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フリー・シンギュラー・オンライン 悪役志望のロールプレイング  作者: 神代悠夜
第一章 存外、世界は非日常で満ちている
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第21話 理解外の狂科学者

虐殺された側の視点




「あ、あぁああ....」





逃げようとした。だけど足下がおぼつかなくて派手に転び、逃げられなかった。勿論すぐに立ち上がろうとしたが、腰が抜けて思うように動けない。ヤバいヤバい。逃げられない





目の前では、手が飛び足が飛び首が飛び。動かぬ死肉が淡々と量産されてゆく





怖くて怖くて助かりたくて、咄嗟に喉が強張って声が出ない。口からは何の意味も持たない上ずった嗚咽音が鳴るのみ。しかし無意味なその音も、白衣の悪魔を呼び寄せる導きの笛には成り得てしまう





「君で最後か、わざわざ私のために、ゴブリンキング討伐のお手伝いご苦労さま。もう死んで良いよ」





白衣の悪魔はコツコツと大きく足音響かせながら、ただの単純作業だと言わんばかりに仲間達を殺し尽くし、真っ先に逃亡してしまったために少し離れた位置で動けなくなった俺の目の前に現れる





なんで俺がこんな目にとは思わない。理由は分かってるつもりだ。慢心。油断。見誤り。様々なマイナスがこの結果を引き寄せたことぐらい、分かってる





白衣の悪魔が前方から、金属らしき輝きを放つ鋭い何かを俺に投げた瞬間、本当に死ぬわけでも無いのに、俺は終わりを錯覚する。ああ畜生。あの時俺一人でも逃げていれば、こんな事にはならなかったのに。後悔が積み重なり、先程の愚行の記憶が鮮明に頭に浮かび上がる







△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼







始まりはきっと、二人のNPCが俺達、紅の騎士団の構える拠点に走り込んできたあの時だと思う。二人のNPCは何処か虚ろな表情をしながらそこそこの速度で俺達の方にただただ突っ込んで来た





「止まれ! ここは...おい! 止まれ! 」





勿論見張りをしていた仲間達はNPCを止めようとしたが、NPCは俺達の事を無視して進もうと前へと足を動かし続ける。よく見ると体のあちこちには小さいが決して少なくない生傷が出来ていた。それなのに止まらず歩みを続けるこのNPC達に、多少の違和感を感じたが、まぁゲームだしな。で済ませてしまった





「おいおいなんだ? 」





「なんかのクエストじゃね? ラッキーじゃん! 」





物音や声に気が付いたのか、仲間達が次第に集まり、このNPCについてあーだのこーだのとペチャクチャ話し始めた。視野が狭かった。目先の不思議に気を取られ、後ろから迫ってくる土煙に気付けていなかったのだから





「おい! いいから止めるのを手伝え! 」





見張りをしていた仲間の一人が手伝うように呼びかけていたので、俺は手伝いに向かった。しかしNPCは集まった六人がかりで押さえ付けようとも、無理矢理にでも先に進もうとする





仲間の一人が無理だと言い。もう一人が何らかのフラグが建っていないから今話しかけても無駄だと言った。これ以上拘束しても仕方がないなと思い、拘束を解いて、軽く食事を取ろうとした、その時だった





「お...おい、な、何だよアレ! 」





「ゴブリンだ! ゴブリンが群れで攻めてきたぞ! 」





前方に広がるゴブリンの大群が、多種多様な武装を装備し、群れをなして俺達の拠点に攻めてきたのだ





「おっしゃ、稼ぎ時か? 」





「やったろじゃん。頑張るよいっと」





各々で分散して行動していた俺達は、急いで集結し、せっかく建てた拠点を守るために防衛戦を開始した





タンクが攻撃を防ぎ、近接アタッカーが攻撃。遠距離アタッカーがカバーし、ヒーラーがタンクと攻撃を受けた仲間を回復





それなりに連携は取れていた。かみ合っていたとも思う。最初はそれなりにゴブリン達を倒せていたし、仲間は一人も倒されていなかった





所詮はゴブリン。雑魚モンスターなんか簡単に倒せると思っていた。実際、ゴブリンを倒すのはさほど難しくは無かった。ただ、その数が多過ぎた。しかも奴らはいつも戦ってきたゴブリンと違い、下手ながらもそこらの初心者よりも上手く連携をして襲い掛かってくる





