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第51話 デスコンタクト




 



商人の手配した案内人の後に続き、人混みをかき分け大通りを歩いているのだが、やはり王都は人の量が尋常じゃない






賑わっているというレベルではないくらいの暴力的な人波は、一人二人にちょっかいを掛ければ瞬く間に群衆雪崩が発生しそうなくらいだ






「そりゃ商業地区の中でもこの辺りは激戦区だからな。この辺りを抜けさえすれば少しは落ち着くさ」






「へー。にしたってなんでわざわざ大通りなんて通るのさ。もっとこう…裏道とかないの? 」





「裏道? 冗談言うなよ。スラム街よりマシとは言え、犯罪者被れの根城に、近道する為だけに向かえだって? このイカれ野郎。自殺趣味に俺まで巻き込むんじゃねぇ」






なんだ。スラム街よりマシなら大したこと無いじゃないか






しかし案内役が居ないとオークションが何処で行われているのか知らない私ではその場に辿り着くことが出来ないし、あまり無理を言って逃げられたら困る





再三思い返してみてもやはり最近は力業で強引に事を進める機会が多すぎたような気がする。勿論その選択が最善だった場合も少なからずあるのだろう





選択によって消えてしまった可能性の中には、状況をさらに面白く、楽しくしてくれるものもあったのかもしれない





あの時もこうしていれば、ああしていればという可能性の話。たらればを後の今になって思考したとて意味など無いのだけど







思考に耽っていると、案内役の男が何の変哲もない壁の前で立ち止まった






 人混みの中はぐれてしまわないようにかなり接近していたので、一瞬ぶつかってしまうかと思ったが、高水準のDEXのお陰で、異常なまでに器用になっている為、そんな心配は無用だった


 




「っと、ここだ」






「成る程。地下室に繋がる隠し扉か。良いね」






こういう浪漫の塊のような設備にはやはり心が踊ってしまう。自宅にもこういう設備を設けたいが、やはりかなりの金額が必要になるだろうし、常に資金不足のこの状況をどうにかしなくては、実用性度外視、浪漫全開の設備の導入なんて夢のまた夢だ







「…? 何を言ってるんだ? おーい! 俺だ、開けてくれ! 」







案内役の男が声をかけると目の前の壁がずり下がり、地面にのみ飲まれた。成る程。魔法か。簡単な土魔法による出入り口の擬装工作





 魔法が実在する世界ならではの工夫だ。こういったものは見習わなければ。現地人ならではの着眼点。視点には時折学べる点がある






「お望みの裏口だ。オークション側から認証を受けた商人専用の通路だから向こうより混んでないだろうよ」






どうやら此方は一般の導線では無かったらしい。特別待遇だ。この通路を抜けた先は待ちに待ったオークション会場。なんだかわくわくしてきた





しかし楽しむばかりではなく、今回は目的もしっかりと遂行しなくては。商品ばかりではなく、商人も吟味しなくてはならない。丁度いい標的を見つけなければ





「さて、案内はここまでだ。後は好きにしろ。と言いたいところだが、主からの伝言がある」






「ごめんまた今度ね」


 




伝言なんて聞いてられるか。私は忙しいんだ。待ってろよレアアイテム…! お金は向こうで盗めば良いし、何か良いものが買えると良いな









◇◆







「さて、お次の品は世にも珍しいエルフの奴隷。皮膚はやけ爛れ、容姿は魔物のようで、魔法の行使もろくに行えませんが、こちらお値打ち価格、金貨一枚からスタートです」






長く薄暗い廊下を潜り抜けた先にあったのは、質素ながらなも格式を感じる装飾が成された部屋。運営側の人間と思われる者の会釈を受けながら、内部へと進むと、既にオークションは始まっているようだった






現在オークションにかけられているのはエルフの奴隷。その種族故に優秀な魔力器官を宿しているらしいが、全身が焼け爛れており、あの様子では目を開くことも発声する事すらもままならないだろう。多分、ここ数日のうちにあの状態にされたと思われる






酷く衰弱しているようすからろくに食事を摂れていないのだろう。おそらく、そのやけ爛れた喉が原因で摂ることが出来ない。物を飲み込むことが出来ないのだ。このままでは遅かれ早かれあれは死ぬ。なら買うべきじゃない。あんな死にかけの奴隷を買う奴なんて馬鹿しかいない。いや、馬鹿でもあんな明らかな不良在庫を買う奴なんて居やしない







「誰も買わないなら僕が頂こうかな」







そう思っていた矢先、声がした。なんの特徴もない平坦な声音だ。無防備に声のした方向に視線をやって、目が合って。その異常性を認識した。黒髪黒目の容姿に、現代の学生服とと呼ばれる服装に酷似した着衣。そういう現地人だと言われれば渋々だが、納得できる。そういうこともあるだろう。なんらかのイベントの伏線だったりするのかと考察だって出来た。でもあれは違う






あれはそんな生易しいものじゃない。あれは死だ。纏っているなんて話じゃあない。死を宿した、死の化身そのもの。目を見ただけで殺されてしまうような、酷く恐怖心を揺さぶるような、深淵を彷彿とさせる黒い目が、死をこちらに放ってくるような幻視をもたらした






「ちょっと! 余計なものを買う余裕はないわ。ここまで来た理由を忘れたの? 目立つことはしないで。目的の物を購入したらはやく国に戻らないと」






「へぇ姫。姫にはあれが物に見えるんだ。いやごめんね。僕には人に見えていたんだけど、そっか。物か。ごめんごめん。ああうん、物ね。ものもの。で、僕たちはああいう物の為に遠路遥々危険を犯してまでここまで来たんだ。いいね。良いよ姫。最高だ。物を大事にすると良いことがあるらしいしね」






