第10話 冒険者ギルドに行こう!
「先に冒険者ギルドに行かないとギルドカード貰えませんよ」
「冒険者ギルド? 何それ? 」
話を聞くと、どうやら科学者ギルドの他に、街にはほぼ必ず、職業ギルドの上位組織、冒険者ギルドと言うものがあるらしく、そこでギルドカードを作って貰わなければ職業ギルドを利用する事は不可能らしい
私は先に、冒険者ギルドに連れて行ってもらえるようにクリンに頼み、冒険者ギルドに連れて行ってもらう
しかし何故そんな面倒くさいシステムになっているのだろうか? 少し考えてぱっと思い付くのは業務の非効率化、過剰な権力の抑止、ぐらいしか頭に浮かばない。しかし私には考えつかないような、何か深い訳があるのだろう。知らないけど
「着きました! ここが冒険者ギルドです! 」
数分ほど歩くと、周りの建物に比べてかなり大きな、3階建ての建物に到着した。どうやらここが冒険者ギルドらしい。私はクリンに促されるまま、冒険者ギルドへと入った
「あっちの窓口でギルドカードが作って貰えますよ、登録には百G必要ですけど」
「そうなのか、じゃあ早速行ってくるよ」
他の窓口には人がたくさん居たのだが、ギルドカードの新規作成の窓口は何故か人が居なかったので、私は並ぶ事無く、ギルドカードの作成を頼む
「すみません、ギルドカードを作って貰いたいんですけど」
「ではこれを........はい、これで登録は完了です」
私はギルドの職員に、100G支払う。すると金属のプレートを渡された。どうやらこれがギルドカードのようだ。私がギルドカードをペタペタと触っていると、登録は完了したらしい
レイム
冒険者ギルド Fランク
---ギルド -ランク
最初、ギルドカードには何も書かれていなかったが、私がギルドカードに触れると、私の名前とランクが表示された。どうやらこの表示はどういう訳か持ち主しか見られないらしい
出来れば詳しい仕組みが知りたかったが、つい先程大きな事をしでかした後だ。今はあまり派手に動くべきでは無い
ランクを上げると、ギルドからサービスをいろいろと受けられるらしい。例えば、2階に上がる階段の近くにある大きな石版を使い、種族や職業を進化させる事が出来たり、高難易度のクエストを受けられるようになる、とギルドの職員に教えてもらった
私は登録を済ませ、クリンの元に戻り、科学者ギルドに案内して貰おうとしていると、クリンは高身長の筋肉質な人間を先頭に複数人の人間に絡まれていた
「俺らを騙して、一人だけボロ儲けしやがったクソ商人がどうしてこんな所にいんだ? 散々俺らの事をバカにしてたクセによぉ? 騙してすみませんでしたって土下座で謝るんだったら、今持ってるG全部で許してやっけどよ! ギャハハハ! 」
良い、実に良い。まず取り巻きを連れて数の力による高圧的な雰囲気。チームワークの努力の結晶である。勿論それだけでは無い、身振り手振りやまるで本当に怒っているかのような声の出し方。表情の作り方。その何もかもが本物に見える。ここまでモノを作り上げる為にどれだけの時間と知恵を費やしたのだろうか
兎に角、凄い。素晴らしい。おそらくあのクリンに絡んでいる人は異邦人で、ロールプレイをしているのだろう
私が前に読んだ異世界ファンタジーの漫画に出てきた。冒険者ギルドでやたら絡んでくる冒険者、もしくはそれに近いもののロールプレイだと思う
しかし危ない所だった。もし、私が広く浅く本を読んでいなければ、この異邦人のロールプレイを理解してやれない所だった。もう少しで、訳の分からない善性なんて物に基づく正義感を振りかざす奴と同じような事をしようとしていたのだ。軽く吐きそうになる
もう少しこの光景を見ていたかったが、クリンにはこれから科学者ギルドに連れて行って貰わなければならない。私は少し遠慮しているようにしてクリンに近付き声をかける
「おーい、ギルドカード作って貰ってきたよ。早く科学者ギルドに行こうか」
「おいィ! 割り込むんじゃねぇよ! 今俺がこいつと話してるだろうが! 」
「あぁ、邪魔をして悪いと思っている。だけど私はこの人に科学者ギルドに連れて行って貰う約束をしていてね、その話はまた今度にしてくれないかい? 」
この時点で私はこの異邦人が本気で怒りを抱いている事を分かってはいた。何かを演じている際特有のズレのような物が全く生じていないのだ。こんな物、少し注意深く観察してみれば少しの時間で猿でも分かる
しかしそれはそれで面白い。私はこのままこの異邦人がロールプレイを行っていると言う認識を維持したまま。また今度クリンを誘ってやって欲しいと頼んでみる
「あぁ? 俺に命令すんのか? 科学者ギルド? おめぇ、非戦闘職のクセに戦闘職の俺に命令すんのかって聞いてるだろうが! 言っとくが俺はテスター上がりだぞ? 特典で職業は拳士! 総合レベルは10! お前より圧倒的的に俺の方が強い! ぶっ潰されたく無かったら大人しく引き下がるんだな! 」
おおっ、これはあの......物語で主人公に倒される前のチンピラがやる....
