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第44話 学習、もっとも基礎的な魔法






ログイン、肉体が自由を取り戻し、視界がリアルな世界を写し出す。物音と共に軋む天井を睨み付け、私は軽く身体を解しながら、二階へと向かった






昨日は二階に上がるのを面倒くさがってリビングのソファーに寝転がりログアウトしてしまった為、身体のあちこちに少し違和感を感じる





折角だしクレアに回復魔法をかけて貰おう。無償でこの家に滞在させてあげてるんだし、それくらい頼んでもバチは当たらない






「クレア。ヒールを頼みたいんだ、けど」






薄々嫌な予感はしていた。二階から聞こえるベットの軋む音。行為特有の臭い。肉欲にまみれたオスの下衆た笑み





しかし主人を、私を害する事が無いならどうでも良いかと捨て置いていたが、どうやら私は間違いを犯したらしい。いや、その行為の標的にされているのは私では無いが






「主人、違うんです。こ、これは、そう! この女が主人を馬鹿にするような言葉をはいていたので、同じ奴隷として教育を…」






「そうでさぁ! あっしらはこのガキが主人に失礼な態度を取らないよう、躾をしていただけでして」






「少々過激になってしまってましたが、安心してください。いまからこの女に男の…主人の偉大さを思い知らせてやります」






おいおい、どいつもこいつも主人主人って、私の事を良いように扱いやがって。まるで敬意が感じ取れない。結局の所はクレアを性欲の捌け口にしたいだけじゃないか





命令を曲解し、私の真意を歪めているこいつらはむしろ敵だ。私は大金はたいて敵を引き入れていたのか。心底馬鹿らしい。これならまだクレアの方がマシだ






「もういい。わかったよ」





白衣の裾で隠しながら左腕を【竜化】、【終末を翳す手】により腕を闇で染め上げる。面倒なの(大柄な男)から先に始末しよう






「さすが主人! 話がわがッァ!? 」





竜化した腕は数値上ではステータスに変動が無くとも、切断、貫通性能が向上している。竜の爪は容易に人間の柔らかな肉を貫いた





毒、麻痺、沈黙を付与、身体の自由と声を封じる。裸体のクレアを前に理性を失っているのか、警戒心を欠いた奴隷達は、一人が命の危機に瀕しているにも関わらず、それに見向きもせず、目の前の裸体に欲情するばかりだ






そのまま体内の臓器を搔き乱し、傷を広げる。主人を傷付ける事が出来ないとは言え、ステータスだけで見れば私よりも格上の相手だ。油断は出来ない





奴隷の体内から掌を引き抜き、調合セットのアルコールランプのような魔道具を使い傷口を焼いておく







「クレアは奴隷じゃなくて客人だ。君らの為に宛がわれた性奴隷では無い。君らはどうやら自分の立場をわかっていないようだね」






主人を害する事が出来ないと言うものどこまで効力を発するのか曖昧だ。もし仮に食事に無作為に毒が仕込まれていたり、家そのものが倒壊、それに巻き込まれる形で私も死ぬなんて事になってしまうかもしれない







あの奴隷商、不良品を掴ませやがって。私が死んだところでエルフを回収しにくる算段だったのか? クソ、損した






「あーあ、やっちゃった。感情に任せて行動するとロクな事になんないし、あんまやりたくないんだけど」





傷口を焼いた為、出血は止まっているが、すぐに回復薬や回復魔法等の手段で適切な処置を施さなければそのうち一人は死んでしまう





主人に要らぬ手間を搔けさせる奴隷をわざわざ治療してやる気はないし、クレアも自身を犯そうとした相手にまで慈悲をかけるほど高潔な精神の持ち主ではない筈






であれば残り二人は拘束に留めるか。折角購入した奴隷を使えないからと言ってただ殺すんじゃ勿体無い





同じ立場の同族が一人無惨に殺されたんだ。下手をすれば自分も同じ末路を辿る事になると、こいつらのスカスカの脳ミソでも理解できるでしょ。多分。無理そうなら殺して怪獣の素材にすれば良いし