「クソが、キリがねぇ」




「おいヒーラー! 早く回復よこせ! 」




回復魔法の使える仲間が少なかった為、苦戦を強いられたが、それも回復薬で充分カバー出来ていた




「これで終わりだッ! 」




ゴブリンの大群を前に、じわじわと疲弊しつつも確かにゴブリンの数を減らし、一人の犠牲も出さずにゴブリンの大群を倒しきったと思っていた。ゴブリンを斜めに切り伏せると、辺りにゴブリンは見当たらなかった。見当たらなかった筈なのだ





「よし、レベルアップした! 」




「戦利品は一度ギルドでまとめた後、イベント終了後に貢献度に応じて再分配するので、一度倉庫に保管しておいて下さーい」




「これはランキング上位は確定じゃね? 」




俺達はゴブリンの大群に勝利したと思い、無防備に警戒を解き、わちゃわちゃと騒ぎながら勝利を共に喜んでいた





目の前で仲間が、何者かに矢で射殺されたその時までは





まず俺の目の前で盾戦士の男が倒れた。頭には矢が突き刺さっていたが、なんだと疑問を浮かべる暇は存在しなかった





「お、おい、どういう事だよ....さっきので終わりじゃねぇのかよ! んなの聞いてねぇぞ! 」





先程と同程度の、しかし先程とは違い、多くが武装したゴブリンで固められた、ゴブリンの大群がまたもや俺達の拠点を攻めてきたのだ。そこから先は、地獄だった。この時点で、仲間なんて関係なしに逃げてしまえば良かった





「死ねクソゴブリン! 」





剣士が剣を振い、ゴブリンを斬り倒せば、別のゴブリンが剣士を殺し。魔法使いが魔法を唱え、ゴブリンを焼き倒せば、別のゴブリンが魔法使いを殺し。倒し殺し倒し殺し





一人、また一人と仲間は死んでゆき、ゴブリンの数が減るにつれ、仲間もまた数を減らして行った。しかし、まだここまでは良い方だった。仲間は何人か死んでしまったが、少しの余裕は存在したのだ。ここまではギリギリでも、まだ押されてはいなかった





「おい! 前方に大型のゴブリン! 多分あいつがボスだ! 」





ゴブリンを倒していくうちに、他のゴブリンとは明らかに体格の違う、何やら赤い大きな棒状の物を持った大型のゴブリンが現れた。大型のゴブリンが赤い混棒を一度振るえば、HPの回復が追いついていなかったのか、仲間はあっと言うまにまた死んだ





大型のゴブリンの数は一体。おそらくこいつがボス。であればこいつを倒せばイベントをクリアできるはずだ





「これでラストだ! 行くぞお前ら! 」





思考停止で連想的に、そう思った。ゲーム的に考えれば、ボスを倒せば終わりのはずだと。何も考えずに、余力を残そうとせずに、全身全霊全力でボスを倒そうと、生き残っていた仲間達と共に大型のゴブリンを囲うように数で攻める





大型のゴブリンが赤い混棒を振るう瞬間攻撃を中断、後方へと即座に下がり、安全を確保。入れ替わりざまに大盾使いが攻撃受け止め、魔法使いが遠距離から一斉に多種の魔法を放つ





俺達は既にボス戦を経験済みのギルドだったので、ある程度の立ち回りは出来たし、些細な変化にも即座に対応できたと思う。それでも簡単に倒せない程、大型のゴブリンは強かった。その強さがこの大型のゴブリンがイベントクエストのボスであると言う、間違った認識を植え付けてしまっていた





「もうちょいだ! ここまできたらもう楽勝! だけど慎重にいけよー! 」





仲間の一人が陽気な声で話しかける。俺達はひどく弱った大型のゴブリンを前に勝利を確信し、油断しきっていた。それに加え、度重なる想定外の出来事に疲弊しきっていた。だからこそ、遙か上空より舞い降りる白い悪魔の襲撃に誰一人として気付けなかった





「あれっ? 少し浅い? 」





上空より舞い降りたと言うか落ちてきたと言うか。とにかく。その男は右手を前方に突き出しながら、空から大型のゴブリンに向けて攻撃を仕掛けたのだ。男の攻撃は大型のゴブリンの首を掠める





