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第48話 別れ話と素材調達

メモ心を取り違えた






「ねぇ見てよクレア。大金だ。これでこの前の店にピアスでも買いに行こうか」






蜂の魔物はクリンの撃退したあれらで打ち止めだったらしく、あれから何事もなく王都への帰還を果たした。クリンからは報酬としてかなりの額の金銭を貰えたし、懐がかなり暖かくなった。何もかもが順調だ。ただ一つの問題を除いては





クレアの表情は暗く沈んだまま、繋ぐ指先には力が入っていない。柔らかい脱け殻のように、強く握れば崩れてしまうように脆く、酷く不安定に見える






ご機嫌取りに以前欲しがっていたアクセサリーでも送ろうかと思ったが、返答は返ってこない。どうやら事態は私が思っているよりも深刻らしい







何が原因だ。一体何処で間違えた。わからない。つい先日までは正常だったではないか。それすらも私の思い違い。勘違いだとでも言うのか。隠されていた異常が累積した結果がこの惨状だとするならば、悪いのはそれを見抜けなかった私だ






魔法の習得という当初の目的は達された。押し売りした恩の分の回収は既に済んでいる。しかしそれ以上に、私はクレアに恩を押し付けられてしまった。それこそ、少し家に置いておくくらいじゃ割に合わない程に






恩を仇で返すのは慣れっこだ。しかしわざわざ私の方から何かアクションを起こさなくたっていいだろう。もしかしたらクレアが勝手に立ち直ってくれるかもしれないし、変に行動して恨まれちゃ面倒だ。だけど少し悲しいな






「ねぇ、話があるの」





淡い期待は潰えた。その先の言葉は何度も聞いたことのある。ありふれた別れの言葉である事は容易に予測できてしまう。クレアの善性を、才能を、他でもない私が腐らせてしまった。私の悪性が、蝕んでしまった。正義を手中に納めようなんて間違いだったのだ






「ああ、そう。ならこれは君に」






「そんな大金…受け取れないわよ」






死んだような目で残り香のようなそれを発するクレアの意思は、輝きは、吹けば飛ぶような灯のようで、始めて出会ったあの日とは比べ物にならない程に弱々しくなってしまっている






こんな状態で帰る場所もなく、生きるために金を稼いでいるようじゃあ、遠くないうちに命を落としてしまう。金なんてまた稼げばいいだけだ。この程度の端金でクレアの命が僅かでも繋がれるのならばそちらの方がずっといい






「いいからいいから。ついでにこの前の作った回復薬も、また会った時にでも感想を聞かせてよ」





改造を施した濃縮回復薬も渡したし、私がしてやれる事はこれで終わりだ。この先はクレア次第。生きるも死ぬも、全てクレアの行動で決まる。これで少しでも輝きが戻ってくれれば良いのだけど、やっぱり不安だ






かといって私が居たところで与えてしまうのは悪影響だし。生み出した怪獣はクレアの護衛を出来るような知能を有してはいない。そもそもクレアがやられるような相手をあれらの怪獣ごときが相手出来るとは思えないし






「私に恩を返すまではくれぐれも死なないように。じゃあ、またね」






背を向けて、既に存在しないものを盾に生きることを強制する。声は聞こえなかった。沈黙こそが答えと言う訳らしい。袋を抱え俯くクレアの姿を一瞥し、私は貧民街へと歩みを進めた











▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽











「おい、ちと酒代が足りねぇんだわ」






鼻が曲がりそうなアルコール臭のする息が、顔面に吹き掛けられる。相も変わらずここは治安が悪いな。【魔力形成】により手元に魔力の針を生成、とりあえずはその汚臭の発生源に離れて頂こう。簡単に死なれちゃ困るしね







「や、やめろよ。冗談だろ?」







頬を薄く切っただけで態度が急変するなんて。なんて弱い意思なんだ。その程度なら大人しく目の届かない所で蹲っていれば良いものを。わざわざ私の目の前に出てきて偉そうに金をせびってきた癖に、少し肌を切っただけでこれとは






「冗談? そうだね。これから起こることも、そういうことにしておいてよ」






背を向けて無様に走り逃げる浮浪者に照準を合わせ、魔力の針を他の魔法へと転用する。魔力形成により生成された物質は魔力の塊だ。であればその魔力の塊を利用して魔力を放つことが出来るかもしれない






「[魔力弾]」






実験結果は私の予想通り。魔力形成により生成された針は無数の弾丸となり無法者へと放たれる。が、込められていた魔力量が少なかったせいか、生成された魔力弾は数が少なく、また狙いも雑であった為か、充分に真価を発揮できていない






