第38話 勇者を名乗る不審者
大勢のゴブリン達との戦闘で大量の経験値を獲得できた。が、やはり異邦人へ付与されていた経験値ボーナスが無くなった影響なのか、レベルの上がりが悪い
あれだけの数のゴブリンを討伐したにも関わらず上がったレベルは合計で十。黒幕のレベルにいたっては一つも上がっていない
流石特殊職。レベルアップに必要な経験値も他の職業より高く設定されているようだ。とはいえこれでかなりのSPが稼げた
あとはギルドに報告さえすれば報酬だって得られるし、かなり余裕が出来てくる
「うぅ…重たい…」
命の恩人相手に失礼な。あの状況で見捨てなかったのだからエルフの少女にはもっと感謝して欲しいものだ
エルフの少女の魔法により窮地を脱したは良いものの、街道への道を進んでいたが疲労からか身体が動かなくなってしまい、仕方なくエルフの少女に担がれながら、今しがた王都への帰還を果たした所
最近身体が妙に疲れやすい。ゲームのしすぎで身体が衰えているのかも。リアルの方で何かトレーニングを始めようかな。いざという時に身体が動きませんでしたでは洒落にならないし
「ああそうだ。報酬を受け取っておきたいからこのまま冒険者ギルドまで頼むよ。そこの道を真っ直ぐ行けばすぐだから」
「…わかりました」
うん。便利だなこのエルフ。素直に指示に従ってくれるし、戦闘能力も申し分ない。なによりその魔力量、魔法の技量はとても魅力的だ
是非、改造を施したい。もう一人か二人エルフを用意して魔法特化の三頭怪人なんてどうだろう。口が三つなら複数の魔法の同時発動も容易だろうし、膨大な魔力を有するエルフを三体も使えば相当の魔力を宿す怪人が作れそうだ
冒険者ギルドの扉をくぐれば、中は格上だらけの危険地帯。だが彼らにも常識が、秩序が存在している為、大半の人間は大勢の前で恐喝、恫喝、傷害、なんて馬鹿なことはしない
そんな事をすれば即座に冒険者ギルドの職員に取り押さえられ、それ相応の罰則が下ることになるからだ
「…レイム? 無事だったのか。良かった。心配してたんだ」
なのでもし仮に、奇跡的にタクト達が無事帰還していたとしても、冒険者ギルドで報復に動くことはないと想定していたのだが、これは予想外だ
「私はこの通り無事だけど、君らはあの状況から良く生き残れたね」
「ああ、なんとかな。レイムが囮を引き受けてくれたお陰でみんな無事だ。…本当に…ありがとう」
頭を下げるな勘違い野郎。にしても驚きだ。あの捕らわれていた人々を護りながら、王都まで逃げてきたのか。それも一人も欠けずに
正直半分は減るかと予想していた。後で死体を回収しようかと思っていたけど、当てが外れたな。まぁいいか。適当な魔物で代用出来るし、それが人間の死体である意味はない
サブとハーバーのハンドサインから察するに大事にならないように二人がタクトの記憶を誘導、僅かに歪めてくれたのだろう
最悪冒険者ギルドを利用出来なくなる事も覚悟していたが、その心配は必要無さそうだ
集落の件は既にギルドに報告してあるらしく、ザブから金貨三枚を受け取り、私はエルフの少女に受付へと連れていってもらう
金貨三枚もあれば当分金の心配をしなくて済む。それどころか正規の手段で奴隷を用意する事だって可能だ。特殊な魔物の素材なんかを仕入れることも出来る。気分は小金持ちだ
「遅くなって申し訳ない。依頼の報告に来たんだけど今大丈夫かな」
職員にギルドカードと記入済みのチェックシートを手渡し、処理が終わるのを待つ。いくらにもならないだろうが、貰えるものは貰っておきたい
「お疲れの所申し訳ありません。調査依頼の件でお伺いしたいことがありまして…」
しばらくしてギルド職員が私の元に近付いて来たが、なにやらただ報酬を渡しに来ただけではないようだ
「なにか不備でもありましたか? 」
「いえ、報告に上げられた蜂の巣と化した村の事です。レイム様はキラービーとの交戦を行ったとの記載がありますが、その際、騎士蜂や、魔法を使う蜂とは遭遇しませんでしたか? 」
「いえ、ああ、そう言えば去り際に武装した警備蜂が追ってきましたね。でもナイトビーなんて奴とは遭遇していません」
