表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

7、知りたかった

SUN4


あれから急に大森が浮かれなくなった。ゴールデンウィークを挟んで少し冷静になったのか?


それは……いいのか悪いのか少し複雑だった。


普通の大森に戻った?普通?普通の大森って何だ?もはやあれが普通に定着しつつあった。そんな大森が急に普通に話を始めた。


「進藤君、部活は決めた?」

「いやまだ……」

「ここ演劇部あるよ?」


演劇部?ああ、従兄弟が演劇部だって話したっけ。


「演劇部とかは無理だなぁ……」

「じゃあ落研?落研は無いよ?」

「大森、俺をどうしたいんだ?まさかマジで今から芸人に育てあげるつもりか?」


大森は何故かその問いには答えず「あははは」と少し笑った。


いや、それどっちだよ。


「私は調理部に入ったんだよ~」

「調理部?大森が料理!?」


意外だった。大森が料理に興味があるとは思わなかった。何より横山と一緒じゃない事に少し驚いた。


「あと、生物部」

「はぁ?掛け持ち?」


横山と別で、掛け持ち?


「あの……だからね、これからはあんまり一緒に帰れないんだ。ごめんね」


いや、別に……別に付き合ってる訳じゃないし、毎日一緒に帰ろうと約束した訳じゃないし……


そうは言わなかったが、その言葉でどこか線引きをされた気がした。それから大森は渾身のギャグを見せに来る事もなく、お昼を一緒に食べようと机を寄せて来る事もなく、一緒に帰ろうと誘う事も無くなった。


完全にフェードアウト状態だった。


忙しくなると言われたし、話しかけるなとも言われて無い。線は引かれても拒否はされていない。…………多分。


それでも俺から誘おうにも、朝はギリギリに登校して来る。昼休みは消息不明。放課後は即部活。完全に隙が無い。はっきり言って、話しかける余地が無い。


嫌われた?俺……何かした?


意気消沈の俺は、放課後力無く机に伏した。


今日は脇腹の痛みに耐えながら、腹筋が崩壊するまで笑える事は何もなかった。


あれはあれで……癒されてたのかもしれない。その事に今さら気づかされた。


ああ、大森がいないとつまらない。


自分の席から窓の外を眺めていると、廊下から声をかけられた。


「進藤、今帰りか?奇遇だな!俺もちょうど今帰りだ」


何だ……高橋か……


「高橋、全力でカッチカッチやぞ?やってみろよ」

「お?進藤、俺の全力が見たいか?だったら見せてやるぜ!!」


高橋の渾身のギャグは全然笑えなかった。


「無いな……」

「進藤が要求したのに!」


隣の席のヒロが、帰り支度をしながら言った。


「じゃ、悠真お先!」

「もう帰るのか?」

「いや、俺はこれから部活」


ヒロも部活に入ってたのか……帰宅部かと思っていた。


「なぁ、ヒロは何部なんだ?」

「俺?剣道部だけど?」


剣道部……あの、暑くて臭くてキツイ剣道部?


「あ、今暑くて臭くてキツイ剣道部って思っただろ?」

「え?なんでバレた?」


するとヒロが答える前に、高橋が何故か動揺していた。


「いや、それは…………あれだろ?」


あれって何だよ高橋?


「あの……あれ?あれ~?俺教室に忘れ物してきた」

「何だそれ」


そう言って高橋は自分の教室に帰って行った。


「まぁ、確かにキツイ部活だけど、彼女に立ち姿がカッコいいとか言ってもらえるんだよな~これが」

「ほぉ、ヒロには彼女がいるんだな。ノロケかコラ」

「進藤だって大森さんにカッコいいとか言ってもらえるんじゃねーの?あ、でも今解散の危機感だっけ?」


解散の危機?


