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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

多分読者の大半が廃嫡と言われてもピンとこない。馬鹿王子なら尚更だろう。

作者: 騎士ランチ

「はい…ちゃく…?」


 それは卒業パーティーの最中。第一王子だったアポロンが婚約者に冤罪を突きつけ婚約破棄を宣言し、男爵令嬢との結婚を発表した。勿論、こんな事が認められるはずも無く、その場で婚約者の無実が証明された。


 問題はここからだ。アポロンにブチ切れた国王がその場で廃嫡を宣言したのだ。そして、それに対するアポロンの返答が「はい…ちゃく…?」だったのである。


「はい…ちゃく…?」


 再度間抜け顔で同じ事を呟くアポロン。これは廃嫡にショックを受けて固まっているのでは無い。彼は廃嫡という単語の意味が分からないのだ。


(おい、どうするんだコレ)

(私に聞かないで下さい)

(まさかここまでアホとは)


 アポロンが廃嫡を理解していない。それは会場にいる全員にとって不都合な事実だった。というのも、実はアポロンが今日婚約破棄する事は会場に居る皆が知っており、王族や貴族はアポロンをフルボッコにしてざまぁする為にこの日を心待ちにしていたのだ。だから、アポロンには是非廃嫡の現実を突きつけられて絶望して欲しかった。そう思っていたのに、アポロンの頭が悪すぎて廃嫡を理解出来ないまま退場したら期待外れもいい所さんなのである。


 え?なんで婚約破棄する事や、それが卒業パーティーの日に行われる事が分かっていたかって?それはアポロン本人が周囲に言いふらしていたからだ。


 彼は婚約破棄にブリバリ全開節であり、卒業パーティーの半年前から毎朝起床した直後に窓を開け「天の神よ!私アポロンは卒業パーティーで婚約破棄を実行する事をここに誓う!」と叫んだ後、百枚の色紙に『真実の愛』と書き家族や同級生に配っていた。おかげで婚約破棄対策は完璧に行われた。アポロンが廃嫡の意味を理解せず、リアクションが薄い事を除いては。


 会場全体が白けた空気になる中、いち早く動き出した集団があった。国王、王妃、第二王子、アポロンの婚約者とその家族である公爵家、通称ざまアベンジャーズの面々だった。会場の空気がこんな風になってしまったのは誰が悪いかと言えばアポロンが一番悪いか、状況を何とかする義務と能力があるのは誰かと問うなら、それは彼らざまアベンジャーズである。


「じゃんけんジャガイモおちゃらかホイ!」

「あいこでホイ!」

「ホホイのホイ!」


 十数回のアイコを経て敗者となった婚約者(公爵令嬢)はかなり嫌そうな顔をして固まっていたが、他メンバーにフォークでツンツンされ続けたので仕方なくアポロンに声を掛けた。


「はいちゃく…、何となく悪口である事は分かる…。一着になれなかったという意味だろうか」

「あの、アポロン様」

「はいちゃく、はいちゃく、はいちゃく」

「アポロン様っ!こっち見ろやゴルァ!」


 未だに廃嫡の意味が分からず考え込んでいるアポロンの肩を掴みユサユサ揺らす婚約者。


「ああ、お前まだ居たんだ。どうした?トイレはあっちだぞ」

「アポロン様、私が貴方から教わる事は何もありません。教えるのは私の方ですわ」

「いや、男子トイレの場所は知ってるからいいよ」

「私が教えるのは、今貴方の頭を悩ませている廃嫡と言う言葉の意味です。廃嫡とは、すんごく簡単に言うと次期国王になる権利を失ったという意味です」


 婚約者の説明を聞いたアポロンは手をポンと打ち納得した。そして、廃嫡の意味を理解した後、首を傾げた。


「私が王になれない…?」

「ええ、その通りです。分かったなら早く顔を真っ青にして口をパクパクして下さい。アポロン様のリアクション待ちなんですよ?」

「いや、そんなのとっくに知ってるのに何でこのタイミングで改めて言うのだ?」

「えっ」


 婚約者と国王が間抜けな声を上げた。


「二ヶ月前、私を継承者から外す手続きをして書類にサインしたじゃないか。そんな大事な事も覚えてないのか?」

「内容を理解した上でサインしたんですか!?」

「当たり前だろ?」


 そう、実はアポロンは現在既に王太子では無くなっていた。婚約破棄をモーニングルーティンにしている奴を王にする訳にはいかないという事で廃嫡はとっくにされていたのだ。


「あの時、何も考えずにサインしてた様に見えたから、てっきりまだ自分を王太子だと勘違いしていると思ったのですが」

「いや、流石に私でも分かるよ?はいちゃくなんて難しい言葉は知らんがね」

「な、な、な」


 状況に頭がついて行かず婚約者はパニックに陥る。この卒業パーティーはアポロンをざまぁする為に準備したものであり、彼が国王に成れない事を突きつけるのがざまぁの仕上げとなるはずだった。


