第36話 デメリットとゴブリンリーダー
ここに来るまでの道中、馬車の中で【鎖魔法】《鎖生成》を行い用意できた鎖の本数は十本。魔力回復ポーションを飲み魔力は回復してある為、戦闘中にも新たに用意する事は出来るが、アテには出来ない
馬車を止め、見晴らしの良い崖からソレを見下ろす
「あ、明らかに多すぎません…? 王都の近くにこんなにゴブリンが住み着いていたなんて…」
「ギルドの想定よりも大規模だな」
「ま、俺たちの仕事はあくまでも偵察。まともに戦ってちゃ命がいくつあっても足りないよ」
以前私一人で制圧した村の数倍以上。下手したらフォダンの街に匹敵するレベルの大規模な集落が目の前には広がっていた
「ッ…想像以上だな…バレたら不味い。急いで情報を収集したらすぐに撤退を」
「おいタクト! あれ! 誰かがゴブリンに捕まってるぞ! 」
「チッ、余計な事を…」
どうやらハーバーがゴブリンに捕えられている人間を見つけたらしい。報告書に記載できるようにメモしておかなくては
「タクト様…」
「みんな…あの人達を助ける。頼む! 協力してくれ! 」
おいおい馬鹿なのかコイツは。この規模の集団にたった五人で挑むと。気でも触れたか。とても正気の沙汰とは思えない
「タクト様と一緒なら、どこまでもお供します!
」
なんなんだこの盲信馬鹿ヒーラーは。コイツに焼かれてしまっているのか。何故こんな奴を崇拝しているのだ
「フッ、こうなる予感はしていたさ」
お前もかザブ。最後の常識人枠だと思ってたのに。なんでそんなに乗り気なんだよ
「仕方ねぇなぁ、それでリーダー、作戦は? 」
おいおい馬鹿しかいないのかこのパーティーは。馬鹿の集いなのか
「あの人達を助けて、さっさと逃げる! 邪魔なゴブリンは倒す! 大丈夫さ! 道は俺が切り開く! 」
要するに行き当たりばったり、作戦なんてものは存在しないらしい。馬鹿な奴らだ。そういうのも嫌いじゃないけども、今回は金を稼ぎに来たんだ。遊びに呆けてる余裕はない
「おーけー了解。ハーバー、捕まってる人間の数は? 牢は一ヶ所? それとも分散しているのかい? 」
「いやここから見えるのは一ヶ所だけだ。ほら、集落の中心辺りのアレ。人数は…ああクソ、生存者の正確な人数は不明。けどまともに意識を保ててる奴はごく僅かだな」
「こうしちゃいられない! 行くぞ! みんな! 」
もう少し情報を集めておきたかったが仕方ないか、それに先頭を突っ走って少しでも囮役をしてくれた方がこっちも助かるし、悪いことばかりじゃない
「【偽造擬術】《斧術》」
さて、これで人並みに斧を扱えるようになったし、折角の機会だ。この斧の性能を試してみよう。何処かに手頃なゴブリンは…
「おいタクト! ペース上げろ! このままじゃ囲まれて終わりだ! 」
「小汚ない魔物共が、こっちだ【挑発】」
「大丈夫ですかタクト様! 《ヒール》」
おーなかなかの連携。タクトが馬鹿みたいに中央へ向けて障害となるゴブリンをばったばったと薙ぎ倒し、打ち漏らしたゴブリンはハーバーが弓で射抜き、ザブが四方八方から迫るゴブリンの注意を引く。適度にピロルがヒール、タクトに付きっきりになってるな。これじゃそのうちザブは死ぬ
「《バインド》ピロル。今のうちにザブの回復を」
しっかし異邦人ってのはどいつもこいつも強すぎるな。先程こっそりとメンバー全員を【鑑定】してみたがパーティーの中でもタクトは頭一つ二つ抜けていた
今も拳になにかを纏わせてゴブリン達を殴り飛ばしている。おそらくあの手に纏わせているものが闘気。その他にも気力回復、カウンターや俊足、瞬間回避など使い勝手の良さそうなスキルを習得している。ステータスだって文字通り桁違いの強さだ
「《バインド》。タクト。交代だ。少し休むと良いよ」
でもこれじゃレベル上げにならない。パーティーには参加している為、一応タクト達の倒したゴブリンの経験値の一部は私に入ってきてはいるのだが、ごく僅かだ