男の容姿は痩せ細り、色の抜けたような白い髪。瞳は紫。可もなく不可もないような凡的な顔。白衣を着たその背中からは闇色の竜のような翼が圧倒的な存在感を放っている






男が腕になにやら変化を施し、一目見るだけでもそれが邪悪だと、本能的に理解させられるオーラを纏わせた。マズい。これ以上この場に居てはならない。今すぐにここから逃げなければならない。脳内で警鐘が鳴り続ける





男が大型のゴブリンに右手を翳すと、ゴブリンは突然、暴れるのを辞め、まるで感情が抜け落ちてしまったのかように沈黙し、動かなくなった。マズいマズい。何が起きているかわからないがとにかくマズい





マズいマズいマズい。あの邪悪な右腕は、明らかに現時点でプレイヤーが行使できる能力の限界を大幅に超過している。そもそも何が起こっているかすらわからないのだ。こんなの勝てるわけが無い





「おいっ! 横取りは卑怯だそ! 」





しかし仲間の一人は、声を震わせ、怯えつつも勇敢にも男に言葉を放った。その声に誘われるように、続けて一人、また一人と己らの権利を主張し始めた





ああ、辞めろ。駄目だ。それでは駄目だ。敵意が無いことを伝えなければ。完全降伏しなければ。いや、そんな事をしても許されるのか? 逃げられるのか? 無理だ。逃げ切れる幸福な未来予想が全く思い浮かば無い





「君達、少し【黙って(威圧+1)】て貰えるかな? 」





男の視線が向けられた。その顔を見てしまった。実に愉しそうに笑い、しかしどこか歪なその笑顔を





怖い怖い怖い! なんなんだ! 嫌だ! 死にたくない!





本当に思死ぬわけじゃ無いのに。たかがゲームなのに。濃密な恐怖が脳に直接出力させる。意識をそらそうとしても恐怖でまとも思考が出来ない。身体だって強張って動かない。それでもただ逃げたいという感情は、恐怖は、ネズミ段式に増大する





「なんだ。口だけなのか」





男は興味を失ったように俺達を視線を向けるのを辞め、大型のゴブリンの首めがけ、大きく振りかぶり何やら棒状の、小さな槍のような、刃渡りの短い、ペンのような何かを突き刺した





大型のゴブリンは身動ぎ一つしていなかった為、攻撃が通っていないのかと思ったが、夥しい量の血がすぐに噴き出し、実はこいつはあまり強くないのでは? なんて縋り付ける希望論は崩れ落ちてしまう





それから少しもしない内に、大型のゴブリンはバタリとその身を地に倒した。遠目で見ると死んでいるように見えるが、|何故か死体が消滅して居ない《・・・・・・・・・・・・・》ため、瀕死の状態で辛うじて生きているのかもしれない。続いて、身体に重くのしかかる重圧感が消え、恐怖も嘘のようになくなった






その時俺は、非常に馬鹿な事に、しかしこのままではいつ俺達の獲物が横取りされるかわかったもんじゃない。と考えてしまい、武器を取構え直し、男に対して警戒を強め、その挙動に目を凝らす





俺の頭の中には、逃げると言う考えが消え去り、これだけの数の差があれば勝てるのではと言う慢心が生まれていた





相手は一人、それに対してこっちは十二人だ。絶対的な数的優位は俺達が取っている。負けるはずが無いと思ってしまっていた





「おいお前! よくもやりやがったな! 」





仲間の一人が声を荒げて男を怒鳴りつける。俺は男に怒鳴れる程の勇気が無かったため、無言で警戒しているままだ。男は目を半開きにして、俺達の方を凝視してきた。怖い怖い怖い。恐怖が再燃する





「お楽しみは後始末の後に取っておこう。先ずは掃除を先にしないと」





男は背中の翼を消し、腕のゴツゴツとした鱗のようなものを消した。それと同時に心なしか男の力が弱まったように感じた





多分あの翼や腕は何らかのスキルによるものなのだろう。常時MPを消費して自己を強化するスキルだと思う。きっとMPを消費し続けて維持できなくなったのだろう。そうに決まってる。現実から逃げるために、俺は思考を深めて目を背ける





「数が多いね。少し、減らそうか」





男が呟いた。翼や腕も人間の物に戻り、見た目は非戦闘員にしか見えない白衣を着た白髪の男。俺達は疲弊しているとは言え、近距離六人、遠距離四人、援護二人のバランスの悪くない組み合わせ。負けるはずが無いのだ






