第5話 杜撰な脅迫文書
二十四時間のログイン制限を終え、私は死亡前最後にログアウトした宿で目覚めた
新しく追加されたチュートリアルの項目を確認してみると異邦人が死亡した際の復活地点は、街の中やプレイヤーホーム等に設定出来ると記されていた
私はプレイヤーホーム等を持っていないため、自動的に最後にログアウトした場所が復活地点として設定されていたらしい
今か今かとログアウト制限が解除されるのを待ちようやくログアウト制限が解け、ログインした私の目に映ったのは、あの現実性のある世界では無かった
「…これが修正? こんなのはただの改悪じゃないか。あぁ、落ち着け。落ち着け私。感情的になるな。よし、大丈夫…大丈夫]
宿の様子は様変わりし現実性の数値を変更する前の状態に戻っていた
椅子やテーブルに傷はなく、壁も奇妙なぐらい均一な色で、ベットは床とほぼ感触が変わらない
それは、たった一日でも、私が本気で感動して楽しんだ世界では無くなっていた
私は感情が高ぶると、何も考えずに物事をすぐ発してしまう癖がある。直さなければいけないとわかってはいるもののなかなか直すことが出来ない
なんとか落ち着こうと部屋の中をうろうろと歩き回ると、部屋の見え方昨日とはが違いすぎたため、距離感をつかめず転んでしまう
私はそのまま床に寝転がり、運営から私個人に届いた連絡に返信を送った
「......これでよし。後は運営の返答を待つだけ....」
私は部屋で寝転がり【薬品作成】で適当に薬を作りながら、運営に私の要望が通る事を願いながら床で布団に絡まりゴロゴロと転がっていると、しばらくしてポップアップが表示された
どうやら要求は全て、滞りなく了承されたらしい。同意を求めるサインを済ませ、ポップアップウィンドウを消し飛ばして数秒後
私の目に映る光景は瞬く間に生まれ変わり、昨日の現実性のある美しい世界が、私の目に映り込む
私は興奮しつつもすぐに落ち着いて、昨日の出来事を思い出す
「あの骸骨騎士を倒すには何もかもが足りない....まずは情報から集めるか」
私は掲示板でフォダンの森に出現したあの、スケルトン達について調べてみる
▲▽▲▽▲▽
【初心者歓迎】フォダンの森攻略スレ【情報提供求む】
8. 名無しの剣士
街を出てすぐの所にはモンスターLv1~5がまばらにいるけど、ちょっと遠くに行くと骨のモンスターが集団で狩りしてるから気をつけろ。油断して雑魚モンスター倒してたら急にLv25のフィールドボスっぽいモンスターが出て来てキルされた
9. 名無しの人間
ほえーそうなんか。ま、それは置いといて
掲示板の名前の変更の仕方教えてクレメンス
10. 名無しの人間
置いとくなやw まだ全部のLv1なのにそんなんじゃデスペナ怖くて外に出られねぇ
11. 名無しの剣士
これは自分の名前の所を長押ししたら変えられるで
スケルトン何体か殺せたお陰で今職業Lv2だわw
11. 名無しの戦士
情報さんきゅー ただデスペナ食らっても1日ゲームが出来なくなるだけなんだよなぁー
12. 名無しの魔法使い
それが大問題なんだが
13. 名無しの商人
今フォダンの街に居るんだけど
時間限定クエストとか多くて、忙しいわ。
だからデスペナとか食らったらマジでヤバイ。
まぁその分G大量に稼がせて貰ってますがねw
現在の所持金20万Gww
利用してきたクズ共も見捨てて金総取りでウハウハですww
14. 名無しの人間
あっ......
15. 名無しの商人
お前、やっちまったな
16. 名無しの科学者
そのG、少しでもいいんで貸してくれません?
ほんの少しです。19500Gだけです
すぐ返すんでマジで。マジマジ
17. 名無しの武具職人
武器を作るには金がかかってなぁ~
25万で鉄のショートブレードを作ってやるよ
18. 名無しの戦士
今みんな金欠中なのにそんな発言したら.....なあ?
19. 名無しの殺人
今からそっち行きます
20. 名無しの商人
え?
