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フリー・シンギュラー・オンライン 悪役志望のロールプレイング  作者: 神代悠夜
第一章 存外、世界は非日常で満ちている
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第31話 提案とマイホーム




上空から忌々しいくらいに眩しい光が、私の体に熱を与える






2月の半ばだと言うのに夏本番のような暑さを誇る異常気象はもやは毎年恒例の物となっていた






旧時代には四季という春夏秋冬というものが存在していたらしい事は昔話として知ってはいるが、産まれてからこれまでに春夏秋冬を感じた事があるかと問われると、答えは否定の一言になってしまう






気候は二極化されており、過ごしやすく心地の良い天気なんてものは年に二、三度くらいしかない






そんな異常な暑さも我が家に帰れば関係ない。部屋に備え付けられた冷房器具がドアの解錠をキーに自動で起動し、上昇した体温を速やかに冷却する







「ただいま」







家に誰かが待っている訳でもないのにそう呟いてしまうのは、家族と暮らしていた頃の習慣が未だに抜けきれていないからだろう。引き摺っている訳なのだ






兎は寂しいと死んでしまうらしいが、生憎と私は生身の人間の為、そのような心配は要らない。要らないが、寂しさを感じない特異な個体である訳でもない






通学カバンを寝室に投げ入れ、リビングに入る。冷房を強く設定しすぎたせいか外との寒暖差は大きく、半袖では肌寒ささえ感じるくらいだ。それこそ無駄な、もしもの事を考えてしまうくらいに、頭は冷え切っている






しかしながらいくら考えた所で、それはただの夢物語に過ぎない。飾らない言葉で語るのであれば、ただの妄想に過ぎない訳であり、それを思い出して過去を悔やむ事など、これからの枷になるだけだと言うのに、それでもやはり、考えてしまうのだ






