第13話 ゴブリンの集落、奪ってみた
私とクリンは一度街の中に戻り、宿を借り、互いの能力値の共有をすることにした
クリンにステータスを教える前に、SPの割り振りを行っておく。先ほど殺した短剣士はステータスだけでいえば私よりも格上だった。もし最初に一撃を貰ったのがこちらであれば死体となっていたのは私の方だったかもしれない
私の失敗で復讐劇が台無しになる事は避けたい。というか絶対に避けなければならない
私はSPを割り振ると、クリンのステータスを見せて貰う事にした
「どうぞ! これが僕のステータスです! 」
クリンは自慢げに自分のステータスを可視化して、私の方に見せてくる
クリン Lv6 SP0 総合Lv30
種族 人間 Lv4
職業 商人 Lv20
ステータス
HP 400
MP 300 (+200)
STR 150 (+50)
ATK 100 (+100)
VIT 200
DEF 200 (+40)
IMT 120
RES 200
DEX 100
AGI 190
LUK 140
スキル
【メモ+1】[ノート召喚][鉛筆召喚][消しゴム召喚]【知力強化】【攻撃力強化】【防御力強化】【俊敏強化】【短剣術】【暗殺術】【水属性魔法】[ウォーター]
称号
プレイヤー 悪徳商人
装備品
低純度ミスリルの短剣 ATK+100 STR+50 MP+200
緑のローブ DEF+20
緑の麻服 上 DEF+10
緑の麻服 下 DEF+10
強い、想像以上にクリンのステータスは高かった。SPを割り振っても、全体的に負けている。勝っているのはDEXと、スキルと称号の数ぐらいだ
何故こんなに強いのか、気になって聞いてみると、特殊クエストクリア時に職業Lvが急激に上昇し、武器もその時に貰ったらしい
Lvはそのファイヤーバード達とパーティーろ組んでクエストアイテムを集めているときに、Lvが上昇したらしい
「いやぁ....思ったより強いね。じゃ私のも見せるよ」
レイム Lv10 〈Lvが8上昇しました〉 SP0 総合Lv15
種族 人間 Lv2 〈Lvが1上昇しました〉
職業 科学者 Lv3 〈Lvが2上昇しました〉
ステータス
HP 400
MP 350
STR 150
ATK 150 (+220)
VIT 150
DEF 150 (+80)
IMT 140
RES 100 (+20)
DEX 440 (+480)
AGI 140
LUK 100
スキル
【鑑定】【薬品作成+1】【体術+1】[スラッグ][連発]【隠密】【身体強化魔法】【威圧+1】【竜化+1】【終末を翳す手】【身体改造】【支配】[命令]
称号
異邦人 騙す者 終末龍の因子(1)
装備品
鉄のメス(持ち手部分) ATK+10 DEX+20
鉄のメス(刃の部分) ATK+200
薄灰色の麻服 上 DEF+20
薄灰色の麻服 下 DEF+20
科学者の白衣 DEX+20 DEF+20 RES+20
クリンのステータスに対し、私のステータスが全体的に劣ってる。これでは足手まといになってしまう
異邦人やスケルトンを結構倒したので流石にクリンよりは強いと思っていたが、全然そんなことは無かった
「あっ、....すみません、ちょっと僕用事が....」
クリンが現実の方で何か用事があるらしく、後日会う約束をした後、クリンは街に帰っていった
私は、魔物を探すため、【隠密】を発動し、近くの森に入り、奥深くへと進む
モンスターに遭遇する事無く、森の中を真っ直ぐ二十分ほど進んでいると、人型で全身緑の魔物を見つけた。一体だけじゃなく、何体も、視認出来る範囲で三十体
全身緑の人型のモンスターを【鑑定】してみると、種族はゴブリン、Lvは十
ゴブリン達は小規模の集落のようなものを形成して暮らしているようだ
私は集落の中心辺りで、【隠密】を解除し、ゴブリン達に姿を晒す
「ギャ! ニンゲン! ニンゲン! 」