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私は掲示板を閉じて 街を歩いてあるモノを探す事にした
「待てぇ!大人しく金をよこしやがれ!」
「だ、誰か! 誰か助けてー! 」
うろうろと街を歩いていると、宿を出てほんの数分間ほどで目的のモノは見つかった
私はステータスを開きAGI(素早さ)とSTR(力)にSPを割り振り、自身に【身体強化魔法】をかけると、厳つい男たちから逃げている細身の男の真横に向かい、併走するようにして会話を試みる
「やぁ、どうも。何かお困りですか? 」
「これが困ってないように見えたんならアンタの目は節穴だよ! はぁ......掲示板で金持ち自慢なんてしなきゃよかった......」
「おぉ、随分な事を言ってくれるじゃないか。私は助けてあげようかとここまで来たのに」
「嘘だ! アンタも金目当てなんだろ……僕にはお見通しだぞ! 」
細身の男は息を切らしながら私に指を指し非難するようなジェスチャーを取る。おやおや、随分と余裕があることで
「本当さ。まぁ、タダでとは言わないけどね....っと!」
私は追いかけてきている者達はおそらく異邦人で、この細身の男が掲示板にいたあのサービス開始の翌日に二十万万Gの大金を稼いだ商人か確認しているらしい
街中であるにも関わらず【火属性魔法】[火球]による魔法攻撃が飛んできた
よくある街の中は安全圏、戦闘禁止エリアというありがちな設定はされていないらしい。良いね。最高だ
私は今にも倒れそうな細身の男を片腕で持ち上げながら、ストレージの中から昨日の戦利品
骨剣を取り出し、後ろから飛んでくる[火球]を弾き返そうとしてみる
初弾と二発は弾き返せたが、三発目、私の剣と飛んできた[火球]が当たった瞬間、小規模の爆発が発生し、私と細身の男の体は高く吹き飛ばされる
「……さすがに無理か。でもまだだ、まだいける」
私は空中で体勢を整え、持っていたボーンソードを投げてそれを足場として使い、二段ジャンプのように飛距離を稼ぎつつ落下しながら細身の男を回収し屋根に着地しようとした
「これで一安心....って危なっ!」
だが下から何者かが矢を放ったようで私めがけて真っ直ぐ飛んできた
全く、追手が多過ぎるな。私は慌てて矢を避けると、今度は足下が疎かになってしまい、そのまま目の前にあった大きな屋敷の庭に落ちていく
しまった。失敗した。私は地面にぶつかる衝撃に耐えるため、体勢を整え細身の男をクッション代わりに、重力に沿って落ちていった
◆◇◆◇◆◇
周りをよく見てみると、落下したのは昨日見た大きな屋敷と同じ場所のようだ。下敷きにした商人から退きながら、私は状況確認に努める
どうやら追いかけてきた異邦人達はまいたようだが、どこからか現れた騎士のように鎧を着込んだ者達に周りを囲まれてしまった
「貴様ァ! この屋敷がこの街の領主、ファージ・フォダン様の屋敷と知っての狼藉か!? 」
言葉に怒気を含ませながら、背中に大剣を装備している大柄な騎士が怒声を浴びせてきた
明らかに装備の質が違う、この人物はこの街の騎士団の副騎士団長、もしくは騎士団長だろう
心の中では推定騎士団長と呼ばせてもらう事にする。声からして、おそらく性別は男だ
私はとりあえず言い訳をする事にした。今事を荒立てる訳にはいかないからだ
外から見ているだけではわからなかったが、どうやら相当な数の騎士が在駐しているらしい
私は多くて五十名ほどだと思って居たが、本来、主を護ろうとすると思われる騎士達がぞろぞろと、視認出来るだけでも三十名やってきたからである
大きな屋敷の中を護っている騎士達は少なくともそれ以上の数であると簡単に推測できる
「…騎士様方。お騒がせしてしまって申し訳ない。私は……異邦人のレイムと申します。領主様のお屋敷に無断で侵入してしまったことは謝罪します。ですがこのような事になってしまった経緯を、御説明させて頂けないでしょうか」
私は一瞬、偽名を使おうかと思ったがもし何らかの超常的な力で名乗った名前が偽名だとバレた場合、異邦人だから死ぬことは本当の意味で死ぬことは無いが、信頼を失ってしまう
いや、この状況で信頼なんてあったもんじゃないが。またデスペナルティで一日ログイン制限がかかるのは絶対に避けたい
私は本名を伝え、商人そっちのけで推定騎士団長と会話をしようと試みる
