第45話 商人と依頼と情報交換
クレアからいくつかの無属性魔法を教わり、私なりの改良を施した翌日。朝から昼前までは昨日に続いき、無属性魔法を教わっていたのだが、昼食時にもなり小腹も空いてきたので、私たちは露店を巡り空腹を満たしていた
「このアニマルスケルトンのスープ、見た目は悪いけど結構美味しいわね。あなたも頼んだら良かったのに」
「えぇ…もしかしてクレアってゲテモノ好き? 」
店主の風貌を見るに街の外でモンスターを狩れるような様子では無かったし、アニマルスケルトンをギルドから買い取ろうにも複数の魔物や獣の骨が混じっている事が多いため、価格は安定しない
街中で討伐されたアニマルスケルトンなんてどうせ生ゴミを食らって飢えを凌いできた野生の犬や猫なんかが元のスケルトンだろうし、そこから取れるスープの味なんて、おおよそ人の食べる物の味では無かったし、具もなにがなんだがわからなかったし
安上がりなのは良いが、私にまで同じものを進めて来るのはどうかと思う
「わ、急に立ち止まらないでよ…どうしたの? 」
表示されたポップアップは新着のメッセージを知らせるものだった。差出人はクリン。以前いくらかの手助けをしてやった代わりに、私に面白いイベントを見せてくれた商人だ
どうやらクリンも王都来ているらしく、内容はとある科学者の依頼を一緒に受けないかと言う趣旨の文章だった
正直、クリンの事はあまり好きではないし、断っても良いのだが、わざわざクリンがこうして誘いを出してきた辺り、一人では攻略が出来ない程に高難易度の依頼なのか、ただ単に直に会って情報交換したいだけなのか
おそらく後者だろうけど、前者の場合はこちらから頼み込んででも参加したいくらいだ。強力な魔物の素材は単体の種で怪人、怪獣を作成可能かもしれないし、そうでなくても欲しい。入手出来るチャンスがあるのなら出来る限り逃したくない代物だ
「今日は知り合いの商人とクエストを受けてくるから、クレアはどこかで遊んでおいで。ほら、小遣いだ」
「え、ありがとう…じゃなくて、子供扱いしないで! それにいきなりそんなこと言われたって…」
ちゃっかりと手渡した銀貨を懐にしまうクレアを置いて、私はメッセージに記載されていた集合場所へと歩き始めた
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「あ! レイムさんこっちです! 」
視界には馬車から顔を出し、大声で私の名前を呼びながら手を振っている青年が一人。不味いな。あれに近付くと目立ってしまう。しかしどういう事だ? 内密に情報交換がしたかったんじゃないのか?
訳がわからない。クリンの戦闘能力はかなりの物だ。適当な依頼程度、ほとんどの場合は一人でもこなせそうなものだ。周りに衛兵などは見当たらないので、嵌められた線は薄そうだが
既にクリンに発見されてしまっている以上、いつまでも放置しておくわけにはいかない。見なかったふりをして帰るなんてのも愚策
「おまたせ、待った? 難しいクエストだって聞いたから今日は新技を用意してきたよ。期待してて」
「いえ、僕もいま来たところです! 僕のために…すみません…ご迷惑をおかけして」
もちろん嘘は言っていない。昨日覚えた無属性魔法は汎用性に優れており、戦闘以外でも様々な場面で活用できる。それに先日習得した偽造擬術や鎖魔法も大いに役に立ってくれる筈
ミスリルの短剣なんて未だ数が出回っていないレアアイテムを最初期に入手していたクリンの事だ。ユニークアイテムの一つや二つ、隠し持っていても不思議じゃない
ユニークでなくとも、鑑定の派生スキルと推察されている真偽鑑定スキルが付与された魔道具くらい探せばいくらでも売っているだろうし、何の対策もせずに嘘を吐くのは馬鹿のする事だ