暗い考えが止まらない。クーラーを停止させ、家の電子ロックを一括でオンに切り替え、扉を施錠する






今日も現実逃避を始めよう。悪の道を模索する。現実的な非現実を求めて









▲▽▲▽▲









前回のログインから数日程日が空いてしまったが、世界はたかが数日程度では変わらない。数日前に目にした宿の天井が目に写る






ログインは問題なく行われたようだ。宿を後にし、私は成功しているであろう依頼の報酬を受けとる為、闇ギルドへと向かう







飢えが蔓延した人生の脱落者達が暮らす世界






子供は身を寄せあいながら助け合い、集団として生きているようだが、大人は一人安酒を大事そうにチビチビと飲み、酒を買う金がなくなれば周りに当たり散らす始末






闇ギルドに到着するまでに見た光景だ。拐うなら大人の方が良いだろう





癇癪をまわす邪魔者が一人や二人消えたくらいで気にする余裕がある人間はこの地に存在しない





この前支配しておいた子供も早めに改造しておいた方が良いな。原型を留めないくらいに姿を変えてしまえば、子供達も自分達の仲間だなんて思わない筈だ





脳内で考えを纏め終わった所で、辺りの建物より一際大きな建物。元国営施設、通称闇ギルドと呼ばれる場所に到着した





先日闇ギルドを訪れた時にはなかった好奇の視線を感じつつ、受付へと向かう






「先日依頼を受け、特殊な毒を製薬した者だ。報酬を貰いたいんだけど」






依頼は失敗している筈がない。相手の暗殺者が望む毒物はあれで間違いなかった筈だ。殺す為だけの毒ではなく、相手を苦しめる役割も受け持つ毒





私が依頼の内容を理解できていなかったとしても、この世界ではあまり目にしない物だと思うし、ある程度の報酬は期待していて良いだろう





最悪闇ギルドに提出しなかった分の青酸カリを使ってテロとまでは行かずとも、小規模な暴動を起こすのも楽しそうだ






「あぁ、その事に関してお前さんに伝えなきゃならない事がある」






受付に居たのは昨日対応して貰った職員とは別人だったが、話は付けてあるみたいだ





しかし私に伝えなければならない事とはなんだろう。職員は奥の部屋を指差し部屋へ向かうように促す





ギルドの外装に反して、小綺麗にされている部屋に招かれた。扉をくぐる。部屋の構造は昔忍び入った校長室に良くにている





そこには机に山積みにされた書類と格闘を繰り広げている老婆の姿があった






「あぁ、来たかい。あんたの作った毒物に関する事なんだがね。依頼人はあれを気に入ったらしくて、レシビを買い取らせてくれとまで言ってきている」





やはり青酸カリウムはまだこの辺りには広まっていなかったらしい。存在はするが、その存在を確認できていないとか、そんな所だろう





「いくらかによるね。秘蔵のレシビだ。安価で買い叩かれちゃあご先祖サマに顔向け出来ない。ってのは? 」





「そりゃ祖先を大事にするのは良い心がけだけど、本当に大事なレシビならこんな所で、しかもこんな偏屈な依頼人の為に毒を作るかい? ガキが。あまり調子にのるんじゃないよ」





「好青年の交渉術。と言っても吊り上げ交渉だけどね。まぁま、落ち着いて。吹っ掛けようってつもりじゃないんだ。ただ、私もゆっくりと誰にも邪魔されずに、気兼ねなくのんびり出来るマイホームを手に入れたくてね」





「なら現物支給でどうだい? 丁度スラム街から少し離れた所にある住居地区の家を一軒、依頼人から買い取った所なんだ。良い物件だと思うがね」





「おいおい、家があってもお金がなきゃ今晩の食事にすりゃ困る具合だよ? いくらか、せめて明日明後日の食事代くらい出して貰いたいものだけど」





図々しい願いを押し通し、5000Gをノル婆から受けとる。まさかたった一つの、ありふれた毒物を作るだけで家が貰えるなんて。こうも上手く行くとこの先でなにか良くない事が起きてしまうような。変な勘繰りをしてしまう





「この用紙に調合方法を書いて、必ず三日以内に届ける事。わかったかい? 」





「今この場で提出しておこうか。万が一、あり得ないとは思うけど日を過ぎてしまった時が怖い」





机に置いてあった羽ペンを借り、手渡された用紙に青酸カリウムの作り方を書き記す。と言っても簡易的なものだから、難しい専用知識なんかを詳しく記す必要はない





ほんの四、五分でレシピを書き終え、用紙をノル婆に返した。さて、先ずは家に行ってみて部屋の間取りでも確認してこようかな





最悪ボロ小屋だった場合はある程度の防音設備がないと実験は行えないし。被験体を捕まえる前に一度確認しておいた方がいいだろう





「待ちな。鍵は渡したが、家の詳しい位置をまだ教えてないだろう? 案内を付けるからこれを持って受付まで行っておくれ」





そういえばそうだった。私はノル婆から依頼書のような紙を受け取り、部屋を後にした







▲▽▲▽▲▽








闇ギルドの職員に連れられ、まだ見ぬ我が家へと向かう。闇ギルドから家までの距離は歩いて三十分程かかるらしく、その道中、いくつか気になっていた事を案内役に質問してみる事にした





「あのなぁ小僧。おればノル婆に頼まれて道案内してんだよ。金を払ってるのはお前じゃねぇ。ならどうしてお前の言うことを聞かねぇといけねぇんだ? あぁ?」





「ああそうだね。その通りだ。私が悪かったよ。いくらかの金銭を渡そう。だから質問に答えてくれないかな? 」





この手の輩には下手に出るのが手っ取り早い。現に案内役は気分を良くしている。力関係をわからせるのはまた今度でも出来るし、今は情報を得る事を優先しよう





「いくつかあるんだけどね。先ずは王都の流通貨幣に関して。見た所大陸共通通貨の他に、この国独自の通貨も流通しているようだけど」





「良く観察しているな。この王都で使う事が出来る通貨は大陸共通通貨、ゴールド(G)と銅貨、銀貨、金貨、白銀貨 白金貨と、魔法金属で作られた最上位の貨幣を加えた全六種の王国貨幣の二種類だ」





