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フリー・シンギュラー・オンライン 悪役志望のロールプレイング  作者: 神代悠夜
第一章 存外、世界は非日常で満ちている
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第20話 トレインPK、やらせてみた




迷宮を後にした私は、緩やかな丘にそびえ立つ、一本の木の上でちょうど良い凹みのある場に座り、リラックスしながら異邦人達の簡易的な拠点を見つめていた





それから少しして私の支配した男女二人の人間が、ゴブリン達の大群を引き連れ、異邦人達に擦り付け走り去る





擦り付けたら私の元に戻るように命令しているのだがちゃんと戻ってきてくれるか心配だ。もしかしたらゴブリンの迷宮に戻るのかもしれない。まぁその時は見捨てよう。仕方ない。うん





最初は困惑気味だった異邦人達だが、自身らがゴブリン達に狙われている事に気づき、戦闘が始まる。異邦人達は皆、血のように赤い紅...あっ、これ紅の騎士団だ。という事はあの大規模な集団では無く、紅の騎士団にゴブリン達を擦り付けてしまったという事か





私は溜息を吐きながら頭を抱える。失敗した。これでは被害もそう大きく出来ない。迷宮に居たゴブリン達のスペックでは、このゲームのトッププレイヤーを超えられない。ギリギリ五分五分に持ち込めるといった所





援軍が来れば勝負はゴブリン達が優勢になる。と思うが希望的観測はだいたい外れる物なので、この予測も意味の無い事なのかもしれない





予想外のミスにより、戦況はやや劣勢。これではただの作業でしかないので、ここからどう盛り上げて異邦人達を虐殺しようかと悩んでいると、ゴブリン達の誘導に使った男女二人の傀儡が私の元に戻ってきた





ちょうど良い。此奴らはもう用済みだし、軽く実験でもしてみようかと思う





「さてさてさーて、楽しい実験の始まりだ【身体改造+1】」





対象は支配し、傀儡とした人間二人とゴブリンの迷宮から略奪してきた大量の錆びた武器の一部、強そうな物を優先して選ぶ。マニュアルで行おうとしたが、ゴブリンの時と違い、時間も自信も無かった為、今回はオートで行う





眩しい光が視界を遮った後、目を開くと、人型を保ったまま体の一部に武器が組み込まれた、不格好な姿の人間が二人、不思議そうに自分の体を見詰めながら、そこに立っていた





一人は体に剣や斧などの近接武器を埋め込まれた男、もう一人は体中に纏わり付く茨のように薄く光る鎧を身に付け、背後に短杖を浮かばせる女





声を出すことすら憚られる圧倒的な威圧感。生物としての階位が、明らかに違うと本能的に理解できた。内心ビビり散らかしながら、表ではそんな様子を感じ取られないように笑顔を保つ






私は、自分との差がどれほどの物か確認しようと思い、【鑑定】を発動してみる。まずは男の方からだ







ハイド Lv2 SP0 総合Lv26 

種族 改造人間 Lv1 〈人間から改造人間に改造されました〉

職業 戦士 Lv18

状態異常 精神崩壊 自我消失 支配下 呪い

ステータス

HP(ヒットポイント) 120 (+16000)

MP(マジックポイント) 50 (+5000)

STR(ストレングス) 140 (+430)

ATK(アタック) 180 (+2000)

VIT(バイタリティ) 130 (-65)

DEF(ディフェンス) 120 (-59)

IMT(インテリジェンス) 80 (+460)

RES(レジスト) 50 (-25)

DEX(デクスタリティ) 60 (-30)

AGI(アジリティ) 110 (-55)

LUK(ラック) 70 (+465)

スキル

【戦闘剣術-1】[スラッシュ-1]【回避-1】【ATK強化】

称号 

元駆け出し冒険者 動く死人 改造済み

装備品

錆びた王剣 HP+8000 ATK+1000 STR+500 IMT+1000

朽ちた勇剣 MP+5000 ATK+1000 STR+500 LUK+1000

破損した革の鎧 DEF+1

呪われた大斧 

装備品スキル【狂歌の退化反転術-5】







勝てない。もし、此奴が意思を持っていれば、私は真っ先に惨殺された事だろう。私がかけた支配は何故か解けていないようだが警戒が必要だ






何故、私の支配が解けていないのか、それについては一つの仮説が思い浮かぶ。おそらく此奴には既に意思が存在しないのだ。私が支配をかけた時も終末を翳す手を発動させずに、そのままの状態で支配が可能だった