「詳しい話は移動しながらにしましょう。ささ、どうぞ乗ってください」
クリンが所有しているらしい馬車は他の馬車に比べると一回りほど小さく、あまり積み荷は積めなさそうだったが、これは乗り心地を優先した結果らしい
たとえ馬車に積み込める量がこれっぽっちでも、私たち異邦人にはストレージがあるし、合理的な判断だ。
「きみ! ま、待て! そこの男はなんだ! 俺の研究の邪魔を…」
「あ、待ってください。この方は…」
馬車の中には科学者風の白衣を着た若い男が一人。おそらく彼が今回の高難易度クエストの依頼人だろう。丸メガネをかけたどこか頼りない顔のまま、男は私を指差し、怒りを露に声を荒らげ、唾を飛ばす
「貴様! この私を謀ったのか!? この私の研究に携わる栄誉を与えてやったというのに、この恩知らずが! 恥を知れ! 」
ああなるほど。この科学者は私が自身の研究成果を奪いに来たのだと勘違いしているのか。クリンの手引きにより自らは始末され、研究成果は私のものにされてしまう、みたいな勘違いを
「落ち着いて下さい、話を」
ぞわりと身体の中を探られるような感覚。恐らく鑑定を使われたのだろう。こちらは下手に出てやっていると言うのにコレか
科学者ギルドでギルド登録した時もそうだったが、どいつもこいつも人の情報をバカスカと抜きやがって、やはり鑑定阻害系のスキルか魔道具か。なんでも良いから対策を用意しておかなければ
終末龍がこの世界でどのような立ち位置になのかは詳しく知らないが、慣れ親しまれているという事はないはず。終末を翳す手なんてスキルを見られてしまったら最悪手配書を王国中に撒かれる可能性だってある
スキル一つくらいでそんな事にはならないかも知れないが、なにも対策していないのは問題だ
偽造擬術で鑑定妨害みたいなスキルを再現すれば、突破は出来なくなるだろうが、それを実行に移すためには私自身がそのスキルについて知る必要がある
「く、鑑定妨害か。でも見たぞ! 誤魔化しは効かん、お前やっぱり科学者じゃないか! 」
今回はレベル差のお陰か、終末を翳す手やDEXの項目は看破されていないようだ。しかし職業は覗き見られてしまっているらしい
クエストの依頼人を拘束し、自由を奪ったままクエストを進行できるのか試してみたい気持ちもあるが、クエストを受注しているのはクリンだし、下手に手を出す事は出来ない
であれば相手が抱いたイメージを塗り潰す程度に留めておこう。袖を捲り、片腕を科学者の方へと差し出し【竜化】させる。インパクトは十分。後はクリンがどうにか話をまとめてくれるだろう
「な、なんだねその腕は!? 貴様もしや…」
「あー! あー! こっちで話をしましょう! ね? ね! 」
クリンは依頼人を引っ張り離れてしまったし、今のうちにステータスの更新を済ませておこう。数日前に自称勇者の神剣とやらを破壊したせいか、大量の経験値を獲得していたらしい。おかげて魔王に力を奪われる前と同等のステータスにまて回復できた
DEXも補正値無しで一万、補正値も含めて二万。文字通り桁外れの数値だ。しばらくは魔力や他のパラメーターに多めに割り振っても良いかもしれない。
魔力に余裕ができたら、さらに高威力の魔法や、演出用の凝った魔法なんかの開発、魔石の生成実験なんかもしてみたいし。それに魔力を上げれば今よりも気軽にスキルの発動ができるようになる。鑑定スキルの多用による魔力切れの心配をしなくても良くなるのは気持ち的にかなり楽だ
先日真央から聞いた話によると優も魔法に惹かれてこのゲームを始めたようだし、真央にいたっては魔力奪取なんて特殊なスキルを獲得したらしい
周りはどんどん成長しているのに、私にあるのはいくつかの特異なスキルと桁外れのDEXくらいのものだ。このままではこの先二人と合流できたとしても、私はただのお荷物になってしまう