それにこうも援護ばかりだと鈍ってしまう。鎖魔法の検証は一通り済んだし、ここからは黒幕のスキル、偽造擬術の検証だ
「待てレイム! アンタじゃその数は無理だ! 」
前回のイベントで貰ったランダムアイテムギフトボックスから獲得した斧はかなりのスペックだ。それに便利なスキル付き。こちらも試してみたくてワクワクする
タクトを追い抜き、すれ違い様にゴブリンの首めがけ斧を振るう
狙ったのは首だった、しかし刃は私の想定していた軌道を遥かに逸脱し、四方八方のゴブリンの手足を大雑把に切断した
まるで身体だけが最適解を理解しているかのように、放った攻撃を勝手に修正してしまう。クソ、扱いにくいな。これはおそらく弱体化したステータスが原因でも、この斧が悪いわけでもない
原因は偽造擬術。確か再現度はDEXを参照するとな記載があった筈。であれば斧術を再現するのに必要なDEXが足りなかったか、規定値以上だったのか
どちらにせよこれじゃ少し扱いを間違えたらパーティーメンバーを謝って殺しかねない
「私が先導する。君らは後を追ってきてくれ」
やはり私に集団行動は向いていないようだ。一言言い残し、私は斧を片手に人々が捕えられている集落の中心地へと駆けた
▲▽▲▽▲
「【竜化】、《バインド》ふふっ、これでかなり経験値を稼げたはず。ステータスを確認したいけど、余裕がないな」
適当に斧を振るう。たったそれだけで無差別に斬首の刃が暴れ散らす。斧に付与されているスキルは【吸血】この武器で他者を傷付ければ傷つけただけ自身の体力を回復するという便利なスキルだ
このスキルのお陰である程度無茶が出来ている。それにしてももうそろそろ牢に着いてもおかしくない頃だけど、辺りは代わり映えのしない原始的な建物ばかりでそれらしい丈夫そうな建物は見当たらない
何処だ。何処に隠れている。思い出せ。奴らの習性を。ゴブリンとの戦闘経験ならそれなりにある
ああそうだ。そう言えばこの前は洞窟に巣を作っていたじゃないか、何処かにそれらしい穴は…
「【終末を翳す手】流石に三種類に絞られると大分使い勝手が悪い…いや、元が便利すぎたのか」
休み無く四方八方から襲いかかるゴブリンの相手をしながら周囲を探るのは至難の技だったが、何とかそれらしい空洞を発見、おそらくこれがゴブリンの巣、洞窟への入り口だ
「この中に捕まってる人が…一人か二人拐っても…流石にバレるか」
ゴブリンと言えども全員が全員暗視スキルを習得している訳ではないらしく、洞窟内部には炎の照明が配置されていた。動力はどうやら魔石のようだけど、どういう仕組みなんだろう?
噂の魔道具という奴だろうか? でもただのゴブリンがこんなもの作れるか? いいや無理だ、断言しても良い
であれば何者かがゴブリンにこれを与えた? 会話が通じるような相手じゃない。返り討ちにした冒険者の死体から漁った? にしては数が揃いすぎている
ならゴブリンキングのような上位種、マージゴブリンかクラフトゴブリンかそんな感じのゴブリンがこの巣穴には生息しているのかも?
だとすればそいつらは是非殺して持って帰りたい。上位種なら確実にスキルを持っているだろうし、魔物の死骸を持ち帰るくらいならパーティーメンバーに文句を言われる事もないだろう
「いや! やだ! 誰か、誰が助け──」
声に釣られて向かってみれば尖り耳の小柄な少女がやたら体格の良いゴブリンに性的に襲われる寸前だった
目と目が合う。ああダメだ、このゴブリンと私とでは生物的に格が違う。
狙うは首、全力を出さなければこっちが殺される。だがそんな事をすれば、この少女まで思い通りに扱えない吸血斧の餌食になってしまう
最悪両方殺してしまってま構わないが、出来れば少女の方は生かしておきたい。なにせ私の予想が正しければ、彼女は恐らくエルフだ。お礼に魔法とか教えてくれるかもしれないし
集中しろ。まだだ、もう少し…今!