支配が成功する最低条件は相手に反抗の意思が存在しない事。そりゃ成功して当然だ。反抗の意思どころか、魂が抜けたように自意識が存在しないのだから





しかしながら、これはあくまでも仮説。半信半疑程度の認識で頭の隅に置いておく、くらいに考えておいた方が良いだろう。仮説を事実だと誤認する事ほど、滑稽な話は無い





鑑定ではスキルの内容や称号等の詳細な情報を読み取れない為、より詳しい内容は把握出来ないが、読み取れる限りでも異常なぐらいに強い





体に組み込んだ武器類は装備している物として判定されるらしい。ってか装備強すぎやしないか? これは少し失敗したかもしれない。私がそのまま装備して使った方が良かった気がする





新たに表示された状態異常という項目に関しても気になるが、今は置いておこう





「ん...? 装備? あ! 」





ふと、何か引っ掛かったような感覚を覚え、意識を集中させてみると、簡単に引っ掛かりは取れた





私はハイドの装備品に対して、【鑑定】を発動してみる





呪われた大斧 

状態異常 呪い

パラメータ


スキル

【狂歌の退化反転術-5】

HP、MPを除く全ステータスを50%ダウンする代わりに、HPとATKを2倍にする。常時発動。

フレーバーテキスト

叩き砕かれ、切り裂かれ、無数の死の花を咲かせた大型の斧。斧に施されている彫刻は、本来存在しなかった。後々、殺された者達の怨みにより形成された呪いは、徐々に斧を蝕み、その斧は所有者を狂わせ、死ぬまで手放す事は叶わない。この斧を手にした者の末路は、ただ一つの道を除き破滅を辿ると運命付けられている





「! ...」





危ない危ない。思わず大声を出してしまう所だった。距離が離れているとはいえ、出来るだけ目立つ行動は避けなければならない。......いや、こんな所で身体改造を発動したのは確かに目立つ行動かもしれないが...やってみたかったから。うん。仕方ない無い





それにしても装備しなくて良かった。この装備では一時的な強さしか手に入らない。後々枷になってしまう。スキルは強くても、武器自体のパラメータによる補正が存在しないのは痛すぎる





プレイヤースキルが高い異邦人なら軽々と有効活用するのであろうが、私には合わない武器だ





一度深呼吸して、落ち着いた後に、もう一人の女の方も【鑑定】してみる






ルージェスト Lv5 SP0 総合Lv56

種族 改造人間 Lv1 〈人間から改造人間に改造されました〉 

職業 回復術士 Lv40

状態異常 精神崩壊 自我消失 支配下 呪い 束縛

ステータス

HP(ヒットポイント) 100 (+200)

MP(マジックポイント) 1000 (+7000)

STR(ストレングス) 100 (+200)

ATK(アタック) 100 (+1200)

VIT(バイタリティ) 100 (+200)

DEF(ディフェンス) 100 (+2200)

IMT(インテリジェンス) 390 (+5780) 

RES(レジスト) 100 (+200)

DEX(デクスタリティ) 100 (+1200)

AGI(アジリティ) 100 (+1200)

RUK(ラック) 100 (+200)

スキル

【回復魔法+3】[小回復+2][中回復-1][大回復-1]【槍術-3】【医術-5】[医療的回復-3][応急的回復+2][試験的投与]【詐術+1】

称号

守銭奴 詐欺師 歩く死体 改造済み

装備品

束縛型自律補正魔導小杖 全ステータス補正無しの数値×2倍

装備品スキル 【束縛】【同期接続】【操縦】【低位魔導】

束縛型自律戦闘行動用小杖 MP+1000 ATK+1000 DEF+1000 AGI+1000 IMT+1000

装備品スキル 【束縛】【攻撃】【防御】【回避】

束縛型自律撤退用転移小杖 MP+2000 IMT+2000 DEX+1000

装備品スキル 【束縛】【転移魔道-1】[短転移][長転移]