怪人の作成も上手くいかず、出来上がるのは期待外れの怪獣ばかり。何事も思い通りにはいかないが、思い詰めていても仕方ない
「お待たせしてすみません、なんとか説得できたので早速出発しましょうか」
なんと、パーティーでのちょっとしたイザコザで気を荒らげていたあのクリンが説得? なんてこった。あのクリンですら成長しているだなんて。大した成長もできずに取り残されているのは、私だけなのか。気が滅入ってくる
「ふん。くれぐれも邪魔だけはするなよ」
どうやら和解した訳ではなさそう。渋々と行った様子だ。これで問題を解決できたつもりなんだから、本当に阿保らしい。どうやらこいつは都合の良い解釈、曲解、勘違いが大の得意のようだ
「ささっ、レイムさんもどうぞこちらへ! 」
クリンに招かれるがまま、私は科学者の後を追い、馬車へと乗り込んだ。中には両際に椅子と中央には小さなテーブル。積み荷を全く積んでいないせいか、空間に余裕を感じる
「目的地まではすこしかかるので、今のうちにクエストの詳細をお話しますね」
依頼人は私に対して警戒心を剥き出しにしている科学者の男。目的は最大魔力量を底上げする霊薬の素材となる草花の採取
群生地では草花の蜜を吸う昆虫系の魔物が度々目撃されているらしく、私とクリンの役割は草花を採取するまでの間、科学者の身を守る事。なるほど。よくある護衛クエストか
しかしなにがそんなに難しいのか。クリンであればこのくらいのクエスト、簡単にこなしてしまいそうなものを。もし一人での攻略が厳しくとも、傭兵やらを揃えれば私を呼ばずとも攻略できる筈
クエストに挑戦する度に遭遇する魔物の種は変化しているようだが、魔物はとれも共通して巨大な虫のような姿をしているらしく、一回目は蜘蛛の魔物に有効なダメージを与える事が出来ずに命からがら逃げ帰り
ならばと冒険者を雇い引き連れ、再度挑戦してみるとそこに蜘蛛の魔物姿は無く、群れを成した蝶の魔物による異常状態を誘発する鱗粉攻撃により冒険者達の隊列は総崩れになり、撤退を余儀無くされたと
大した成果も上げれず科学者からの信頼も失いつつある状況で、次のチャンスは恐らく期待できない。せめて二回目の段階でもう少し情報を集めてくれていればまだやりやすかったのに
「わかった。もう十分だ」
私の能力で何処まで対応できる事やら。やり過ごすだけなら大概の魔物はどうにか出来そうだが、護衛対象が居るとなると話は変わってくる
それに数があまり多すぎると単純に手数が足りず対処しきれない。少しばかり器用なだけで、私はそれほど強くはないのだ
一度戦闘が始まれば一息着く間も無いだろう。さほど疲れてはいないが、今はゆっくりと休み体力回復に勤めながら携行品の確認でもしておこう
店から提供してもらった短剣と、適当な人間から回収した鉈は腰に吊るしてある。切れ味も申し分ない。必要があれば即座に使用可能な状態だ。ホルダーには回復薬、魔力回復薬に、先日作成した爆破ポーションを収納。偽造擬術用の武器はかさ張るのでストレージの中だ
それから、今回は先日改造を施した怪獣も連れてきた。作戦の失敗が確定した時点で怪獣を解き放ち、少し距離を取って観察を行おうかと考えているが、状況次第だ。気性が荒く、見境無く噛みついてくる為、今は麻袋の中に強引に押し込み、終末を翳す手により眠らせている
「そういえばレイムさんはどこの攻略にかかってるんですか? このクエストが終わったら僕も手伝いに行きますよ! 」
「いや、私は王都でのんびりしてるだけだから攻略とかはあんまり。礼なら強い魔物の素材なんかを譲ってくれると嬉しいかな」
