第46話 噂話と改造版無属性魔法
隠された真の英雄。やはりあの自称勇者達はただのハリボテ。御飾りだったと言う訳か。面白くなってきた
大体あんなのが勇者ならその辺の農奴だって勇者と変わらない。思い返してみれば自分がただの御飾りだと理解出来ていないような雰囲気だった。可哀想に。身の丈に合わない称賛を浴びすぎて脳ミソが溶けてしまっているのだろう
してその真の英雄とは一体どのような人物なのだろう? 王道を行く正義の味方? 悪に順応したダークヒーロー? それともテンプレートを外れた特殊個体? 正直どれも好みだ
「真偽不明の噂話なんですが、今、王都にはあの破滅の魔女が潜伏しているらしいんですよ! その破滅の魔女の尖兵らしき凄腕の屍術師と規格外の死霊術師が王都に大量のアンデットやゴーストを召喚して、どういう訳か魔物の集団を殲滅したそうです。正直眉唾物ですよね」
クリンが話題に選んだくらいだ。ただの与太話と言う訳ではないだろう。それにしても王都がそんな危機に晒されていたなんて知りもしなかった。街へと魔物が群を成して進行しているとなればもう少し騒ぎにならないとおかしいと思うのだが、そのような光景は私の記憶に存在していない
「魔物の一部は魔女側についたそうで、騎士に邪魔されて近付けなかったんですけど、王都前は魔物同士での戦闘の余波で地面がでこぼこに抉れてるらしいですよ。状況が落ち着いたらギルドの冒険者総出で地形の復旧作業に取りかかるんですって」
スタンピードの首謀者を捕らえて情報を吐かせようにも、魔人は既に屍術師と死霊術師の手により葬られている。おそらくギルドよりも上の意向。国の調査が行われているのだろう。もしも噂が真実ならば勇者の功績は真っ赤な嘘だと言う事になる
ただし、それを証明する証拠が存在しなければ、噂は噂のまま。勇者の功績は真実となり、世論の勇者支持の勢いはさらに増す筈。中身がただの少し能力が優れただけの人間だとしても、誘導された民衆により造り上げられた幻影は大きな扇動効果を産む
「ねぇクリン。復活した魔王については何処まで知ってる? 」
「え? えーと、ワールドアナウンスで聞いたこと以外には、魔王がプレイヤーに魔剣っていう強力な武器を配っているって事くらいですかね。今はもう配っていないみたいですけど、神族? っていうボスみたいなのを討伐したプレイヤーは魔王の配下に加わったらしいですよ」
魔剣の配布は終了してしまったのか。残念、私も一本欲しかったのに。やはり魔剣をばらまいていたのはある程度使える手駒を用意する為か。神格をロストさせた異邦人が魔王側に下ったのなら異邦人が備える不死性も魔王に伝わってしまったと考えるべきだ
全く、厄介な事をしてくれた。まさか私がリベンジするよりも先に、異邦人が魔王の元に辿り着くなんて考えもしなかった。私の想定が甘過ぎたのだ。復活したばかりの魔王が、こんなにも早く行動を起こすとは思いもしなかった
最悪だ。次回以降、魔王に接触する際の危険度が急激に上昇してしまった。死ねば翌日には蘇り、再度命を狙う可能性のある存在に対して、過去、世界の大半を手中に魔王が何の対策もしない訳がない。リスポーン位置に仕掛けを施し、自由を奪うか。私に使用した喪失宝珠を量産し、襲い掛かる異邦人の力を奪い我が物とするか
軽く考えただけでもこれだ。特に後者の場合は手のつけようがないが、喪失宝珠を量産するとしても数は限られる筈だ。召喚された勇者の数が百前後。作成される喪失宝珠の数はそれを越えることはない
そもそも世界の殆どを魔王に支配されていた時代に生きていた勇者と、現代の勇者ではその基礎スペックに大きな差がある可能性が高い。現代の勇者の心臓では喪失宝珠を作れたとしても、劣化品、使い捨てのものくらいしか作れないのでなかろうか
あまり油断していると足元を掬われるが、必要以上に警戒しすぎていてもなにも出来ない。それに魔王も復活したばかりで本調子ではない。回復の為にしばらくは身を隠して大人しくするだろうし、あまり焦らなくてもいい筈
「実はさ、私、魔王に会ったことがあるんだよね」
先ばかり見ていても仕方ない。一先ずは目の前の依頼を達成する所からだ
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「もう少しで目的地に到着します。どのタイミングでモンスターが出現するかはランダムみたいなので、レイムさんも警戒を」