警備蜂の相手も手駒に足留めをさせて逃げるので精一杯だったのだ。それより上位の蜂となんて遭遇していたら生きて帰ればしなかっただろう。いや、その後すぐ死んじゃってるんだけど
「…そうですか。ご協力ありがとうございます。こちら報酬の銀貨五枚です。ご確認下さい」
金貨三枚受け取った後だと銀貨五枚なんて端金に思えてくるが、これでも大金だ
魔王の事は報告していないが、これだけのプレイヤーが街に居るんだし誰かが報告しているだろう。わざわざ私が言う必要はない。鑑定が通じなくて大した情報も抜けてないし
さて、そろそろ自分の足で歩くか。疲れも取れた。身体の調子も悪くない。それに、これ以上エルフの少女に担がれたままというとも見聞的に良くない
「ここらでお別れだ。ほら、餞別。スラムの外れに家を構えてるから余裕が出来たらお礼をしに来てよ」
エルフの少女には金貨を一枚と私のホームの位置を記載したメモを握らせ、私は銀貨を握りしめ出店の並ぶ飲食街へと繰り出した
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やっぱり王都は良いものが揃ってる。フォダンの街やシュルーベルツの街とは大違いだ
なんの変哲もない屋台で売っているただのホットサンドは魔力を多く含んだ食材を使用しているらしく、値段は張るが、絶品だった
「これと同じものを二つ頼むよ」
「へい、銀貨三枚でい」
ぼったくってんじゃ無いかと疑いたくなるが、この辺りではこれが適正価格だ。王都は物価が非常に高く、普通の食材を用いた料理でさえ、他の街の倍の値段はする
店主に渋々金銭を支払い、購入したホットサンドをストレージに収納。レベルアップしたお陰でいくらかストレージに余裕が出来てきたが欲を言えばもう少し余裕が欲しい所
それに装備も揃えないと。取り敢えずは服からだ。いつまでも初期装備のままだとやたらプレイヤーに絡まれてしまうし
科学者ギルドでまた同じ白衣を買っても良いが、特段性能が良い訳でもないし、どうせ買うならスキルが付与された物を購入したい。であればオークションか
しかし予算は金貨二枚。これではとても競り合いを乗り切れるとは思えない。オークションに行ったわ良いが目当ての品は手に入らなかったではお話にならない
最悪、目的の商品を競り落とした人間を狙い、強奪するのもアリだが、万が一に備え装備だけは最低限揃えておきたい
そういえば少し歩いた辺りに露店が出ていた筈だ。なにか掘り出し物が見つかるかもしれないし、少し覗いてみよう
▲▽▲▽▲
「ねぇ、これもう少し安くならない? 金貨一枚なら買うんだけど」
「馬鹿言うんじゃねぇ! 東洋の鍛冶師から直接買い付けてきた特殊な剣だぞ。金貨四十枚は貰わねぇと割に合わねぇよ。冷やかしならとっとと散りな! 」
ちぇ。ケチな奴。こっそり鑑定してみたがかなりの性能だ、この特殊な剣…刀には金貨四十枚以上の価値がある。【弱点看破Lv6】【精神統一Lv5】の他に合計六つのスキルが付与された刀は武器パラメータもそこらの武器と一線を画している
私の出力が低下した鑑定では読み取れないパラメータ。認識不能のスキル。どれだけ低く見積もっても提示された金額の倍以上の価値があると思うのだけど、この店主も性格が悪いな
店先には極上の業物を一本。店内には見てくれだけを整えた粗悪品が陳列してある。阿呆相手の商売か
「へいへい。お、これなんか良さそう」
武器を取り扱う露店を後に、ふらふらと、目に留まったのは一着の白衣だ
「いらっしゃい。ボウズ、これが気になるのか? 」
「え? ああ、まぁ」
つい最近お気に入りの白衣を身体ごと燃やされたなんてファンキーな話をする訳にもいかないので適当に濁しつつ、私は白衣を鑑定した
【魔力回復Lv4】【魔力補助回路】【物理耐性Lv2】
装備パラメータも申し分ない。良さげなスキルも付与されているし、なにより格好いい
「金貨二枚だ」
「頂こう」
予算は全て使い切ってしまうが、着替えの服は次買えば良いだろう。露店の商品は今逃せば二度と巡り合えない。ここは白衣を買うべきだ
「毎度、今着ている服と交換でも良かったんだが? 」