どうやらクリンは私が最前線の攻略に取り組んでいるのだと勘違いしているようだ。掲示板によると東西南北の攻略前線はその攻略難度と、PK被害の影響で停滞気味らしく、唯一東の寒冷地帯だけはボスの発見に至ったらしいが、討伐報告は上がっていない
私よりも格上てあろうプレイヤー達が手も足も出ない相手になぜ私が勝てると思うのだろう。やり方次第である程度の事はどうにでもなるとは言え、それにも限界がある
とはいえトッププレイヤー達の目が攻略向いているのは私としてはかなり好都合だ。おかげでのんびり王都で怪獣、怪人の作成に取り掛かれている訳だし。それなりの数を揃え、行動を制御する事が出来れば怪獣、怪人を使った傭兵業の真似事で資金を稼ぐ事が出来るかもしれない
支配スキルが失われてしまったのが本当に痛い。アレさえあれば怪獣の管理だってもっと簡単だったというのに。まぁ泣き言を言っても仕方ないが
「わかりました。かなり種類があるので今度僕のホームにいらしてください。レイムさんなら好きなだけ持っていって良いですよ! 」
「いや、二つか三つくらいで良いかな。そんなに貰ってばかりじゃこっちが得しすぎちゃうし」
追加で無理難題を要求されたら堪ったもんじゃない。それなりに腕の立つ商人のクリンが集めた素材だ。希少で、機能性に優れた有用な素材のはず。受け取るのは二つか三つくらいで充分だ。それ以上受け取ってしまえば私はクリンに恩を着せられてしまう
「でも王都に居たって事は例のスタンピードを体験したって事ですよね? 僕も行きたかったんですけど、丁度商談が入ってて行けなくて」
「スタンピード? なにそれ? 私そんなの知らないけど」
スタンピード。確か野生生物達が恐怖や興奮等の何らかの強い刺激を受ける事で同じ方向に向かって一斉に走り出す現象を指す言葉だったか。しかしこの世界の住民ならその程度の事難なく対処できる筈だ。強力な魔法やスキルの使い手が大勢居るのだから彼らにかかれば野生生物など一瞬で殲滅する事が出来る筈だ
「一説によると今回のスタンピード。裏では古の魔王を信仰する魔族が手を引いていたんだとか。あ、興味あります? わかりました。詳しく説明しますね」
魔族、真央と同じ種族だ。確か種族スキルはレベルが上がりにくい代わりに、SPの獲得量が二倍になるんだったか。シンプルで強力な能力だ。しかし古の魔王、十中八九私の力を奪った例の魔王の事だろう。もしかしたらあの日、私の前に魔王が現れたのもその信者のせいかもしれない
エルフも良いが、魔族の身体の構造の確認。解体もしてみたい。魔族は強力な素体になりうる希少な存在だ。人間では耐えられないような魔物の素材なんかも、魔族であれば適当な非戦闘員でも自我の残存を期待できるかも。なんだかワクワクしてきた
「今回のスタンピードの規模は小規模だったようで、魔族の何らかの作戦行動を隠す為の陽動と考えられているようです。魔物の構成も竜種等の強力な魔物は含まれていなかったらしくて、鎮圧は召喚された勇者達が対応したおかげで、被害は最小限に抑えられたらしいですよ」
魔物? あぁなるほど。スタンピードとは野生生物ではなく、複数の種の魔物が一斉に一方向に向かって進行する事を指すのか。スタンピードが陽動であったならば、本来の目的はやはり魔王の復活だろう。随分と迷惑な事をしてくれたものだ
数日前に遭遇した自称勇者。壊した武器から獲得したと思われる莫大な経験値。鑑定で盗み見たステータスから推測するに、本物の勇者であった可能性が高い。もっとも、あんなものを勇者とは認めたくないが
「それと一つ気になる話が」
「なになに勿体ぶって」
そのフリは相当の事じゃないとだだ滑りすると思うのだけど
「今回のスタンピードを撃退したのは勇者じゃないって話です。隠された真の英雄が居るらしいんですよ! 」
なにそれ凄く興味ある