束縛型自律自己修繕用小杖 MP+2000 IMT+2000 RES+1000

装備品スキル 【束縛】【自己修復-1】【自己修繕-1】

束縛型自律広域攻撃的魔導術式構成用小杖 

装備品スキル 【束縛】【広域化】【術式構築補助+2】【術式構成補助+2】【術式展開補助+2】

束縛型自律広域攻撃的魔導術式起動用小杖 

装備品スキル 【束縛】【安定化】【暴走防止】【術式起動補助+4】

茨の魔導鎧 DEF+1000






見にくい。いや、ぶっちゃけいろいろ組み込み過ぎた感はある。でも身体改造を発動した時は何故か物足りなさを感じたのだ





ただ此奴はハイドと違って、私でも割と簡単に殺せると思う。装備品のスキル群が怖いが、大事なステータスが偏り過ぎだ。特にRESが低い。これなら私の終末を翳す手で状態異常を与え、これまた低いHPを削るだけ。まぁ、現実はこうも上手くは行かないだろうけど





...いや本当なんなんだこの装備。同一規格の量産品に見えるが中身は途轍もなくピーキーな使い手をかなり選ぶ物......本当に訳が分からない品だ





とりあえず本来襲わせる予定だった大規模な方の異邦人達の集団を襲うように[命令]し、今回の反省点を振り返る





今回は行き当たりばったりで計画性のない、無駄と危険が多い方法をとってしまったので、次からはもう少し上手く出来るようにしたい





なにせミスが多すぎた。もし、異邦人に違和感を感じ取られたら? もし、ゴブリンにやられていたら? もし、最初の地割れに巻き込まれて死亡してしまったら? 





楽しむ事も大切だが、最低限、やるべき事は他にもっとあった筈だ。次からは...って思っても多分やらないんだろうなぁ





いや、始めた当初から思ってた事だがコレ面白すぎる。なんだこれ。VRMMOってこんなに面白いのか。何故もっと早く始めていなかったのかという後悔が残る





今度別のVRMMOも紹介してもらおうかと考えつつ、戦況を、途中街をぶらぶらとフラついていた時に購入したクリームパン片手に観察する





あれ? いつの間にか他のゴブリンとは少し違う、強そうなゴブリンが戦闘に混じってる。あんなの居たかなと疑問に思いつつ、【鑑定】してみると、名前はゴブリンキングと表示されていた。おそらく此奴は、先ほど探索した迷宮の主なのだろう。激昂した様子で異邦人達を、右手に持つ赤い丸太のような物で撲殺し、大量の犠牲者を出しているようだ





これならいくら紅の騎士団と言えど、敗北の線が濃厚なのでは無いだろうかと思ったが、息の合った連携、練度の高い戦術を前に、ゴブリン達は次々と数を減らされていく。紅の騎士団は疲弊しつつも、犠牲者を出さずゴブリン達を一掃した後、ゴブリンキングを追い詰める





ゴブリンキングの丸太による凪払いを大盾使いが5人がかりで受け止め、その隙に剣、斧、槍使い達が素早く接近して攻撃を与え、敵の攻撃を警戒してからか後退





ゴブリンキングが丸太を振り上げ、大盾使いを叩き潰そうとすると、後方で待機していた魔法使い達が火、水、風、土、多種多様な魔法をゴブリンキングに当て、弓使いの放った流れ星のような一本の矢はゴブリンキングの目を貫いた





素早く別部隊の魔法使いが大盾使いを回復し、なんらかのステータス向上の類と思われるバフをかけて次の攻撃に待機。ゴブリンキングは遠目から見ても明らかに消耗し始めていた





よし、そろそろかな。私は手で白衣に付いた土を払い除け、MP残量が残り少ない為、魔力回復薬を飲み干し放り捨る





白衣の裏に飲料タイプの体力回復薬、魔力回復薬をしまい、メスを左手で刃の部分を下にして握りしめ、【竜化】で翼を生やし、腕を鱗で覆い、鋭い爪を尖らせる。あとはもう、実行に移すだけだ





