第18話 第二回公式イベント開始
青白い光が全身を包み込み、私の身体はゴツゴツとした岩の上に投げ出される
「ぐへっ....痛いけど....ダメージは無いのか」
ステータスを確認してみると一分間の無敵状態が寄与されていた。だが痛みまでは防げないようだ
不意の痛みに耐えつつも、私は辺りを見渡し、周囲の地形を確認してみる。辺りは一面、ゴツゴツとした岩のようなものが乱雑に並んだ高低差のある荒野がのようなエリアが続いていた
見た限りでは、辺りに人間は居なさそうだ。だが潜伏している者が居た場合に備え、メスを右手に持ち、警戒を緩めずに、私は辺りを探索してみる事にした
「ん....? 何だろうアレ」
体感で三十分ほど真っ直ぐ歩いていると、遠くの地面に巨大な亀裂が見えた。近づいてみようとそのまま進んでいると、地の底から、唸るような大きな音が辺り一帯に鳴り響く
いや、音だけではない。大地が割れたかと錯覚するような地面の揺れ、既に地面は所々ヒビ割れており、今にも崩れ落ちそうだった
私は【竜化+1】で背から翼を生やし、地面から離れ、空中へと飛び上がる
「マジか...危なかった...」
その直後、地面は陥没し、崩れ落ちてしまった。立ちこめた土煙が去った後に見えたのは大規模な峡谷。私の元居た場所は、一瞬にして峡谷になってしまったのだ
あのまま動かずに居たら死んでしまっていただろう。危なかった、イベント開始直後に死亡とか本当に笑えない
数分程空中で待ってみたが、地響きが止まる様子が全くなかったので、私はその場を飛び去り、来た道の反対の方へと戻ってみる
最初に居た所を通りすぎ、しばらく空を飛び続けて居ると、目視確認出来るだけでも百人以上の、大規模な人間の集団を発見した。何やら住居のようなものを形成しているっぽい
私はメスを白衣の内ポケットに仕舞いながら地上に降り立ち、【竜化+1】を解除して人間達の集団に近付いて行く
「止まれ! ここはギルド、紅の騎士団の拠点だ。あんたはギルドメンバーじゃねぇだろ。とっととあっちのキャンプにでも行けや。それともブチ殺されてぇか? ああん? 」
こっそりと【隠密】を発動し近付いていたのだが、剣を持つ男に止められてしまった。しかも明らかな敵意を男は放っている、けれども微かな恐怖も感じ取れる
何故恐怖しているのかは知らないが、いきなり襲われる、なんて事は無さそうだ。私はふと、気になった事を聞いてみる
「ギルド....紅の騎士団? 」
冒険者ギルドや職業ギルドの他にもまた、別のギルドが存在するのだろうか、しかし....
「え? でも全身茶色の革装備だけど....一体何処に紅とか騎士団の要素が? 」
「いや、そんな事言うなよ。薄々気付いてんだから。他のギルメン達は色統一してるけど何で俺だけ....って」
思わず言ってしまった、お前革装備だろって。悲壮感を漂わせながら男は自覚していると語る
やっぱり思ったことをそのまま言うのは良くなかった。今のは何気ない会話だったのでギリギリセーフとしても、重要な場面でこんな事では大変だ
少し反省しつつ、私はその場を後にし、男に教えられたキャンプに行ってみる事にした。距離的にもそれほど遠くないらしいので【竜化+1】は発動せずに、そのまま徒歩で歩いて行く
「Lv十までレベリング承りまーす! お代はたったの千G! 今だけだよー!」
「おい、次は東に行ってみようぜ! 」
「回復薬! 回復薬は要りませんか? 」
数十分程進んでいくと、先ほどの集団よりも多い人数の集まる大規模な集団に合流した。全体的に先ほどの集団と比べ、所々ボロボロな感じがする。大通りは活気に満ちあふれ、異邦人達は祭りを楽しんでいるかのように騒がしかった
その光景を見て、ほぼ確実にイベント上位に入選できる方法を思いついたが、それでは芸が無い。これは最終手段としてとっておく事にする
道なりに流されるがまま進んでいくと、出店のような物が密集したエリアにたどり着いた。私は適当に辺りをブラブラ歩き、まるで警戒していない異邦人達の話を所々盗み聞きする
耳にしたのは、モンスターのポップ率が低いだとか、ボスモンスターを徘徊させんじゃねぇなどの愚痴。イベントシナリオ等は存在しないのかという疑問。そもそもここは何処なんだという謎。本当に多種多様な声が聞こえてきた
その中でも特に気になったのがPKが発生すると、ほぼ必ずと言って良いほど出現するPKKを行う集団の事
曰くその集団は全身を血のように赤い装備で統一し、チームワークの取れた動きでPK達を瞬く間に殲滅し、ふっと煙のように姿を消すらしい
中でも異質なのが茶色の革装備の男、とまぁここまで聞いて察した。多分先ほど出会った人物達の事だ
PKを行うプレイヤーをPKKが殲滅する。表向きは英雄に見えなくも無いだろう
だが、もし────このPKK達が己の利益の為に行動をしているとしたら?
このイベントでは自分以外の生物を殺すと、ポイントが一、致命傷を与えた本人に入る事になっている
だが異邦人達は何故か殺し合いを行わず、あくまで魔物を狩ってポイントを得ようとする者達が大多数を占めており、PKをすると、数の暴力で圧殺される
ならば表立って効率的にポイントを集める方法は自然とPKKに落ち着く、と言う訳だろう....多分
「問題は何故、異邦人同士の殺し合いが少ないか、だけど........? え? あぁ....」
原因、と言うか理由は単純な事だった。第二回公式イベントの告知を見直してみると、何処にも異邦人同士のPVPイベントだなんて、記載されていなかった
ただの私の勘違いだった。でも自分以外の生物を殺せば一ポイントって書いてあったら普通勘違いするだろう...する...と思う
軽く溜息を吐きながら、フレンドメッセージを使用してクリンに連絡を取ってみる。どうやらクリンは何処かはわからないが、ある程度安全な町の中に居るらしく、現在位置を把握次第、私の方に来てくれるらしい
ならばそれまでは大人しくしていようと思い、私はその場を離れ、歩いてすぐの所にある洞窟。便宜上、迷宮と呼ばれているエリアへと歩き出した