「いや、だからコンビ組んでねーし!」

「彼女持ちの天狗から1つアドバイス。剣道は相手より先に確実に決めた方が勝ちだ。自分からどんどん仕掛けて行けよ!」

「今……その鼻へし折ってやりたいと思ったわ!」


ヒロは「バカやめろ~!」と言って教室を出て行った。


教室は、とうとう俺一人になった。


遠くで、野球部のバッティングの音や吹奏楽部の練習の音が聞こえた。


「帰るか…………」


一人なのにそう呟いてみた。


すると、教室の外に人影が見えた。その姿は一度教室に入ろうとして、一瞬俺の姿を見てとっさに壁の後ろに隠れた。


しっかりとは見えなかったが、それは多分大森だった。


「大森……?」


確証は無かった。それでも気がつくとそう話しかけていた。


「…………」


俺の予想が当たった。壁の後ろから出て来たのは……やはり大森だった。


「進藤君……まだいたんだね」

「大森は?」

「机の中に忘れ物」


そう言って大森は自分の机の中からメガネケースを出した。普段はかけていないが、授業の時なんかに大森はメガネをかける。


「これ持ちに来たの」

「今日は調理部か?」

「そう。じゃあ……」


大森が教室を出ようとした瞬間……


「大森!」


俺はとっさに大森を引き止めた。声をかけるチャンスは今しかない。


大森は教室の出口の前で立ち止まった。振り向いた顔は……いつもと変わらない笑顔だった。


「どうしたの?」

「いや、あの…………」


行かないで欲しい。側にいて欲しい。そう素直に言えたらどんなに良かったか……


「用がないなら……じゃあ、私行くね?」


大森の笑顔はどこか苦しそうだった。


何かが変だ。


大森の笑顔はそんな風に笑ってたか?それは本来の笑顔じゃない。


「俺……何かした?」

「え?」


思わずそう訊いていた。大森は驚いて、俺から視線を外した。


「別に……何も?」


大森はそう言って下を向いた。


その時、大森の様子に察した。俺が何かしたというより……


「誰に、何を聞いた?」


親か?兄弟か?親戚からか?どこからか聞いてもおかしくない。同じクラスにいれば尚更だ。


「高橋君から……」

「高橋!?」


意外な名前が出て驚愕した。そういえば高橋は卒業間近、大森が俺にふさわしいか見極めてやると言っていた。


それでか!!それで大森の様子がおかしかったのか!高橋が調べて大森に伝えた可能性は十分にある。


「あ、でも高橋君は悪く無いの!きっと進藤君のためを思って……」


あんの野郎……!!


「それが迷惑なんだよ!あいつのそうゆう所が嫌なんだよ!余計な事ばっかりしやがって!」

「待ってよ!それは高橋君の好意の表れで……」


俺は頭に来ていた。


「だからって、ありがた迷惑に感謝しろって?ふざけんなよ!」

「そうは言って無いよ!だけど、高橋君の思いも考えてあげてって……」

「どうして関係無い他人の思いが優先されるべきなんだ?好意は何でも受け入れ無きゃ悪者かよ?」


頭に血が登っていて、言っている相手が大森だと言う事を忘れていた。


「違うよ!高橋君に少しは気を許してあげてよ。必要としてあげてよ!」

「そんなの無理だろ?頭ではわかってても、心が許せない事だってある!」


すると、大森は黙ってしまった。そしてしばらく黙った後、今にも消えそうな小声で言った。


「……………………そうだね」


その時、俺はやっと気がついた。


俺は一体……誰に何を言っているんだ?


「……………………」


その後、大森は無言で教室から出て行った。



……………………終わりだ。



これで、全部。何もかも終わりだ。




それから何日も何日も、俺は遠くで大森の笑顔を見るようになった。同じ教室にいれば嫌と言うほど聞こえて来る。


大森の声……


今日もまた横山と笑い合っていた。


この耳にはあの笑い声がよく聞こえる。


「あははははは!!」


大森だ。また笑っている。


「やだ~志帆~!ウケる!!」


その笑顔……どんな理由で笑っているんだ?


その笑顔の理由は訊けない。


本当は……めちゃくちゃ知りたかった。


大森に何があって、何が面白くて今何を思っているのか……知りたかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