「経緯?なんだ、言ってみろ」
意外にもあっさりと発言を許された。私はこの危機的状況から抜け出す為に。そして出来れば追ってきた異邦人達に不利益が生じるように
考え、考え、考え、そして名案を思いついた。定番だが、いや、定番だからこその確実な案というものを
私はこれから起こる騒動に内心ほくそ笑みながら舌を回す
「では失礼して、私達は異邦人達が領主様、ファージ・フォダン男爵様の暗殺を企んでいるとの情報を独自の情報網で入手し、その暗殺を阻止しようと極秘に行動していたのです」
相手に話を信じ込ませるには、本来なら下準備が必須であるが、今回そのような準備をする時間はなかったので、身振り手振りで気を引いて、雰囲気を作り上げる必要がある
「そこで地面に伏せている商人を生業としている異邦人が暗殺を企んでいた異邦人達を阻止しようと準備を進めていた所、相手に気づかれてしまったようで、命からがら領主様が異邦人達に暗殺を企てられているという情報だけでも伝えるため逃げ延びてきたのです」
そんな事実は存在しない。でっち上げだ。それを真実だと刷り込む。思い込ませる。真実にする
「もちろん証拠の品もございます、この毒が詰められた瓶こそが証拠です」
「なんと、確かに近辺に自生している毒草から調合される毒物に酷似しているようだ…この程度の毒であればマジックアイテムで十分解毒可能だか…領主様の暗殺を目論んでいたとは…」
私は異邦人達による領主暗殺をでっち上げたのである
追いかけてきた異邦人は今も地面で転がっている商人の金銭を求め、追い回していただけであり、決して領主暗殺などを企てていた訳ではないのだが、私が【薬品作成】で適当に作っておいた毒薬で薄い信憑性を補強する
毒薬の原材料は清らかな水、スケルトンの骨の破片、しびれ草にしおれた毒草
作り方も簡単で清らかな水とスケルトンの骨の破片を混ぜていたら、だんだんと半透明だった水が濁ってくるのでそこに、しびれ草としおれた毒草を入れてよくかき混ぜたら完成
実はこれは【薬品作成】のスキルで回復薬を作っていた時に、オートでは無くマニュアルで。レシピに無い物を作ろうとしたらどうなるのかという実験も兼ねて、【薬品作成】を使わずに適当に混ぜていた時にたまたま出来た物なのだ
毒薬を【鑑定】してみると
麻痺毒薬 状態異常 毒 麻痺
1分に10のダメージを1時間与える
じわりじわりと体を蝕む毒 毒の威力は弱体化しているが
毒の効果の持続時間が長期化している
毒の威力が低下しているため
異常状態にかかってしまっても 気付くことは難しいだろう
いつか使うと思って捨てずに直しておいたのが役に立った
毒の入った瓶を推定騎士団長に手渡すと、推定騎士団長は周りの騎士達に私達の事を見張っておくように命じ、大きな屋敷へと慌てて向かった
今の内にまだ地面に倒れて動かない商人と裏で話を合わせておくためにパーティー申請を送る
細身の商人は立ち上がり、驚いたようにこちらを見つめてパーティーに参加してくれた
視界の左上に細身の商人の名前とHPバーとNPバーが表示される
細身の商人の名前はクリンと言うらしい
追加されたチュートリアルによれば、確かパーティ専用のチャットのあるらしい。予想通りだ。私はメニュー画面からパーティーの画面を呼び出し、チャットの機能を使い意思疎通を試みる
レイム:どうも、先程までの話は聞いていましたか? 騎士達に会話の内容聞かれると不味いんでこっちで話をしましょう
クリン:了解です。わかりました。聞いてましたけど....領主様に嘘をついて大丈夫なんでしょうか....あと助けて貰ってありがとうございました
レイム:大丈夫じゃないですか? 自由に遊んで良いって運営も言ってましたし。あぁ、助けた代金はしっかりと貰おうと思ってましたけど、口裏合わせて貰ったら代金は要らないんで
クリン:ええっ! それだけでいいんですか!
レイム:はい、それだけでいいんで、むしろ喋らなくてもいいんで。っと、戻ってきたみたいですよ
「領主様が詳しい話をお聞きになりたいそうだ、ついてこい。騎士団員達は周囲の警戒にあたれ!」
推定騎士団長は戻ってくるなり、そう、私とクリンに伝えると、私とクリンを置き去りにして大きな屋敷へと戻っていく
推定騎士団長が先に行ってしまいそうだったので、私とクリンは急いで推定騎士団長を追いかけて、屋敷へと入った