、その影響で守りが固められていると言うならば、私達のような不穏分子を招く事はしないはずだからだ
しかしながら、本来、そのような事を言っても、はいどうぞと、貴重な宝を渡す訳が無いのだが、領主は混乱していたようで
「あぁ! 地下に以前私が集めていた物が色々あるから使えそうな物を....5....3つまで、君に譲ろう! 着いてきなさい! クリン殿には紹介状を渡しておこう。この街の店で色々と便宜を図ってくれるはずだ。騎士団長、騎士団から数名、騎士を、クリン殿に護衛として付けなさい」
渋りやがったなこの領主。思ったが口には出さない
「え! ありがとうございます! 」
「了解いたしました、ではクリン殿、こちらへ」
3つ、この領主が集めた財宝を貰えるらしい。何か面白そうな...使えそうな物があればいいけども
クリンとはここで別れる事になるのでパーティーを解散しておく
私は領主と共に、地下の財宝を収めた部屋へとむかった
「どうですか、この神々しさ! 私の富の象徴ですぞ、フハハハハハ!」
「とても素晴らしいと思います」
財宝を収めた部屋の中に入ると、そこは小規模の倉庫のような部屋だった
私が部屋の様子を見ていると、いきなり領主が気持ち悪い笑いを始めたので、興奮しているのかと思い、適当な事を言ってしまったが、機嫌が悪くなっている様子はないので大丈夫だろう
今回は大丈夫だったが、今度からはしっかりと周りを把握するするように心がける
「では領主様、少し物を見て回りたいのですが、よろしいでしょうか? 」
「あぁ、いいぞ! 存分に見て選んでくれ! 」
領主様から許可が貰えたので部屋の物を見て回る。サラッと軽く見て欲しいと思った物は
2つのモノを1つに合わせる石版、これは一度使うと壊れる物らしい、領主が最近買った品だと聞いた。なんでも突然変異のような現象がおきて出来上がった物らしく、形は不格好だが正真正銘の一点物らしい
終末龍の因子、これは領主が子供の頃からあったらしい、なんでも領主の曾祖父の代に王族から直接手渡された物らしく、領主の曾祖父は事ある毎に、王族に信頼されているんだぞ! と自慢をしてきたそうだ
黄金の果実、金色に輝くリンゴ。食べると自身の力をおよそ10倍まで増幅させる事が出来るらしい。しかし数日で効果が切れるそうだ
吸血鬼の灰、昔この街を襲った吸血鬼の死骸が灰になったもの、これは今回の偽装に使えるだろう
「領主様、決めました、私が欲しいのは、この石版に、終末龍の因子、それと吸血鬼の灰です」
「うむむ....終末龍の因子を持って行くのか....まぁずっと使われなかった物だしな、王族の方々もきっと覚えてないだろう。よし! 良いぞ! それでは明日、12時、異邦人をこの街の外に追い出す。追い出した後は....頼んだぞ? 」
終末龍の因子を選んだ時は、何やら思い悩んだ顔をしていた領主だが、その後には悪そうな笑顔を浮かべてこちらを見ていた
「えぇ、もちろんわかっています」
とりあえず今は領主を殺す必要は無いし殺すことも出来そうに無いので、大人しく従っておく
「ならいい、くれぐれも約束を違える事は無いように、わかったな? 」
「はい、それでは失礼します」
私は領主の屋敷から出ると、借りた宿に帰り、領主から貰った物を早速使う事にした
石版を起動して、合成するモノを選択する
「えーと、「私」と「終末龍の因子」を合成出来るかなっと....うわーお、出来るのか」
ダメ元で試してみたら出来た
多分本来はテイムか何かで捕まえたモンスターに使用すると思われるこの二つのアイテムだが、異邦人にも使えた
早速使用する。すると、全身を重く響く痛みがはしる
私はベットの上に倒れ込み、痛みのあまり、声にもならない叫びを吐き散らす、だが叫んだところで痛みは治まらない、もしかしたら本来想定されていない手順で、本来想定されていない状態でアイテムを使用してしまった代償が、この異状な痛みなのかもしれない
私は痛みを耐えながら、自作の回復薬を飲み干す。何本も何本も、薬で溺れるぐらいに、飲み続ける
回復薬を服用している間は痛みがほんの少し軽くなったもののすぐに痛みは戻ってくる。まるで、不完全な麻酔をかけられたかのようだ。私は自作の回復薬を全て服用すると、今度は運営から配布された回復薬を飲む。それすらも尽きて、ただただ必死に痛みを時間がわからない程、耐え続けていると変化が起きた
体の痛みが治まってきて、それどころか全身から力が溢れ出してくる感覚が私を包む
「あぁ、素晴らしい。体中から力が漲ってくる! 今ならあのスケルトンナイトにも!....いけない、落ち着け、落ち着け、落ち着け」
私はまた興奮しそうになったが、なんとか落ち着き、ステータスを確認しようと思ったのだが、夜遅い時間となっていたため、ログアウトし、ステータスの確認は明日する事にした