「俺はお前より強い(キリッ)」じゃないか
これでこのデカイ筋肉の異邦人は、ギルドでやたら絡んでくるチンピラ冒険者そのものだと私の中でのデカイ筋肉の異邦人のイメージは固定化された
本気でチンピラ冒険者のロールプレイをしているこの異邦人は、敬意を込め、チンピラ冒険者センパイ....チキンピラフ先輩と心の中で呼ばせてもらおう。なんてね
しかしこの筋肉野郎は声が馬鹿みたく大きい。そのせいか冒険者ギルド内の視界は私達の立つ付近に集められてしまった。これでは私の顔が覚えられてしまうかもしれない。まだ何も悪い事はしていないのに、そんなのは酷すぎる。サクッと殺して逃げようか
「テメェ......無視しやがって....許せねぇ! 俺とPVPで勝負しやがれ! 」
「あ、すみません。今から科学者ギルド行くんでまた今度誘ってください」
私がそんな事を考えていると、話を無視していると勘違いされてしまったらしい。私は謝罪し、また今度誘ってほしいと伝えると、冒険者ギルドを後にした
◆◇◆◇◆
多分流れるように謝罪し、最短であの場からの脱出を成功させる事が出来たと思う。自分でもなかなかに良い流れだったと思うぐらいに、しかし他にも良い方法は浮かんでしまっていたため、そこまでの喜びは表れてくれなかった
「あのぅ....助けていただいたのはありがたいんですけど....あの人、バーニングバードさんって言うんですけど酷い粘着プレイヤーで、もしかしたらレイムさんも狙われるかもしれません....本当、僕のせいですみません」
科学者ギルドへと案内してもらっている最中、いきなりクリンがそんな事を言い出した。っていうかあの筋肉...チキンピラフ先輩ってそんな名前だったのか
炎の鳥....今からでもチキンファイヤー先輩とあだ名を改めた方が良いだろうか....
「バーニングバードさんは掲示板でも有名な悪質プレイヤーで、ベータテストの時は、他の取り巻きの人と集まって、初心者からレアアイテムを巻き上げたり、従わない人を執拗にPKし続けたりしてたらしいんです....」
「あの......? あの! 話聞いてますか? 」
「あ、あぁもちろん。大丈夫だよ、問題は無い」
クリンはなにやら深刻そうな顔で話をしていたのだが、私はチキンピラフ先輩のあだ名について考えていたので話を全く聞いてなかった。仕方ないじゃないか。素のキャラが濃すぎるんだから
「レイムさん....実は僕、期間限定クエストの時にあの人達を騙して、一人だけでクエストをクリアして逃げたんです....でもこんな事になるとは思わなくて! ただあの人達が僕の事をバカにするから....ちょっとした仕返しのつもりだったんです....」
クリンは聞いてもいないのに、チキンピラフ先輩との関係を語り始めた。私は街の風景を横目にクリンの話を耳で聞く。いやごめん殆ど聞き流してた。でも要所は押さえておいたので良いだろう
要約するとクリンがゲームを始めてすぐ、期間限定の特殊なクエストを受注したらしい。だがゲームを始めたてのクリンは期間限定のクエストがどんなものかわからなかった。わからなかったため、街を歩いているプレイヤーに声をかけて、手伝って貰おうと考えたのだ
その声をかけたプレイヤーと言うのが、ファイヤーバード達だった。クリンがファイヤーバード達に手伝ってくれと頼むと、最初の方は優しく手伝ってくれたのだが、時間が経つにつれて、チキンピラフ先輩達はクリンの事を、クエスト進行のための道具として扱い始めた
最初の方は我慢をしようとしていたのだが、クリンはそれに耐えきれず。チキンピラフ先輩達に、ここから先は一人でクエストを進めるたいと伝え、クエスト報酬もクリア次第、すぐに半分分けると言ったらしい
するとチキンピラフ先輩達は、お前が嘘をついてクエスト報酬を持ち逃げするかも知れないからそんな事は許さないと。お前の方から頼んできて、わざわざ俺の時間を使ってやっているのだから報酬の9割は俺達に渡すべきだと、そう言ってクリンを怒鳴りつけた
クリンの心の中から、何故こんな理不尽な目に遭わないといけないのだという怒りが、ある一つの考えをもたらした。クリンはほんの少し、仕返しをするつもりでクエストクリアに必要なアイテムと、それ以外に必要ない入手困難なレアアイテムをクエストクリアのために必要だと嘘をつき、チキンピラフ先輩達に集めさせた
そしてクエストに必要なアイテムを受け取ると、クエストクリアに必要ないアイテムを収集しに向かったチキンピラフ先輩達を置いて、一人でクエストクリアし、報酬を独り占めした。それをチキンピラフ先輩は怒っているらしい。という話だった
いやぁ、実に面白い。本にして売るほどの厚みは無いが、笑える3分アニメみたいな、お手軽な笑いが摂取出来る。しかし表面上の表情は真剣な物を保ちつつ、そうでも無いような無関心を少し混ぜ、心配しているかのような甘みを加え、かき混ぜ、練り上げ、用途に合った表情を作り出す
こう言う話の最中に、馬鹿正直に笑っていちゃ信用なんてされないし、八つ当たりや逆ギレされたりしたらたまったもんじゃない。こいつ被害妄想激しそうだし。ただつまらないだけの面倒事は御免だ
クリンが大方の話を終え、丁度私が何度も聞かされる同じ話に飽きてきていた頃、私は話をまとめるべく、自分から言葉を発してみる
「へぇーそうなんだ。大変だったねぇ....」
何度も話を聞いてみても、私はクリンに対して、かわいそうだとか、そう言う感情は感じなかった。そりゃそうだ
結局の所、原因はありきたりな物でそこにある面白みは一時的で薄い物でしかない。そう何度も楽しめる物では無いのだ