クリンとの情報交換によって得た情報は今後の行動において大いに役立つものだった。特に魔王関連の新情報は異邦人らと積極的に交流しているクリンだからこそ入手出来た物だろう
私も掲示板をくまなく探せば同じように情報を拾えたかもしれないが、クリンはその手間を短縮してくれた訳だし、相手がレアな魔物じゃなくてもしっかり働くとしよう。レア素材は今度クリンから貰えばいいし
「任せといてよ。[魔力探知]」
言って覚えたばかりの無属性魔法を行使する。元とした無属性魔法、マナサーチの場合、発動時に大量の魔力を放出し、その後も続けて魔力を垂れ流す事で周囲に魔力を拡散させ、自己の放出した魔力に触れた相手を知覚すると言ったもので、燃費も、使い勝手も悪い
それに比べ私が改良を施した魔力探知であれば発動時の魔力消費はマナサーチの倍だが、魔力を圧縮し、解放、その際に発生する反動を利用し、魔力を拡散させる為、発動後に効果を持続させる為に魔力を消費する必要がない。加えて持続時間は一時間強。込める魔力の量を調節すればさらに長くする事も可能だろう
「私の索敵魔法に反応があった。かなり近い、キラービー。蜂の魔物だ」
飛行手段を持つ魔物も、魔法を使えば容易く始末できる。以前に戦った事のある魔物だし、ここは私が魔物の相手をしよう。商人とはいえクリンの戦闘センスは図抜けている。護衛対象一人を守り抜くくらいそう難しくはない筈だ
「前に戦った事のある魔物だし、私が行ってくるよ。クリンはそこの科学者の護衛をしてて」
蜂の巣からここまでは少し離れている。群れとはいえ、この距離をキラービー達だけで移動してきたとは考えにくい。キラービー達を守る上位種、ナイトビーの存在も警戒するべきだ
今のところ私の魔力探知の範囲内にそれらしい反応はないが、問題はない。キラービーを手当たり次第に潰していけば、そのうちナイトビーの方から出てくるだろう
魔力探知が反応した地点まではもうすぐだ。白衣に付与された魔力回路補助と魔力回復スキルのおかげで私の魔力量は最大に近い状態、鎖も腰に六本吊るしてある
「【竜化】…やっぱり駄目か」
望みに反して翼が生えることは無かった。空を飛べればかなり楽にキラービーを討伐出来ただろうが、仕方ない。これも全て魔王とか言う奴のせいだ。いつか仕返しをしてやる
空気を揺らす羽の音。魔力探知によると数は九体。クリンから聞いた話で出てきた魔物の数よりかなり少ない。クエスト参加人数によって数が変化するだとかそういう仕様だろうか、はたまた偶然か
どちらにしても今相手にする数は変わらない。出来れば不意打ちで一、二体もっていきたいが、隠密スキルは失われてしまっている
魔王に奪われたスキルはどれも優れた物だったせいか、どうもスキル頼りの戦い方に慣れてしまっている気がする。今後スキルを封じる相手なんかが現れてしまえば私は手も足も出ずに惨敗してしまうんじゃなかろうかと思ってしまう程だ
しかし空を飛ぶ魔物に対しての攻撃手段なんて魔法くらいしかない訳で、その無属性魔法の魔力弾や、マナボールですらあの距離まで届いたとて威力が減衰してしまい大したダメージは期待できない
であれば改良を、この状況に対応できる最適な改造を施す必要がある。元とする魔法は魔力弾。マナボールを小型化、加工を施したこの魔法に、さらにもう一手間を加える
接敵まで時間は残されていないのでぶっつけ本番も良いところ。失敗すれば不利な状態での戦い始める事になってしまうが、他に良い方法なんて無いのだし、これが一番マシなやり方だ
とは言っても変更するのはほんの少しだけ。銃弾の形状をより鋭く、貫通性能を向上させ、射出時の圧縮魔力を倍に。コスパはマナボール並みに悪くなるが、貫通性、安定性、命中性はこちらが上だ
魔力探知により位置は把握済み。あとはコレを放つだけだ。それぞれのキラービーへと生成した四つの弾丸の狙いを定める。魔力を圧縮、圧縮。今だ
「[魔力弾]」
言った直後、内側から頭を張り裂くような痛みが巡る。放った魔法は私の手を離れている為、それについては問題ないが、痛みが収まる気配はなく、羽音はすぐ近くまで迫っている
視界が赤い。クソ。キラービーの毒か。いや違う眼球の上を血液が垂れ下がっているのか。駄目だ思考が纏まらない。何が原因だ。訳がわからない。まさかキラービーが私の接近に気が付き、予め大気中に毒を撒いていたとでも言うのか?