「最初から私の服が狙いか。でも残念。誰かに譲れるような物じゃなくてね。これで勘弁してよ」
金貨を二枚支払い、白衣を羽織り店を後にする。しかし良い買い物が出来た。本当は二、三人奴隷を購入したかったが、また次の依頼で稼いだ金で買えば良い。別に奴隷は逃げないのだから
「だーかーらぁ。俺様が貰ってやるっつてんの! ありがたいだろ? だから早く渡せって! 手間取らせると王様が黙ってないかもよ~? 」
「勇者様方…何卒、ご勘弁下さい。そんな事をされては私は家族を養えなくなってしまいます。どうか代金を…」
「ッるっせぇな! 俺ら、勇者。お前、モブ。モブはモブらしく黙って俺らに従えば良いんだよ」
どうやら勇者を名乗る不審者が露店の店主を問い詰め、商品を無償で提供させようとしているらしい。普段ならどうでも良いと切り捨てるが、今の私は気分が良い
日頃の行いが良いお陰か、この白衣とも出会えたし、ここで一つ社会貢献をしておいても良いだろう
取り敢えず【鑑定】阻害される事もなくあっさりと情報を抜くことが出来た。成る程。レベルは低いがステータスは軒並み私よりも上か
それにどいつもこいつも変わったスキルも三から五つ、それに加え剣術や槍術、格闘術。魔法等のスキルに俊敏や剛力など習得しているスキルの数がかなり多い。魔王に力を奪われる前の私のスキルの数に近い者まで居る
の割にはそこまでの驚異を感じない。武器や防具はかなり良質な物を使っているようだが、それだけだ。本人の実力が道具に見合っていない。まるで使いこなせていないのが見てわかる
「これじゃあ宝の持ち腐れだ」
「おい、なに見てんだよ? なに喧嘩売ってんの? 勇者である俺らに? ほらほら! ぶっ殺すぞ? ははははは! 」
あまりじろじろと見すぎてしまった。私の視線は槍使いの自称勇者のお怒りに触れたらしい。槍による一突きを回避し、槍を【鑑定】
「神槍ロンギヌス? なんでこんな所に」
桁が二つ三つ違うオーバースペックな槍に驚きつつも、その槍の使い手がこれではやはり宝の持ち腐れだ
「《バインド》【偽造擬術】《槍術》」
死角に複数展開した魔法陣からの鎖による拘束により手足を封じ、あらかじめ作成しておいた鎖で槍を絡めとる
所有権はあちらにあるのか槍をストレージに収納する事は出来なかったが、使うことは出来る
「槍はこうやって使うんだよ? 自称勇者くん?
」
「野郎! 田口の槍を返しやがれ! 」
自称勇者の剣士が大振りに剣を振るうが、槍と剣でリーチが違う。剣撃をいなし、剣へと一撃。こいつらには不釣り合いな程に強力な槍だ。現に数回打ち合っただけで相手の剣には酷い刃毀れが生じているのに、こちらの槍には傷一つない
バックステップで距離を取り、勢いをそのままに壁を蹴り上がり反転、回転をかけた一撃を剣士めがけて解き放つ
剣士は技術が無いのか受け流す訳でもなく馬鹿正直に剣で一撃を受けた。お陰で私の一撃は脆い部分にクリーンヒット。剣士の剣は柄の先数センチからポッキリと折れてしまった
「お、お前! 国宝級の神剣だぞ!? 自分が何をしたのかわかって…」
「知らないね。私はただ自衛を行っただけだ。先に手を出してきたのはそっちじゃないか。剣が壊れたのもお前自身のせい。私のせいにしないでよ」
自称勇者達の動きが止まったその瞬間。槍を自称勇者の槍使いへ向け投擲。偽造擬術が上手く作用したのか音を置き去りにする速度で放たれた槍は本来の持ち主の鎧を砕き、貫いた
「…仕留め損ねたか」
出来れば偶然を装って殺してしまいたかったけど、生きているなら仕方ない。勇者ならたんまり経験を溜め込んでいると期待していたんだどなぁ
これ以上の追撃を行えば過剰防衛、今更感はあるけど、私の立場が無くなってしまうし、流石に言い逃れが出来なくなる。この辺りが潮時か
「私の気が変わらない内に散ると良い。君らも無駄に命を捨てたくはないだろう? 」
どうやら相手側にもそれなりに知能がある奴が辛うじて存在したらしい。もしかしたら護衛の人間かな? どうだっていいけど
槍使いの勇者に素早く手当てを済ませると勇者達は私に罵詈雑言を浴びせもせず足早に露店を去っていった