貧民街の人間はある程度痛みに耐性を持っているらしい。異邦人であれば少しの痛みでぎゃあぎゃあとみっともなく叫び散らかすものだが、現地の人間はあれらとは違う






比較的安全な環境で将来の為のお勉強に勤しみ、死を想像する機会なんて物語から妄想する程度のもの。日頃から命を危険に晒し、飢え、暴力に堪え忍んできた人間とでは何もかもが違う






ま、それだけじゃ私から逃げ切る事なんて不可能なのだけど






「[バインド] そんなに怯えないでよ。ただの冗談なんだから」






浮浪者目掛けて放たれた鎖は即座に対象の身体に絡み付き、一瞬で四肢の自由を奪い取った。浮浪者には鎖から逃れる手段などない存在しないようなので一安心






「でも一応足は潰しておこうかな」







油断、慢心。これでも良いかという妥協。そんないい加減な考えのせいで失敗したばかりなのだし、少しは気を引き締めておかないと。先ずは声を奪おうか







「【終末を翳す手】《沈黙》 さて、削ぐのは片足だけで良いかな。後でくっ付けるの手間だ」






声を封じた浮浪者は額に汗を浮かべ、顔を歪めながら何かを懇願するように口を開いたり閉じたりしているが、言葉にして貰わないとわからないな。特に私は察する能力が足りていないみたいだし






「よし。ここは運に任せよう」







鎖の一部を切断し、股を開ける程度の余裕を作り出す。解放して貰えると勘違いしたらしい浮浪者の希望を見出だした表情に笑顔を作り、股下に剣を立てる







棒倒しの要領だ。もっともこんななまくらじゃ骨まで行かずに止まってしまうだろうけど、あくまでもどちらの足を切断するかを決めるために棒倒しを行うのだ。少し肉を切る程度で止まっても、後から剣が倒れた方の足を良いし







「どっちに倒れるかなー? なんかワクワクしてきたね。あーわかってる、わかってる。早くして欲しいんだね。せっかちだな全くもう」







鎖で四肢を縛られている為、上手く身動きが取れていない様子だが、必死で逃げようとしているように見える。そりゃそうか。自分の足がなくなると確かに不便だしね。私には竜化があったから良かったものの、そんな便利なスキルを習得しているとは思えないし







手を離し、剣は左の足の肉を浅く切り裂いた。素人目だがこのくらいの出血量なら死にはしないだろう。死んだとしてもストレージに収納すれば素材としての鮮度は維持されるし、問題はない







「左か。私の予想は右だったんどけどなぁ。外れちゃった。じゃあ斬るね」






[魔力形成]により大剣を生成し、左足の膝下辺りを狙い振り下ろす。今日は偽造擬術は使用済みなので、こんな感じだろうかと言う適当なイメージに沿った動きだ







振るわれた大剣は私の狙いどおりに浮浪者の左足の膝下へと命中したのだが、魔力で作り出した大剣は切れ味があまり良くないらしく、斬ると言うより、肉を押し潰しながら摺り潰すような形になってしまった。骨にも到達できていないし失敗だ







こういう時は大剣で斬った方がそれっぽいかと思ったが、失敗したな。そもそも大剣の製法もなにも知らないのに魔力で大剣を作ろうなんて考えが甘かったのかも。これはとても大剣とは呼べない代物だ。少し切れ味のある混紡といった方が正しいくらいの出来だった







もう足は無くしてしまおう。素体として使えそうになかったらバラして使える所だけ使えばいいし







「[マナボール]」






込める魔力を絞り、威力を抑えたマナボールを左足の太股へと放つ。マナボールは樹木を容易に貫通してしまうほどの性能を有した魔法だ。当然のことながら人体を破壊できない道理がない







呆然とした表情になったかと思えば顔を赤くして口を開いたり閉じたりと忙しいやつだな。とはいえこれでそう簡単には逃げられなくなった。これは濃縮回復薬を投与して経過を観察する用にしようかな







うん、となるともう片足も要らないかも。寧ろない方が良いな。それに片足を残していたせいで逃げられちゃ困るし、じゃあ手も要らないか。世話は奴隷にさせておけば良いだろう。主人の命を狙う奴隷なんか近くに置きたくないし






「気が変わった。きみの四肢は全部無くすことにするよ。いいよね? 」






嫌がる声は聞こえなかったので肯定ということだろう。金をゆすってきた相手の意思を尊重するなんて、私はなんて慈愛に満ち溢れているんだろう。これじゃ優しすぎて善人と間違われちゃうかもな、なんて











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