ゴブリン達は私が突然現れたからなのか驚きつつも、何処からか多種多様な武器を持って私の方に向けてきた
ゴブリン達が持つ武器はどれも、摩耗している。多分人間の冒険者達から略奪した物だろう
「結構集まってきたねぇ......【威圧+1】これでよし。【支配】【支配】【支配】」
【威圧+1】を使用し、ゴブリン達の動きを止め、ゴブリン達に対して、【支配】を発動する
三体目のゴブリンに支配を発動した所で、軽い怠さが襲ってきた。おそらくMPが低下したせいだと思う
私は魔力回復薬を飲み、引き続きゴブリン達に【支配】を発動し続ける。ちなみに魔力回復薬の味はほんのりだが甘さがあった。MPは一本で全回復するので、三本ぐらいは常備しておいた方が良いと思う
数十分程かけ、私は集落に居たゴブリン達を【支配】し、三十体のゴブリン達を入手した
「よーし、これで【身体改造】が使える。....っとその前にゴブリン達のステータスを確認しておこう」
【鑑定】によりゴブリンのステータスを確認した結果。二十九体のゴブリン達の平均Lvは八、職業は無し、ステータスの平均数値は百二十、称号は無く、スキルは持ち個体が十体、残りの十九体はスキルを習得していなかった
スキルを取得していたゴブリン達のスキルは【棍棒術】を習得しているゴブリンが五体、【暗視】を習得しているゴブリンが二体、【土属性魔法】を習得しているゴブリンが三体。計三種のスキルを習得していた
ここまでは良い。問題は一体の、他よりも体格の良いゴブリンだ
このゴブリンを【鑑定】してみると、種族はハイゴブリン......では無くホブゴブリン。Lvは十五、職業は無し、ホブゴブリンのステータスはなんと最低数値が二百五十、STRが三百と、他のゴブリンと比べて明らかに強い。称号はリーダー、スキルは【統制】【大斧術+1】【土属性魔法+1】を習得していた
私より強い気がするが、【支配】はちゃんと出来たので私の方が強いのだろう
問題と言うのは称号、リーダーと、スキル、【統制】だ
称号、リーダーは複数人の生物の長となった者が獲得出来る称号。【統制】を習得していなかった場合、【統制】を自動習得できる
【統制】は複数人の生物をまとめ上げるスキル。支配下の生物に対し、MP消費無しで、行動を誘導することが出来る。なお、誘導の成功率は支配下の生物の意識による
このホブゴブリンを【支配】した時、メニュー画面に似た半透明のウィンドウが私の前に現れた。半透明のウィンドウには
〈ゴブリンの集落(仮)を制圧しました。ゴブリンの集落(仮)の正式名称を決定して下さい〉
と表示されていた。私はいきなり表示されたウィンドウに驚き、反射的にウィンドウを閉じる
私は反射的に閉じてしまったあの画面が何処から見れるのか、メニュー画面を開いて探してみる。すると、ステータスやストレージが記載されている所を下にスライドさせると、設定の下に、待機中のウィンドウ(1)、という項目が追加されていた
私はとりあえずゴブリンの集落(仮)の正式名称を決定する
〈ゴブリンの集落(仮)の正式名称は ああああ でよろしいですか? 〉
「よろしくないです」
ついやってしまった。ふざけた名前でも決定出来るようだが、フォダンの街など、既に存在する街や村の名前をつけようとすると、その名称は使用できませんと表示された。多分同じ名称は付けられないのだと思う。同じ名称の場所を制圧すれば....出来るかもしれないが
ふざけるのはこれぐらいにして、ちゃんとゴブリンの集落(仮)の正式名称を決めようと思う
正式名称を決定すると、自身のプレイヤーホームやギルドホームと同じように、リスポーン地点として設定できるらしいので、次死んだときはここで復活する事になる
〈ゴブリンの集落(仮)の正式名称は ゴブリンの集落 でよろしいですか? 〉
「よろしいですよっと。よし、これで落ち着いてゴブリン達に【身体改造】を発動できる」