「大陸共通通貨を王国貨幣に両替したり、王国貨幣を大陸共通通貨に両替する事は出来る? 」





「可能だ。でないと市場が混乱してしまうだろう。両替する時はレートに注意することだな。今は安定しているが、戦時中なんかは酷かったと聞いたことがある。まぁ気にしすぎる事じゃない。今は大体、千ゴールド銅貨一枚で安定してるぞ」





「それは安定していると言えるのかい? 私みたいな素人には王国貨幣の価値の方が、大陸共通通貨よりもずっと、価値があるように感じるのだけど」





まんまと騙された。フォダンの街であれば5000Gもあれば数日分の宿代と食費として十分な金額であったが、この王都では端金もいいところ





私は一食分の食事代にすらならない程度の金額を渡されていたらしい。こんな事をやってないでまともに働けとでも言いたいのだろうか? 大きなお世話である





その後、家に着くまでの間に案内人からは短時間で多くの情報を聞き出せた。やはり金の力は偉大である





この世界の一年は現実世界と同じく三百六十五日。しかしこちらの世界には四季が存在する。地域によっては桜や紅葉が見られたり、雪なんかも降るらしい





それと、もう一つ。私がいまいるこの国の名前はヒューマンの国なんて名前ではなかったという事だ





アベレージ王国。それが人間の治める国の名称らしい





運営がわざわざヒューマンの国のなんて偽の呼び名を着けたくらいだ。この国の名前には何か秘密が隠されているのかもしれない。案外ただの表記ゆれかもしれないが





「っと、ここだな。ここが今日からお前の住む家だ」





そうこうしている内に私のマイホームに到着した





案内されたのは耐久性、耐熱性、耐火性に優れている事で有名な石造りの二階建ての家だった





回りの建物に溶け込むような色合いであるが、その重厚感のある外壁は辺りの建物とは比べれば一目瞭然





テニスコート四面分くらいの広さの庭は、手荒れがされていないのか、荒れ放題であったがきちんと整備をすれば家庭菜園でも始められそうな広さだ






それに地下室も用意されていた。以前の家の持ち主は拷問部屋として使用されていたのか多少の血痕が残っている所もあったが、現在は実験の為の設備が備え付けられている為、大満足である







いや、待て。先程闇ギルドを後にしてこの家にたどり着くまで、その時間は僅か30分程度






それなのにどうしてこのような設備が設置されているのだろう? 考えすぎが? いいや違う





もしかしてノル婆は最初からこの家を報酬として渡すつもりだったんじゃなかろうか? 駆け引きをして家を手に入れたと思わされていたのではなかろうか? 





一体何が目的なのか。私としてはなんら不利益を被った訳でもないので文句はないが、何処からかやってくる親切というものは雑多な正義より恐ろしいものである





「よし、またわからないことがあればギルドに顔を出せ。金をいくらか出せば教えてやるよ」






大男が手を広げて駄賃をねだる姿は正直見るに耐えなかった





「あぁ、そのときはまたお願いするよ」






そう言いながら私は案内人の手に触れる。思念操作により発動した【終末を翳す手】は案内人に[記憶力低下][記憶障害][記憶消失]のデメリットを与えると、案内人は悶え苦しみながらその場に蹲った





その際に床に転がり落ちた案内人の財布を盗み、案内人を家の外へと放り出す






「よし。まずは腹ごしらえからかな」






案内人から盗んだ財布を片手に、私は屋台の立ち並ぶ通りに繰り出した













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― 新着の感想 ―
息を吸うかのごとく自然な悪意 俺でなきゃ見逃しちゃうねw
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