それがどうしてなのか、先程よりも、いや、比べものにならない程に強い警鐘を、脳がガンガン鳴らし続けている。俺は怖くて仕方なくて、警戒を強めつつもじりじりと後退し、隙を窺い逃げようと仲間達よりも半歩ほど下がった





「まずは二人」





すると男は同時に、銀のバターナイフに似た刃物を右手に構え、上半身を前に倒し、不安定にしか見えない体勢ではじけ飛ぶように俺達の方へ迫って来た





まず最初に、あっという間に距離を詰められた回復と援護を行っていた二人の方に男は近寄り、右手の刃物を二人の首筋に滑らせて傷口を作り、遠距離攻撃を警戒しているのか一人を盾にし、一人は地面に倒れた所で背中を踏みつけられた





「たふぇて! ぼっげぉよれう、させずレ! 」





「いるい゛! だれるう! いだぐいくる゛げ! 」





どちらも、何故か苦痛に満ちた表情で悲鳴をしていたが、いつもなら少し傷を負ったぐらいで騒ぐことは無かったのだが、この時は口から何か液体を吐き出しながら必死に何かを訴えているようだった





しかし今はそんな事を気にしている場合では無い。問題点が多すぎるのだ。相手の動きは見えたし、俺の方が早く動ける





しかし相手に攻撃を当てようと思ったらまず無理だ。逸らされ弾かれ武器を奪われ。どうやっても対応されると予測出来てしまう。次の攻撃が始まる前に、何か対応策を考えなければといくら頭を捻っても、解決策は出て来ない





「あれ? 来ないの? なら、こっちから行くよ」





何か生き残る方法が無いかといくら考えても、逃げの一答以外に答えは出てこなかった。それも逃げ切れる可能性はごく僅か





思考を巡らせ、あと少し、あと少しと時間を消費していると、男はあっけらかんと軽い調子で、死にかけの仲間を一人、盾のようにして身を守りながら先程よりも遅い速度で襲い掛かってきた





「いーち、にー」





仲間が二人やられた。どちらも魔法を扱う仲間だったが、盾とされている仲間ごと攻撃する事に躊躇ってしまったようで、何も出来ずに死亡した。動きはやはり見えた。見えていたのだ。しかしどうしても攻撃を避けられると言う確信が持てない





「さーん、しー。ごー、ろく」





今度は剣使いが二人、大盾使いが一人。拳使いが一人やられた。まず最初に剣使いの仲間が、盾とされている仲間ごと男を切ろうとした瞬間、男が盾代わりにされていた仲間を剣使いに投げつけ、一人が怯んでいる内にもう一人の剣使いが高速で頭を殴られて死亡





即座に男は死亡した剣士の剣を拾いあげ怯んでいる二人の腹部を串刺しにするように地面に縫い付ける。これで二人は動けなくなってしまった






拳使いは男の後ろに回り込み軽く助走を付けて跳び、空中から衝撃の強い一撃を落下しつつ浴びせようとしたようだが、必中であると思われた拳使いの攻撃はいとも簡単に男に回避され、勢いを殺しきれずそのまま地面に激突





男は地面に衝突した拳使いの首を強く踏み砕き、拳使いは死亡。それとほぼ同時に先程剣を突き刺され放置されていた二人も死亡





まずいまずい。生き残りは俺も含めて四人。俺が剣士で、他は小斧戦士とアーチャー二人。最悪だ。これでは逃亡する事でさえ叶わない





しかしこれ以上、現実逃避を繰り返しここで立ち止まっていてもいずれ訪れるのは死と言う結末だけ、ならばこそ、逃げなければならない





逃げて、誰かにこの事を伝えなければ。誰かに、助けを求めて、助かりたい。逃げたいと言う願望が耳障りの良い大義名分を生み出した。後はもう、それに縋り付くだけだ





「ひーち」





そう考えた瞬間には、俺は男と生き残りの仲間に、何も告げずに背を向けて、全速力で走り、逃亡を図っていた





「助けて! いやよ! まだ」



「はーち」




走れ走れ。躊躇するな。立ち止まるな、振り向くな。ただ逃げることだけを考えて、重しにしかならない剣を投げ捨てて、無駄に目立って邪魔な紅の鎧を脱ぎ捨てて、逃走に不要な物を捨て続けて