でも生きている人間を素体とした怪獣、怪人作成にも挑戦してみたいし、出来れば逆らわないで欲しいんだけど





「とりあえず[バインド] クレア、こいつら適当な部屋に放り込んでおいて。私は死体の処理をするから」






こくりと頷き、クレアはなにやら以前私の習得していた身体強化魔法のようなものを自らにかけた後、鎖で拘束した男を引き摺りながら部屋を後にした。さて、私も後片付けを…






「…ァ…し、主人、あんまりだ。こんなの」






「なんだ。生きてたのか」





であればその僅かな命で、代金分くらいの情報は貰っておこう。私はストレージから店売りの回復薬を取り出し、瀕死の奴隷の目の前で、これ見よがしに回復薬を見せびらかす






「これ、欲しいよね? きみにはいくつかの質問に答えて貰う。勿論答えたくないなら答えなくても結構、私は優しいからね。きみの人権を尊重するよ」






ただの奴隷相手だと不味いが、犯罪奴隷に人権は存在しない。暗に質問に答えないのなら、回復薬は渡さないという簡単な言葉の裏を読む能力程度は、この奴隷にもあるようで一安心






この奴隷も生き残る術を必死に模索しているのだろう。無駄な努力だけどご苦労様







「奴隷商は何処を拠点としているか。 ああ、奴隷を管理している飼育小屋ような場所がある筈だ。心当たりは? 」






「し、知らない! 」






吐き出された言葉の真偽を図る魔法なんて都合の良いもの、生憎私は持ち合わせていない。なので奴隷の顔面を思い切り数発殴ってみた





呻き声を上げながら、みっともなく涙と血を流しながら自らの無知を語る奴隷の様子を見るに、本当に何も知らないようだ。チッ、値段の割にほんと使えない奴隷だ





「じゃあ君らに課された命令について」





「し、しじん。しんじてください。おれたちはなにも」





焼き固めた傷口を踏みにじる。傷口が開く事は無かったが、どうやら相当の痛みらしい。顔を歪め、踞る奴隷はなにかを語るような素振りすら見せず、ただ耐えている。本当に何もしらないのか? いや、だとしても何も言わないのは不自然だ






「では最後に。君らの本当の主人は私ではないね? 君らの本当の主人、雇い主はあの奴隷商…ああもういいや」






本人は口を閉ざし、知らないふりをしているつもりなのだろうが、実にわかりやすい。主人を害する事が出来ない命令。言い換えればそれは主人に不利益をもたらす行動の一切を封じる命令だ。犯人は奴隷商で確定か





狙いはやはりエルフであるクレアの身柄か? しかしエルフなんて探せば、それも奴隷商ともなればいくらでも用意できそうなものを。なぜクレアに固執する? 





なにか特異な体質を備えているのか。どこぞのお姫様だとか。詳しい事は何処かのタイミングで問い詰めておこう






竜化させた左腕で首を裂き、奴隷の命を終わらせる。生物から物へと変化した遺体をストレージに収納。回復魔法をかけて貰おうと思ってたのに、余計に疲れた。それもこれも全部あの奴隷商のせいだ。







「お疲れ。朝から散々だったね」





「な、元はと言えば何も言わずにあなたが何日も家を開けたから…」





こちらの世界と現実との時差も、良い仕様だと思ってたけど、一長一短があるようだ





「その怪我、はやく治しなよ。感染症に罹ったら面倒だろうし」






「感染症…? 魔物が街中に出るわけ無いじゃない。貧民街が近くたってここは王都なのよ? 」






どうやら殴る蹴るの暴力を受けていたらしく、エルフらしい卵肌には殴打の跡や傷が目立つ





しかし魔物とは一体何の事だろうか? 時々話が食い違っている気がする。まさかこちらの世界では未だ感染症のメカニズム、発生原因が解明されていないのだろうか? 