私は魔力回復薬を飲みながら、【支配】したゴブリン達に近づく
【支配】は反抗の意思が無い者の行動を支配するスキル
MPを50支払い、[命令]をしなければ、動かず、ただの肉壁としてしか使えない
支配下のモンスターは死んだらそれまでなので、使い捨ての肉壁としては割に合わない
[命令]するにもMPが50、必要なので先に【身体改造】を済ませ、素材として使う分に[命令]する分のMPを節約する
「じゃ、まずはスキル無しのゴブリン同士を....意外と軽いな。【身体改造】」
私は動かない支配下のゴブリンを両手で引きずるようにして運び、【身体改造】を発動する。【身体改造】にもオートとマニュアルがあるらしい。私は初めてなので、とりあえずオートで発動する事にした
スキルを持っていないゴブリンに素材としてスキルを持っていないゴブリンを使用し、【身体改造】を発動。MPを二十消費し、出来上がったのは、背中から腕が二本生えたゴブリンだった
【鑑定】してみると、種族はカスタマイズゴブリン。Lvは十五、職業は無し、ステータスはオール百五十。どうやら、素材分のステータスをそのまま足せる訳では無いらしい
私はマニュアル操作に切り替え、【身体改造】を発動する。マニュアルの場合はある程度の制限か緩和され、発動した際のMP消費は、最後に決定されるらしい。マニュアルと言っても、何処をどうすれば良いのかなどのガイドが表示されていたため、それを見ながら改造に入る
まずは身体改造をする生物の動きを止めると書いてあるが、【支配】のおかげで身動きのとれない状態なのでここは飛ばせる
ちなみに身体改造に使用するゴブリンは、先ほど作ったカスタマイズゴブリンを使用する
素材は計十四体のスキル無しのゴブリンだ。次は素材として使用する魔物から、魔石という物を取り出さないといけないらしい
私はメスを取り出し、三体のゴブリンを使用して、魔石が何処にあるのかを探す
ガイドには魔石は魔物の体内にあるとしか書かれていなかったので、ゴブリンを無駄に消費してしまったが、ゴブリンの魔石の位置が判明したためよしとする。ゴブリンの魔石の位置は腹部だった
後で新しく追加されたチュートリアルを確認して知った事だが、魔物の体内に生成される魔石の位置は、大体心臓の辺りにあるらしい。ゴブリンを消費してしまった後にしったので、もっと早く教えてほしかったと思った
「うへぇ....気持ち悪っ」
私は邪魔な臓器を取り外しながら、魔石を取り出す
悪戦苦闘しながらも、一時間の時をかけ、十四体のゴブリンから魔石を取り出した
最初の方は臓器をズタズタに傷つけて居たのだが、後半になってからは、器用に傷を付けず、魔石だけを取り出すことが出来るようになっていた
私は次のガイドを確認する。次はカスタマイズゴブリンの体内の魔石と、ゴブリンから取り出した魔石を、合体させなければならないらしい。合体させる方法は簡単。魔石と魔石をくっつけると、一つになるらしい
私は早速カスタマイズゴブリンの心臓から右下の辺りをメスで切り、魔石を露出させる
カスタマイズゴブリンの魔石に、ゴブリンから取り出した魔石を押しつけてみると、ゴブリンから取り出した魔石はポロポロと崩れ、カスタマイズゴブリンの魔石に吸い込まれていった
他の魔石も次々とカスタマイズゴブリンの魔石に接合し、ゴブリンから取り出した全ての魔石を、カスタマイズゴブリンに取り込ませた
次はどうすればいいか、ガイドを見る。次は魔石を取り出して放置してあるゴブリンだった物を使うらしい
ゴブリンの腕を四本と、心臓や肺などの臓器を取り出し、カスタマイズゴブリンの近くに運ぶ、取り出す際と運ぶ最中に、いくつかの臓器は破損して、使用できなくなってしまったが、仕方ない
最後に、【身体改造】に込めるMPを決める。もちろん私の全魔力を注ぎ込む
「よし....【身体改造】! 」
カスタマイズゴブリンの体が、一瞬眩しく光輝く