「《バインド》死に晒せクソゴブリン! 」
魔方陣から生み出した鎖による不意を突いた拘束。致命的な隙だ。殺れる。後は斧が当たりさえすれば…
「マジ…かよ」
なんて思ってたのに、どうしてこうも私の予想を裏切ってくるのかな。確かに鎖で縛り上げた筈のゴブリンの四肢は既に自由になっている。どうやら強引に鎖を引き千切ったらしい
そうして自由になった右手で私の斧を掴み、刃を握り潰しやがった。おいおい。仮にもイベント報酬で得たアイテムだぞ。それをこうもあっさりと…
ゴブリンは獰猛な笑みを浮かべ、こちらを嘲るように顔を醜く歪ませている
「畜生、なにか突破口は、【鑑定】…殆ど見えないか。はは、笑える」
わかったのはこのゴブリンの名称がゴブリンリーダーであるという事と、私とゴブリンリーダーの間には途轍もない力量差があるということ
面白くなってきたじゃないか。格上相手? ヒーローはいつだって不利な戦いを強いてきた。それに比べればこれくらい、なんて事無い
「それに手がない訳じゃない。【竜化】【終末を翳す手】ほら、来いよ。私が怖いのか? 」
手を竜のモノに変化させ、闇色の瘴気を纏わせる。距離を詰めてきたらすぐにバインドを発動できるように鎖の用意も忘れていない
──ケヒッ、ヨワムシ、ジャマ、スルナ
喋れるのか。言語が扱える程の知能を有しているのであれば怪人の素体としても利用可能かもしれない。今回は捕まえるのは無理そうだし、素材として持って帰るか
「弱虫? あぁ、きみの事ね。そんなに謙遜するなよ雑魚ゴブリン? 」
──キキケッ、コロス、コロス!!
この程度の挑発に乗るなんて思っていたよりあまりに賢く無さそうだ。なんてことない単調な打撃。そこに斧を潰した馬鹿力が加わればそれは立派な攻撃になる
すかさず生成しておいた鎖で《バインド》すぐに鎖は砕かれてしまったがゴブリンリーダーの動きを一瞬遅らせ、相手のペースをワンテンポ乱す事に成功
ここを突く。竜化により強度を増した右腕でゴブリンリーダーを殴り付ける。それにより事前に発動しておいた終末を翳す手の効果が発動、毒、麻痺、沈黙の異常状態が即座に付与された
「くははは! 馬鹿だなぁ! やっぱ所詮頭ゴブリン! 下半身ばっか鍛えてんじゃないの!? あはははは! 」
──ケヒッ
嫌な笑みだ。追い詰められているというのに、なぜそんな笑みを浮かべていられる?
「お前の敗けだよ。ゴブリンリーダー」
竜化させた腕でゴブリンリーダーの首を掻き裂こうと屈んだ瞬間、麻痺している筈のゴブリンリーダーが力任せに顔面を殴り付けてきた
私はそのままの勢いで吹き飛ばされてしまう。畜生、痛い、HPも今のでかなり持っていかれた。もう一撃食らうと不味い
吸血斧が破壊されてしまった今、回復手段は限られている。慎重に、確実に仕留めなければ
同じ目に遭わないように慎重にじわりじわりと距離を詰めて、地に転んだままのゴブリンリーダーの腹部を思い切り踏み抜くが、反応がない
どうやら毒が回りきって死んでしまったようだ。なんとも呆気ない最後だったが、これで一応の安全は確保された
「お嬢ちゃん、怪我はないかい? すぐに拘束を解いてあげよう」
終末を翳す手を解除し、竜化した右手の爪で少女の手足を縛る原始的な拘束具を破壊。一応、少女の状態を確認する為に【鑑定】をしておく
種族は予想通りエルフ。四大属性の魔法に加え回復魔法、無属性魔法と六種類の魔法が使えるのか。ステータスも私よりも上だし。しかし劣悪な環境下に晒されていたせいか魔力が空っぽだ
「あの、助けて頂いてありがとうございます」
「あーそういうのはまた後で。取り敢えずこれ飲んで。魔力回復薬ね。とっとと逃げるよ」
出来ればタクトと合流したかったが、洞窟を脱出するだけでも骨が折れそうなのにそこからあの馬鹿共を探し出して合流なんて出来っこない
私達がゴブリンの集落から脱出するまでの間、せいぜいゴブリン共の注意を引いていてくれよ