感染症とは特定の魔物、あるいは特定の魔物が棲みかとする地域由来の異常状態である。なんて結論付けられているのかもしれないが。今度その辺りも詳しく調べてみよう






「クレア。お願いがあるんだけど」






一先ずは、この世界特有の、超常現象をもたらす力。魔法から学習させてもらおう














▲▽▲▽▲▽









馬鹿じゃないのやら、わたしの気持ちを考えてよだとか。そんな言葉をぶつけられたがその程度痛くも痒くもない。若干目を赤くしたクレアは渋々といった様子だが魔法を教えてくれるらしい






「先ずは回復魔法を教わりたいんだけど」





「…多分あなたには向いてないわ。適正のない魔法は習得できない事くらい知っているでしょ? 一先ず、あなたの魔力を調べさせて。ほら、手」






言われるがままにクレアに手を差し出す。魔力の性質を調べる事でどの属性の魔法が向いているのかを調べているらしい。本来は専用の魔道具を使用して検査を行うらしいが、今回はクレアが魔道具の代わりをしてくれた






「…残念ね。四大属性の魔法、その全てに対して適正が無いわ。回復魔法も、諦めるしかないわね」






掲示板の連中を見るに異邦人の殆どは魔法の素質を有していなかった。私も例に漏れず魔法の適正は無かったらしい。やはり異邦人はスキルスクロール等の手段でしか魔法を習得できないのだろうか?






「落ち込む事はないわよ。わたし達エルフならともかく、属性魔法に適正がある人なんて珍しいんだから」






待て。適正が無ければ属性魔法は習得が出来ないと、このエルフは言った。しかし考えてみればおかしな話だ。適正が無いと魔法が習得が出来ないのであれば、私は身体強化魔法や鎖魔法を習得できていない筈だ





習得時に魔法の適正が付与された? であれば失った身体強化魔法の適正が残っていなければおかしい。あの魔法は奪われてしまったが、適正まで奪われているとは考えにくい






一つ、現実味のある仮説が頭に浮かんだ。魔法の適正とはあくまでも習得難度を緩和し、実際に魔法を操る際の魔法の規模等に補正をかける要素であり、魔法の適正など無くとも、適正が無い分難しいかもしれないが、魔法の習得自体は不可能ではないのではないか






スキルスクロール等で習得した魔法は本来魔法適正が全く無い状態から魔法を習得する過程を省略し、魔法を習得している為、他の異邦人達は魔法は、キャラクタークリエイトの際と、スキルスクロールでしか習得出来ないと認識しているのでは無いだろうか






「一応、無属性魔法なら適正のない貴方にも覚えられると思うけど…どうする? 」






そうか。無属性魔法。そもそも適正が存在していないか、無属性魔法の適正を得て生まれる者が極めて少ないのか





掲示板によるとどの魔法よりも習得しやすいらしいし、とてもエルフの凝り固まった頭脳から導きだされたとは思えない。珍しくナイスアイデアだ






「属性魔法と無属性魔法の違いは魔力の性質が関係しているらしいし、無属性魔法さえ覚えればもしかしたら他の魔法の才能が芽生えるかも」






「慰めはよしてくれ。一応体内の魔力の知覚と操作、放出まではできる。ここから先はどうすれば良い? 」






今は消失している身体強化魔法や改造スキルを使用していたので既に体内を巡る魔力の知覚や、操作と放出。魔力を魔石等の物質に定着、固定する程度なら出来る






「なら後は魔法にイメージを与えてみましょう。今から無属性魔法の中でも一番簡単な魔法を見せるから、それを元に魔力に形を与えてみて」






まさか魔法がそんなあやふやなものだったとは。もっと何らかの法則性に基づいて事象を発生させているのかと思っていたら、想像力と魔力さえあれば良かったなんて






この分ならわざわざ教わらなくても自力で習得できていたかも。しかしクレアが居なければ属性魔法に適正が無い事を知ることは出来なかった訳だし、全くの無駄という訳ではないが






「いい? しっかり見ててよ [マナボール] 」





クレアの手元に半透明の球体が生成される。風の刃を放つ魔法に比べればいくらかは認識しやすい。これくらいだったら回避する事は可能だ





魔力というエネルギーを球体状に形を整え、状態を固定、物質化し射出しているのか? でなければ対象に届くまでに魔力は拡散し、威力も低下してしまうだろうし





いや、もしかすると威力減衰は想定されていないのかもしれない。なにせ魔法を扱う上で重要なのはイメージと魔力。だとすると余計な知識を蓄えてしまっている私では簡単な魔法を扱うのも難しいかも