光は数十秒程で収まった。私はゴブリンの姿を確認する。カスタマイズゴブリンが居た場所には
悍ましい、緑の化け物が居た
足が2本に手が8本、ホブゴブリンよりも大きなその体は、辛うじて人型を保っていた
【鑑定】してみると、種族はフェイリァゴブリン。Lvは無いらしく、職業も無し、ステータスはオール五百とホブゴブリンや私のステータスを上回っている。称号は失敗作、スキルは無し
最初、成功したと思っていたが、それは間違いだった。フェイリァゴブリンにはLvが存在せず、成長する事が出来ないのだ
称号、失敗作は、Lvを失った事に対する、記念称号だった
これがVRでなかったら、画面に向き合い、ボタンを押すだけのゲームだったら、フェイリァゴブリンを使い潰せたかもしれない
「ウガガガガ! オレ! 強クナッタ! アリガトウ! アリガトウ! 」
フェイリァゴブリンは自身の成長する余地を消されてしまった事に気付かず、喜び、私に感謝すらしていた。おそらく私より強くなった事で、【支配】が解けたのだろう
「...あぁ、どういたしまして」
だが、目の前の光景は、あまりにもリアル過ぎた。まるで異世界にでも来たのかと、錯覚するくらいに
目に見える光景や感触、吐き気がするほど苦い薬草の味も。街の中にいたNPC、魔物までもが、まるで生きているみたいに、リアル過ぎた
このままフェイリァゴブリンが、力に溺れ、私を殺そうとしてくれれば、私はフェイリァゴブリンを殺せた。または、支配下に置いて、使い潰すことだって出来た
「カンシャスル! ウガガガガ! ナニ、スレバ、イイ? 」
フェイリァゴブリンは私に、純粋な眼差しを向けてきた
辞めろ辞めろ辞めろ! そんな目で私を見ないでくれ!
「ウガガガガ! ダイジョウブ、デスカ? 」
私はフェイリァゴブリンを見つめ、フェイリァゴブリンをどうするか考える
私の中の悪が、使い潰せば良いと言っている。そもそも私が施してやった力だ、どう使うのも私の勝手だ。その結果フェイリァゴブリンが死のうが私の知ったことでは無いと、そう言っている
私の中の善が、安全な所まで連れて行って、そこで自由な暮らしをさせれば良いと言っている
私には、フェイリァゴブリンを使い潰す事が出来ない──
──訳じゃない
ただほんの少し心が痛む、それぐらいだ
そもそも私に良心を求める事自体が間違いだろう。だってもう、フェイリァゴブリンは私のモノなのだから
道具を使い潰して何が悪い? 人間は毎日、あらゆる物を消費して生命を維持している
生き物を殺して肉を得る。畑から栄養を奪い作物を育てる。木々を伐採し、海を汚す。それと大差ないだろう?
それに、道具を使うのは人間の知恵、と昔の人間は言っていたらしい。なら道具を使う事に、何も間違いは無いはずだ
しかしながら、こちらに好意を持つ人的資源はかなり貴重になってくる
そんな貴重な人的資源を使い潰すだなんて、とんでもない。私は頭の中で、考えをまとめると、フェイリァゴブリンに話しかける
「ねぇ、私のお願いを聞いてくれるかい? 」
「ウガ? ナンデモキク! 」
何故だか知らないがフェイリァゴブリンは、ある程度、私の命令を聞くらしい。あとそんな尊敬するような目はやめて欲しい。ハッキリ言って気味が悪いから
だが相手に意思がある以上、ある程度、裏切られる可能性を考えておいた方が良いだろう。あと始末する方法も
私はそんなことを考えながら、クリンと話していた内容を、フェイリァゴブリンにも話す
「ウガガガ! ワカッタ! 少シ力、試シテクル! 」
フェイリァゴブリンはそう言って森の奥深くへと消えていった
【支配】したモンスターに、どうにかして異邦人のような不死性を寄与する事が出来ないだろうか。やはり困ったときは掲示板と思い、検索を開始
だが【支配】スキルをキーワードに探してみたが見つからず、代わりに【使役】【テイム】で調べて見ると、いくつかヒットした