「クソったれが! 覚えてやがれ卑怯者! 」



「きゅーう」





きっとその言葉は、男に言った物なのだろう。しかし今はそれが、どうしようもないくらいに、俺に重くのしかかる。走って走って転んだ。立たないと。立って、逃げないと。そう思い立とうとしたが、何かに躓いてまた転んだ。そして恐怖が再燃する





俺が踏んだのは、死んだ仲間の死体だった。別に、死相が苦痛に満ちていた訳では無い、逆だ。感情が全く言っていいほど感じ取れない





「普通、死ぬときは苦しいもんなんだろ? 痛いのだろ? だから彼奴らはあんなにも悲痛に満ちた表情で」





怖い。恐怖が蘇り、仲間たちの死顔が一つ一つ目に浮かび上がる。いやだいやだ。それを振り払うように俺はおぼつかない足で一歩でも遠くへと逃げようとする。躓き転び、何度止まっても。また立ち上がって逃走に気力を注ぎ込み続ける







「あ、あぁああ....」





逃げて逃げて、やがて辿り着いたのは俺達が裏で蔑んでいたいくつかの集団と無所属の個人が集い作り上げた拠点だったモノ





建物は燃え、簡易的な壁は崩れ落ち、人と魔物が混じったような、二体の異形の化け物がこれでもかとその場を荒らし尽くしている





「君で最後か、わざわざ私のために、ゴブリンキング討伐のお手伝いご苦労さま。もう死んで良いよ」





命を刈り取る、白い悪魔の声がした。後悔と罪悪感が渦巻き、今に至るまでの光景が事細かに走馬灯のようにフラッシュバックした





不自然な動をする二人のNPC。それを追うように現れたゴブリンの大群。そういえばあの二体の化け物に背格好や顔が似ていたような気がする






些細な事柄に無理やり意味を持たせてみると、徐々に形が見えてきた。ここから生きて逃げ切る事はもはや不可能だろう





いや、もともと不可能だったんだ。それでも、最後にあっと言わせてやりたい。逆転までは行かずとも、一泡吹かせてやりたい





「ちょっと待てよ」




俺は迫り来る銀の刃を後ろに倒れ込む形で回避し、素早く立ち上がってバックステップで距離を取り、武器の代わりに口を動かし、無意味な小言を言う時間を稼ぐ





「へぇ、今のを避けるとは思ってなかったよ」





「マグレで避けれただけだ。だから次、お前が攻撃をすれば俺は死ぬだろうよ」





「? 何故わざわざ私にそれを伝えた? マグレっての嘘かな? 」





明らかに警戒した様子で、男は銀の刃物を俺に向け、いつでも攻撃できる体勢を維持しているようだった





「いーや、本当にマグレさ。俺が言いたかったのは、お前ならいつでも俺を殺せるから、時間を少しくれって事」





男はジリジリと一歩一歩距離を詰めてくる。立ち止まる気配は全く無く、どうやら俺の話を軽く聞いてほとんど聞き流しているようだった。もう余裕は残されていない、急いで言わなければ。少しでも行動を止められる、インパクトのある一言を





「こ、今回の件。全てを仕組んだのはお前なのか? 」





なんとか言えた。どうだ止まったかと男の方を見てみたが依然として男は一定のペースで一歩ずつ近付いてくる





「あのNPCも! ゴブリンも! あのヤバいモンスターも! 全部お前が」





「うるさいな」





視界が地面に落ちてゆく。振動が伝わり体が地面に衝突して、やっと自分が殴られたのだと自覚する





「やっぱりわかっちゃうよね。即席で組んだから穴だらけだった、ってのは言い訳にしかならないか」





下から男の顔を見上げてみると、男の顔は若い青年のような少し幼さを残しているように見え、とてもこんな残虐な行為を行うような輩には見えなかった





「な、なぁ、もしかして誰かに脅されてこんな事をしてるのか? もしそ」





「くどい」





男が銀の刃物で首筋を切り裂き、鮮血が吹き出した。同時に頭が締め付けられるような感覚が訪れ、次第に五感が薄れてゆく





ふと、ぼやけて映る男の顔を見ると、笑顔が見えたような気がした。あぁ、そうか。薄れゆく意識の中で、此奴が楽しんで今回の虐殺を引き起こしたのだと、理解されられ、俺は意識を手放した。










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