第12話 天然物の 悪の卵 入手した!
事前に決めておいた合流地点に到着したが、どうもクリンの姿が見えない。どうやら待たせ過ぎてしまったらしい。まぁいいか。問題だったギルドへの案内もして貰ったし、適当な理由を付けて別れるつもりだったので問題は無い
「......そういえばランダムでスキルが覚えたっけ」
私は異邦人10万人誕生記念で配布されていたランダムでスキルを習得できる特別なアイテム使用して、ランダムでスキルを習得する
習得したスキルは【支配】
効果は反抗の意思が無い者の行動を支配するというものだった
相手を【支配】する際にMPを100、消費し、何か[命令]をする時には50MPを消費するらしい
【テイム】や【使役】と似たようなスキルなので、【支配】で代用できる可能性がある
何故似たようなスキルがいくつもあるのかと気にはなったが、そんな疑問は頭の隅に追いやり、私は軽い足取りで街の外の平原へと向かった。勿論、モンスター相手に【支配】を試す為に
▲▽▲▽▲
「んっ゛んー、風が気持ちいいな」
私は風を感じながら平原を歩く。モンスターは他の異邦人達が狩りをしているせいか、私の方には寄ってこなかった
私はすいすいと平原の先へと進んでいく。木々がポツポツと現れ始めた頃。何者かの悲鳴が聞こえた。私は悲鳴につられて、声が聞こえた方向へと【隠密】を発動させながら近づく
悲鳴の聞こえた場所に居たのは、赤黒く変色した鉛筆を右手に握りしめた細身の商人、クリンだった
クリンの周りには先ほどまで生きていたと思われる人間の…訂正、異邦人の死体が散乱していた
私が死体を異邦人だと判別出来た理由は、死体の中に私の知る人物の、チキンピラフ先輩の死体があったからだ
「死ねぇぇぇぇえ! 」
私がクリンに声をかけようと近づくと、異邦人の死体の中から、異邦人が短剣を構え、私に襲いかかってきた
私は攻撃を回避しながら、ストレージからメスを取り出し、三本指で、人差し指と中指と親指でメスを摘まむようにして構え、すれ違いざまに異邦人の首筋を切り裂いた
「あれっ? 思ったより切れ味良いなコレ」
私が少しずつ傷をつけてじわりじわりと楽しもうと思って振るったメスは、異邦人の体を深く切り裂いた。まさかこんなに切れ味が良いとは思わなかった
異邦人は首からくる痛みに悶え、地面に転がっている
私は異邦人の強さを知るために、地面に転がる異邦人を【鑑定】する
ジョー Lv5 SP0 総合Lv15
種族 人間 Lv2
職業 短剣士 Lv8
ステータス
HP 210
MP 200
STR 100
ATK 210 (+10)
VIT 110
DEF 100 (+16)
IMT 100
RES 160
DEX 90
AGI 430 (+2)
LUK 100
スキル
【鷹の目】[遠見]【解析】【隠密】【短剣術】[スラッシュエッジ]【暗視】【俊敏強化】【発光】[部分発光][閃光]
称号
プレイヤー
装備品
鉄の短剣 ATK+10
黒い麻布の服 上 DEF+8
黒い麻布の服 下 DEF+8 AGI+2
予想はしていた事だが、やはり私より高いステータスだ。だが私はまだ、Lvの上昇によって取得したSPを使用していない
にも関わらず、こんなにも簡単に倒せたのは何故だろう。やはりスキルが重要なのか。と言う事は、私は他の異邦人より強いと言う事になる。........いや、慢心はあまり良くない。たまたまこの異邦人が弱かっただけかもしれない。私の力だってトッププレイヤーのソレには遠く及ばない
「やぁ、待たせたね。すぐに終わらせてあげるよ」
私は事実を認識し直し、地面に転がる異邦人の動脈を切り裂く。やっぱり下手な部位を狙うよりもこっちの方が楽だ
異邦人は鮮やかな赤い液体を撒き散らしながら、動かなくなり、光の粒子なり消え去った
私はメスについた汚れを指で拭い取りながら、クリンに近づいて話を聞くことにした
「おーい、これどんな状況? 」
私が軽い調子でクリンに話しかけると、クリンは何か、ぽつりぽつりと小さな声で何かを喋っているようだ。耳を澄ませて聞いてみる
