帰り道と夕日と彼女
帰り道、こばちゃんは夕日に顔を向けぬぼーっとしていた。彼女にときどき見られる現象だった。魂が体から抜けて違うところに接続されているようだ。そんな彼女は無意識に足を前へと運ぶ。こんな状態でも歩けるのだから人間って不思議だ。私はそんな彼女と並んで歩く。ぬぼーっとしている彼女はとても無防備でなんかしても気づかないことが多い。前にぬぼーっとしていた彼女を教室で見かけた時、おでこに「肉」と書いたことがある。だけども彼女は魂が戻ってきたようにシャキッと姿勢を正してもおでこに気づくことなく、生活しそうになったので誰かに見られる前におでこを拭いた。多分見られていない。彼女は自分のおでこを拭く同級生を不思議そうにしていた。
今は道路を歩いているのだから、危ないと思うのだけれど私を信頼しているのだろうか。彼女は機械的というか、ゾンビみたいに歩いている。私は彼女の夕日に照らされている横顔を凝視した。夕日で顔がいつもより赤い彼女だ。頬も赤い。赤面というのだろうかとグルグルと飛び回った考えは、すこし違うかなという結論に着地する。
彼女に好きと言っても、ありがとうと感謝を伝えられる以上になりもない。別にありがとうと返されるのが嫌というわけじゃない。素直に嬉しい。でも、彼女がその言葉を聞いて恥ずかしがることはないし、赤面することもない。困ることもないのだろう。彼女にとっての好きは友達として、親友としてなのだろう。私はそれ以上の好きを言っているのだけれど。彼女と私の間にはフィルターがあり、私の好きはそこでいろんなモノが絡め取られて彼女に運搬される。ろ過されるのである。
「ちょっと危ない」
「ふぃやっ ごめん」
赤信号を渡ろうとする彼女の肩を後ろに引く。意識が瞬時に戻ってきたようだ。ここはどこと顔をキョロキョロさせている。キョロちゃんだ。くえっくえっくえっチョコボー......
「...ありがと」
彼女はぬぼーっとしていたことを恥じるように言った。夕日で赤い頬だなっと彼女の顔を見て思う。