少し体を解すようにストレッチ擬きをしながら助走をつけ、勢い良く木の上から飛び、自然落下に任せ身を投げる。ある程度勢いが付けば背中の翼を羽ばたかせ、空を飛び紅の騎士団とゴブリンキングとの戦闘が行われているエリアに割って入り、【身体強化魔法】でDEXを強化。これで私のDEXは2310になった





DEXを上昇させたのは、ゴブリンキングを倒した際のレベルアップで何か新しいスキルが習得出来ないかなぁ~という浅はかな考えの元だ





狙いは首の横辺り。今回は少し位置がズレても良いので難易度はベリーイージー、楽勝だ。なのに震えが止まらない。大丈夫、私なら出来るはずだと自分に言い聞かせながら右腕を大きく振りかぶり、上空から落下の勢いを付けた一撃をゴブリンキングの首にお見舞いする





何かがおかしい。違和感。そうだ。血だ。出血量だ。あれだけ血管が通っている重要な部位を切ったにも関わらず、少し血飛沫をあげただけ。想定外だ





どうやらゴブリンキングは私の死角からの奇襲に何らかの要因で気が付いたようで、器用に体をひねらせて回避を試み、致命傷を回避してみせた。これには少し驚いたがその程度で挽回できる程、今の状況は温く無い





結果として、私の初撃はゴブリンキングの肉を浅く裂く程度で収まってしまったが、それだけだ。1が駄目なら2を選べば良い。私は触れている右手で【終末を翳す手】を発動。自失を寄付し意思を失わせ、麻痺を寄付して行動を封じ、駄目押しとばかりに鈍足を寄付する





これでゴブリンキングはただの肉塊と化した。自身の対魔物戦闘に関する引き出しの無さに少し問題意識を向けながら、ゴブリンキングの処理に移る






と言ってもゴブリンキングのHPはもう殆ど残っていない。私がすべき事は紅の騎士団よりも早くゴブリンキングに一撃を加えること。そうすればゴブリンキングを討伐した分の経験値、ドロップアイテムは全て私の物となる。本来集団で狩る魔物の経験値が、アイテムが、全て私の物となるのだ





ちなみに集団で狩った場合は経験値とアイテムは均等割り。それに+αで貢献度、ラストアタック等のボーナスが乗るらしい






「おいっ! お前! 横取りは卑怯だぞ! 」





「俺らがここまで削ってきたんだ! 旨いところだけ掠め取ろうなんてさせねぇ!」





紅の騎士団達は、状況を理解したのか行動を始めた。まず私を真っ先に殺しに来るかと思ったら、口での攻撃のみで物理的には一切攻撃してこない。と、言うことはこれは俺はいつでもお前を殺せるんだぞという意思表示なのかもしれないと思い、僅かでも時間が稼げればと紅の騎士団達に向けて【威圧+1】を発動を発動する






紅の騎士団の連中は皆、口だけの木偶の坊だったようで、皆その場から動けずに黙ってこちらを睨みつけるだけだ。もし威圧が通用しなかったら少々面倒な事になっていたため、正直安堵しながらメスを振り上げ一度切りつけた首にもう一度、今度は深く力強く突き刺す





ゴブリンキングは小さく震えたがそれ以外になんのアクションも起こさない。私は状態異常を触れるだけで自由に寄付する【終末を翳す手】は桁外れに強いので、後で修正されるかもしれない。まぁそれまではガンガン使っていくけども。ゴブリンキングの首に刺さったメスを引き、大動脈を掻き切る







メスは内膜、中膜、外膜を切り裂いた。外膜が破れてしまったのだから当然、大動脈破裂が引き起こされるはずだ。...魔物の体が人に近しい物であるのならばと言う仮定の下に成り立つ仮説でしかないが






そう、現時点で無意味な理論上の考えをまとめている内に、ゴブリンキングのHPは0を指し示し、生命活動を停止する





「おい! お前よくもやりやがったな! 」






今すぐにステータス画面を開いてステータスの更新を行いたい気持ちを抑えながら、私は威圧による恐怖の状態異常の効果が切れた紅の騎士団達に目を向け、軽く溜息を吐いた










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