同行者と思われる女性の顔を覗き込むようにして密着し、嫌みったらしくネチネチと言葉のあやを槍玉に上げ、揚げ足取りを延々と行う青年は少女の罪悪感を煽り、自分の意見を優先しようとしているようだ。肩に手をそえ、額が触れ合うくらいの距離で見開かれている眼球は、少女の目線で見れば狂気そのものだろう






しかし不思議と少女のは表情に恐怖の色は浮かんでいなかった。既に信頼関係が構築されているのだろう。私には成しえなかった事だ。それをあんな人間性の欠如したような者が。とてもじゃないが、信じられない。催眠の魔法を使っていると言われた方がまだ信憑性がある






「ああもう! わかったわよ! 金貨一枚でしょう! 持っていきなさいよ!! 」

 





ありがと姫と形だけの感謝を告げ、張り付けたような笑みを浮かべながら壇上に上がり、金貨と奴隷を交換している最中、なにやら会場全体が異様なざわつきを見せた







「おい…あれ、もしかして噂の死霊術師じゃないか? 」





「まさか、俺は王国騎士団の手で討ち滅ぼされたって聞いたぜ。似てるだけの別人だろ」





「でも、もし本物だったら…一応、マーケット側に伝えるだけなら」






喧騒が高まる。どうもあの青年は名の知れた悪党らしい。つまり先輩という訳だ

 





「うん。君はどうしたい? 」







もはや這いずって動くことすら出来ない半生半死のエルフを抱き抱え、青年がなにかを問うと、エルフの唇がかすかに動き、持ち上がりかけた腕が落ちた






 脱力に伴いバランスが狂ったのか青年はエルフを落としてしまったが、青年は張り付いた笑みを浮かべたたまま、再度エルフの亡骸を抱き抱え、丁度私の真横を通過して同行者と思われる少女の元へと歩む





  

「ああ、そうかい。ならそうしよう」






最中小さく呟いた声が、すれ違い様に聞こえた。瞬間、より濃密な死の瘴気が、会場全体を包み込んだ





 


「購入後の返品交換は受け付けませんからね! 死体を持ってこられたって返金は致しま」





 

売主と思われる人物が言いきる前に、その者の首が抉られ。絶命した。喉仏目掛けて放たれた黒い炎を纏った斬撃。それはどこからともなく現れた悪霊、俗に言うデュラハンのような見た目の、死霊の魔物によるものだ







「取り敢えず数十人でいいよ。あまり時間をかける訳にはいかないからね」 






濃密な死の気配が部屋中に蔓延している。青年の影から滲み出るようにして現れた数多の死霊は、そのどれもが並みの魔物の数段上の実力を有している。鑑定をしてみたが、所々が欠落した情報しか得る事が出来なかったことを考えるに、少なくとも私よりも格上である可能性が非常に高い






となればここは撤退か、いや待て。逆にチャンスてはないか。商人らはみな正常な判断能力を失い、混乱している。オークション側の人間達はどうにか状況を解決しようと励んでいるようだが、死霊の数に対して、オークション側の用意した用心棒の数は明らかに少なすぎる。それに実力差も。まるで勝負になっていない。


 




なら混乱に乗じて、商人らの所持品をすり取るか。いや、ここは狙いを大きくオークション側の倉庫か、バックヤードでも漁りに行こうか。悩ましいな。しかしこの状況でオークション会場に残るのはリスクが大きすぎるか。あれだけの数の死霊に襲われたら私も長くは耐えられない。あまり欲張って失敗しちゃ、学ばない馬鹿みたいだ







となれば早急に会場から脱出しなくては。オークション会場の出入り口は少なくとも二ヵ所。私が通ってきた認証を受けた商人用の専用通路と、一般客用の通路だ。狙うのは商人なので来た道を逆戻りすれば良いだけ。幸い死霊はオークション側の人間らを選んで狙っているのか、偶然か、此方には近付いていない






「あ、レイムさん! お久し振りです。なにやら騒がしいことになってますね」






撤退しようとする私の前に見覚えのある顔が現れた。にこやかに犬か何かのように寄ってきた彼はクリンくん。以前PKを一緒に行った仲だ





その戦闘スタイルから時々忘れそうになるが、彼もれっきとした商人。オークション会場に居るのは自然な事だが、どうも違和感が拭えない。彼の気配が違っているのだ。まるで逃げようとしていないような。その真逆のことを行おうとしているような決意が滲んでいる





「そうだね。私たちもはやく逃げ…」






「僕はあの青年を叩きます。レイムさんはあの死霊の群れの相手をお願いします」






外れることを願った直感は見事的中してしまった。クリンくんはどうやらあの青年ら相手に立ち向かうつもりらしい。馬鹿なんじゃないかと思う。クリンくんじゃ話にならない。戦力差を理解しているのか? どうせ痛め付けられて死ぬだけだ。でも、面白い。逆境? 最高じゃないか。勝ち目の戦いなんていつも通りだ。なら、別に良いじゃないかか。私は死なないためにこの世界に来たんじゃない。楽しむ為にこの世界に来たんだ。

 



 


「まあ、やれるだけやってみるよ」





 


あれだけの強敵だ。さぞ良質な素材をくれることだろうし、やる気も出てきた。さあ、やってやろうじゃないか





 

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