「僕は悪くない僕はわるくないあいつらが悪いんだあいつらが僕を脅したから僕は殺っただけそうだよそうだ僕は悪くない悪いのは全部あいつらなんだだから正当防衛だ僕はあいつらに殺されそうだったんだが僕があいつらを殺すのも当然だろうなんで僕がそんな目で見られなきゃならない僕は抵抗しただけなのにいやだいやだいやだ見るな殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる僕は」
クリンは早口で、息継ぎもせずにそんなうわごとを垂れ流していた。言葉を所々聞き取り、繋ぎ合わせる。なるほど、今ので大体理解できた。いや嘘。八割方わからない
こんな壊れたフリをしている。自分の事を世界一の不幸者かなにかだと勘違いしている野郎の考えている事など理解できないし、ここで何があったのかも興味がない。興味は無いが、ギルドまで案内して貰った事だし、ここは一つ話くらいは聞いてやろう
しかし話を聞いてやるにしてもこうもグチグチ訳口のわからない事をほざかれると鬱陶しいな。【威圧+1】良かった。これで静かになった
「...それで、結局クリンくんはどうしたいの? 」
クリンはゆっくりと口を開く。キリッとした表情で、芯を持っていない、柔い線のような自信の無さそう呼吸使いで、言葉を放つ
「僕は........僕は! あいつらに復讐したい! この程度じゃ物足りない! もっともっとあいつらをぐちゃぐちゃに突き刺して! 僕が味わった恐怖を何倍にもして押しつけたい! 」
「そっか....じゃあクリンくん。あいつらに復讐しようじゃないか。ここは何をしても良い世界なんだ、もちろん復讐もそれに含まれる」
此奴は簡単に利用出来そうだ。率直に浮かんだ感想はそれだった
「ちょ、ちょっと待って下さい! なんでレイムさんが僕の復讐に協力してくれるんですか? 前に僕を助けてくれた時とは違って、僕の復讐は、レイムさんにとって、何の利益も無いはずです。それなのにどうして....」
クリンは怯えたような表情で聞いてくる。無料より怖いものは無いって諺が昔あったらしいし、多分それだろう
「いいや、私にも利はあるさ。クリンくん........君の復讐劇を特等席で観戦できるんだからね! 飛び交う悲鳴に舞い散る血飛沫! あぁ、楽しみだ! あ、出来ればで良いんだけど、舞台は出来るだけ大規模がいいかな、その方が他の異邦人も巻き込めるし」
私が正直に伝えると、クリンはなにか理解が出来ない異物を見るような目を向けてきた。何度も向けられた。見慣れた目つきだ。実につまらない。しかしあの目つきとは、何か違う気もする。そんな事をはどうでも良いか
しかし失敗してしまった。正直に話さずに、君のためさ! とかそれっぽい事を言って誤魔化せばよかった
私はクリンに逃げられてしまうだろうと思い、楽しい楽しい復讐劇が見られない事を悲しみ、自分の行動に少し後悔していると、クリンはいつの間にか立ち上がり、私に右手を向けていた
「握手、しましょうよ。僕の復讐を手伝ってくれるんですよね? 」
「え? 良いのかい? 」
私は少し遠慮していると思われるように、声を調整して聞いてみた。握手って何だ。罠か何か? この状況で普通の握手は有り得ないだろう。しかし相手の目的もわからないまま動くのでは対応が遅れてしまう。情報を引き出すため、少し泳がせてみる事にした
「良いに決まってるじゃないですか。レイムさんは....僕の、恩人なんですから! 」
私は、予想外のこの状況に驚き、喜んだフリをした。恩人と言うが恩人とはなんの事か? と口から漏れかけた言葉を飲み込み、表情を作る
私を受け入れてくれる人が、今の友人達以外にも、居たのかと。感極まったフリをした
「恩人なんて大げさだなぁ。でもまぁ......よろしく」
私は少し照れるフリをして右手を差し出す。腹の中では、ドス黒い欲望を渦巻かせながら。ただただ、悪に成りきれていない、目の前の人物に軽い嫌悪感を抱きながら