「これが無属性魔法の中でも一番簡単な魔法よ。さ、あなたもやってみて」





クレアの手により放たれた魔法は庭の樹木を深く抉り取った。人間に放てばかなりのダメージを見込めそうだけど、耐性が高いとそうでもないのかもしれない。要検証だ






とはいえ先ずは無属性魔法を習得しなければ話は進まない。体内の魔力を知覚。魔力を体外に放出し、魔力に形を与える。球体状にする意味は不明だが、マナボールという名前だし、この形状にもなにか特別な意味があるのかもしれないし、今回は球体として生成する







生成した魔力の球体の中心を核とし、外装を硬質化。面白い。魔法の核が中途半端に魔石のような形へと変化している。これで魔石が高密度の魔力の塊であるという仮説が正しい事を証明する証拠が一つ出来た






あらかた形は出来たが、これを射出しなければならない。狙いは、適当な樹木で良いだろう。スピードを確保する為にさらにもう一つ加速用の魔力を圧縮。こちらは核も外装の硬質化も行わない






「さて、試してみようか。マナボール」






爆発的な運動エネルギーが球体に加わり、球体が射出される。反動のせいで私も吹き飛ばされてしまったが、威力はかなりのものだ。クレアのマナボールの速度をはるかに上回る速度で放たれた私のマナボールは樹木を抉り、そのまま外壁を破壊し、貧民街の方へと飛び去り、遅れて爆発音が轟いた







込めた魔力量が多すぎたのかもしれない。魔法を発動する事ばかりを優先したせいで、マナボール一発に私の総魔力の半分以上を消費してしまった






「ま、待っ──」






マナボールにより発生した衝撃音のせいで声が聞き取り辛いが、おそらく私の魔法の欠点を挙げているのだろう。燃費の悪さ。魔法を発動するまでにかかる致命的な隙。命中精度もお粗末なものだ






では今度はいくらか改良を施してみよう。魔力を放出、形状を球体ではなく銃の弾丸の形状へ。モデルとするのは旧時代に使用されていた一般的なアサルトライフルの弾丸を参考にサイズも同様に変更し、魔力を節約






先程の方法で発射してしまうと正確に弾が飛ばない可能性がある為、射出用の魔力は抑え気味に。狙いやすいようになにか補助具あった方が良いが、今回は妥協しておく






目標は先程と同じく庭の樹木で良いだろう。しかしこの短時間で庭も随分と寂しくなってしまった。苗を買って来て薬の原材料になる植物でも植えておこうかな






「みてみてクレア。コスパ良くマナボールを撃てるように改良してみたんだ。わたしみたいに魔力が少なくても、従来のマナボールより若干威力は劣るけど、同じ魔力消費で百倍は撃てる。どう? いいでしょ? 」






「無茶苦茶じゃない、そんなの制御できっこない。危ないから暴発する前にはやく魔法を解いて! 」






高密度に圧縮した荒れ狂う魔力は私の支配下にある。この程度の操作は苦にもならないのだけど、クレアは少し心配しすぎだ。暴発なんて起こる訳がない






「ああ、私は少し器用なんだ。心配しなくて良いよ」





にしたってこんな物騒なものをいつまでも手元に置いておく訳にもいかない。庭の樹木へと狙いを定め射出。放たれた魔力の弾丸は樹木を貫くことは出来なかったが、威力はなかなかのものだ





なるほど。クレアのマナボールと比べ、速度は改良型マナボールの方が上、威力はクレアのマナボールに比べると少し劣るくらいか。しかし私の改良型マナボールは魔力消費量が少なく、従来のマナボールに比べ、生成から発射までにかかる時間が短く、速射性、連射性に優れている








「よし。マナボールは大丈夫そうだから次の魔法を教えて」








無属性魔法でもこの使い勝手の良さだ。これがあるだけで戦闘の幅は大きく広がる。選択肢は多ければ多いほど良いし、多少習得が難しくても覚えておいて損はない。やはり治癒魔法や属性魔法をどうにか習得しておきたいし、魔法書の購入も視野に入れておこう







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