 だが、アポロンが自分が国王に成れない事を理解しており、それを平然と受け止めていたならば話は色々と変わってくる。ざまアベンジャーズはアポロンを手玉に取っていたつもりだったか、実際には逆だった。アポロンは最初からずっと己の意思で動き、周りがそれに突き動かされていた。


「あ、アポロン様、貴方は一体何がしたいんですか!?貴方は権威を振りかざし好き勝手に遊び回ってそれでも王に成れると勘違いしている愚か者じゃ無かったんですか!!」

「それは君達の勝手なイメージだ。私は愚かだし、仕事もせず婚約者を蔑ろにして男爵令嬢の嘘に乗っかった。そんな私はこの国に不要な存在なのだろう。それなら王位なんて要らない。いや、こんな国は私には要らない」


 婚約者はようやく理解した。アポロンは無敵の人だと言う事を。彼の目的は男爵令嬢との結婚などではない。ただのやけっぱちな自爆特攻がやりたかっただけなのだ。しかし、劣等感を拗らせて騒ぎを起こしたかっただけなら他にいくらでも手段はあったはずだ。卒業パーティーの日に婚約破棄をすると半年前からばらす必要は無い。


 婚約者は考えた。彼は卒業パーティーで婚約破棄をすると言い続けていた。その結果何が変わったか?会場を見回すと 不安げな顔で婚約者とアポロンのやり取りを見守っていたざまアベンジャーズと目か合った。


「あっ」


 婚約者は気づく。アポロンの行動で変わったものがそこにあった。婚約者の兄や姉、彼らは本来なら卒業パーティーに来る予定は無かった。軍神と呼ばれ、国防の要だった彼らが愛する妹の為に職場を離れここに居る。その事実はとても嬉しい事であり頼もしかったが、今となっては不安要素でしかなかった。


 アポロンが婚約破棄を叫び真実の愛を色紙に書き始めて以来、シスコン最強兄姉達はこれまで国を支えてきた力を全部ざまぁに突っ込んでいたのだ。もし、このタイミングで国の大事が起こってしまったらどうなるか。


 婚約者の嫌な予感は的中していた。突如パーティー会場に数人の兵士が飛び込んで来て大声で叫んだ。


「ゴブリンの襲撃です!過去最大規模のゴブリンの大軍が攻めてきて瞬く間に城門を突破されました!」


 パーティー会場内にほぼ全員の顔が青ざめた。そんな中、アポロンだけは平然としていた。全てを察した国王は、婚約者を押しのけアポロンに掴みかかる。


「貴様ーっ、ゴブリンに国を売ったのかー!」

「私はただ世間話をしただけですよ。国を守る存在が皆私の婚約破棄に夢中で仕事に手が付かないとね。それがゴブリンの耳に届いて総力戦決行に踏み切ったのかもしれませんが」

「これがゴブリンにとって総力戦と分かるのは黒幕だけだー!」

「あ、しまった」


 国王は顔を真っ赤にして剣を抜き放ち、アポロンに斬りかかった。アポロンは避けようともせず、寧ろ自分から当たる様に動き切っ先を首に誘導した。


 親子の力が一つになりアポロンの首が飛んだ。国王は忌々しいとばかりにアポロンのにやけ顔を踏みつけると、ざまアベンジャーズに激を飛ばす。


「お前ら何をしとる!早くゴブリンを食い止めに行かんか!」

「「は、はいっ!!」」


 この国の人間には二種類いる。公爵家とそれ以外だ。公爵家の優秀な人材に頼り切っていたその他大勢にはゴブリンを撃退する力は無い。それを知る国王は公爵家に何とかしろと命令するが全てが遅すぎた。


 軍神と讃えられ、何度もゴブリンを絶滅寸前に追い込んでいた公爵令息は、半年間のざまアベンジャーズとしての活動により大きく実力を落としていた。それでも常人を凌駕する域ではあったのだが、このチャンスに全てを賭けていたゴブリンには通用しなかった。


 また、公爵家の面々は以前から王国に不満を持っており、アポロンの婚約破棄を理由に隣国に移ろうと考えていた。


 結果、公爵令息の戦死が伝わる頃には残りの公爵家は全員国外逃亡してしまい、王家も主要貴族も婚約破棄に関わった男爵家も皆平等にゴブリンに滅ぼされた。


 その後、公爵家は隣国に逃れる事には成功したのだが、内外の敵を舐めプ放置したあげくやばくなったら自分達だけ逃げてきた恥知らずとして扱われ、本来予定されていた地位は得られなかったという。

アポロンはゴブリンに有利になる様に時間稼ぎしてました。

ただし、彼が廃嫡の意味を知らなかったのはガチです。

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