あり得ない話ではない。では何故奴らは私の魔法攻撃を許したのか。放たれた魔力弾は正確にキラービーを捉え、四体のキラービーを地上へと落とした。私の存在に気が付いていたと言うのならば、何故同族の死を許容した?
これまでの行動から予測するにキラービーは仲間意識の強い魔物の筈だ。であれば何故?
「く、は…うげ、ちょっと不味いかも」
今しがた吐き出した吐瀉物に視線を落とす。赤い血痰。思った以上に私の身体は限界に近付いているらしい。もしかしたら無詠唱による三つの魔法の同時発動が原因だったのかもしれないが、疑問を解消出来るだけの知識も、余裕も。今の私は持ち合わせていない
回復ポーションを飲み干し、もう一つ取り出して頭から浴びる。痛みはいっこうに収まらないが、やらないよりはいい筈だ。鉈を拾い、それを杖変わりに何とか立ち上がる
魔力探知が知らせるキラービーの数は五体。四体は狙い通り先程の魔法で無事殺せたようだが、決して優位ではない状況。それに加えて原因不明の頭痛ときた。事態は最悪に近い
しかしまぁ、キラービーは仲間を殺した私に釘付けだ。当初の目的の大体は達成したと言っても良いだろう。後はどれだけ時間を稼げるか
「──い──避け──」
まぁしかし、魔王に焼かれた時ほどではない。この程度であれば十分に戦える。腕を【竜化】させ、【終末を翳す手】により闇を纏わせる。準備は万端
「私が憎いか? なら殺してみせ」
「【テンペスト】【サイクロン】! 」
後方より飛来した二種の魔法。魔力探知を習得した今だからこそ理解できる。二つの魔法に込められた膨大な魔力が。そんな魔法を放った人物が誰なのかを
内包された魔力濃度は私のソレは比較にもならない濃さだ。必要に応じて魔力を体内から引き出し、利用しているのは理解できるが、それにしたって感じ取れる魔力量が少なすぎる。何らかの手段で魔力量を擬装しているのか。種族的な特性による物なのか。あとで本人に聞いてみよう
キラービーはもはや原型を留めていない。危機は去ったと見て良いだろう。しかし何故こんな場所に彼女が? お小遣いを渡して王都に置いてきた筈なのに
「ありがとう。助かっ──」
「[ヒール][ハイヒール]! バカバカバカなにしてるの!? あなた今死ぬ所だったのよ! 」
死ぬ? 私が? ああなるほど。クレアは私が異邦人だと知らなかったのか。そういえば伝えてなかったような気もする。だとしたら余計な心配をかけさせてしまった
「大丈夫大丈夫。私は異邦人だから死んでも生き返れるんだよ。だから私の身体の心配するより自分の心配を…」
「そんな事を言ってるんじゃないわよ! 生き返れるって言っても死ぬことに変わりないじゃない! 」
面倒くさい。助けてくれた事には感謝しているが、自分の命の価値なんて自分が決めるものであって、他人に定められるものではない。なんて口に出してしまえば目の前の彼女は怒るに違いないので、言葉は飲み込んでおく
「あまり大きな声を出さないでよ。なんでか知らないけど頭が痛くて仕方ないんだから」
「それだけの怪我で意識を保ててるだけでも奇跡なんだから! わたしの治癒魔法でも傷が完治しないなんて、一体どんな無茶をしたのよ」
丁度良い。自分の身に起きた事については質問しておこう。幸いにもクレアのヒールのお陰で痛みは殆ど引いている。頭痛が少し残っているくらのものだし、このくらいなら大丈夫だ
「魔法を思念操作…あー…三つ同時に使っちゃったんだけどなにか関係ありそう? 」
「魔法って…あのトンデモ無属性魔法を三つも!? 運が良かったわね…最悪頭が吹き飛んでたかも」
やはり魔法を同時に使った事が原因か。今後は同時に使用するのは控えるべきか。魔法を放った後は痛みで動けませんじゃあお話にならない。それじゃあ意味がない。有利を取る所か逆にこちらが不利になってしまう
魔法の同時発動を実用化するにはもう一つ工夫が要りそう。うーん。魔法は奥が深いな。まだまだ先は長そうだ




